松雪泰子らが早逝の女性小説家の心の闇を描き出す舞台『この熱き私の激情』
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『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌~』
2017年11月4日(土)から東京・天王洲 銀河劇場にて、舞台『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌~』が上演される。カナダの小説家であり、36歳という若さで自ら命の火を消したネリー・アルカンの作品をもとに、女優・演出家のマリー・ブラッサールが手掛けた本作。初日直前に出演する松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、奥野美和、霧矢大夢、そしてマリーが会見に登壇した。
会見ではマリーがこの作品の上演について「素晴らしいキャストたちとネリー・アルカンへのオマージュを形にした作品を皆様にお見せできるのが嬉しいです。キャストは皆、耳だけを頼りにすばらしいアンサンブルを作っていただきました」とコメント。また演出方法について、マリーは「現代社会におけるプレッシャーを提示しています。メディアから与えられるプレッシャーや、自分“以上”の何かにならないといけないという…それは世界共通、男女を問わないものだと思っています。でもあえてお客様にはその闇の中から光を感じて持ち帰っていただきたいとも思っています」と語った。
マリー・ブラッサール
キャストたちは皆、今回の舞台に向けた稽古期間を振り返り「初めての経験」「苦しい」「つらかった」と稽古中の感覚を口にする。それはネリー・アルカンその人の深層に近づけば近づくほど激しくなるようだ。
松雪は、ネリーの小説「Putain (邦題:キスだけはやめて)」を読んだという。「あまりにネリーの痛みが痛すぎて、死に向かっていく彼女の精神状態を考察し想像していくと、自分の中にある潜在的な痛みと彼女の痛みとヒットする瞬間があり、身動きが取れなくなることもありました」とまるでネリーを気遣うように静かに語った。
松雪泰子
そして霧矢は「部屋の中から出ないで(共演する)皆様の呼吸を感じること、個々のようで同じ空気を感じなければならないという演劇手法が初めてで難しかったです。ネリーの心の闇や怒りをより深く探求することで、自分自身も(心の闇に)落ちそうになりましたが」と振り返っていた。
霧矢大夢
松雪と同様、ネリーの小説を読んだ初音は「ネリーの36年の人生がなかったら、自分はここにいないと思います。ネリーが書いた本を読んで彼女の痛みが自分にもグサッと刺さって涙することもありました。彼女の悩みと向き合うことが痛かったです」と話しつつも、「でも、彼女の人生が自分に与えてくれたこと、マリーとカナダ人のチーム、日本人のスタッフ、そしてすばらしい共演者と出会えたことを感謝しながら、ネリーの魂を自分の中にぐっと込めて演じたい」と力を込めていた。
初音映莉子
マリーの独特の演出方法について、宮本は「こんなに苦しくガツンときた稽古は久しぶりでした。製作発表のときに、マリーの演出は『真綿で首を絞めるような感じ』と言ったのですが、いざ稽古が進むとその真綿に水が含まれていて、時々キュッを締められるような感覚で(笑)、自分の役者人生をも破壊されかねないくらいの衝撃でした」と言うとその言葉を聞いていたマリーが笑顔を見せていた。
宮本裕子
小島は他のキャストとはまた違う感覚を味わっていたようで、「すばらしい方々とご一緒しているのに(稽古では)全く顔が見えず、声だけの交流しかない…なかなかセクシーだなあと感じていました」と笑う。マリーからは「言葉と身体との繋がりを大切に、と言われました。言葉を信じて動くより、単純に動いたほうが楽なんですが(笑)それをしないというのは大変でしたね」とやはり稽古中の苦労を口にしていた。
小島聖
一方、普段ダンサー、振付家、映像作家として活躍する奥野は「私にとって演劇作品に出演するのが初めてで、それが稽古の中でいちばんの課題でした」と語る。この初日を「出来立てほやほやの舞台です」と表現する奥野は、「演劇とダンスの身体表現、それは私にとってとても難しかったことなのですが、ここでしっかり習得していきたいです」と真摯に取り組む姿勢を見せていた。
奥野美和
この座組ではいちばん歳下と思われる(※年齢非公表)芦那は「マリーやスタッフ、キャストの方々と楽しく稽古ができました。今日からが本番ですが、楽しむ気持ちも忘れずにやっていけたらなと思っています。お客様にはこの舞台で何かを感じて帰っていただけたら嬉しいです」と挨拶。すると周りの先輩たちから「大人になったね」とやさしい言葉をかけられ(いじられ?)少し照れ臭そうに笑っていた。
会見の後に行われた公開ゲネプロでは、舞台の数場面が披露された。
ステージの上には10個の小部屋のようなキューブが二段に積み上げられた舞台。部屋それぞれの色合いや調度品は異なっている。6人の女優は一人ひとり別々の部屋に入り、装着しているイアーモニターから聞こえるお互いの音声だけで演じ続ける。「娼婦は自ら命を絶つようにと宣告されている」と繰り返し呟きながら。身をよじらせながら苦悩したり、何かにおびえたり、抗うように、叫ぶようにそれぞれが部屋の中でうごめいている。
『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌~』
「影の部屋」にいる松雪、「天空の部屋」にいる小島、「神秘の部屋」の初音、「ヘビの部屋」の宮本、「幻想の部屋」の芦那、「血の部屋」の霧矢はその部屋から出ることができず、ただ一人「失われた部屋」の奥野だけが各部屋を行き来する。一見美しく見える部屋だが、彼女たちが常に死を意識した言葉を口にすることもあって、いつしかそこが彼女たちの牢獄のように見えてくるのだ。
「イヤーモニターだけで繋がっている私たちが、それぞれに演じていることをバトンのように次の人に渡していき、最後は一つの舞台に見えるようにしていきたいです」と語る松雪。マリーが言うように、物語のラストに光を感じて劇場をあとにしたい魅力的な作品だ。
「この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌~」
■日時・会場
【東京公演】2017年11月4日(土)~11月19日(日)銀河劇場
【広島公演】2017年11月23日(木・祝)JMSアステールプラザ広島 大ホール
【北九州公演】2017年11月25日(土)~26日(日)北九州芸術劇場 中劇場
【京都公演】2017年12月5日(火)~6日(水)ロームシアター京都 サウスホール
【愛知公演】2017年12月9日(土)~10日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
■原作:ネリー・アルカン
■翻案・演出:マリー・ブラッサール
■翻訳:岩切正一郎
■キャスト:
松雪泰子 小島聖 初音映莉子 宮本裕子 芦那すみれ 奥野美和 霧矢大夢