シンセ番長齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム第二十三沼(だいにじゅうさん) 『佐々木沼!』
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第二十三沼(だいにじゅうさんしょう) 『佐々木沼!』
ツッパリHigh Schoolロケンロールな時代
1978年から80年中期にかけて、全国の中高生達は大荒れに荒れた。先代の学生運動に見られる革命的、政治的メッセージ等なく、ただただ荒くれていた。
その頃中学生だった私は、リアルタイムにその荒れ果てた時代を経験している。授業中にバイクが何十台も校庭を走りまわり、学校のガラスは割られ、体育館が燃えた。
こんなこともあった、警察車両がズラリと我が中学校の前に並び、黄色いテープが張り巡らされていた。学校内のあらゆるところが荒らされ、教壇にはUNKOがしてあったそうだ。
ボンタンを履いた金髪の悪ガキどもが好き放題やっていた頃だ。
その後、ちょうど女子高生コンクリート事件なども起き、まるでマッドマックスを絵に書いたような世界であった。
学生手帳には「長髪禁止。ロングスカート禁止。服装の乱れは心の乱れ」と現代から考えると嘘のような世界が現実にあったのだ。
外国の方たちが日本に来て一番に違和感を感じるのが、単一民族国家である日本の学校事情らしい。
今でこそ外国人の入国が増加したものの、学級全員が日本人というのは、特にアメリカ人にとっては信じられない光景のようだ。
制服もしかり。
西部警察・・・いや、「憲兵刑事」あらわる
私は中学3年生の卒業真近、いつものようにフィッシュマンズのベーシスト柏原譲氏と中学校へ登校していた。
生徒手帳に書いてある「長髪禁止、耳にかかっては行けない」という掟を破り、帰宅部を理由に一際前髪ロン毛を3年間貫いた私に(他の生徒は坊主がほとんど)
突然西部警察の渡哲也が乗ってた真っ赤な車が私にぶつかって来た。
いや・・・・
ほとんど轢かれた。
人身事故だ。
中から笑みを浮かべながら出て来たのはパンチパーマに竹刀を持ち、パイロットサングラスをかけた渡哲、、、、
いや佐々木先生だ。
そしていきなり
「エイヤーっ!」
とド頭を竹刀でぶっ叩かれた。
そしてすかさず往復ビンタまでお見舞いされたのだ。
理由は、生徒手帳に書いてある掟
「通学時には帽子を着用」
を破ったからだ。
その頃、髪型に異常な執着心があり奇抜な髪型をしていた私は、佐々木先生のかっこうの標的になるのは目に見えていたが、学校内での素行は良い方であったため佐々木の狙いは私の髪型に集中した。
もちろん帽子をかぶると髪型が崩れるため、通学時には当然帽子は被っていなかった。
それにしても車で轢くなんてやりすぎだろっ!
しかしそれが現実だった。
普段、素行だけは良く、ツッコミどころのない私の唯一の反抗というかファッションであるロン毛を切ってやろうと佐々木はこのチャンスをいつも狙っていたのだ。
その後も、何度もあの真っ赤なスカイラインに轢かれた。
大怪我をしたこともあった。
鼻血。
スリキズ・・・
脳しんとう・・・・・。
憲兵みたいな先生だった。
でも、掟は掟・・・。
私は毎朝 車に轢かれ、その度に竹刀でメッタ打ちにされた。
それでも私は髪を短くきる事もなく、帽子も被らずに登校し続けた。
なんで坊主が嫌かって???
そりゃ絶壁だからだよ。
理由があるんだよ!!
ド不良の軍団も佐々木の私に対するイジメを見て同情したのか、平気でカツアゲするような悪いヤツらがボクの味方になり仲良くしてくれた。
もちろん、奴らにとっても佐々木は宿敵だったからだ。
突然の呼び出し、目の前に現れたのは!!!!
3年間の中学生活も後2週間で終わりになろうとしていた頃、校内放送で私は呼び出された。
「3年B組の齋藤久師くん。至急職員室へ来なさい。」
佐々木自身の声なのは明確だ。
あたりは異常にざわめいた。
「ついに久師がバリカンでやられる。坊主にされるんだ!!」
全校生徒がそう思う中、私は職員室に向かった。。。
その断髪式を見ようと不良軍団も職員室の周りにたむろし始めた。
その中をくぐり抜け私は無言で職員室へ向かった。
「失礼します。」
と頭を下げて(前髪で顔は見えないが)職員室に入り、頭を上げた瞬間、閃光が走った!
あのパンチパーマの佐々木が!!!
ツルッツルの丸坊主姿で私を睨みつけているのだ。
・・・・眩しい!!!!!!!
驚くほど眩しい!!!!!!!!!
職員室の蛍光灯に照らされたツルツルの坊主頭がまるでミラーボールのような輝きを放っているではないか!佐々木は私の方に近づいてくると耳元で囁いた。
「これがどういう意味かわかるか。後2週間でオレとお前はオサラバだ。
俺は男としてのケジメをつけた。お前もケジメをつけろ。」
つまり、ロン毛を切って卒業式に臨めという事なのだ。
自らを犠牲にしてまでも、たった一人の生徒のために丸坊主にした佐々木を思うとなぜか涙が出た。
なんて熱い先生なんだ!
ホレ直した。
男を見せた。
私も男を見せなければ!!!!!!!!!!!!
男の約束・・・けじめとは・・・
あまりの衝撃に私は卒業までの2週間、考えに考えぬき、学校を休んだ。
そして、卒業式当日。。。。。
熟考している2週間の間にさらに伸びた髪をかきあげながら、卒業会場に颯爽と向かった。
もちろん帽子なんか被っていない。
そして、卒業式会場の体育館に入るなり佐々木と目が合った。
・・・泣いていた。
佐々木先生は本当に泣いていた。
泣き崩れてパイプイスに座り込んでいた。
一人の男を人間不信にしてしまった罪深さ。
しかし何十回と車で私を轢き、竹刀でメッタ打ちにした天罰だ。
そもそも男の約束といっても一方的だった。
長髪を切ることがけじめなのか?
今日卒業したら学校の規則なんて関係ないんだぜ??
さようなら、佐々木先生
風の噂によると、佐々木先生はその後、
なぜかその中学の卒業生と結婚したらしい。
そして、その数年後、謎の死を遂げた。。。。。
もちろん私は何もやっていない。
佐々木先生、ご冥福をお祈りいたします。
先生は本当はものすごく優しかったのかもしれない。
ボクの事を今なら更生させる事ができると信じて車で轢いてきたんだろう。
往復ビンタや竹刀で無限に叩かれたのもそのためだろう。
・・・と考えようと試みた。
しかし、やっぱり違う。
私は悪い事など何もしていなかった。
そうだよ、何もしてないよ。
万引きだってしてない。
イジメもしてない。
勉強もちゃんとしてたよ。
ただ髪が長かっただけだよな。
どうして佐々木がそこまで私に執着し、泥沼のような仕打ちをしてきたのか??
もしかしたら、あのパンチパーマはヅラだったのか?
そのコンプレックスで、、、謎は深まるばかりだ。
佐々木先生がこの世にいない今となっては、その真相を知る事は出来ない。
でも、昔はビンタなんて当たり前だったんだな。
今なら大問題になるだろう。
そして、今も私は40年変わらずロン毛を続けている。
あなたもまだ遅く無い。
ロン毛沼の住人になろう。