『犬神家の一族』の鮮烈映像から『野生の証明』の鎮魂歌まで 角川映画と大野雄二ミュージックの魅力に迫る『角川シネマ・コンサート』
テレビ産業の発展により、斜陽化が進み始めた1970年代の日本映画界に颯爽と現れた角川映画は、映画業界を革命したと言われる。大金を投じ、大掛かりな大作を制作し、固定化されたビジネス業態を打ち破り、次々と意欲作を世に放ち続けた。「観てから読むか、読んでから観るか」の宣伝コピーが一世を風靡し、原作本と映画を絡めた"メディアミックス”という新たな商業手法を確立するなど、制作のみならず宣伝から興行形態にいたるまで多くの慣習を打ち破った。
そんな角川映画を彩ったの音楽家・大野雄二氏の音楽だ。印象的な宣伝手法やCMによる効果的な宣伝戦略の一助となったであろう大野氏の耳に残るキャッチーなメロディーは、角川映画に多くの観客を呼び込むことに貢献しただろう。大野氏の作るテーマ曲がなければ、角川映画の興行的成功はなかったかもしれないし、世に送り出された主題歌はいずれも愛され続け、今でも名曲として名を残している。
映画、アニメ、CMなど数多くの映像作品で大きな功績を作り上げた大野氏の旋律は、やはり映像とともに楽しむと感動は何倍にもなる。角川映画初期3作のハイライト映像とともに、“SUKE-KIYO”オーケストラによって演奏される『角川シネマ・クラシックス』は、そんな大野氏の楽曲の魅力を最大限に発揮できるものになるだろう。本稿では、そんな『角川シネマ・コンサート』で取り上げられる『犬神家の一族』、『人間の証明』、『野生の証明』において、大野氏の楽曲がどのように場面を盛り上げ、その魅力を発揮したかを紹介したい。
鮮烈な映像とモダンなメロディー 奇妙な不協和音が生む深み『犬神家の一族』
『犬神家の一族』は記念すべき角川春樹事務所の第一作目であり、名匠・市川崑監督の代表作でもある。言わずと知れた金田一耕助シリーズの代表的作品であり、度々映像化されている不朽の名作であるが、なかでもこの1976年の市川版は日本映画史に残る金字塔と言って良いだろう。
大野氏の数多の劇伴の中でも、映画の名声とともに有名なのがテーマ曲の「愛のバラード」だ。凄惨かつ、陰湿な人間関係を背景にしたこのミステリーに、大野氏はモダンで軽妙、それでいて哀愁と気品をおびたメロディーを与え、作品全体に深い余韻を与えている。実験精神あふれる市川監督の独自の映像センスがうかがえる同作では、縦横織り交ぜたクレジットや、回想シーンでモノクロ映像に人物の輪郭が潰れるほどに露出を上げた独特の映像、湖に浮かぶ逆さ死体や、のっぺりとしたマスクをかぶった“スケキヨ”、花に彩られた歌舞伎像など、シュールかつ大胆な演出が鮮烈な印象を残す。そして、ジャポニズム的な荘厳さを持った市川監督の映像美を、大野氏の音楽が見事に支えている。
市川監督の独特の映像美に呼応するかのように、大野氏は和の雰囲気とフリー・ジャズを渾然一体としたような、変幻自在のスタイルで斬新な映像に華を添えている。昭和初期の片田舎の街が舞台ということもあり、和装の登場人物や牧歌的な雰囲気が、大野氏のモダンな趣きのあるジャズメロディーと奇妙な不協和音を作り出し、人間の業深いミステリーに奥行きを与えている。
ニューヨークの街並みに大野雄二の都会的センスが光る『人間の証明』
『犬神家の一族』に続く角川映画第2弾として公開された『人間の証明』は、当時の日本映画としては珍しくニューヨークロケを敢行し、アカデミー賞俳優のジョージ・ケネディやブロデリック・クロフォードを起用したり、ニューヨーク市街で迫力あるカーチェイスを行うなど、野心的でスケール感のある作品だ。
ニューヨークの街並みに大野氏の都会的なセンスが絶妙にマッチしており、一層モダンな雰囲気が新しい日本映画の到来を予感させた。寡黙な刑事役の松田優作が醸し出す危険でストイックな匂いにも、大野氏の音楽はピタリとハマっている。大野氏が、以後も多くの松田主演作品でも音楽を手がけていることは、その相性の良さを表す証左と言っていいだろう。
戦後の復興期の苦しい過去から逃れることのできない人間たちがある事件をきっかけに交錯してゆき、過去から逃れようともがく男と女たちの慟哭が、人間とは何かを突きつけてくる。その中で大野氏のスタイリッシュでウェットに富んだメロディがレクイエムのように響き渡る。
また、ジョー山中が歌った「人間の証明のテーマ」は、母への愛とまだ見ぬ故郷への思いを痛切に歌い上げた名バラードで、映画全体のイメージを決定づけたと言えよう。全編に渡って大野雄二らしい軽快さと哀愁が漂う一作となっている。
高倉健が戦車やヘリに立ち向う 散りゆく男へのレクイエム『野生の証明』
続く『野生の証明』は再び森村誠一原作の小説を映画化したもので、これまたスケールの大きな大作である。戦車や戦闘ヘリを駆使した大掛かりなアクションを海外ロケにて実現し、高倉健や松方弘樹、丹波哲郎などの大物俳優をずらりと並べ、骨太な男のドラマが展開する。その大物たちの中でこれが映画デビュー作となる薬師丸ひろ子の可憐な存在感が眩しく光る。
冒頭、物語の始まりを告げる凄惨な殺人シーンの連続カットが強烈な印象を残し、海外ロケを敢行し、高倉健と夏八木勲が果敢に戦車やヘリに立ち向かい、ハリウッド映画のような規模の爆破シーンも盛り込んだ大規模アクションが魅力の本作。大野氏も大作映画にふさわしいスケール感や疾走感、力強さを全面に押し出した楽曲を作りだしている。
強さばかりでなく、過去の過ちを乗り越えて絆を作ろうとする高倉健と薬師丸ひろ子演じる父娘の愛と優しさを称えるようなテーマ曲「戦士の休息」は、町田義人の艶やかな歌声と相まって、やるせない深い余韻を残している。
ときにパワフルに、ときには美しく、多くの映画を彩ってきた大野雄二の劇伴の魅力を最大限に引き出せるのは、映画の名シーンそのものであろう。オーケストラの演奏とともに蘇る名シーンは、大野雄二の多彩な名曲の数々をこれ以上ないほど引き出す最良の公演となるだろう。
文=杉本穂高
出演
■演奏:大野雄二と“SUKE-KIYO”オーケストラ
大野雄二(音楽監督・Piano,Keyboards)
“SUKE-KIYO”オーケストラ
市原 康(Drums) / ミッチー長岡(Bass) /松島啓之(Trumpet) / 鈴木央紹(Sax) /和泉聡志(Guitar) /
宮川純(Organ) /佐々木久美(Vocal、Chorus) 他
『犬神家の一族』(1976)
原作:横溝正史
監督:市川崑
脚本:長田紀生、日高真也、市川崑
音楽:大野雄二
出演:石坂浩二、島田陽子、あおい輝彦、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、地井武男
[作品解説]
巨匠・市川崑がメガホンを撮った記念すべき角川映画第1作―ミステリー映画の金字塔!
角川映画第1回作品としてメガヒットを記録した、横溝正史原作の怪奇ミステリー。犬神製薬当主が残した不可解な遺言状を発端として次々と起こる殺人事件に、二枚目俳優の石坂浩二演じる名探偵・金田一耕助が挑む。
原作:森村誠一
監督:佐藤純彌
脚本:松山善三
音楽監督:大野雄二
出演:岡田茉莉子、松田優作、鶴田浩二、三船敏郎
[作品解説]
森村誠一大ベストセラーの映画化。東京とNYを舞台に親子の愛を描く感動の人間ドラマ!
「母さん、僕の帽子あのどうしたでしょうね。」物語の鍵を握る台詞とジョー山中の歌う主題歌も大きな話題を呼び大ヒットした角川映画第2作。原作は作家森村誠一の代表作とも称される。
当時はまだ稀な本格的NYロケも見所。
『野性の証明』(1978)
原作:森村誠一
監督:佐藤純彌
脚本:高田宏治
音楽監督・作曲:大野雄二
出演:高倉健、中野良子、夏木勲、薬師丸ひろ子、三國連太郎
[作品解説]
巨悪に立ち向かう孤高の一匹狼の闘いを描く、高倉健主演の壮大なアクション大作!
森村誠一の150万部突破大ベストセラー小説を映画化。実物の戦車や火器を使用した壮絶なアクションシーンだけでなく、孤独な男と少女の心の交流も感動的に描く。当時14歳の薬師丸ひろ子は本作でスクリーンデビュー
■スペシャル・トークゲスト:石坂浩二
角川映画に関する貴重な資料等、多数展示。公開当時のポスター、チラシ、台本、
市川崑監督ゆかりの品々を展示。フォトスポット「スケキヨ像」を設置(予定)。
2018年4月14日(土) [開場]132:00 [開演]143:00
■会場:東京国際フォーラム ホールA
■料金:全席指定 9,800円(税込)※未就学児入場不可
■先行予約
最速先行予約(TEL)0570-02-9501
■お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888 (平日12:00~19:00)・
■総合INFO:kadokawaeiga-concert.com
[主催] KADOKAWA / BS朝日 / ディスクガレージ / 朝日新聞社 / TOKYO FM
[協力] オフィスオーガスタ / バンドワゴン / ユーキース・エンタテインメント
[企画制作] KADOKAWA / BS朝日 / ディスクガレージ / PROMAX / 朝日新聞社