中村勘九郎&七之助、そろって『春暁特別公演』を語る
(左から)中村七之助・中村勘九郎
中村勘九郎&中村七之助兄弟を始めとする中村屋一門が、普段あまり歌舞伎が上演されない地域に足を運び、初心者でも楽しめる歌舞伎舞踊作品を上演する、中村屋の特別公演。2018年3~4月は「春暁特別公演」と題して、全国12ヶ所のホールを回る。今回は、おめでたい舞の『鶴亀』、喜劇的な『浦島』、趣が違う2つの舞を楽しめる『枕獅子』の3本を上演。歌舞伎のバラエティ性や奥深さが、一度観ただけでわかるような演目ぞろいだ。その公演を前に、最近はお互い多忙のためなかなか叶わなかった、勘九郎と七之助のダブルインタビューが実現した。今回の演目の見どころや、「兄弟だからこそ続けられた」というこの公演の思いなどについて聞いてきた。
「待ってました! というウェルカム感が、特別公演にはあります」(勘九郎)
── 今秋の『錦秋特別公演』から、半年と経たないうちの特別公演となりますね。
七之助 「すぐ来たな」って感じですね(笑)。
勘九郎 でも久しぶりだったり初めての場所が多いです。札幌は久しぶりだし、鳥取は初めて。この巡業の楽しみというのはやっぱりその土地々々の風景と、四季を感じることにあります。二人揃っての春の巡業は初めてなので、それも楽しみですね。
七之助 今までやってない季節に、いろいろな地域を回れるし、初めての土地もあるので楽しみです。
── 季節に応じて演目を考えるというのは、やっぱりあるんですか?
七之助 はい。多少なりとも。
勘九郎 冬に桜のものをやってもねえ(笑)。この特別公演は初めて歌舞伎を観る人が多いので、わかりやすくて、昔からある踊りを選ぶようにしています。
── 一番目の『鶴亀』は、新春にふさわしいということで選ばれたそうですね。
勘九郎 これはおめでたい舞で、結婚式とか襲名とかで踊られる振りですからねえ。こういうものを観たら、おめでたい気分になるというか。舞というのは、やっぱり五穀豊穣や祈りというのが元になっているので、これを踊る心構えとしては「幸せを提供する」ということです。ご祝儀の舞ですね。
中村勘九郎
── 勘九郎さんが踊られる『浦島』は、誰もがおなじみの昔話『浦島太郎』を題材にした舞です。
勘九郎 ストーリーは皆さんご存じですから、すんなり入ってくれるだろうというので選びました。これは『浦島太郎』の後日談で、竜宮城から帰ってきた浦島太郎の話です。二枚の扇を使ったいろいろな技があるのが面白い所ですし、『浦島』だけの特別な頭(カツラ)を使った早変わりもあります。
── 一方、美しい女性が獅子の精になる『枕獅子』は、七之助さんが踊られます。
七之助 今回、初めて踊らさせていただきます。これは『鏡獅子』の元となった踊りです。最初の方は傾城(遊女)として女心を踊って、後半は、『鏡獅子』のようにしっかりと獅子になるわけではないのですが、毛は振りますね。獅子の華やかさと、女形の振りの両方を楽しめますし、最後をキッと締める感じなので、今回の公演にはピッタリではないでしょうか。ただ、上演時間が長いので、短縮バージョンになるかもしれません。
中村七之助
── その上演前には、お二人の芸談があるわけですが、今日のようなスーツ姿で登場するだけで客席が湧くそうですね。
勘九郎 歌舞伎役者は今でも和服を着ているというイメージが、どうしても強いです。そういうところから舞台と客席の敷居をなくして、本当に楽しんでご覧になれるようなお話ができたらいいなと思います。
── お客様からの質問も受け付けているそうですが、今までで何か印象に残った質問などはありましたか?
勘九郎 この間は面白かったよねえ? BLが好きな女性から「お二人はどうなんですか?」っていう質問が(笑)。
七之助 ああ、そんなことあったねえ。
勘九郎 「ないです」ってお答えしましたけど(笑)。それで言うと「兄弟で恋人とか夫婦の役をするのって照れないですか?」という質問も多かったですねえ。僕ら、子どもの頃からやってますから、それは全然なく、相手を「役」として見ています。
七之助 それは僕もあんまり考えたことなかったので「ああ、そういう風に見えているのだなあ」と思いましたね。
勘九郎 ただ芝居って嘘をやってるんですけど、嘘をそのまま「嘘だ」と見せたら、お客様が来る必要ないじゃないですか? 本当の親子や兄弟で、恋人や夫婦をやるっていうハンディは、絶対ありますね。お客様が、そういう目で見ちゃうという。それをどう麻痺させて、本当の恋人や夫婦に見せるかというのが、大変ではありますけどね。
── この巡業のお客様と東京の歌舞伎座などとでは、反応に違いはありますか?
勘九郎 やはり「待ってました!」感というか、わが街に来てくれるというウェルカム感がありますねえ。ただ歌舞伎座などと違って、芝居専用ではないホールって伝わりにくいのが難しいところではあるんですけど。
七之助 縦に長い劇場が多いです、ホールの場合。歌舞伎座のように横に広い劇場だと、自分たちのやっているパワーや熱量がちゃんと後ろまで伝わっていく感覚があるし、踊りの目の付け所もわかってやりやすい。でも縦に長い劇場だと、一番後ろのお客様にどう伝わっているのか……という不安が、役者としては出てきますね。
勘九郎 でも結局は「お客様が期待して待っていてくれている」というのが、しっかりとこちらに伝わるので、それで毎回すんなり入れているという感じです。
「歌舞伎の舞踊は総合芸術だから、いろんな楽しみ方があります」(七之助)
──せっかくお二人が顔を合わせた機会ですので、特にこの1年のお互いの活動について、印象に残っていることなどはありますか?
勘九郎 今年は歌舞伎で新作というのが多かったですねえ。あとはうちの息子たち(勘太郎・長三郎)の初舞台があったりだとか。
七之助 それが一番ですよねえ。
勘九郎 大変だった(笑)。ただ僕はこの巡業の後は、本当に一年ぐらい舞台に出られないかもしれません。大河ドラマ(『いだてん〜東京オリムピック噺〜』)の撮影が4月6日(巡業の大千秋楽の翌日)からスタートしますので。
七之助 6日から? 大変だねえ。
勘九郎 普通さ、大河ドラマの主役なんて、一ヶ月ぐらい準備期間あるよね?(笑)それが大千秋楽の次の日からだからさあ。
中村勘九郎
── 七之助さんは、先日の顔見世では全部立役だったのは珍しかったのでは?
七之助 そうですね。三役やって、三役とも女形がないっていうのはすごく久しぶりで、なかなか不思議な一ヶ月でした。とはいえ全部男らしいというよりは、中性的な役でしたけどね。いろいろな役ができる機会がいただけるのはありがたいですし、これからもやらせていただきたいなと思います。
── こういう公演の企画を、兄弟でやっていて良かったと思う点はどこですか?
七之助 やっぱり、長く続けられるってことじゃないですか?
勘九郎 うん。14年間続けられたってことですね。まず他人だと、スケジュールが合わないでしょ?(一同笑) だからこうやって、毎年のようにできるのが嬉しいです。継続は力なりということで、まだまだ歌舞伎をご覧になったことのないお客様は多いですし、少しでも歌舞伎への足がかりになれたらいいなと思います。
七之助 あとは、やはり小さい頃から一緒ですからね。踊りというのは、あまり踊ったことがない人と、いきなり合わせて踊ることも多々ありますけども、そこはやはり、踊りの経験を豊富に積んでる人の方が。
勘九郎 (笑)。
七之助 間だったり、息だったりが手に取るようにわかりますからね。今回は一緒に踊りませんけども、それはそれでやりやすいというか、わかってますもんね。得手不得手だったり「ここに精を出してほしい」とか、そういうのが。すべてにおいて、初めて踊る人よりは段違いです。
── だとすると演目を決める時に「これに挑戦してほしい」みたいな提案が、お互いにあったりするんですか?
七之助 そういうのはないですね。「これをやったら面白いね」くらいかと。
勘九郎 演目を決める時には、あまりお互いのことは考えないですね。お客様のことしか考えないです。
── それでは今後、お客様に向けてこういう演目を入れていきたいという望みは?
勘九郎 今までやってきたのが、踊りばかりなんです。前回、台詞のある『棒しばり』はやりましたけど、いつかもっと芝居色の強い、舞踊劇的なことができたらいいなあとは思います。ただ短い作品をたくさん上演するという、今のスタイルは変わらないでしょうね。その方がお客さんにとってお得感があるじゃないですか(笑)。
── この巡業以外にも、今後やっていきたいことはありますか?
勘九郎 今はひと月で四座くらい公演をする時があったりするじゃないですか? そうなるとなかなか役者同士が一緒になる機会が少なくなります。ちゃんと同世代が……先輩方もそうですけど、顔を合わせた方がお客様のためにもなるのではないかと思います。今はてんでバラバラですから、ガッツリみんなで組んでできる機会というのを増やせたらいいなあと思います。
七之助 やって“いきたい”ことというよりも、“来る”こととか、やるべきことをやっていくのが、今は一番だと思います。ありがたいことにそういう機会をいろいろいただいておりますし、父が遺してくれたものもギュウギュウに詰まっているので、それを今はやっていくという感じですね。
中村七之助
── では改めまして、勘九郎さんから見た『枕獅子』の、七之助さんから見た『浦島』の見どころや、期待している所などを。
勘九郎 『枕獅子』は本当に古風な踊りなので、そこを現代のお客様に観ていただきます。『浦島』もそうなんですが、一見派手だけど中にあるものがとても古いというか、一番ちゃんと押さえておかないといけないところが入っています。それがにじみ出てくればいいなと思います。
七之助 やはり浦島太郎がおじいちゃんになってからが、あまり他の人がやらない……「やれない」と言った方がいいのかな? 中村屋独特のユーモラスなところを出せると思います。うちの父も観ていて大いに喜んでいましたし、僕も面白いと思っています。ですから、そこは初めて観るお客さんも喜んでいただけると思います。
勘九郎 そうですね。おじいちゃんになってからが、味とか空気とかっていうのは、楽しんでご覧いただけると思います。ただ「笑わせよう」と変に狙っていくと、お客様って絶対笑ってくれなかったりするのですが、真面目にやると逆におかしい。「この人はおじいちゃんになったら、どういう気持ちになって、どういう風になるのか」をちゃんとやれば、その味や空気が出てきます。「喜劇ですよ」って見せたら、喜劇にならないという。
七之助 兄も言ったように『枕獅子』は古風な踊りですし、まずはしっかり踊ることを目指しますね。最初に女心を踊る部分を厳格にキッチリと踊って、獅子の踊りとの違いを見せられたらいいなあと思いますし。最後に毛を振るところは視覚的にも面白いですし、それでスッキリしていただければいいなあと思います。
── また歌舞伎の舞踊は、台詞芝居より敷居が高いと思われがちですが、何かアドバイスをいただけますでしょうか?
七之助 いろんな楽しみ方がありますし、それは人それぞれでいいと思います。踊りはもちろんですけど、歌詞もそうですし、音もそうですし、あとは舞台装置だとか、衣裳や髪型を観ていらっしゃる人もいます。 総合芸術ですので、好きに観ていただいて構わないです。ただ歌舞伎の踊りは当て振りといって、歌で語っていることを所作で見せていることが多いので、歌詞を知ってると「今恋い焦がれてるな」「恋人同士がくっついたな」「縁を切ろうとしてるな」というのがわかると、よりいっそう楽しめます。もちろん、それを知らなくても「ああ、何だか素敵だな」とか「可愛らしいな」って感じてもらうのも、大切だと思います。
勘九郎 その辺りは「芸談」のところであらすじというか、これからご覧になる踊りについての説明は入れていきたいと思いますので、安心して観に来ていただきたいです。
取材・文=吉永美和子
中村勘九郎
中村七之助
帝:中村小三郎
鶴:中村仲之助
鶴:中村仲四郎
亀:中村いてう
亀:中村仲助
従者:中村仲侍
浦島:中村勘九郎
傾城弥生後に獅子の精:中村七之助
禿ゆかり後に胡蝶:中村鶴松
禿たより後に胡蝶:澤村國久
さいたま市文化センター 大ホール(埼玉県)
料金 S席8,500円 A席7,500円(税込)
問い合わせ サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
なかのZERO 大ホール(東京都)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
問い合わせ サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)(北海道)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
問い合わせ TVhテレビ北海道 011-232-3337(平日10:00~17:00)
リンクステーションホール青森(青森市文化会館)(青森県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:5,500円(税込)
問い合わせ 青森朝日放送 017-762-1111(平日10:00~18:00)
山形市民会館 大ホール(山形県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
問い合わせ さくらんぼテレビ 0120-150-616
郡山市民文化センター 大ホール(福島県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:6,500円(税込)
問い合わせ テレビユー福島 024-531-5111(平日9:30~17:30)
とりぎん文化会館 梨花ホール(鳥取県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:5,500円(税込)
問い合わせ
TSK山陰中央テレビ 0852-20-8888
とりぎん文化会館 0857-21-8700(9:00~22:00)
島根県民会館 大ホール(島根県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:5,500円(税込)
問い合わせ
TSK山陰中央テレビ 0852-20-8888
山陰中央新報社 事業部 0852-32-3415
岡山市民会館 大ホール(岡山県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円 B席:6,500円(税込)
問い合わせ イオンモール岡山センター 086-941-8818(10:00~18:00)
JMSアステールプラザ 大ホール(広島県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
問い合わせ TSS事業部 082-253-1010(平日10:00~18:00)
ホルトホール大分 大ホール(大分県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
問い合わせ キョードー西日本 092-714-0159
鎌倉芸術館(神奈川県)
料金 S席:8,500円 A席:7,500円(税込)
問い合わせ サンライズプロモーション東京 0570-00-3337