故・瀬辺千尋の短編戯曲を上演するシリーズ第2弾、『うみべのいきもの』他二篇が名古屋で

インタビュー
舞台
2018.9.4
 出演者一同と演出家。前列左から・堀伸夫、火田詮子、藤崎アンジェ、まとい 後列左から・演出の加藤智宏、みなみりな、大野ナツコ、上田愛、樋口大輔

出演者一同と演出家。前列左から・堀伸夫、火田詮子、藤崎アンジェ、まとい 後列左から・演出の加藤智宏、みなみりな、大野ナツコ、上田愛、樋口大輔

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perky pat presents が贈る、瀬辺千尋の短編戯曲3作の上演。今回のテーマは、サスペンス改めSF !?

2014年1月に他界した名古屋の劇作家・瀬辺千尋。彼女が遺した数々の戯曲を、夫で演出家・演劇プロデューサーの加藤智宏が上演する〈瀬辺千尋短編戯曲集〉シリーズの第2弾が、9月5日(水)から5日間に渡り、名古屋・大須の「七ツ寺共同スタジオ」で上演される。

自身が主宰する演劇ユニットperky pat presentsで、瀬辺の生前から「戯曲を全部上演する」と約束していた加藤は、2015年に『たみちゃんの西瓜』他二篇を上演。“命”をテーマにしたこの第1弾から3年─。今回の『うみべのいきもの』他二篇は当初、“サスペンス”をテーマに演出するつもりだったというが、いざ稽古を始めてみると解釈が変わってきたそうで…。その辺りのことも含め、今回の上演について演出を手掛ける加藤智宏に話を聞いた。

perky pat presents 14 瀬辺千尋短編戯曲集『うみべのいきもの』他二篇 チラシ表 画:ヨコヤマ茂未

perky pat presents 14 瀬辺千尋短編戯曲集『うみべのいきもの』他二篇 チラシ表 画:ヨコヤマ茂未

── 今回は第2弾ということで、サスペンスものの短編を集めたということですよね。

そうです。瀬辺が遺した短編戯曲が十数本あって、それを上演していくにあたってどう手を付ければいいかなと考えて、3年前の最初は“命”をテーマにしたので次は何をやろうかな? と。彼女は推理小説とかサスペンスものが好きでいろいろ読んでいたんですけど、その影響なのかそういった作品も結構あったので、今回はこれでいこうと。最初は、今回の3作はバサバサ人が殺されていく話ばかりだなと思っていたんだけど、稽古を始めてから一作だけなんか毛色が違うなと(笑)。「これはサスペンスじゃなくてSFだぞ」と思って、すべてがSFに変わりつつあります(笑)。内容ではなくて、構造がどちらかというとパラレルな世界観というのか。そういったもので構成しています。

── 演出する上で、3作に共通する何かをもたせているということですか。

そうなってきました。他の作品の登場人物がチラッと出てくるとか。例えば、二人芝居の会話の中で、実際には出てこなくて語られるだけの登場人物がもう一人いた時に、そのもう一人がチラッと出てくる。今回の作品はダイアローグとかモノローグが多いんですよ。モノローグの場合だと、ひとり言をずーっと聞いているという状態になってくるとお客さんもたまに迷子になってしまう時があるので、“誰のことを話しているのか”というのを明確にするために、具体的にその人物を登場させようと。ただ通り抜けるだけとか、そこにフッと現れるとかだけなんだけど、それはあった方がいいだろうなと思って。それも他の作品で、“こういう役どころをやっていた人だからこの役になったんだな”という人をキャスティングしています。

── 他の作品の登場人物がそのまま、というわけではなくて、ちょっと匂わせるように連なっていく?

そう。だから稽古しながらパラレルワールドのような感触に僕自身はなってきたんです。テレビを見ていてチャンネルを変えたんだけど、同じような話のことをやっているな、という感覚。それがお客さんの頭の中で、「この役って、あの人だったのかな?」というようなことを想像して楽しんでもらえればいいかな。

『とねりこの実』稽古風景より

『とねりこの実』稽古風景より

── 当初の“サスペンス”からテーマは移行しながらも、この3作の組み合わせとしては成功したと。

結果的に。結果オーライだから(笑)。でもたぶん、演出しながら「どこか結びつけていこう」という力が働いてくるから、その結果そうなっていったと思うんですよね。上演順にしても、最初にチラシにタイトルを載せた時の順番のまま落ち着いたので。直感的に、こういう感じで進んでいくと落ち着くんじゃないかな、というようなものを自分の中で感じていたのかな、という気がしますね。

── キャスティングについては、それぞれどのように決めていったんですか?

『とねりこの実』に関しては、最初からこの2人(みなみりな、大野ナツコ)でやってみたい、というのがあったかな。一番最初に決まったのはまといさんで、「『うみべのいきもの』をやりませんか」と持ちかけて。だから今回は、タイトルにもしているこの作品が最初に決まったんです。それからどういう組み合わせがいいのかなと思って、配役に合わせて堀(伸夫)さんと火田(詮子)さんと(藤崎)アンジェさんに声を掛けました。『きんとき』は最後まで悩みました。男はセリフがなくて、女はモノローグでずっと語り続ける話で、一番難しい作品だなと。それで、ピンでパシッと立てる人は誰かいるかなぁと探していて、ハラプロジェクトの公演に出ていた上田愛さんに、初めていきなりオファーしました。施設の職員の役なので、ピンで立てるということと同時に、どこかしっかりしているというか凛としてるというか、そういうものがうまく出せる人だなと思って。

── 瀬辺さんの短編戯曲は十数本あるということなので、このシリーズは今後も数回続いていくということですよね。

2回ぐらいは短編集で、あとは長編が幾つかあるのと、単独でポツポツと上演していきたいなと考えています。

『うみべのいきもの』稽古風景より

『うみべのいきもの』稽古風景より

── 今回の上演作品を、改めて一作一作検証してみて思ったことはありますか? 演出作業に入ってみて初めてわかったことだったり。

こういうつもりで書いたのかな? という思いがあってやり始めたんだけど、彼女がどういう書き方をしていたのかわからないけど、感覚的に書いてた部分もあるんだろうな、と思うんです。だけど感覚だけでは曖昧にしかなっていかないので、そこに何か意味づけをさせていって、「これはこういうことか」とわかってきたことで一番発見が大きかったのは、『きんとき』ですね。

── そういう意味で一番難しい作品だと。

そう。さっき言っていた「これはSFかな?」というのは、この『きんとき』のことなんです。ただ読んだだけでは、そんな風には全然思わないんですよ。植物であるとかいろいろな記号みたいなものが出てくるんだけども、その使い方を、いったい何を思って書いてたんだろうか? というのがこの作品。上田さんと樋口(大輔)さんと3人でディスカッションしながら、「これはなんだ?」「どういうことなんだ?」って。瀬辺に聞けるなら聞いてみたい。あともう1個聞いてみたいのは、「『とねりこの実』のタイトルの意味は何だ?」と。トネリコは街路樹によくある樹なんだけど、これがなぜこの話のタイトルになるのかわからない。もともとファイルのタイトルは、『非常階段で殺すやつ』と書いてあって(笑)。覚え書きで書いただけかもしれないけど。

── 今回は全体の舞台美術としては、どんな感じになるんでしょう。

人が死んでいくというか、殺されたり殺したり、という話ばかりで殺伐としているから生気のあるものが舞台上にあった方がいいのかなと思って、植物がテーマになるような舞台美術になっています。

『きんとき』稽古風景より

『きんとき』稽古風景より

── 音楽などは?

小野(浩輝)君に作ってもらったものを使います。

── どんな感じでオーダーを?

稽古を観てもらって、「こことここで曲を入れたい」とか「ここで30秒くらいほしい」としか言いません。それで出来上がった曲を聴いてみて、この曲はこっちのシーンで流した方がいいな、と思ったら彼と相談して決めていきます。小野君がどんな曲を作ってくるのかわからないし、わからないから面白い。私ひとつのイメージで作ってもそう大したものはできないから、いろいろなイメージが集まった時にそれをうまく構成していくのがたぶん私の演出の仕方なんだろうな、と思っているので。意外なものが出てきても否定するんじゃなくて、「こうきたか」と思って、「じゃあ、こうしよう」ということでまた変わっていく、という感じですね。


尚、この公演の約3週間後、瀬辺の誕生日にあたる9月30日(日)にも、加藤が小屋主である名古屋市西区の『円頓寺Les Piliers』にて1日限定公演を予定している。瀬辺の処女戯曲『みかん』と、彼女が率いていた“歌って踊って芝居するユニット”爆乳シスターズで上演予定だったと思われるSMチックな戯曲『マリコさんのお料理』のリーディング上演を行うそうなので、上演スケジュールなど詳細について知りたい方は、下記 office Perky pat までお問い合わせを。

取材・文=望月勝美

公演情報

perky pat presents 14
瀬辺千尋短編戯曲集 其の二『うみべのいきもの』他二篇


■作:瀬辺千尋
■演出:加藤智宏
■出演:「とねりこの実」みなみりな(劇団翔航群)、大野ナツコ/「うみべのいきもの」堀伸夫、まとい(劇団蒼天の猫標識)、藤崎アンジェ(妄烈キネマレコード)、火田詮子 /「きんとき」上田愛(ブリッジプロモーション)、樋口大輔(タツノオトシドコロ)、澤村一間[アナウンサーの声]

■日時:2018年9月5日(水)19:30、6日(木)19:30、7日(金)19:30、8日(土)14:00・18:00、9日(日)11:00・15:00
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般前売2,800円、当日3,000円 学生以下前売1,800円、当日2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
■問い合わせ:office Perky pat 加藤 090-1620-4591 rsm87200@nifty.com
■公式サイト:http://officeperkypat.web.fc2.com/
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