ベンガル、しずちゃんも参加する、宅間孝行4年ぶりの新作=タクフェス『ひみつ』は後半、意外な展開に?

インタビュー
舞台
2017.10.31
タクフェス『ひみつ』稽古場より ベンガル、山崎静代、宅間孝行

タクフェス『ひみつ』稽古場より ベンガル、山崎静代、宅間孝行


宅間孝行率いるタクフェスが、4年ぶりの書き下ろし新作『ひみつ』を上演している。さんざん笑いに笑って心を開いた状態のところに、切ない展開、胸にくるセリフの数々で号泣必至と評判の宅間作品は、これまで『くちづけ』『歌姫』など映画化、ドラマ化されたものも多い。『ひみつ』には戸田恵子が初参加するほか、福田沙紀、山崎静代(南海キャンディーズ)、東風万智子、松本利夫(EXILE)、ベンガルらが出演。今回の舞台について、宅間とベンガル、山崎静代に稽古中に話を聞いた。

――『ひみつ』は4年ぶりの書き下ろしということですが。今回はそもそも、こういう話が書きたくてこのキャスティングにしたのでしょうか、それともこのキャスティングに合わせていたらこういう話になったんでしょうか。

宅間 この作品にはタイトルにも関わってくる、あるテーマがありまして。そのテーマに関しては、実はずっとやりたいと思っていたものだったんです。4年前に書いた前作でも一度チャレンジしてみたんですが、うまくいかなくて挫折していたんですね。それで今回改めて挑戦したいというのが最初にあり、でも進行する物語に関しては、キャスティングに合わせたあて書きになっているところもあるので。両方の意味合いがありますね。きっと同じテーマでやって違うメンツだったら、違うアプローチにはなっていたと思いますし。

――ベンガルさんと山崎さん、このおふたりをキャスティングした狙いは。どんな役回りを演じていただこうと?

宅間 ベンガルさんはもう、大先輩ですけど、芸名からして片仮名なんで。

ベンガル それは関係ないじゃないか(笑)。

宅間 でもそういう意味では、ベンガルさんって芸人さんと間違われません?

ベンガル 間違われる。でも、これって、あだ名だからね。

宅間 片仮名の名前の走りなんじゃないですかね。

ベンガル そうだねえ。先駆的なところはあるかもね。

タクフェス『ひみつ』稽古場より ベンガル

タクフェス『ひみつ』稽古場より ベンガル

宅間 若い人は、もともと芸人さんだったと思ってそう。だってこの風貌でベンガルですよ(笑)。そういう、世間が思ってるベンガル像を(笑)、今回は存分に発揮してほしいです。そして、しずちゃんは以前にも出てもらったこと(『夕ーゆうー』(2014年))があって。今回は最初から、ぜひ出てもらおうと思っていたんです。だけど静代ってわりと“ワンポイント”とか“キャラ重視”で使われることが多いじゃないですか。でも今回は“まわし”の役回りで静代にいてもらって、ちゃんと場を進めていければなと思っているんです。

山崎 そうなんですよねえ。がんばります……。

宅間 でもベンガルさんにしても、静代にしても、きっと舞台の上に立っているとお客さんはある種の安心感というか期待感が湧いてくると思うんですよね。だって、立ってるだけで面白いみたいなところもあるじゃないですか。ま、ウチは立ってるだけじゃダメなので、ちゃんといろいろやってもらうわけですけども。だけどベンガルさんの場合はちゃんと、というより、なにかと間違ってる時の方が面白いよね。

山崎 アハハハ、そう思います。

ベンガル どこで間違えてるんだろうねえ。

山崎 だいたい、よく間違えていますよ(笑)。

宅間 今回、物語としては古きよき時代、今からちょっと前の時代の話なので。その頃からすでに活躍されていたベンガルさんは、当時のことを良くご存知だろうから、いろいろと教わったりもしています。

――バックステージものなんですか?

宅間 いや、バックステージものではないですよ。漫才師は出てくるけど、その日常の話なので。ベンガルさんはそんなバブル時代の、お笑い事務所の社長。長野だか上高地だか、東京から2、3時間のところに別荘を持っていて、そこに事務所に所属する人たちが遊びにくるという設定なんですね。ある時は保養所で、ある時は秘密の話をするようなところ、ある時は隠れ家みたいな別荘。ウチの芝居の舞台背景としては珍しくちょっと洋風の雰囲気になります。

――ではその別荘のワンシチュエーションで、芸人さんや、その周囲の人々が出てくると。

宅間 基本的にはそうですね、社長さんがいて芸人がいて。芸人といっても僕と、<渚>演じる戸田恵子さんと、その弟でマネージャー兼作家の<八郎>を演じるマツ(松本利夫)という三兄弟がいて。で、僕の嫁が静代。という、家族経営の事務所の人々と、それにまつわる人たちの話になります。

――やはり、笑いたっぷりの人情ものに?

宅間 人情か。そうですねえ。最初は人情ものだと思っていると、とんでもないところに行っちゃうかもしれないので、途中でお客さんは相当ビックリするんじゃないかと思いますけど。

山崎 ふふふ。

宅間 「え? 何、今回、どういう話なの??」ってなるかもしれない。そんな中、オープニングからベンガルさんは全速力でがんばってもらう予定です(笑)。

――そうなんですか?

ベンガル いやいや、そんなことはない。ほとんどそんな稽古やってないです(笑)。

宅間 とにかく、頭の1時間とちょっとのところで、作風が変わるんですよ。

――途中で?

宅間 はい。今回は特に初演ということもあるので、お客さんの反応がとても気になりますね。

――山崎さんとしては稽古をしていて、今回はどんな手応えですか。

山崎 一応、ひととおり最後の場面まで稽古したところなんですけど、本当にいきなり後半からテンションが変わるので。その展開のつながり方がどうなるかが、まだしっかりわかっていないというか(笑)。

――宅間さん演じる<五郎>の奥さん役ということですが。

宅間 あれ、でも、そういえば夫婦のシーンみたいなのってなかったね。

ベンガル そう、ないんだよ。セリフで“夫婦”だと言っているだけで。

山崎 そうなんです。だから夫婦役という感覚がそれほどなくて。

宅間 夫婦らしい会話とか、全然交わしてないし。

ベンガル 一言も交わしてないの。

山崎 いや、後半のところで少し交わしはしますけど。でもあまりまともに会話をしていないというか、夫婦っぽい雰囲気ではないんですよね。

宅間 そうか。このあとの稽古でちょっと考えてみようかな(笑)。だけど、逆に会話がないのもリアルかもしれないけどね。

山崎 うんうん。

宅間 10歳の子供がいる夫婦なので、そうそうベタベタもしないだろうし。それに今回は家族、夫婦というよりも、兄弟をフィーチャーしているので。

――ベンガルさんは初参加ですが、タクフェスの稽古場はいかがですか。

ベンガル たっくん(宅間)とはドラマで2度ほど。

宅間 ご一緒しましたね。

ベンガル あとは初めてご一緒する方ばかりなので、とても新鮮です。今日もこうしてこの3人の組み合わせで座っているというのが、なんだかまだ違和感があるよね。

山崎 ふふふ。

ベンガル なんでたっくんと僕としずちゃんなんだろう(笑)。でもこれも、稽古でいい作用になると面白くなるんじゃないかという気がする。たぶん、たっくんの笑いと僕の笑いって質が全然違うので、そういう意味ではすごく勉強にもなる。この人(宅間)のこだわりってちょっとすごくて、ここで笑いを取るためにはここで我慢させようとか、そういうエネルギーがすごくあるし、こことこことここで絶対笑わせたい!とか、ほとんど力技みたいなところがあるんだ。

宅間 ハハハハハ!

ベンガル ぎゅっぎゅって気持ちを入れていき、最後にここでドカン!という手法に対するこだわりは、ちょっと僕には圧倒的だったな。最近、柄本(明)と話すのは、静かに間を取り、ふっとセリフを吐いて笑わせるなんてことは、いつまでできるかということだったりするんです。年も取ったし、若くはないから全然違う笑いなんですよ。しかしそれにしても、しずちゃんってトーンがおかしいよね。

山崎 トーン、ですか?

ベンガル わーっと一緒に出ていっても、しずちゃんのところだけトーンが違うから、何か言ってるだけでおかしいんだ。すごく刺激的ですよ。

山崎 ふふ、そうですか(笑)。

タクフェス『ひみつ』稽古場より 山崎静代

タクフェス『ひみつ』稽古場より 山崎静代

――山崎さんは宅間さんの作品の、どういうところに魅力を感じられていますか。

山崎 やはり、ストレートに笑って泣けるところです。笑いの部分はどんどん新喜劇、というか……。

宅間 なんか俺、年々ベタになってるみたいだけど。

山崎 でも、そのベタが面白いんです。

宅間 っていうかさ。この間の稽古で、ベンガルさんってやっぱりすごいなと思ってるんですけど。

ベンガル え、どこ?

宅間 今回、ちょっと変わったシステムの芝居なんです。演劇では結構よく使う手法だったりもしますけどね。簡単に言うと、前半は僕と福田沙紀ちゃんがずっと過去を見ているというか、日記を読んでいる設定で。そうすると日記に書いてあることが目の前で起き、僕たちはそれを俯瞰で見ている。すっかり入り込んじゃっているんですが、直に関わりはしないんです。

――回想がドラマになってて、それを外から見ているということですか。

宅間 まあ、外から見ているというテイで、入り込んじゃうんですけど。

――だから、本当はそこで登場人物同士で会話をしてはいけない組み合わせがある。

宅間 もちろんそうです。なのに、ベンガルさんの存在感がすごくて。表情もおかしくておかしくて……。

ベンガル 俺、沙紀ちゃんとしょっちゅう目が合っちゃうんだよ(笑)。まあ、俺が悪いんだけど。人がしゃべっている時は相手の顔を見るのが自然じゃない。一応あの子は日記の中の過去のドラマの中に潜んでいるわけだから、僕らからは見えないはずなんだけど、ついセリフをしゃべっている時に見てしまって。

宅間 まあ、それもわかるけどねえ。よくみんな、笑わずに芝居を続けられるよ。俺、もしかしたらあの場面でなんかしてしまうかも(笑)。

ベンガル 自分でも見てしまってから、気づくんだけどね。沙紀ちゃんには、いつも「メッ!」って顔をされています。

――それは、カワイイですね(笑)。あと、踊るシーンもあるとか?

宅間 ああ、シーンというか、タクフェスは必ず最後に“ライブタイム”があるんです。そのために振付の先生が来て、踊りの稽古があったので。たぶん、ベンガルさんにも本番では昔取った杵柄を存分に披露してもらえるんじゃないでしょうか。

ベンガル 僕らも初期の頃は踊ってましたからね。

宅間 あの頃の先輩たちの芝居は、みんなエンターテインメントだったからなあ。

ベンガル そうだったよね。

――では、いつも通りにお客様も巻き込んで、最後はお祭り状態になるんですね。

宅間 はい。

ベンガル しかし、ここまで身体が動かないとは。がっかりですよ(笑)。

宅間 でも“ライブタイム”は単に楽しむ時間なので。そこは負担と思わない程度にみなさんにも楽しんでもらいたいし、僕らも一緒に楽しみたい。その思いさえあれば、ヘタだろうがなんだろうが。ね!

山崎 相当ヘタなんですよ、ウチ。でも、パッと横にいたベンガルさんを見たら「あ、もっとヘタな人がいた!」って思ってちょっと安心しました。

ベンガル いいや、俺も安心してましたよ。「しずちゃん、動けてないなー」って(笑)。

宅間 二人でレベルを下げ合わせてないで、切磋琢磨してください(笑)。

タクフェス『ひみつ』稽古場より 宅間孝行

タクフェス『ひみつ』稽古場より 宅間孝行

――では最後に、お誘いメッセージをいただけますか。

宅間 じゃ、誰からにしますか。

ベンガル 主宰者からでいいんじゃないの。

宅間 ベンガルさん、ちゃんと想いを語ってくださいよ。

ベンガル いやいや、だって結局同じことじゃない。ただ「とにかく楽しいから、観に来てください」ってことだけでしょ。

宅間 気持ちがないねえー(笑)。

ベンガル ははは。まあでも、今回は初共演の方がほとんどなので。そこはやっぱり一番の楽しみですかね。

宅間 新鮮ですか。

ベンガル 新鮮だね。たっくんも今、とても勢いのある人だから、それにちょっとのっかって新たな僕を発見していただき、公演を成功させたいなと思います。

――急に前向きになりましたね(笑)。

一同 (笑)。

山崎 ふふふ。みんなで毎日顔を合わせて、それぞれの人間性もわかり合いながら作っているんですけど、やっぱりチームワークは大事ですよね。宅間さんの演出も、すごく細かくひとりひとりに向き合ってやってくださっているので、それに対してみんな応えたい、いいものを作りたいという気持ちでひとつになっているところです。私もホント、口だけでなくきちんと見せられるようにやりたいなと思っています。

――山崎さんも、やはり前向きですね。

宅間 まあね。この時期のインタビューで若干後ろ向きだったら困ります(笑)。でも今までの感覚でいうと、笑いがベタになってきているということもありますけど、非常にわかりやすくはしてあると思いますので。ド頭にも、静代が出てくるとまさに新喜劇みたいだし。

山崎 ふふふふ。

宅間 あの手この手で楽しい場面が作ってあるので、まさかここまで笑っといて……みたいなことにはなるんじゃないでしょうか。とはいえやはり、新作の書き下ろしは毎回ホントにすごく不安なんですよ。なんとか、いろいろなピースがうまくハマっていけば、相当泣けるんじゃないかと思います。涙にも、いろいろな種類の涙があると思うけど、今回はここ最近ではやっていなかった感じのものになるかもしれない。あったかいんだけど、あったかいだけじゃないというか、何らかの感情が生まれると思う。その何かが、きちんとお客さんに伝わるようにと思って稽古しています。僕もやはり前向きな気持ちで(笑)、もっともっと上を目指しながら作っています。そして、たぶんこの作品は評判が良くていずれ映画化されると思うので。今回の舞台を観ておけば「あの作品のオリジナルメンバーでの初演の舞台を私は観た!」って、のちのちきっと自慢できますよ。この顔合わせだからこそ、成立する初演になると思います。ぜひ、その瞬間に立ち会っていただきたいですね。

取材・文=田中里津子  稽古場写真=安藤光夫

公演情報
タクフェス第5弾『ひみつ』
 
■作・演出:宅間孝行 
■出演:戸田恵子/福田沙紀/武田航平、赤澤燈、岡本あずさ/山崎静代(南海キャンディーズ)、東風万智子/松本利夫(EXILE)/越村友一、益田恵梨菜、三谷翔太(※Wキャスト)、松本純青(※Wキャスト)/ベンガル/宅間孝行

 
■日程・会場:
<鹿児島公演>
2017年10月19日(木)鹿児島市民文化ホール 第2ホール 鹿児島公演
<金沢公演>
2017年10月24日(火)北國新聞赤羽ホール 金沢公演
<富山公演>
2017年10月26日(木)富山県教育文化会館 富山公演
<新潟公演>
<2017年10月28日(土)りゅーとぴあ・劇場 新潟公演
<東京公演>
2017年10月31日(火)~11月12日(日)サンシャイン劇場 東京公演
<足利公演>
2017年11月16日(木)足利市民プラザ・文化ホール 足利公演
<山口公演>
2017年11月19日(日)周南市文化会館 山口公演
<愛知公演>
2017年11月24日(金)~11月26日(日)
刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール 愛知公演
<札幌公演>
2017年12月1日(金)~12月2日(土)道新ホール 札幌公演
<大阪公演>
2017年12月6日(水)~12月10日(日)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ 大阪公演

 
■公式サイト:http://takufes.jp/himitsu/
 
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