名古屋の「星の女子さん」が新作上演~謎の日本ハワイ化現象!? をシュールに描く

インタビュー
舞台
2017.10.22
 『ハワイアン』出演者。前列左から・古部未悠、北川遥夏 2列目左から・平手さやか、YA-SU  3列目左から・鈴木亜由子、火田詮子、高橋由貴 後列左から・二宮信也、岡本理沙、くらっしゅのりお、岡浩之

『ハワイアン』出演者。前列左から・古部未悠、北川遥夏 2列目左から・平手さやか、YA-SU  3列目左から・鈴木亜由子、火田詮子、高橋由貴 後列左から・二宮信也、岡本理沙、くらっしゅのりお、岡浩之

 

日本のとある地方都市がハワイに! 果たしてその時、住民たちは…

ラブホテルのフロントを舞台に、すれ違う人々の人間模様を描いた『門番』、おとぎ話のテイストで現実の世情を盛り込みつつ、“国”をめぐる物語に仕立てた『トゥルムホッホ』、そして前作は国民的映画〈寅さんシリーズ〉をモチーフにした人情喜劇『音子はつらいよ』と、バラエティに富んだ物語を展開し続けている星の女子さん

今回は、“ハワイ”を題材にしたその名も『ハワイアン』を、10月26日(木)から4日間に渡って名古屋・天白の「ナビロフト」で上演する。これまでとはまた、まったく毛色の異なる作品に挑む彼ら。モチーフの着想はいったいどこから?  主宰で作・演出を手がけ、出演もする渡山博崇に話を聞いた。

渡山博崇

渡山博崇

── このところ毎回、前作とはかけ離れたモチーフを題材に作品を創られていますが、寅さんから一転、今度は“ハワイ”なんですね。

『音子はつらいよ』で、リリー役を演じた鈴木亜由子がウクレレを弾いていたのと、1月の公演で寒かったものですから、今度は夏の芝居をやりたいなと(笑)。前回もちょっとだけ題材として使った奄美大島と同じ南の島つながりということで、ハワイを使うと面白いんじゃないかと思いまして。そこからだんだん形を作っていったんですが、最初の思いつきは、僕たち日本人って、なんかハワイに憧れたり好きだという人が多いじゃないですか。それでハワイに行くっていうのはごく普通の発想なんですけど、じゃあハワイがこっちに来ちゃったらどうなるんだろう? と思って(笑)。

最初はゴリゴリの不条理劇になるのかな? と思って書き始めたんですね。極楽町という街が舞台なんですけど、そこがハワイ化現象に襲われる…っていう風になっていく時に、じゃあそこに出てくる人は当然、みんな〈ハワイアン〉になるんだろうなって。ハワイの人になるんだから〈ハワイアン〉でいいだろう、と考えてたらだんだん「なんなんだ、ハワイアンて!」と(笑)。“なっちゃう”ってなんだ? と思ったら、ゾンビみたいで。外から来た者っていうことでエイリアンみたいにもなってきて、なんか「常夏のハワイ」というイメージがそっぽ向いて、完全にゾンビものみたいになってしまったんです。

【ストーリー】
ハワイがやってくると噂の町にハワイがやってきた。
気候も文化も法律も、なにもかもが急にハワイになってしまったのだから、ハワイがやってきたとしか言いようがない。住民たちはハワイアンになり、ハワイにまつろわぬ人々を襲いはじめる。テーマパーク型温泉施設「ハワイアンセンター極楽」の常連客たちは、ハワイを愛するがゆえに、ある行動に出るのだった
……


── 『ハワイアン』に決まる前の仮タイトルが『憧れのハワイ航路』でしたから、前作同様、映画とか歌から発想されたのかと。

あの歌がなぜが一番お気に入りというか、ハワイに行ったことがないので、僕の中であれが一番ハワイ的なものだったんですね。で、それを採用して。

── そこからの発想というより、他へどんどん拡がっていったんですね。

そうですね。想像力が動くままにシフトしていって、どんどん変えていって。なんで日本人はハワイに憧れるんだろう? と思ってハワイのことを調べていったら、まだ王国だった頃に、アメリカの資本で大きなプランテーション(単一の特産的農産物を大量に栽培する大規模農園)とか作っていた時期があって。そこがだんだんアメリカの富裕層の農園経営のため経済的に支配されていって、労働者としてアジア人や日系人がたくさん入ってきたんですけど、日系人の食べる米を作るために原住民の畑が田んぼに変えられて、ハワイの景色がどんどん変わっていったという歴史がある。

そのことと僕の中の奄美大島(渡山の出身地)が繋がって。奄美も薩摩藩の支配でサトウキビを作らされたんですね。元々作ってはいたんでしょうけども、自分たちの食べるお米の田んぼを潰してまでサトウキビ畑に変えられて、食べる物もなくて。それでソテツの実とか食べられないものを工夫して食べられるようにしていったという歴史があるんですけど、そうやって外部の者に自分たちの景色を変えられてしまった、っていうところが僕の中でグッときたというのもあって。

そこで振り回された人たちって、薩摩藩の思惑とかアメリカの思惑とか、でっかいことは何ひとつ分かってなかったと思うんですよ、たぶん。確かに僕たちが今生きてるこの状況も、大きなことが分からないじゃないですか。ニュースで政府がなんたらとか、北朝鮮がどうとかアメリカがどうとか聞こえてきますけど、本当に何が起こってるのかは全然分からない。いつミサイルが飛んでくるかもわからない世の中になってるし。だからきっと、彼らもなんでハワイになったのか? ハワイアンとは何か? とか何も分かんないんだろうなと思って。ただただ目の前に起こったことだけに振り回されていて、大きな枠組みが何ひとつ分からないまま終わっていく物語もあるんじゃないかなと。

稽古風景より

稽古風景より

稽古風景より

稽古風景より

── 稽古を拝見した印象では、かなりシュールな笑いの場面も多いですね。

笑っていいのか良くないんだか分からないような(笑)。

── 客演の方も含め、役者さんもそれぞれ皆さん面白くて。

前々からそうなんですけど、なるべく上の世代と下の世代をごちゃごちゃにしたいんです。僕が面白いなと思う人を一人ひとり交渉して、今回は(火田)詮子さんとか、くらっしゅ(のりお)さんがいい感じに上の世代の人として居てくださって。もう6年ぐらい、G/pitの【チャレンジフェスティバル】で審査員をやってるんですけど、若手や学生の劇団が見られるので、そこで若い人たちは結構見つかるんですよね。

── 舞台美術はどんな感じになるんでしょう?

とにかく椰子の木をくれと(笑)。1本の椰子の木があればなんとかなる、と。

── シチュエーションもいろいろ変わりますものね。具体的な背景というようりは抽象的な感じなんですね。

そうなんですよ。そこにポンと具象の椰子の木を出すので、もうひとつ何か具象があった方がいいんじゃないかと思って、これはまだ内緒ですけど、ちょうど○○が出てくるシーンを書いちゃったので舞台上で実物を使います(こちらは実際の上演でご確認を)。

── あと、今回やっている試みだとか仕掛けていっていることなどあれば。

今回はなるべく俳優を表に出そうと思いまして。その人にあるものの中で、その人のやりたいことをメインに考えてます。僕は今まで自分のやりたいことが絶対優先だったので、ホンや演出のイメージで、すごく細い道を通ってくださいと言っていたんです。人によっては言葉のイントネーションからトーンまで全部否定したりして細かくやってたので、今回はわりと大らかに。若手も先輩方も関係なく、ザックリとしたオーダーでやってもらってますけど、なぜかそこからどんどん絞り込まれていくんですね。

稽古風景より

稽古風景より

稽古風景より

稽古風景より

── 祖母・母・娘の親子3代の話にもなっていますが、この設定にも何か理由が?

自分でも分からないんですけど、どうやらその親子3人は語り手の一族で、観客に芝居の説明をするっていうのが仕事なんですね。詮子さんが演じるお婆ちゃんは、ボケちゃってるからデタラメなことや適当なことばかり言うし、鈴木亜由子の母役は慣れてないので語りが下手くそなんですね。だからつい自分のことばかり喋ったり、ちゃんと観客に対して説明できない。で、高橋(由貴)さんがその娘の役を演じるんですけど、娘はそもそも語りっていうことに興味がないからやらない、っていう3代が、それでも観客に伝えるべきことは何か? ということをやっていくんです。

── 演劇の構造そのものに触れた見せ方もしていくという。

そういうのもちょっとありますね。やっぱりその人たちも所詮は物語の住人なので、自分たちの理解を超えるところというか、知らないことの方が多いんですね。ただ予言者みたいにぼんやりとしたことは知ってて、それを喋らなきゃいけない。結局は台本に書かれている言葉なので、自分の言葉でなかなか喋れないっていうジレンマですね。で、さっきの世の情勢の大きな物語は僕たちには見えない、っていうのに繋がって、観客に大きな物語を伝えるべき役割がうまくいかないという。だからこれを観たお客さんは、全体的に何が起こったのかまったく分からないまま帰ると思うんです。でも、分からないままでありながらもちゃんと面白い、っていう風に創りたいなと思ってますけどね。

── 以前、いろんな要素をコラージュしながら作品を創っていきたいと仰っていましたが、今回も全然違った要素を入れたりされているんですか?

今回は明らかに1時間半とか2時間の芝居のレベルにしては要素が多すぎるので、既に混沌としてますね。前半と後半で芝居の質感も変えていて、ハワイになる前はいろいろ変なことはあるけれど日常を書いてるんですね。で、ハワイになった後は、日常にあったはずの変なものが一切失われて、非日常であるはずの現実がずっと続いて習慣になっちゃうと、それが日常になる。日常と非日常、普通のものとヘンテコなものっていう感覚が変わっちゃうんです。見せ方はなるべく演出で整理したいなと思いますけど、問題はその仕掛けの数々がちゃんとうまく機能するか、っていうところですね。

でも、最初に考えたよりも全然幸せな芝居じゃなくて。ハワイのイメージをフワ〜ッとした感じで書こうと思ったんですけど、今回なんか、嫌~な感じに(笑)。


タイトルやチラシから漂うイメージや、当初の思惑とは違う形となった本作の着地点は、サスペンスホラーコメディなのだとか。作家が懸念する、終幕後の後味の悪さとはいったい…!?

尚、今回の上演劇場「ナビロフト」では、地域で活躍するアーティストを支援するプログラム《LOFTセレクション》を今秋からスタート。本作はその第一弾公演でもある。

星の女子さん ⑫『ハワイアン』チラシ表

星の女子さん ⑫『ハワイアン』チラシ表

公演情報
星の女子さん ⑫『ハワイアン』

■作・演出:渡山博崇
■出演:岡本理沙、鈴木亜由子、渡山博崇(以上、星の女子さん)、二宮信也(スクイジーズ)、YA-SU、古部未悠、くらっしゅのりお(てんぷくプロ)、岡浩之(劇団ジャブジャブサーキット)、平手さやか(劇団秘密基地)、北川遥夏(愛知淑徳大学演劇研究会「月とカニ」)、高橋由貴(名城大学劇団「獅子」)、火田詮子  ※出演を予定していた《ひのみもく》は、体調不良により降板。代役は古部未悠が務める

■日時:2017年10月26日(木)19:30、27日(金)14:00・19:30、28日(土)14:00・19:30、29日(日)11:00・15:00
            ※28日夜公演終演後には岡本理沙の誕生日会、29日15時公演終演後には次回作『予告編』のアフターイベントもあり
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-902)
■料金:前売/一般2,500円、学生1,800円 当日/一般2,800円、学生2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、1番出口から徒歩8分
■問い合わせ:星の女子さん 090-9926-0091(とやま)
■公式サイト:http://hoshinojoshisan.wix.com/hoshinojoshisan
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