齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第九十八沼 『断食!ファスティング沼!』
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第九十八沼 『断食!ファスティング沼!』
もしかしたら、水さえ飲んでいれば人間は生きていけるのではないだろうか。
準備期間合わせ、1週間のファスティング(断食)が終わり、今この原稿を執筆している。
まるで仙人になったような気分だ。悪く無い。
きっかけは、妻がファスティングをやると言ったので、軽い気持ちで私も同乗した。
ファスティングとは、つまり断食の事であるが、日常生活で蓄積されてきた腸内の不純物を全て排出し、リセットする事で、免疫力が高まり、疲労回復につながる。
まあ、簡単に言えば、毒素を出し切り、正常な腸内環境を整えることで、本来の健康な身体を取り戻すわけだ。
私や妻は、自他共に認めるほどの食いしん坊である。
はたしてこの断食に耐え切れる事ができるのか?
いや、やるしか無い。やってみたい。と思い衝動的に実行に移した。
●ファスティング1日目(準備期間)
不安な気持ちとワクワク感が同居する複雑な気持ちで、まずは準備食を2日間食すという事で、玄米のおにぎりを一つ。
前日の夜、なにも食べていなかったので、この玄米おにぎりの美味しさは格別なものであった。
ファスティング(断食)と言っても、全く何も口にしないわけでは無い。なんだかの形で養素を取り入れなかれば、それこそ健康状態を損ねる。
したがって、ファスティング中は酵素ドリンクを常に飲用し、栄養素は入れる。そして十分な水分を取る。
そして時々、塩を舐めたりする。
酵素ドリンク。水で薄めて飲む。
夜、流石にお腹が空いてきたので、酵素ドリンクと塩をぺろりと舐める。いつもより旨く感じた。
横で通常食を食べている子供達............。辛いw
●ファスティング2日目(準備期間)
低血圧なので、普段は朝食をあまり食べられない私だが、ファスティング準備期間は起床した瞬間に「腹へった〜」と思う。
塩を舐めながら酵素ドリンクを飲み、玄米をいただく。死ぬほど旨い。
玄米がこれほど旨いものとは今まで気づかなかった。
そして、気持ちにも変化が現れ始めた。
普段の私は気持ちの起伏が激しい。具体的に言うと、怒っているか、笑っているか、泣いているか。この3パターンしかなく、それらが激しく入れ替わるのだ。
つまり、「冷静」で「だまっている」事が無い。っつーか出来ない。アレだから。
しかし、ファスティング準備期間が2日目に入った時に、心の異変に気づく。
怒っても笑っても泣いてもいない。顔の表情も無い。
なんなんだこれは!?
常にランダムだった心の複雑なラインが真っ直ぐフラットに伸びる直線に変わっていく。
自分では無いような感じがして、少し怖い。
●ファスティング3日目(本番1日目)
遂にこの日がやってきた!
2日間の準備期間を経て、いよいよ固形物を全く口に入れない絶食の始まりだ。
これから3日間、何も食べてはいけないのだ。
昨日の心の変化はさらに確固たるものになり、まるで自分がお坊さんになったような境地に近づく。
全くの無表情、そして無感情。
だがけっして悲しいとか寂しいなどの暗く、マイナス的なものでは無く、ただただ「無」なのだ。
もともと、どんな薬を飲んでも10秒で効くという驚異的なバカ体質の私である。
しかしながら、この「無」の状態がここまで来ると少し不安がつのってきた。
というのも、音楽家の私は「音を作る」という原動力に、自分本来の起伏の激しさを上手く利用してきた。
つまり「無」とは、全く「欲」や「振幅」が起きない状態の事だと悟ってしまった。
気がつけば煩悩の塊である私は、食欲、物欲、性欲、眠欲、そして最も重要な「制作意欲」が無くなっていた。
これには参った。
このクリエーティブエネルギーが無くなってしまったら、本当に「食って」いけなくなるw
私は何度も何度もスタジオの制作ブースに座ってみたものの、一向に手が動かない。
無
そして気づけばスタジオのソファーで座禅を組んでいる。
これはヤバい。
ロン毛と髭で座禅を組んでいる。
一歩間違えたら、空中に浮遊しそうだ。
いかんいかん。
夕飯時、一緒にファスティング中の妻が子供達にハンバーグを作り始めてハっとした。
嗅覚は正常であり、「お腹すいた」という感覚を思い出した。
ああ、よかった。自分はまだ人間だ。しかし妻は偉い。私と同様にお腹を空かせながら、子供達の夕食を作っている。女性は強い。
私は無言でスタジオに逃げ込み、再び座禅を組むのであった。
そして「1日って本当に永い」と心のそこから思った。
あと2日間もこの状態を維持できるのか。「無」の状態を。
●ファスティング4日目(本番2日目)
人間ドックの時、1日に50回はUNKOをすると告白し、医師にドン引きされた私であったが、何故かBEN
意を催さない。
当たり前だ、食べていないのだから。
トイレを懐かしく思う。
気がつけば、お腹と背中がくっついたような状態になっている。
唯一口にできる酵素ドリンクもそうだが、「水」という存在の大きさに
改めて気づかさられる。
生まれた時から当たり前のように最も身近な存在であり、人間とは切っても切り離せない「水」。
あらためて水の存在を意識してみると、こんな不思議な物質、他に見た事ない。
透明な液体状をしており、ミネラルも含んでいる。どんな形にも変形出来る。
ガソリンよりも高価だ。
人間、ひいては地球上の全生命は、この水という存在無しには語れないほど重要な物質で、また美しいものだという事を思い知らされる。
心は既に僧侶、あるいは仙人だ。
霞だけを食って生きていけるような気がしてきた。
胃腸は精神と直結している。
よく、ストレスを溜めて胃潰瘍になったりする。
私も暑いのに寒気がしたり、冬なのに汗をかいたりと、いかに腸内環境を悪くし、副交感神経が乱れていたのかが身をもって体現。
しかしながら、「食べる」という行為もいかに重要であるか。
要するに、何をどうやってどのくらい食べるのか。バランスの問題だ。
ファスティング2日目にして、「食べ方」さえも忘れた。
明日で絶食も終わりか。。。
何故か名残惜しさを感じるまでに。
そして、あまりの無感情と退屈さに、目をつむって黙って横たわっていたら夕方に深い眠りに落ちていた。
●ファスティング5日目(本番3日目)
穏やかに目覚めた時、時計を見たら夜中の3時だった。
妻は覚醒していまったようで、ネットのサブスク映画を連続して12時間も見ていると言って起きていた。
さ、また寝よう。
と思ったが、眠れない。
普段10時間は寝ないと即死する私だが、ファスティングのおかげか、8時間で十分な熟睡をぶっこいたらしい。
ファスティング最終日の本日。こんな時間に起きてしまって何をすればいいのか。。。
「あ!そうだ!釣りに行こう」
私は、気がつけば自宅から10分ほどの秘密の野池で藪漕ぎをしていた。
まだ早朝の3:30だというのに、空はうっすらと明るい。夏が近い。
現場で色々と考える、そして問答している。
「お坊さんは殺生をしてはいけない。釣りは殺生か?いや違う、ボクのやってる釣りはキャッチ&リリース。」
いつもなら、魚に自分の存在を悟られないため、意識して存在を消そうとするが、既に私は僧侶、いや、仙人。
透明人間。
ブツくさ心で1人問答しながら、ゆっくりとビザールで巨大なルアーを湖面に放り投げた。
ルアーは静かに着水し、波紋が消えるまでじっと待った。
そして、ルアーを数回動かした瞬間.................
ドッカーーーーーーーーーーン!
ブラックバスがその静寂をブチ壊すような音と勢いで、水面を割ってルアーに激しく噛み付いた!!!
その魚は必死に針を外そうと、水上で幾度もジャンプを繰り返し、尾鰭で水面を叩き、数メートルも立ち走りする。
いつもならパニくる私だが、ファスティング最終日までやりとげた心は完全に仙人。怖いもの無し。
いつもなら焦ってすぐにリールを巻き上げ、魚をキャッチするのだが、今日は長い時間をかけ、お魚と遊んでもらった。
遊んでもらうというか、冷静に激しいバトルに勝利した。
完全にゾーンに入ったのだ。
無事ランディングをし、計測をしてみた。すると................
49.999999999999999cm。限りなく50cmに近いランカーサイズを取った。
まさにファスティングご褒美フィッシュだ。
最高のご褒美。
この事からも、人は無欲である事で余計なギラギラとした負のエネルギーを抹消させる事ができるという事がわかる。
釣り自体、「釣欲」というくらいだから矛盾しているように思うが、この日は「釣りたい」と思って行ったわけでは無い。ただただ、あまりにも早起きしてしまったので水に会いにいくついでに竿を持っていたのだ。本当だw
今年もいくつかのランカーサイズを釣っている。
私は大きなのが釣れると、必ずラーメンを食すという儀式を行うのだが、この日帰宅するとそんな事忘れて水を飲んでいた。
炭水化物よサラバじゃ。
もちろん、コーヒー中毒の私はこのファスティング期間、一切のカフェインを抜いていたことは言うまでもない。
何故か全身、細胞レベルまで多幸感で満たされている。
ちょっとしたことで喜びを感じる。
いかに、いままで無駄なものまで過剰に摂取してきたのか、己の人体実験で科学的に証明された。
しかし、家に帰ってから今夜寝るまでの時間を考えると永いにも程がある。その時間は無限に終わらないのでは?と考える程だ。
だから私は酵素ドリンクと水、そして塩を横に置き、ベッドでは無くソファーに横たわりそっと目を閉じ、静かに夜を待った。
UNKOはもう出ないが、OSHICKOは出る。
私のOSHICKOは通常では無臭だ。しかし、ファスティングを開始して間も無くオイニーがするようになった。
アンモニア臭とは異なる別のオイニー。
これは、糖分を口から摂取していないため、自己の体が糖分を生成し始めた証拠だ。いわゆるケトン体ってやつだ。
炭水化物を抜いて筋トレしている方なら誰もが経験する事だろう。
最終日の夕方。もう完全に「食べる」という行為を忘れ、箸の持ち方も完全に忘れ去った。
妻も頑張って3日間のファスティングを成功させた。
動物性タンパク質や糖質を取らないとイライラするとか言われているけど、そんな事ない。
ビーガンの方達の気持ちがわかってきた。
こんな快適な事は無い。
でも何故か、牡蠣だけは食べたい。友達の「飯テロ」をくらってしまったのだw ヤメテクレ!w
遂に就寝の時間が来た。
ファスティングの少し前から、完全にお酒も辞めていたが、(またヤラかしたから)なにも無しで寝れる。不思議だね。
明日、口から食べ物を入れるのが怖い。そんな気持ちになりながら深い眠りについた。
●ファスティング6日目(終了回復食)
朝起きて、先ずはこの世のもので最も美しく美味しい飲み物である「水」をコップ一杯口にした。
「旨い」
思わすこぼれた言葉にファスティングの成功を物語る。
測ってはいないが、体重も5kgは減っているように思う。体が軽く、気持ちが穏やかだ。
そして、これが最も重要なミッション。「梅流し」だ。
昆布出汁で煮た大根に梅干しを入れて、最後のミッションである胃腸の洗浄をする。
このレシピが本当に...........
不味い!
驚くほど、気絶するほど、死にたくなるほど不味い!
ファスティング前の情報だと、体験者が「ファスティング後の梅流しが死ぬほど美味しい!」って書いてあった。
完全に騙された。
そして、この「梅流し」は、腸内に溜まった宿便などを全て洗い流す「下剤」みたいなものなのだ。
つまり、この梅流しを食べた後、我が家のトイレは私と妻が交互に閉じこもり、トイレ大渋滞を引き起こすほどだった。
そして、お昼には「おかゆ」。
何の具も入っていない「おかゆ」
THE おかゆ
これには少し感動を覚えた。おかゆって旨い。
味なんてほとんどしないのに旨い。
味覚が研ぎ澄まされているから、素材の味がわかるのだ。
それまで、いかに調味料に依存していたのかがわかる。
そして、不思議といわゆる「旨いもの」が欲しく無い。
●ファスティング7日目(回復食)
今日は、ついに玄米を口にする。
本当にお箸の使い方を忘れたので、レンゲで食す。
う、旨い!!!!!!!
この旨さ。一生忘れない。
程よい歯応え、米の甘味と香り。思わず涙が出るほど旨い。
死ぬほど旨い玄米。
と同時に、感謝の心が芽生えた。
そんな私に、SNSで容赦無く意地悪に「飯テロ」してくる仲間たち。許す。
もう動じない。
ラーメンとか、ハンバーガーとか全く欲しく無い。
ジャンクフードを見るだけで、ちょっと「ウェっ」ってなる。
完全に生まれ変わったのだ!
●ファスティング8日目最終日
とにかく、時間が経つのが永かった。
しかし、それも習慣。日が経つにつれて、それが当たり前になってくる。
懸念していたクリエイティブ欲も戻ってきた。こうして原稿を執筆できているのが何よりの証拠だ。
結論を言えば、本当にファスティングを決行してよかった。
大袈裟かもしれないけれど、人生変わったよ。
体とメンタルは常に繋がっているんだ。
いつでもなんでも好きなだけ食べられる豊かな現代。
故になかなか規則的にバランスの良い食事をする事は難しい。
しかし、少し「食べる」という事を意識をもって見直す事によって、確実により豊かで幸せな人生を手に入れることができるんだ。
別に、長生きしたいからという訳じゃなくって、どうせ生きていくなら、少しでもストレス無く、健康でいたい。
健康は、人とのコミュニケーションにも大きく関わる。とても重要な事柄なのだ。
そして、自分を宝物のように大切に扱う事で、人にも大切に接する事ができる。
なんつって、綺麗事ばかり書いたようだけど、最初の1日目はちょっと辛かったよ。
正直いって、食べる事って楽しいからね。
だからファスティングを成功させて思う事は、ぶっちゃけこんな事毎日してたら死んじゃう。
だから、無理なくやる事にした。
我が齋藤家では、妻と2人で月一でファスティングを継続する事を決めた。
追伸:このレポートは、わたしが勝手に行った実験です。けっしてみなさま全員に推奨しているわけではありません。とくに育ち盛りの子供達などはどんどん食べてほしいんです。
でもね、口から入れるもの。よく考えて選んだ方がいいですね。