鈴木亮平・一路真輝・鈴木杏らがジロドゥの世界を演じる新国立劇場『トロイ戦争は起こらない』
新国立劇場では、劇作家ジャン・ジロドゥの戯曲でフランス近代演劇の金字塔と呼ばれる『トロイ戦争は起こらない』が、10月5日から上演中だ。(22日まで。10月26日、27日兵庫公演あり)
この作品は、開場20周年を迎えた新国立劇場の記念公演であり、今注目度が高まっている俳優、鈴木亮平を主演に迎え、一路真輝、鈴木杏、谷田歩ら実力派俳優陣をずらり揃えての舞台となっている。演出を手がけるのは栗山民也。
本作の作者であるジロドゥは、小説家、劇作家のほか、フランス外務省の高官としても活躍し、情報局総裁まで務めた異例の人物。そんなジロドゥが1935年、ナチスドイツが台頭する中、戦争に突き進む人間の愚かしさをあぶり出し、平和への望みをかけて書いたのが、この『トロイ戦争は起こらない』だ。
【あらすじ】
この作品について、8月に行われた制作発表で演出の栗山民也はこんな言葉を発表した。
【栗山民也コメント】
世界最古の物語といわれる長編叙事詩『イリアス』を、数年前に舞台化しました。その分厚い上下二巻の文庫本を読みながら強く惹かれたのは、この叙事詩が人から人へと語り継がれてきた「声」の口承だということでした。
そのなかに作品のキーワードが、いくつも浮かんで見えてきます。戦争、暴力、権力、家族、愛、不信そして孤独。それらは、ギリシャの昔から今のわたしたちにも繋がれているものばかりで、その神話をもとに1935年にフランスの劇作家ジャン・ジロドウによって新たに書かれたのが、今回の『トロイ戦争は起こらない』です。
この戯曲は、第二次世界大戦勃発の危機を予感し、力強く精緻に、そして詩的にも醜く歪んだ光景の数々を映し出します。そのジロドウの平和への願いも空しく、フランスはその4年後にドイツ軍の侵入を受けるのですが。ジロドゥ自身、この作品の主題に「戦争と平和」を祈る、と記しています。
この劇の主人公であるエクトールは、「相手を殺すのが、まるで自殺のようだった」と語ります。現在の核の時代では、一つの国家や民族だけでなく、それは全人類の自殺を意味することになるでしょう。自ら創り出したものに滅ぼされていくことこそ、繰り返される人間の歴史なのですが、この劇の奥底から、今も続く愚かな戦争のいくつもの断面が、炙り出されてくるのです。(中略)
文学や芸術の持つ普遍の力を、再び思います。この最悪、最低の政治状況のもとで、この作品の「人間と時代について」の有効性を、見つめてみたいと思います。
初日公演の開幕に向けて主演の鈴木亮平からのコメントが届いた。
【鈴木亮平コメント】
この作品は古代に起こったトロイ戦争が勃発する直前を舞台にしながら、第一次世界大戦が終わり次の対戦へと突入していきつつある1935年当時の世界が描かれています。その二重の構造がとても面白く感じました。作品自体に現代性があり、ぜひ今観てほしい作品です。
とはいえ、あまり構えずに観てもらえると、タイトルからはいい意味で裏切られるのではないかと期待しています。とにかくラストシーンは衝撃ですよ!
舞台ならではの生のエネルギーを届けたいと思っていますので、ぜひ劇場までお越しください!