英国ロイヤル・オペラ・ハウスが贈るデイヴィッド・マクヴィガー版『魔笛』の見どころを解説
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モーツァルト最晩年の最高傑作は、現代の海外ドラマ!?
バレエ、オペラともに世界最高峰の名門歌劇場、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの人気公演の舞台映像を順次上映する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18』。現在は、新シーズン1作目、ロイヤル・オペラ『魔笛』が11月10日(金)より全国順次公開中だ。
人気演出家デイヴィッド・マクヴィカーの巧みな演出を施されて、シリアスでかつコミカルな2面性を見せるこのオペラは観客を幻想の世界へと誘う。モーツアルトの万華鏡のように変幻自在な音楽は、彼のライバルとして知られる作曲家サリエリにさえ「偉大なるオペラ」と言わしたほど。また、『魔笛』はモーツアルトがその死の前に、最後に手掛けたオペラとしても有名。女性指揮者ジュリア・ジョーンズが指揮を手掛ける。
本作について、クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成・石川了氏の解説とともに、英国ロイヤル・オペラ・ハウスが贈るデイヴィッド・マクヴィガー版『魔笛』の見どころを一挙ご紹介する。
1791年にウィーンで初演された『魔笛』は、全編にわたりモーツァルトのメロディーメーカーぶりが堪能できる名曲揃い。ストーリーも異国情緒や魔法、高貴な王子と喜劇的な脇役、美しい姫に迫る危機など、誰もがワクワクするロマンスの要素が満載だ。21世紀だけでも、ジャポニズムと『ライオンキング』の世界が融合したメトロポリタン歌劇場のジュリー・テイモア版や、『ダンケルク』の名演も記憶に新しいケネス・ブラナーが監督を務めた映画版、東京二期会の宮本亜門版など、さまざまな演出が存在しており、現代でもなお演出家の想像力を掻き立てる魅力的な作品と言えるだろう。そして、この度『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18』の『魔笛』は、デイヴィッド・マクヴィガー演出による、英国ロイヤル・オペラで2003年から再演されるヒットプロダクションなのだ。
クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成の石川了氏によると、「マクヴィガーといえば『ゴキブリリゴレット』など過激な演出で知られていますが、この『魔笛』は彼にしては珍しく奇を衒うことのないオーソドックスなもの。しかし、場面転換のテンポの良さが抜群で、オペラを初めて観る方でも決して退屈しないはず」と評し、「注目して欲しいのはモノスタトス。通常は黒人の奴隷頭という設定ですが、マクヴィカー版ではティム・バートン監督の映画『バットマン・リターンズ』のペンキン(ダニー・デヴィートが演じた)のような風貌がユニーク。さらに、パミーナと夜の女王のキャラの強さが印象的で、指揮者も女性(ジュリア・ジョーンズ)というところは、まさに現代的といえるかもしれません」と、マクヴィガー版ならではの演出についても解説。
また、主要歌手について石川氏は「クラシカ・ジャパン的には、マウロ・ペーター(タミーノ)やミカ・カレス(ザラストロ)、クリスティーナ・ガンシュ(パパゲーナ)といった、以前クラシカ・ジャパンで放送した故ニコラウス・アーノンクールのアン・デア・ウィーン版ダ・ポンテ三部作(『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』)に出演した若手たちの活躍が嬉しい。歌も演技も容姿も揃った若手を中心とするフレッシュなアンサンブルがお楽しみいただけます」とコメント。2011年パリ高等音楽院を首席で卒業したばかりのフランス人ソプラノ、サビーヌ・ドゥヴィエル(夜の女王)が、人の声が出せる一番高いF(ファ)音を歌い上げ、場をさらってしまう「夜の女王のアリア」も必聴で、主要キャラクター各々の見せどころ聴かせどころからも目が離せない。
『魔笛』は「現代の海外ドラマのような驚きの展開が用意されている」と表現する石川氏、自由・平等・博愛をモットーに、平和社会の建設を目的とした秘密結社フリーメイソン(モーツァルトも加入していた)の理念が込められているとも言われいる本作は、「単純に冒険ファンタジーとしても、主人公たちの成長を見守る人間ドラマとしても、道徳的なドラマとしても楽しめる、さまざまな魅力を持った奥の深い作品なのです」と、長年に渡り演出家の想像力を掻き立て、観客を魅了し続ける理由を語る。
11月10日(金)より順次公開中のロイヤル・オペラ『魔笛』。12月9日(土)からはジュリー・テイモア演出の「METライブビューイング2017‐18 モーツァルト『魔笛』」の公開も控えているので、デイヴィッド・マクヴィガー版、ジュリー・テイモア版という両名演出家が手掛けたモーツァルト最晩年の最高傑作を、是非この機会に見比べてみるのも一興だろう
▼石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)『魔笛』解説全文はコチラ