パンク/ハードコア好きがアメ村に集結 過去最大動員を記録した『Stormy Dudes Festa 2017を振り返る

レポート
音楽
2017.11.16
Stormy Dudes Festa 2017より

Stormy Dudes Festa 2017より

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Stormy Dudes Festa 2017 2017.11.4
Pangea/SUN HALL/CLAPPER/HOKAGE/SINKAGURA/BRONZE

11月4日の深夜、大阪・アメリカ村にある某居酒屋は、数十人のバンドマンによって貸し切られていた。床にはスニーカーやら安全靴やらが散乱し、あちこちで笑い声が上がる。突然、ドカーン!という大きな音がしてそっちを見やると、レールから外れたトイレの扉が泥酔したバンドマンと一緒に倒れていた――。

これはこの日行われたパンク/ハードコア系サーキットイベント『Stormy Dudes Festa』の打ち上げの様子。40組のバンドが参加したとは思えないほど一体感のある飲み会で、とんでもないパワーを発していた。主宰者RAZORS EDGEのパンク愛に全バンドが共鳴したからこそのグルーヴなんだろう。バンドの音は全く鳴らされてはいないにも関わらず、なんだかこの打ち上げがイベントの性格を見事に表しているように見えた。

Stormy Dudes Festa』は、2013年に大阪スラッシュの雄・RAZORS EDGEが旗振り役となって始まった。近年、数ヶ所のライブハウスを使ったサーキットイベントはかなり一般化してきたが、当時はまだそこまで多くなかった。しかも、パンク/ハードコアに限定したものとなるとさらに少ない。そんな状況で『Stormy』の評判は徐々に広がり、昨年は初めて前売りでソールドアウトを記録した。

大阪でメキメキと頭角を現すようになった『Stormy』の魅力は当然ながらラインナップの素晴らしさにある。客を呼べるかどうかではなく、バンドの格好良さに重点が置かれているところが信頼できる。しかも、頻繁に関東へ来ることのない関西以西のバンドが多いため、他の地域のパンクキッズから羨望の眼差しで見られることも多い。ここ数年で、大阪だけでなく全国から客を呼べるイベントに成長した理由はこういうところにもある。

5周年となる今年は会場となるライブハウスを増やし、Pangea、SUNHALL、BRONZE、CLAPPER、新神楽、HOKAGEの6ヶ所で全40バンドの爆音が鳴らされることとなった。快晴の空の下、午前中から各会場でリストバンドの交換が始まり、BRONZE周辺は一番手のlocofrankを待つ人で溢れていた。BRONZE横にあるコンビニはイベントの非公式バースペースの如く、既に酔客で賑わっていた。乾杯の声があちこちから聞こえる。この感じ、東京だったら間違いなく苦情が来るはず。

そんな光景に圧倒されていると、ATATAのボーカリストNabekawaに遭遇した。今回初めて『Stormy』を観に来たことを告げると、彼は笑みを浮かべながらこう返した。
「『Stormy』は僕たちが誘われて出る唯一のサーキットイベント。他のサーキットイベントは慌ただしいばかりけど、ここに出てるバンドはみんな仲間だし、居心地がいいんだよ」。
たしかに、出番30分前だというのにNabekawaはリラックスした様子でタバコをぷかぷか吹かしている。
「どのバンドもみんなこんな感じだよ。みんな一番になろうとは思ってないからね。最後のRAZORSまでどうやって繋ぐかってことを考えてると思う」。
そして、こう付け足した。
「もし、このイベントが下北にあっても違うんですよ。ここでやるからいい」
この言葉と全く同じことを10時間後の自分も頭に思い浮かべることになる。念のために補足しておくと、どのバンドもお気楽にライブへ臨んでいるわけではない。いいパフォーマンスを見せることを前提とした話だ。現にATATAは30分後の13時から熱と愛のこもった素晴らしいステージを展開。この後、30何バンドと続く一日に大きく弾みをつけたのだった。

この日特に印象に残ったのは、観客の上をアンプ、シンバル(スタンド付き)、ドラムのフロアタム、長脚立などが流れていき、最後によくわからないけど、メンバーと観客が一緒になってタムを床に何度も叩きつけていたMILKCOWによるフロアライブだろう。……うん、何を言ってるのかよくわからないと思う。だから現場で目撃して欲しい。

他にも、鼓膜が破けそうな爆音に酔いしれたSAND、全力汁がほとばしっていたBURL、Pangeaをパンパンにしたクリトリック・リス、名曲オンパレードだったHAWAIIAN6、THRH、NO HITTER、そしてもちろんRAZORS EDGE……どれも白熱したパフォーマンスだった。どのバンドもステージを楽しんでいた。自分たちのライブ以外でも、客の1人となってあちこちの会場に足を運んでいるバンドマンを多く見かけたし、MILKCOWのライブのように客も演者の一員と化していた。「ステージもフロアも関係ない」なんていう煽り文句をよく聞くけども、それはまさに『Stormy』のことを指す。

多くのバンドが会場をパンパンにしていたが、集客の少ないバンドが盛り上がらなかったかと言ったらそんなことはない。熱心なファンやふらっと訪れた客が存分に暴れまわっていた。これもこのイベントの良さ。入場規制がかかったバンドがすごいんじゃない。すごいライブをやったバンドがすごいんだ。そして、どこの会場も実に居心地がいい。それはホスピタリティなんてものではなく、パンク/ハードコアが好きな人間にだけ感じ取ることができる空気のようなもの。汗だくになったり、モッシュで突き飛ばされたりしながらも……胸がキュンとするのだ。

『Stormy』は全国的にはまだまだ知名度の低いイベントかもしれない。しかし、現場では確実に大きなうねりが生まれているし、この場所だからこその盛り上がりがある。結局、今年は1000人を超えるパンク/ハードコア好きがアメ村に集結した。もちろん、過去最高動員。これは本当にすごいことだ。当たり前のことながら、家でタイムテーブルを眺めているだけではそのイベントの本質なんてこれっぽっちも見えてこないのである。

最近はバンドが主宰するフェスやイベントが増え、もはや珍しいものではなくなった。自分たちの存在感を高めるためにこういった展開は効果的ではある。RAZORS EDGEにもそういう狙いはあるだろう。だけど決してそれだけでないことは、来てみればわかる。シーンの活性化……なんて言うと一気に胡散臭くなってしまうから言葉を変えよう。バンドも客も関係なく、パンクが好きな連中と一日中酒飲んで騒いで楽しみたいんだ。そうやってRAZORS EDGEは20年以上もシーンに君臨し続けているのである。冒頭の打ち上げの様子を眺めながらそんなことを思った。

『Stormy』は来年以降も開催されるだろうから、今のうちから遠征資金を貯めて、全国のライブハウスで起こっているハプニングを1ヶ所に集めたようなこのイベントに備えてほしい。


取材・文=阿刀"DA"大志 撮影=JON...、半田安政(Showcase)、Nari Ueda、PE-SK、Hoshina Ogawa、Nari Ueda、LACOSK

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