NIHA-C×ハシシ(電波少女) 互いのクリエイティヴィティが火花を散らした制作現場を振り返る
L⇒R:ハシシ(電波少女)×NIHA-C 撮影=鈴木恵
NIHA-Cの名をリスナーの脳に刻み込んだパンチライン<死にたくなったら連絡しろ>を生んだ、電波少女「MO」の衝撃から約2年。8月にリリースされたNIHA-Cの配信シングル「モナリザfeat.ハシシfrom電波少女」での共演に続き、9月リリースの電波少女のメジャーデビューアルバム『HEALTH』ではNIHA-Cが2曲にフィーチャリング返し、ツアーにも全面参加。そして11月15日リリースのNIHA-Cの2ndアルバム『アリバイ』にも「モナリザ」が収録され、NIHA-Cとハシシの盟友関係はさらに強固なものへと進化した。年齢はハシシが上だが、マイクを握れば立場は同じ。お互いのクリエイティヴィティが火花を散らした制作現場のエピソードを、二人揃って披露してもらおう。
――今日はNIHA-Cさんのアルバムがメインなんで。NIHA-Cさんを上げる方向で。
ハシシ:地の底まで落としてやります。
NIHA-C:そっち? そういう方向で行くんすか?
――確かにハシシ的世界観だとそっちのほうがしっくりくる(笑)。そもそもフィーチャリングしたりされたり、二人は深い付き合いで。
NIHA-C:「MO」が初ですよね。2015年。
ハシシ:その前に、自分たちの1stの時に特典音源のマイクリレーに参加してもらっていて。あれが2013年か。
NIHA-C:そっか。それが一番初めでしたね。
ハシシ:交流が始まったのも、そこぐらいのタイミングだったので。
――出会った頃の印象と今と、変わってないですか?
ハシシ:うーん、平たく言えば特に変わってないです。こまごまとした部分はありますけど、ざっくりとした部分ではそこまで変わってない。
NIHA-C:どんな感じですか?
ハシシ:こんな感じです。
NIHA-C:俺って生意気ですか?
ハシシ:いや、生意気じゃないと思うけど。たぶん地元が一緒とかだったらつながってない。つながってたかもしれないけど、こういう関係じゃなかったかも。
NIHA-C:地元が一緒だと、上下関係がきついですよね。
ハシシ:だから今、フラットに接しられているのかなと。
NIHA-C:たぶん音楽がなかったらつるんでないでしょうね。ウサギ(Jinmenusagi)くんもハシシさんも、そういう気がする。
ハシシ:たぶんみんな、聴いてきたものは一緒だと思うんですよ。そこから派生していろんな方向に行っただけで、自分だったり、NIHA-Cくんだったり、ウサギくんだったり、ぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)もそうだと思うけど、根っこの部分が近いものがあるからつるめるのかな?って。今の出来上がった状態だったら、仲良くなってなかったかもしれない。
NIHA-C:ああ~。
ハシシ(電波少女)×NIHA-C 撮影=鈴木恵
このアルバムを俺が紹介するとしたら、“飛び道具がない”と思ったんです。スタンダードにいい曲が多い。NIHA-Cくんは純粋にヒップホップの強い部分を外に持って行ける力があるんだろうなって思いました。(ハシシ)
――今回、NIHA-Cさんの「モナリザ」のシングルが8月に出て、電波少女のアルバム『HEALTH』が9月。制作はほぼ同時期ですか。
ハシシ:そうですね。お互いに参加してほしいと言ったのも同時くらいだった。
NIHA-C:電波のアルバムに俺が入る時って、ハシシさんの中で99%完成形がある感じじゃないですか。でも俺が「モナリザ」を作った時、テーマを投げて戻ってきたものを聴いた時に、“あ、この方向で来るんだ”っていう感じだったんですよ。もし逆の立場で、俺がハシシさんだったら「もう一回作り直し」って言うのかな?って。
ハシシ:ああ~(笑顔でウケる)。俺はけっこう、NIHA-Cくんのヴァースに修正を出すんですよ。“もっと行ける”みたいな感じで。自分の名義の時には。
NIHA-C:「モナリザ」のハシシさんのヴァースって、けっこう突拍子もないこと言ってるじゃないですか。<おまえが俺で遊んでたことも曲にしちゃうぜ、ざまあみろ>ぐらいの。あれを聴いて、メタ発言だと思ったんですよ。
ハシシ:メタ発言ってどういう意味?
NIHA-C:漫画の中で“これは漫画です”って言うみたいな。
ハシシ:ああ~。はいはい。
NIHA-C:そこまで飛んでっちゃう?と思って、一瞬悩んだんですよ。
ハシシ:わかる。すごい微妙だろうなって思ったもん。
NIHA-C:でもこれを変えたらつまんないと思ったんですよ。そのまま残しておいたほうが、ハシシさんがフィーチャリングされてる感が出るなと思って。
ハシシ:自分がNIHA-Cくんにお願いする時には、先に自分のヴァースができてることが普通なんだけど、そこと単語がかぶらないとか、音的にフロウのアプローチが変な方向に行ってほしくないとか、そういうことはけっこう言っていて。ただリリックに関しては、趣旨とずれてなければ特に言わない。何て言うのかな、フィーチャリングの時って“カマしてやろう精神”が出るんで。だから「MO」の時にもNIHA-Cくんの<死にたくなったら連絡しろ>が出て来たんだと思うし、そういうのって他人の曲のほうが出るかもしれない。自分名義の時はこの曲をまとめないといけないという意識というか責任感があるので、冒険しづらいんですよ。
NIHA-C:わかる。
ハシシ:「A BONE」とか如実に出てると思うんだけど、俺は完全にスタンダードに行ってる。“こういう曲ですよ”というのを最初にわからせないといけないから。だからフィーチャリングのほうが、気楽にポンと……。
NIHA-C:飛び道具を使いやすい。フィーチャリングで呼ばれた時って、確かにそういうモチベーションになりますよね。ちょっと攻めたフロウにしようとか、言葉使いも自分のアルバムでやってなかったことを試験的にやってみようとか。
ハシシ:しかもその相手のアルバムで出てくる自分はそのパートだけだから、“この1曲のこのパートで自分をわかってもらわないと”という意気込みなので。そうやって作ってると、忘れかけていたものを思い出す瞬間もあるし、“あ、俺、こういうことやってたな” “自分の曲でもこれをしないとダメだな”とか。
――「モナリザ」はもともと、どういうテーマを投げたんですか?
NIHA-C:俺が言ったのは、「「モナリザ」というタイトルの曲で、男が女に遊ばれた曲を作りたいんです」って。女が男に遊ばれる曲はまあまああるけど、逆のパターンはあんまりないなと思ったので。けっこう大ざっぱなテーマで、「女にもてあそばれた気持ちで書いてくれませんか」って言ったら、ハシシさんなりに解釈した歌詞を送ってきてくれました。でもそれが面白いと思ったし、3番が掛け合いになっているところも、もともと俺が二人分書いて「ここを歌ってください」って言ってたんですよ。でもハシシさんは「ここは変えたい。ここは俺の言葉で言いたい」と言ってくれて、結局お互いに考えたものになりましたね。
ハシシ:ほぼNIHA-Cくんが考えたもののままだけど、一か所だけ自分の言葉に変えた部分があって。NIHA-Cくんが作ったものを歌うのも曲として正解だし、ただ俺がこれを歌ったら、俺を知ってる人が“らしくないな”って思うだろうなって。
NIHA-C:まあ確かに、そうですね。<I Know所詮は俺もその他大勢の一人なんだって>のところが、もともと違う歌詞だったんですよ。
ハシシ:言ったら、最後のサビに行く前のところも、絶対俺は言わないけどね。<君といた時間に意味が無かったなんて言わない>とか、絶対言わない(笑)。
NIHA-C:俺が書いた歌詞ですからね。
ハシシ:でもそこは集約しないといけない部分なんで。曲を、最後のサビに向かって。だから全然「歌うよ」って。そもそも音源をもらった時に“いい曲だな”と思ったから。
NIHA-C:ありがとうございます。
NIHA-C×ハシシ(電波少女) 撮影=鈴木恵
幸せなラブソングもあれば、恨みつらみのラブソングもあって。ハシシさんを入れるにはもうここしかないなと。(NIHA-C)
ハシシ:フィーチャリングってどうしても、弱い曲を補うために呼ばれたんだなって感じることが多いんだけど、自分は弱い曲は弱くていいから、強い曲をもっと強くしたいという考え方で。今までフィーチャリングに呼ばれる曲はアルバム曲が多くて、それはそれで楽しいんだけど“そんなに重要な曲じゃないでしょ?”みたいな解釈だったんだけど、今回NINA-Cくんからのオーダーで「シングルにもなります、PV撮ります」っていうことだったし、曲を聴いた時にもめっちゃ気合い入ってるなと思ったんで。ビシッとやろうと思ってやりました。
NIHA-C:アルバムを作り始めた時に、もう決めてましたからね。ハシシさんを入れないと完成しないなと。じゃあどういう曲にしようか?という、そこから始まったので。
――ああ~。そういう順番なのか。
NIHA-C:いろいろ考えたんですよ。家族に感謝する曲にしようかなって一瞬思ったんですけど、それってフィーチャリングを呼んでやる曲じゃないかな、とか。で、今回のアルバムはラブソングが多いんですけど、“好きだよ”っていう幸せなラブソングもあれば、別れた彼女に対して“好きでした”というラブソングも、恨みつらみのラブソングもあって。恋愛してたら恨みつらみは出てくるわけで、ハシシさんを入れるにはもうここしかないなと。だってプライベートで、あんまり恋愛のいい話を聞いたことないから(笑)。
ハシシ:そうだね(苦笑)。
NIHA-C:悪い話はちょこちょこ聞くんですけどね(笑)。昔、遊ばれた話とか。
ハシシ:GPSつけられてたとか(笑)。まあ、面白い不幸話だけします。のろけ話をしても笑ってくれないんで。
NIHA-C:だから攻撃的というか、ドロドロしてるというか、怒ってるんだけど、キレてるというよりは恨んでる、そういうものをやりたくて。ハシシさん、マイナスの感情の時の方がリリックが光りますもんね。
ハシシ:普段の性格に近いほうが書きやすいから(笑)。
NIHA-C:そういうとこ、逆なんですよね。
ハシシ:そう、NIHA-Cくんは励ます曲も得意だし。ブルースだよね、このアルバムは。
NIHA-C:そうですか(笑)。
ハシシ:音はブルースじゃないけど、哀愁があるし、風に吹かれてるような感じがある。アルバムを聴いて、めちゃくちゃいいなと思ったんですよ。ツアーを一緒に回ってもらってたし、新曲もけっこうやってたから、いいアルバムだろうなとは思ってたけど、聴いてなかった曲もちゃんと良くて。すごく濃いなと思った。
NIHA-C:捨て曲というか、B面みたいな曲を作りたくない、全部A面にしたい気持ちがあったんですよ。もっと次元が高くなってきたら、途中で落ち着かせる曲が入っていてもいいんだろうけど、今の俺は全部A面にしたくて、全部ちゃんと聴いてほしい。1曲ずつのカロリーがすごいと思うんですけど、それが作りたかったし、そういうものができたかなと思ってます。
ハシシ:(歌詞を見ながら)こうやって見ると、意外とリリック少ないね。
NIHA-C:少ないですね。短い曲が多いです。ラップアルバムからなるべく離れようとしたので。メロディを聴かせたくて。
――それはつまり、ポップスとして成立させたかったということ?
NIHA-C:そうです。それで勝負したかったので。ヒップホップの曲と、ヒップホップからなるべく遠ざけた曲と、完全に二通りに分かれてる感じですね。でもメロディをつけると歌詞が少なくなって、歌詞が少なくなると言いたい言葉を減らさなきゃいけないから、それが一番難しかった。言葉を削ったり、違う言い方を探すのに一番手間がかかりました。そこは実は、ハシシさんを見て吸収してるところがあるんですよ。ヒップホップ的な言い回しでラップするのって、たぶん簡単なんですね。いっぱい見本があるし。そうじゃなくて、ラッパーが普段使わないような言い回しや言葉使いで、どれだけ表現として面白くて、なおかつ回りくどくないものにできるか。俺は今まで簡単な言葉で簡単な言い回しをすることが多くて、そこにプラス武器がほしいなと思った時に、わかりやすいけど面白いという表現がハシシさんのリリックには多いから、吸収させてもらったなと思ってます。
ハシシ:このアルバムを俺が紹介するとしたら、“飛び道具がない”と思ったんですよ、逆に。もう普通に筋肉の強さみたいな、裸の状態で、その点数が純粋に高い。1曲1曲しっかり聴けるし、特に変なことをしてない。スタンダードにいい曲が多いって思いましたね。「Take My Hand」とか、ラップしてないけど、これができるんだったらすごいよなって。言ったらラッパーって、今は器用な人も増えたけど、商業化しづらい人が多いと思う中で、自分はそうなりたくないと思ってやってるんだけど、NIHA-Cくんも商業的にちゃんとできる人だなと思う。こういう言い方は悪く聞こえちゃう人もいると思うけど、純粋にヒップホップの強い部分を外に持って行ける力があるんだろうなって思いました。
NIHA-C×ハシシ(電波少女) 撮影=鈴木恵
――アルバムのリリースパーティーは11月23日、渋谷Milkywayで。もちろん電波少女も、Jinmenusagiも出ます。
ハシシ:ここらへんが好きな人は楽しいイベントになると思います。
NIHA-C:電波少女、NIHA-C、Jinmenusagi、みんな好きっていう人は多いと思います。僕らはいつも電波少女のイベントに呼んでもらって、それで知ってくれた人も多いし。だから今度アルバムを出して、リリースパーティーをやって、電波少女とJinmenusagiを呼べるというのは、自分にとっては一つの目標でもあったので。
ハシシ:初主催でしょ。
NIHA-C:そうなんです。
ハシシ:電波少女も初主催の時、NIHA-Cくんに出てもらったんですよ。
NIHA-C:そこから始まって、時間が経って、なかなか俺はそういうことができる力がついてこなくて。悶々としながら早くそういうふうになりたいなと思ってたので、こうしてアルバムを出してリリースパーティーを打てて、そこに仲のいい二組を呼べるのはかなり感慨深いです。しかも渋谷Milkywayで。電波少女の初主催もMilkywayだったんですよ。
――良き日にしましょう。11月23日は祝日なので、みなさん日本中からぜひ。何を見せてくれますか?
NIHA-C:もちろんアルバムの曲をやるのと、ほかにもいろいろ考え中です。せっかく3組いるんで、それぞれの絡みもできればいいなと思ってます。
ハシシ:頑張ってください。
――って、あなたも出ますよ(笑)。
ハシシ:みんなで盛り上げられれば、相乗効果で自分たちにもつながると思うし。前から言ってるんですけど、一組の力で何かをこじ開けるのは難しいと思っていて。それぞれが頑張るのはもちろんとして、一緒に大きい力になって動けたら、たぶん何倍にもなっていくと思うんで。NIHA-Cくんにも今回カマしてもらって。
――そういえば、プレスリリースに「“新生NIHA-C”としてリニューアル」って書いてある。
ハシシ:え? 改名したの?
NIHA-C:改名してないです(笑)。“新生NIHA-C”というアーティスト名になるわけではないです。生まれ変わりましたよ、という意味で。スタイル的に成長しました。
ハシシ:でも1stよりいいですよ、この2ndのほうが。2ndってどうしてもパワーダウンすることが多いと思うので、すごいなと思いました。たぶん100人が聴いて100人が「2ndのほうがいい」と言うと思います。
NIHA-C:一皮も二皮もむけて生まれ変わりましたから。
取材・文=宮本英夫 撮影=鈴木恵
NIHA-C『アリバイ』
RCSP-0085 ¥2,500+税
発売元:redrec / sputniklab inc.
<収録曲>
01. It's Going Down
02. リーダー
03. モナリザ feat. ハシシ from 電波少女
04. 夜光虫
05. Touch The Sky
06. Goodbye
07. Take My Hand
08. ABCDEFG
09. Boyfirend Don't Like Me
10. トモダチ feat. Jinmenusagi
11. 目を閉じれば
12. Nothing
2017年11月17日(金) 19:30
会場: TOWER RECORDS池袋店6階イベントスペース(観覧フリー)
http://tower.jp/store/event/2017/11/014013