客席一面に稲穂が揺れたレキシ的日本武道館ライブ、稲穂の妖精たちは次にどこへ向かうのか?
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち ~稲穂の日~
2017年10月10日(火)日本武道館
人呼んで“いまもっともが取れないアーティスト”、レキシが三たび武道館に舞い降りた。大阪、東京、沖縄を巡るツアーの東京公演は、2014年、2016年に続く大きな玉ねぎの下で、初日が『稲穂の日』、2日目が『キャッツの日』と題した初の2DAYS。時はまさに稲刈り時、グッズ売り場で刈(買)ったばかりの稲穂を手にした1万人が会場を埋め尽くす中、恒例のほら貝の音と共にいよいよ祭りの幕が開く。
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
いとうせいこうとみうらじゅんの仏像コンビを迎えたオープニング映像、開けてはならぬ玉手箱を開けたレキシが武道館へタイムリープするというあるあるな展開を経て、ステージ後方の巨大な箱からレキシ登場。黄金色の袴に黒紋付、水色の羽織というド派手な正装で「KATOKU」を歌いながら、わざわざ1万人に拳を上げさせて「ダサいなー」と切って落とす、ツンデレなパフォーマンスで一気に盛り上げ、続けて「大奥~ラビリンス~」「KMTR645」と強力なライブチューンを次々に投下。曲中で勝手に人の曲をどんどん歌うのがレキシスタイルだが、今日も♪くり返すこのポリリズム~、から♪星屑ロンリネス~、まで、時代の幅が広すぎだろうというフレーズを連発するが、ほとんどのオーディエンスが余裕でついてくる。中臣鎌足をテーマにした「KMTR645」でイルカのバルーンがフロアに大量投下される演出を、なぜイルカ?と疑問に思う者は一人もおらずにひたすらイルカを放り投げてはしゃいでいる。レキシで楽しく歴史を学ぶ、お館様こと池田貴史による長年の啓蒙活動は着実に実を結んでいると言っていい。
「レキシのライブは長いわりに曲が少ないとディスられるんです」という積年の思いをはらすべく、続いては「妹子なぅ」「真田記念日」「RUN飛脚RUN」を合体させた画期的なメドレー、その名も「飛脚記念日なぅ」。冗談かと思いきやこれがとんでもない素晴らしさ、ただのメドレーではなく3曲を細かく組み合わせたマッシュアップ的大作で、またしても人の曲をどんどん取り入れたり、キーボードの元気出せ!遣唐使こと渡和久との恒例の飛脚箱キャッチボールも一回で成功させるなど、小ネタをはさみながら見事に完奏。結果的に「3曲やるよりも長くなった」という誤算があったようだが、面白いので無問題。さらに続けてきらびやかな十二単をまとった「SHIKIBU」へ、アップテンポの曲をつなげてぐいぐい飛ばす。時計を見ると午後7時半。1時間で5曲といういつも通りのペースだが、ただ珍しく面白く、月日のたつのも夢のうち、あっという間に時は進む。
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
ここからはライブは意外な展開へ。お館様がアマゾンで注文して無理やり着せられたという段ボール製の甲冑と兜にちょっぴりイラっとしながら登場したニセレキシことU-zhaanとの二人舞台で、奇跡の名曲「Takeda’」がついにライブ初披露だ。ニセレキシの叩くインドのパーカション、タブラに興味津々のお館様が「えーっと、タンブラー?」と早速ボケをかます。丁々発止の漫才トークで大いに笑わせたあと、「実はレコーディングでも一回も成功しなかった」という難曲「Takeda’」を完奏した時の場内の熱い拍手と歓声の量は、ひょっとしてこの日一番だったのではないか。続く「salt&stone」でもニセレキシのタブラが抜群のグルーヴを叩き出し、強烈なラテンファンクのビートによる盛り上がりはさながらピースフルな一揆か討ち入りか。さらに趣を変えてソウルバラードの「最後の将軍」をしっとりと。陽性なエンタテイナーぶりが際立つお館様だが、スポットライトを浴びて切々と歌うソウルシンガーとしての輝きは本当に素晴らしい。そうかと思えばキーボードの渡を言葉攻めでいじり倒すいたずら者ぶりを発揮する。もはや誰も止められない。
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
十手をかざしてステージ上を軽やかに右へ左と走り回る「キャッチミー岡っ引きさん」のポップな明るさと、胸に沁み入るゴスペルバラード「アケチノキモチ」の切々とした歌の説得力。さらにシンプルだが力強いワングルーヴでぐいぐい押す「憲法セブンティーン」へ、まるで対照的な楽曲だがすべてがソウル/ファンクのうねるようなリズムに貫かれ、スローナンバーでもしっかりと体が揺れる。二人のホーンセクションを含むバンドメンバーはいずれもテクニックに優れ、お館様の無茶振りもギャグも見事なレスポンスですべて受け止める、芸達者ぶりが頼もしい。
「みんなで年貢を納めましょうか!」と、世界一ハッピーな納税ソング「年貢 for you」も途中でわざわざ演奏を止めて人の曲を歌いまくり、また曲に戻るというプログレの組曲を思わせる劇的展開を経て、あっという間に残すところはあと1曲。「レキシもおかげさまで10周年、ひとえにあなた、あなた、あなた、一人ひとりのおかげです」――ふと真顔に戻っての生真面目な挨拶のあと、本編最後を締めくくったのはみんな大好き「きらきら武士」だ。“ブシー!” “ブシー!”と一人対1万人の壮大なコール&レスポンスに背中を押され、サングラスを吹っ飛ばして強烈なキーボードソロを弾き熱唱するお館様。「このあとアンコールがありまーす」と、明るい言葉を残してステージを去る姿に送られる惜しみない拍手。そう、まだあの曲をやっていないのだからライブは終われない。1万人がごそごそと稲穂を用意する気配が伝わってくる。
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
アンコール、ステージに戻ってきたメンバーは全員がグリーンの全身タイツに黄色い腰蓑、頭のてっぺんに稲穂をなびかせた“稲穂の妖精スタイル”だ。そしてステージ袖から登場したのは、キャッツンことやついいちろうが先導する身長5メートルはあろうかというお館様生き写しの巨大なヒトガタ、名付けて“大稲穂様”。どことなくジャンボマックス(*わかる方は40代以上?)を思わせるユーモラスな動きと、そう思うとメンバーの姿もどことなくドリフの雷様のように見えてくる、感動的なアンコールとは程遠いゆるいムードの中、ラストを飾るのはもちろんこの曲「狩りから稲作へ」しかない。縄文から弥生へ、移動から定住へ、愛し合う男女は共に定住できるか?という巨大スケールの歴史的ラブソングを、フロアも1階席も2階席も、一面の揺れる稲穂が祝福する名場面は何度見ても笑いが、いや胸が熱くなる。ライブ中のMCでは「キャッツ!」(*説明不可能なのでライブを見られたし)はもう飽きたからやらないと発言して我々をやきもきさせたが、ファンの熱い願いに応えて完璧な「キャッツ!」ポーズを決めるなど、終わり良ければすべて良し。3時間15分に及ぶレキシ的ライブは熱烈な拍手と歓声の中で幕を下ろした。
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
セットはシンプル、ゲストもニセレキシのみ(*キャッツンは除く)、派手な演出も控えめ、音楽とトーク中心に正攻法で勝負した今回の武道館公演は、確かにレキシの次の扉を予感させるライブだった。“いまもっともが取れないアーティスト”になってしまったレキシだが、衰えないパワーとさらなる前進意欲を目の当たりにした以上は“なんとかして見てほしい”と言うしかない。稲穂の妖精たちが次にどこへ向かうのか、ここまで来たらとことんまで見届けてみたいと思う。
取材・文=宮本英夫 撮影=田中聖太郎
レキシ 2017.10.10 日本武道館 撮影=田中聖太郎
日程:2018年4月29日(日)
会場:鯖江
詳細は後日発表
お問い合わせ:キョードー北陸センター
TEL:025-245-5100(平日11:00〜18:00/土曜 10:00〜17:00)
レキシ公式サイト:http://rekishi-ikechan.com/
放送/配信:フジテレビNEXT ライブ・プレミアム/フジテレビNEXTsmart
放送日時:11月26日(日)午後8時~9時30分
番組URL:http://otn.fujitv.co.jp/rekishiosaka/
不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち 〜稲穂の日とキャッツの日〜
放送/配信:フジテレビNEXT ライブ・プレミアム/フジテレビNEXTsmart
放送日時:12月3日(日)午後8時~10時
番組URL:http://otn.fujitv.co.jp/rekishibudokan/