ブラッシュアップされたオリジナルミュージカル『HEADS UP!／ヘッズ・アップ！』稽古場レポート

バックステージで働く舞台スタッフの奮闘を描いた日本発のミュージカル『HEADS UP!／ヘッズ・アップ！』がまもなくKAAT神奈川芸術劇場で開幕する。2015年の初演時はわずか12公演だったが、評判が広まり、第23回読売演劇大賞演出家部門優秀賞を受賞。再演となる今回は、KAAT神奈川芸術劇場での公演を皮切りに、東京、富山、長野、大阪、名古屋と規模が拡大される予定で、心待ちにしている方も多いはず。11月下旬に行われた公開稽古の様子をお伝えする。

この日、公開された稽古は『HEADS UP!／ヘッズ・アップ！』の劇中劇のシーン。老俳優・小山田丈太郎役の今拓哉が中心となって歌う〈ドルガンチェの馬〉だ。初演をご覧になった方は、あの「馬っ、馬っ♪」というフレーズを覚えているかもしれない。ドタバタの中で芝居が始まる様子がコミカルに描かれている。短いシーンだが、周囲からは笑い声も聞こえ、和やかな雰囲気だった。出演者それぞれが立ち位置やセリフなど細かい部分を修正したり、話し合ったりして、一体となって作品を作り上げていた。

公開稽古後、ベテラン舞台監督の加賀美賢治役を演じる哀川翔と、原案・作詞・演出のラサール石井が囲み取材に応じた。稽古の進捗度合いを尋ねられた哀川は「俺的にはかなり順調です」と笑顔。ラサールは「メンバーの中で、意外と覚えているのが哀川さんだった。前はこうだった、とかね」と話すが、その理由を哀川は「そんなことないよ！前回から2年間空いて、みんなはいろんな芝居に出てきて、引き出しにいっぱい詰まっているんだけど、俺は『HEADS UP!／ヘッズ・アップ！』しか入っていないから（笑）。これしかないんだもん。結構言われればすぐ思い出します」と答えて笑いを誘った。

今回は、初演時のメンバーが多く出演する一方、アルバイトの佐野慎也役を演じる池田純矢や、演出部の九条六平役を演じるオレノグラフィティら新しいメンバーも参加しているが、チームワークは「バッチリ」(ラサール)だという。

哀川は「結構早いペースでやっているので、新しく入ってきた方はむちゃくちゃ大変だと思いますよ」という気遣いを見せ、「まだ全芝居を通過していないですから、それを考えると新しい人たちは大変だと思います。でも、自分らでも覚えているようで半分ぐらい覚えていないから（笑）」と語る。

初演時からの変更点についてラサールは「短くしたり、付け加えたり、あんまり気づかないぐらいかも」と話すが、初演を見た三谷幸喜に「〈いつか きっと〉の場面で、あそこだけ舞台じゃなくなるのが惜しい」と言われたそうで、「〈いつか きっと〉も舞台上という設定に変えて、すべて舞台上に行われているようにした。ステージングも変わっている」と話す。

哀川も「前回、ラサールさんにしても振付の川崎悦子先生にしてもやりきれていなかったところを作り直しているところがあるし、そういうところをミックスしながら進めている。前回見られた方は『あれ？違うね？』という印象を感じてくれると思いますよ。2年ぶりですけど、やりながら新鮮さは感じています。踊りの層が前回よりも厚くなってきているし……」と話し、ブラッシュアップしている様子が伺える。

この日、哀川が差し入れたのは"上等カレー"。哀川の差し入れを共演者が楽しみにしているという。ラサールは「普通なら弁当を買ってきて差し入れてくれるでしょ？ でも哀川さんだったら、仲間の焼肉屋さんが来て、焼肉弁当、仲間のカレー屋さんが来て、カレー。直接社長が来るんです」と話す。哀川は「腹減ると何にもできないからね。俺も腹減るの嫌だから。自分の仲間が差し入れてくれる。長く生きているといろいろあるよね（笑）」と兄貴肌なコメント。

最後に、意気込みを聞いた。

ラサールは「前回観た方にも観ていただきたいし、初めての方も是非観てほしい。全体の構造の中に一つの秘密がある。二回観ると全然違うように見えるので、面白いかと思います」。哀川は「稽古をしている自分らもこんな感じなんで、前回観ている方も全部忘れていると思う（笑）。でも、すごく楽しめると思いますよ。いつ観ても楽しめる芝居になっていますので、安心して観てください」と笑った。

取材・文・撮影＝五月女菜穂