奔放な髙嶋政宏に木野花が鞭をふるう? 『クラウドナイン』公開稽古&会見レポート
木野花演出の舞台『クラウドナイン』が2017年12月1日より東京芸術劇場シアターイーストで上演される。開幕を目前に控え、プレス向け公開稽古が行われた。出演は髙嶋政宏、三浦貴大、石橋けい、そして入江雅人。さらに大人計画より伊勢志摩、正名僕蔵、平岩紙、宍戸美和公。また、ROLLYが劇中歌を歌う。
「クラウドナイン」とは、幸せの絶頂にあるハイな気分のこと。真夏の青空に高く伸びる積乱雲を意味する気象用語“cloud number 9”に由来しているという。
稽古風景の写真とともに、キャスト8名と木野が顔を揃えた会見でのコメントを紹介する。
衝撃作と言われる理由
『クラウドナイン』は、初演は1979年に英国で発表され、米国オフブロードウェイでも人気を博した劇作家キャリル・チャーチルの戯曲だ。1988年より3度目の演出を務める木野が「当時の最先端だった」というとおり、作中では不倫、同性愛、少年愛などが赤裸々に描写される。
木野は「あの時代の日本は、セクシャリティへの感覚が今では考えられないほど遅れていました。今ならようやくお客さんにも違う世界を受け取ってもらえるかなという感じがあります」と期待をよせる。
衝撃作と言われる理由がもうひとつある。それは時代と登場人物の設定にある。第1幕では英国に植民地支配されていた1880年頃のアフリカを、第2幕はその100年後のロンドンを舞台にしているが、登場人物たちは25年しか年をとっていないという。そんな、ルールに縛られない設定に加えて、台本の段階で「この女性の役は男性が演じること」等の指定もあったり、ひとつの役を1幕と2幕で別の役者が演じたりと、現代の感覚でも挑戦的と感じられる。
個性派キャストが描く破天荒なホームドラマ
公開稽古では、第1幕の一部が演じられた。丁字のアクティングエリアの奥から飛び出してきたのは、髙嶋政宏が演じるクライブ。伊勢志摩が演じるソンダース夫人にまとわりつき、絡みつき、スカートの中に潜り込んで情事を始める始末。クライブの性欲全開っぷりは清々しいほどで、報道陣も演出家席も笑いが止まらない。その勢いにのまれるどころか、鞭を片手にいなし、場をコントロールする伊勢はさすが。ちなみにクライブとソンダース夫人は不倫の関係。
会見で髙嶋は「稽古していても本当に楽しい。早く本番になってほしい!」とコメントし、自信をうかがわせる。演出の木野も「いける(成功する)と思っています。ここからみんなを追い込んで、どれだけ体力的・気力的に限界に挑戦してくれるかが勝負」と手ごたえを感じているようだ。伊勢も本番に向け、順調に仕上がっている様子。
「稽古初日はトンネルの向こうに木野さんがいて、たどり着かなくちゃという思いでした。今は木野さんの姿がもうそこに見えていて、最後のダッシュという感じ。トンネルを出れば、ビビッドな芝居になるというのが見えているので、初日に向けてはやく飛び出したいです」
「私生活も内股になってきた」と明かすのは、第1幕でクライブの妻ベティを演じる三浦貴大。
「2度目の舞台出演なので自分を客観視できていないところはまだまだありますが、役の心情はだいぶつかめてきました。面白い舞台になると思います。とにかくやるしかないと思っています」
ベティの不倫相手ハリーを演じる入江からは「そこが観ていて面白いところでもあるのだけれど、三浦君の体がとにかく大きい! 立派なドレスの衣装も着るから、抱きしめるシーンでは腕が回らない」と報告。一同は爆笑。ガタイの良さはあれど、身のこなしの女性らしさは好評で、木野も「上品さが身についている」と太鼓判を押す。役作りについて問われると、女性を演じるにあたりスネ毛を剃ったことを明かす。
「剃刀を2本ダメにして剃ったのに、またすぐに生えてきてしまう。女性ってこんなに大変なのかと驚きました。1幕のベティはその時代の女子らしくあろうとする女性です。そうあることがどれだけ大変なのか、少し分かった気がします」
木野花はサーカス団のカリスマ調教師
29年ぶりに本作の演出を手掛けることになったのは、「今の自分が演出してみたらどうなるだろうという思いが過った」ことがきっかけだと木野は振り返る。
「初演の時、私は38歳で若かったんですよね。当時も必死で脚本に食らいついていたとは思いますが、やり残したこともたくさんありました。余裕もなかったので自分ひとりで台本と格闘していた気もして、もったいないことをしたという思いもあります。今回はなるだけ役者を見ながら、話しあいながら作っていけたらと思います」
宍戸美和公は、第1幕では祖母モード、第2幕では、過去の上演には登場しなかったモードのひ孫役を演じる。
「木野さんにお尻を叩かれて今日まできました。衣装を着た時に『あ、のれそうだな』という予感がしました」と語る。佇まいからもおかしみを感じさせる宍戸に対し、「宍戸さん独特のカラーで笑いをとってほしい」と木野も期待を寄せる。
正名僕蔵は第1幕で黒人の召使ジョシュアを抑えた演技で務め、第2幕では公園を駆け回る5歳の白人の少女キャシーを演じる予定。正名は「先ほど木野さんは『これから追い込んでいく』とおっしゃいましたが、その言葉に思わず尻込みしそうな私がおります。そこをぐっとこらえて芝居の密度をさらに濃いものにしていけたら」と意気込みを語った。
第2幕は、共演者たちが「耳に残る」「ずっと頭で回ってる」と口をそろえるキャシーの歌にも注目だ。
木野の熱い演出に関するコメントが続いたことを受けて髙嶋は、「本人がいないから言いますけれど※、木野さんは木野花サーカス団の女王様なんだよね。カリスマ調教師」と頷く(※ご本人、いらっしゃいます)。
これに対し木野は、髙嶋の演技を次のように語る。
「クライブのイメージ通り、見かけも大男だし放っておいてもやれるパワーもある。第1幕に関しては言うことないなと思っていたら、勝手に脇道どんどん入っていってしまう。放し飼いはヤバいなと思いました(笑)。第2幕は勝負どころだと思いますが、悩みを抱えながら、意外とすんなり役に入っていけている。高嶋さんって根はすごく優しい人なんだなという新しい一面がみえました」
がらっと変わる1幕と2幕
「めちゃくちゃかわいい」と木野が評価したのが、平岩紙が第1幕で演じるお人形遊びが好きな少年エドワード。第2幕では少女キャシーの母親リンを演じる。平岩は年齢も性別も違う2役の共通点に「純粋さ」を挙げる。
「自分が稽古場の席で観ているとすごく面白い。面白い作品になるという実感はあります。でも自分自身はまだまだ穴を掘っていきたいと思っています。まだまだ自分がみるべき景色は先」と力を込める。
第1幕では、家庭教師エレンを演じる石橋けい。エレンは、三浦が演じるベティ(クライブの妻、ハリーの不倫相手)に思いを寄せる。第2幕では夫婦仲がこじれた子育て中の母親ヴィクトリア役を演じる。前者はレズビアン、後者はバイセクシャルという役どころだ。
「木野さんの演出で、初めての本読みから今日まで日々全然違うお芝居に変わってきています。ラストスパート頑張りたいと思います。1幕と2幕とも女性の役ですが背景がまったく違う2人です。15分休憩の間にどれだけ気持ちを切り替えていけるかだと考えています」
ここまでに何度も名前の出てきた探検家ハリーを演じるのが、入江雅人。少年エドワードからも無邪気に「またしよう!」と迫られるモテぶり。見どころは膨大な長台詞だ。
「第1幕では登場する男の人ほとんどに手を出すような役どころなので、それを面白おかしくやれればと思います。第2幕は笑いをすぐにとろうとは考えず、真摯に演技しようと思います」
髙嶋によれば「第1幕と第2幕でガラッと変わり、一粒で二度おいしい舞台」になるという。『クラウドナイン』は、登場人物たちの入り組んだ関係や挑戦的な性描写、ねじれた時代設定など、多くの要素が盛り込まれている。しかし公開されたシーンを観た限りでは、登場人物たち必死さがバカバカしくておかしくて、一瞬切ない。劇中の台詞のとおり「泣いているの? 笑っているの?」と自分に問いかけるような感覚にさせられた。
舞台『クラウドナイン』は、12月1日より東京芸術劇場シアターイーストで、その後は大阪・OBP円形ホールで上演される予定。本番に向けた木野花の追い込みで、個性派キャスト性質の演技がどこまで進化するか楽しみだ。
取材・文・撮影=塚田史香
■翻訳:松岡和子
■演出:木野 花
■出演:髙嶋政宏 伊勢志摩 三浦貴大 正名僕蔵 平岩紙 宍戸美和公 石橋けい 入江雅人
■イラスト:五月女ケイ子
■プロデューサー:長坂まき子
■制作協力:大人計画
■企画・製作:(有)モチロン
■公演日程: 2017年12月1日(金)〜17日(日)
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト
■公演日程:2017年12月22日(金)〜24日(日)
■会場:OBP円形ホール