松也、歌昇、巳之助が初役を無我夢中で務める『新春浅草歌舞伎』製作発表記者会見
新春浅草歌舞伎2018製作発表
『新春浅草歌舞伎』製作発表記者会見が4日に行われ、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村梅丸、そして中村錦之助が登壇した。次世代を担う若手歌舞伎役者の登竜門として知られ、今や恒例となった浅草公会堂でのお正月興行。平成30年1月2日の開幕に向け、9名が意気込みを語った。
松竹株式会社副社長 安孫子正氏の紹介によると、戦後、途絶えていた浅草での歌舞伎が復活したのが昭和55年。それが現在の『新春浅草歌舞伎』につながっているという。まだ若い歌舞伎役者のための公演がなかった時代に、当時35歳だった吉右衛門、29歳だった玉三郎、そして24歳だった勘三郎の3人が中心となり公演を行い、大変な盛況を呼んだ。
『新春浅草歌舞伎』が“若手の登竜門”と言われる理由は、若手役者中心のキャスティングにある。通常の公演ならば人気と実力を兼ね備えたベテランが務める大きな役に、次世代の歌舞伎界を支える若手が挑戦する。この点について、錦之助は次のように触れ、エールを送った。
「『浅草歌舞伎』の演目は、若手の皆にとって、将来自分の本役となるものばかり。教えてくださる先輩のお兄さま方も、先人から教わった芸を後進に伝えるため命がけでご指導くださいます。ここで得た技術や芸を、いずれは自分たちが後進に伝えられるように、そして将来的にはここにいる一人一人が、それぞれ(各劇場で行われる)お正月公演の座頭となれるよう精進していただきたいです」
中村錦之助
松也は今年で4回目の出演。松也にとって浅草は、家族で食事にきて、揚げまんじゅうを食べて…と楽しむ場所であったが、今は「修行の場」「年を越す場」となっているという。
「『浅草歌舞伎』は先輩方のご苦労の賜物とあらためて実感しております。『浅草歌舞伎』では大きな役のほとんどを、若手が初役で演じます。未熟な面ももちろんございますが、若手でしかも初役となりますと、無我夢中で役に向かってまいります。その時にしか見られない魅力が、浅草歌舞伎にはあるのではないでしょうか」
第1部『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』で演じる<綱豊卿>役は、片岡仁左衛門の指導のもとで稽古しているという。
「勘解由との場面では、錦之助さんの胸をお借りし自分の持つ力を存分に出したい。そして長い流れの中にある気持ちの浮き沈みをお客様にお伝えできるよう務めます。第2部『引窓』の<濡髪長五郎>では、吉右衛門のお兄さんにご指導いただき光栄に思っております。『義理と人情の物語でもあり、母子の愛の物語でもある』と伺いました。濡髪だけでなく登場人物それぞれが大事なお話なので、皆で教えをよく聞き、しっかりと勤めたいです」
尾上松也
『新春浅草歌舞伎』には3年ぶり4回目の出演となる歌昇は、第2部『双蝶々曲輪日記 引窓』で<南方十次兵衛>役を務める。
「『浅草歌舞伎』は、浅草の皆さまのお力添えで成り立っております。皆さまと協力し、浅草という土地を盛り上げていければと思います」「『引窓』は播磨屋の家にとって、とても大切な演目です。人情と義理と親子の情愛を優しく繊細に描いた作品です。観終わった後に、心がほっとするところもあり、涙していただくところもあり、切なくも温かいお話です」
中村歌昇
続いて挨拶したのは巳之助。
「このメンバーで浅草歌舞伎を作っていくことができるのは、本当にうれしく楽しみです。舞台の上では“仲良しこよし”だけでなく、互いに切磋琢磨してまいりますが、新年のにぎやかな浅草の街を楽しむ時間もあるといいなと思っております」
会見中の巳之助は、比較的リラックスした様子。松也の挨拶のタイミングに「マツヤ!」と(小さく)掛け声をかけたりもしていた。しかし役の話となると、表情は一転。台詞の応酬が見どころの第1部「元禄忠臣蔵『御浜御殿綱豊卿』」で演じる<富森助右衛門>について意気込みを語った。
「会話劇であり、動きの少ない演目ですが、松也お兄さんと芝居をぶつけ合い、会話の中で感情が動いていく面白さをお伝えできればと思います。そのためにもこの芝居を、感覚ではなくきちんと自分の中で理解した上で、松也お兄さんと作りこんでいきたい」
第2部は父・三津五郎と縁の深い舞踊劇『京人形』で<甚五郎>に挑戦。第1部から第2部までの4役すべてが、初役となる。
坂東巳之助
「先輩方が大切にされてきた思いを大事に、浅草の方々のご期待を裏切らないよう、お芝居で浅草の町全体を盛り上げるようなつもりで一生懸命お芝居に精を出したい」と挨拶したのは、2年ぶり5回目の出演となる新悟。第1部『御浜御殿』で<江島>を務める。
「仕事ができるだけでなく、情もあり人間味もありお茶目なところもある役どころです。時蔵のおじさまに教えていただきしっかり舞台をしめることのできるよう精一杯存在感を出していきたいです。『京人形』は、お客様に明るい気持ちでお帰りいただけるよう精一杯つとめます」
坂東新悟
種之助は、現在のメンバーになってから2度目の出演となる。
「前回はちょうど世代交代した最初の年の出演でした。それ以来『浅草歌舞伎』を守り、自分たちのものとしてきた松也兄さんをはじめとした皆さんの中にまた戻り、一緒にやらせていただくということで、あらためて“挑戦”という気持ちでひと月務めてまいります」
第1部の序幕「義経千本桜『鳥居前』」では<源義経>を、第2幕『操り三番叟』では糸で操られる人形<三番叟>役を務める。「日本舞踊のおおらかさをお正月らしく華やかにつとめたい」とコメントした。
中村種之介
つづく米吉は「浅草歌舞伎では我々皆、大きな役に挑戦させていただきます。先輩方からの教えを大切に、この機会を楽しみながら、ひと月の公演を終えられたら」と笑顔をみせた。
「第1部『御浜御殿』では綱豊卿(松也)の側室<お喜世>を演じます。松也兄さんに愛されるお喜世を務められたら」
このコメントに思わず松也が反応、一同は笑いに包まれた。米吉は、第2部『引窓』では<女房お早>を演じる。
中村米吉
隼人は「新年の浅草は、活気づいて熱い町となります。その熱さに負けないよう我々も一致団結し舞台を務めてまいります」と挨拶。第1部『義経千本桜』では、<佐藤忠信>を演じる。
「初役で荒事という大役をつとめさせていただきます。江戸歌舞伎のおおらかさ、太さ、丸さが必要な役どころだと思っております。憧れていた荒事を、松緑兄さんに教えていただきます。新しい境地へ挑戦する気持ちと、由緒ある作品へのリスペクトを忘れずに務めさせていただきます」
中村隼人
『新春浅草歌舞伎』のポスターは、毎年"歌舞伎っぽくない"デザインで話題を集める。梅丸は6年連続6回目の出演にして、今回初めてそのポスターに登場。初役3役のうち『鳥居前』<静御前>は、中村魁春が指導する。
「歴史ある公演に出させていただけることを本当にありがたく思います。ご一緒させていただく先輩方から多くを教わりながら少しでも成長し、実りあるひと月になります務めさせていただきます」
中村梅丸
大歌舞伎でも引く手あまたの錦之助は、上置きという立場での出演。
「私も20代のつもりでがんばらせていただきます。お正月は歌舞伎座で高麗屋三代同時襲名、国立劇場では音羽屋菊五郎劇団による復活劇公演、新橋演舞場では海老蔵さんが面白い趣向のお芝居を創っておられます。それに負けないくらい、活気あるお芝居を我々も浅草で創ってまいります」
中村錦之助
現在の『浅草歌舞伎』の世代になったのは、平成27年。それまで『浅草歌舞伎』の主要メンバーだった猿之助、愛之助たちからバトンを受け取った最初の年を、松也は次のように振り返る。
「お客様が誰一人客席にいないのではないかという不安にも駆られました。初日の幕が開き満員のお客様に迎えられた時は、涙を流すメンバーもおりました。それまで、先輩方のおかげで当たり前のようにお客様がいてくださっていたことのありがたさを実感し、お客様にお越しいただけることのありがたさを忘れずにいようと思いました」
次世代を担う花形歌舞伎役者の熱演を、歌舞伎座よりもぐっと近い距離で楽しめる『新春浅草歌舞伎』。2018年1月2日より浅草公会堂にて上演。
取材・文・撮影=塚田史香
■日程:2018年1月2日(火)~26日(金)
※8日(月)は第1部休演。※20日(土)第2部は「着物で歌舞伎」の日
尾上松也/中村歌昇/坂東巳之助/坂東新悟/中村種之助/中村米吉/中村隼人 中村錦之助
中村歌女之丞/中村梅丸
【第一部】午前11時開演
お年玉(年始ご挨拶)
一、義経千本桜 鳥居前
二、元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿
お年玉(年始ご挨拶)
一、操り三番叟
二、引窓
三、京人形