演出しながら「出演してみた」B-BOYとオタクを繋ぐ"先駆者としてのRABの道” 10周年ワンマンレポート
2017.10.22(San)中野サンプラザ
RAB10周年 無料ワンマンライブ2017~待ってろよ!アニメ化 in 中野サンプラザ~
SPICEの自分のプロフィールを読むと、「SPICE編集部アニメ/ゲーム担当 劇団GAIA_crew代表、劇作家、演出家、俳優としても活動中。株式会社ウルトラシープ所属のクリエイターとして 文筆業なども行っております。」
とある。そうなのだ、アニメ/ゲーム編集長として日々お仕事させていただいているが、外の仕事として芝居を作ったりDJをしたり脚本や演出もやっている。そんな縁の中でここの所ずっと一緒に仕事しているのがRAB(リアルアキバボーイズ)だ。
RABはチェックシャツをジーンズにインしたいわゆる秋葉系のファッションを身に纏うステレオタイプの「アキバ系オタク」なのだが、彼らの特色はそれぞれが一流のブレイクダンサーだということ。
世界大会で優勝したこともあるドラゴンや、日本代表として海外遠征も多数の涼宮あつき、漫画家としても活躍するマロン、会社社長という面も持つけいたん、ヘッドスピンの達人ムラトミと特色あるメンバーがアニソンでブレイクダンスを踊りパフォーマンスをするという彼らの人気はニコニコ動画から火が付き。今や各種イベントに引っ張りだこだ。
僕は彼らが2016年に行ったワンマンライブから脚本と演出を担当させてもらっている。ワンマンではただ踊るだけではなく、演劇的要素を加えてストーリー仕立ての中でダンスを見せていきたい、という彼らの意向があったのだ。
今回は彼らの10周年記念ワンマンということで、開催資金はクラウドファンディングで募集。果たして集まるのかという不安をよそに1014万円という資金が集まり、無料開催となった。
通常なら自分が関わるライブのレポートなど絶対に書かない。しかし今回はちょっと特殊な事情がある。毎回ワンマンでは彼らのこれまでのストーリーを噛み砕いて脚本化している。それは初めて彼らに触れる人たちにRABというものが何なのかわかってもらいたいからだが、今回は今まで以上に彼らの歴史に触れながらの脚本制作となった。
何と言っても無料化である。中野サンプラザ2000キャパを無料でやろうというのだから、コアなファンからよくわからない人までどんな人が来るかわからない。だからこそ現実に寄せてほしい、知ってもらいたいというのがRABの考えだった。
その中で彼ら5人だけではどうしても表現できない部分も出てくるので、自分が主催している劇団員を使うことにした。手前味噌と言われたらそれまでだが、特殊な現場でタイトなスケジュールのため勝手がわかる人たちとしかやれないという変な確信があったのだ。
その中で出て来る「先輩」という役がある。メンバーのドラゴンに喧嘩を売り、物語を進めるキーパーソンなのだが、コレを何故か「この役は加東さんにやってもらいたい」と本人たちからラブコールを頂いてしまった。断るにも断れないから演出をしながら出演というタブーを犯すことになったのだ。そうなると普通の公演ではない。今までになく砕けて本音の「出演してみた」というレポートもありなのではないかと思い、コレを書くことにした。
前置きが長くなったが、ここからが本文。
RABのワンマンはとても特殊な作り方をしている。演劇パートからシームレスにブレイクダンスを踊り、また芝居に戻るので普通に声を出す演劇は作れない。なので事前に台詞を収録し、編集した”効果音・セリフ入り音源”を流して、これに合わせて芝居をする。リップシンクならぬボディシンクだ。
これがいざやってみると恐ろしいほど難しい。普段役者として舞台に立つ時は”間”を感じながら動いているが、今回は事前に決められたタイミングに体や心を合わせないといけない。これを難なくこなす彼らはやはり1流のダンサーなのだと実感する。
RABが目指しているのは「武道館ワンマン公演」と「アニメ化」である。ギミックではなく本物のアニメファンの彼らの目標は、ギャグのように聞こえるが本人たちは至って真面目である。そのために何をしなければいけないか、どうするべきかを常にRABのチームは考え続けている。
ならばそれを逆手に取ろうと思った。最初に壮年になったRABを出して、すでに夢は叶えた。あの頃は良かったなと振り返るオープニングにしようと考えついた。これにはお客さんも驚きと喜びでリアクションをくれて袖でほくそ笑ませてもらった。さあこれで後には引けない。武道館ワンマン公演まで彼らは突っ走るしかなくなったのだ。
ド頭に大御所声優、若本規夫の特別ナレーションから始まったときから笑いと驚きとざわつきで包まれた公演はアンコールまですべて含むと3時間半を超える超大作となった本公演。(この若本規夫のナレーション収録の時の緊張しまくっているRABはしばらく忘れられそうにもないが)折角のハレの日だというのに当日は関東は台風が直撃。波乱万丈のRABらしい天候だが会場は1500人以上の観客で一杯。来れない人のためにTwitchでの無料配信も行ったのだが、回線不良で頭数分の音が出ないというハプニングも。配信チームが必死の形相で復旧に向けて動き、無事回復したことを褒めてあげてもらいたいところ。
波乱万丈と言えば彼らの経歴もそうだ。素人目で考えてもアニメとB-BOYは水と油、お互い一番近寄りたくない存在なのではないかと思う。しかしその2つにまたがる彼らの活動は一時期どちらのジャンルからも疎まれ、活動を休止したこともある。今回のストーリーはそこをメインにした。必然的に観客の心に暗く影を落とすシーンもある。でもそれでも良いと思った。その先にある現在のRABはこんなにも輝いて愛されている。
アニソンはその90秒に作品そのものが持つストーリーや思想を内包している。それを踊る彼らのダンスも基本明るく楽しい雰囲気の中で凄技を見せてくれるのだが、今回はそれだけでは無く、シリアスな部分も見せたいと思った。それを表現できそうな『ACCA13区監察課』主題歌「Shadow and Truth」でのドラゴンとあつきの熱いバトルなどは見どころの一つだったと思う。
勿論彼ららしい面白さも取り入れた。RABとの打ち合わせはまず彼らが何をやりたいかを聞くところから始まるのだが、マロンのライブドローイング、写真撮影・ツイートしながらの観覧OKというスタイルを逆手に取ったTwitterトレンドを狙う観客参加型の試みや、ムラトミが嵐の中外に出て行ったツイキャスなどは恐らくRABでしか出来ないことだ。彼らはとても自由で、そして自由に表現を行うということには責任とクオリティが求められることも知っている。
そんな中で作っていった本作だが、今回は彼らと仕事をして初めてキツめのリテイクが飛んできた。脚本第一稿を納入した後にけいたんからかかってきた電話口で開口一番
「前半いいけど、後半ぶっちゃけ全然良くない。たぶんわかってると思うけど、もっと驚かせたいし、感動させたいんだよ、これだと俺らは出来ない」
と言われた時は正直ショックだった。ちょっと僕自身も慣れがあったのかもしれない。体力のことを考えたらこれくらい踊るしか無いだろう。こういう難しいことは時間的に厳しいかも。そういう余計な遠慮が勝手に働いていた。
RAB全員に「俺ら全然もっと踊れますよ、ガンガン踊るし面白いアイデアください!」と熱っぽく語られたときに、10年間シーンを作り・支え続けてきた彼らのプライドを感じた。なら思いっきりやろう、ライブパートの楽曲も思いっきり増やす。メンバーがそれぞれの道を行き、それでもアニソンダンスをやりたい!と戻ってくる部分をセリフではなくダンスでやろうじゃないか。彼らの動画を片っ端から改めて見直し、物語のクライマックスに持ってきたのは大ヒット映画『君の名は。』主題歌であるRADWIMPSの「前前前世」。
「やっと目を覚ましたかい」から始まるこの曲の中で、メンバーの喪失感と渇望と、再開と未来を感じさせたいと思った。とにかくこのシーンだけは音に感情もダンスも全てが合わないとならない。何度も何度もこの曲だけは本域で練習し続けた。最後まで戦い続けたドラゴンとあつきの和解を映画になぞらえて見せたくて、最初の予定と変えてステージも中央に階段がある形に変えた。僕は袖から見ていたからどう見てもらえたかは観客の声を聞くしか無いのだが、何かを感じてもらえたならいいし、感じてもらえたと信じている。
それぞれのソロダンス、コンビネーション、トーク、企画、てんこ盛りにも程がある公演のラストはクラウドファンディングのストレッチゴールの一つである「ちょっとだけアニメ化」だ。実際に数分間ではあるがアニメ化した作品は可愛くテンポの良いものだったが、ずっと彼らを応援しているファンからしたら涙なくては見られないものだったようだ。今までのワンマンライブでは必ず最初に彼らのオリジナル曲の一つ「VERSUS」を持ってきたが、今回はあえて本編のラストに。だってこれからが彼らの戦いの始まりなのだから。
アンコールは鳴り止まない。舞台上には疲れているだろうに目を輝かせたRAB、僕が演出を担当するのは本編だけなので、ここからは純粋無垢なRABが観客と対峙する時間なのだ、「脳漿炸裂ガール」TVアニメ『ラブライブ!』OP主題歌「僕らは今のなかで」と続いてパフォーマンスした後の『おそ松さん』OP主題歌「全力バタンキュー」で歴史がつながる。社会人として働いているので芸能活動には参加できないRABの創設者にして、6人目のメンバーであるチャカが登場。6人でのパフォーマンスを見せた。
この時のRABはチープな言葉で言えば“凄かった”。チャカが加わった瞬間に5人がとにかく楽しそうな顔をする。今までのRABでは見られなかった「トンデモなくやんちゃな彼ら」を垣間見た気がする。一気に初期衝動に巻き戻されるような感覚。
頭のなかには会場に爆音で流れるA応Pの歌とは別に、岡村靖幸の名曲「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」が流れ出す。
「青春って1.2.3ジャンプ 暴れまくってる情熱」そのものじゃないか、よく見ればスタッフもうちの劇団員も涙ぐんでいる。いくつになってもどこに居ても、仲間がいればそこは青春なのだろう。
客席も不思議だった。関係者席はアニメ関係者とガチガチのB-BOYたちが混ざり合う空間。お互い曲やダンスに対するノリ方は違うのに心は同じで、RABに対するリスペクトが満ち溢れていた。
アニメとB-BOY、両方から拒絶されたRABは、それでも折れぬ信念で10年間好きなことをやり続けた。やり続けた後の道にはシーンが出来上がっていて、続いてくるA-POPダンサー達が沢山いた。いつだって先達者は苦難の道を征く。だから彼らが武道館のステージに立っているところだって(大変ではあろうけど)想像できてしまう。見た目も考え方も行動もオタクの彼らだけど、そんなの関係なく、RABは“カッコいい”のだ、それは彼らのライブを見れば分かるだろう。寸劇やトークをはさみながら30曲以上ブレイクダンスを3時間半踊り続けるのはもはや常人では考えられない。最後の挨拶で全員が涙して言葉をつまらせるのを見たら、僕らだって感情移入するしか無い。あの瞬間は中野サンプラザ全体がRABの一員だった気がする。
10年の中でRABは停滞したときのほうが長いのかもしれない。しかしこの数年の飛躍は目を見張るようであり、この勢いなら数年後には武道館に行き着くだろう。その時まだ僕が彼らと仕事をしているか、それとも普通に観劇レポートを書く身になっているかは、今はまだわからないのだが。
レポート・文:SPICEアニメ/ゲーム編集長 加東岳史
2017年12月17日(日) RAB忘年会2017@大阪
2017年12月30日(日) RAB大忘年会2017@埼玉
2017年1月13日(土) RAB新年会2018@東京
2017年1月14日(日) RAB新年会2018@名古屋
RABワンマン 2018年 東名阪ツアー日程
5/19(土) 名古屋 JAMMIN’
5/20(日) 大阪 ESAKA MUSE
5/26(土) 東京 ディファ有明
詳しくは http://abstreem.co.jp/RAB/event/event026.html まで
発売日:2017年10月18日発売!
品番:VVCL 106-7
価格:¥3,000+税