鴻上尚史×秋元龍太朗 対談 「虚構の劇団」の新作公演『もうひとつの地球の歩き方』は“AIの天草四郎”が登場!?
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鴻上尚史、秋元龍太朗
鴻上尚史が未来ある若者と共に演劇を創るために旗揚げした劇団「虚構の劇団」が、新作『もうひとつの地球の歩き方〜How to walk on another Earth.〜』を2018年1月から東京、大阪、愛媛で上演する(2018都民芸術フェスティバル参加作品として東京凱旋公演あり)。劇団結成10周年を迎え、第13回公演となる本作では、秋元龍太朗、一色洋平、橘花梨を客演に迎え、小沢道成、小野川晶、三上陽永をはじめとする劇団員で、2年ぶりの新作に挑む。作・演出の鴻上と、主演する秋元に作品の見どころを語ってもらった。
旗揚げ公演から10周年、テーマは「記憶とシンギュラリティと天草四郎」
(左から)秋元龍太朗、鴻上尚史
――2018年は旗揚げ公演から10周年。虚構の劇団としては2年ぶりの新作です。
鴻上:そうですね、「育って欲しいなぁ」と思いながら「育っているのかねぇお前たちは」というところですかね(笑)。それから客演に来ていただくのだったらお互いが刺激になっていかないといけませんからね。客演に来てくれたのに「つまんない奴しかいない」とかね、そういうのも良くないですしね。お互いがいい状況になれるようになれたらいいなと思っています。
――稽古場では刺激しあっていますか?
鴻上:そう思いますよ。稽古場で龍太朗とミッチー(※小沢道成)の会話とか聞いていると。
秋元:え、聞かれているんですか!(笑)
鴻上:刺激しあっているんじゃないかなという気がします。
秋元:(小沢とは)10歳ぐらい年が離れているんですけど、昨日も稽古終わりに道成君の家に行って、1~2時間ぐらいコーヒー飲みながら話して……。
鴻上:行ったのかよ!(笑)
秋元:3日連続ぐらい夕飯も一緒に食べて、「このシーンはどうしたら面白くなるかな?」とかそういう話ばかりしていて、すごく楽しいです。刺激にはなりますね。
鴻上:まぁでも道成がそうするということは可能性を感じて、言いたいと思っているからじゃないかな。
秋元龍太朗
――今回の新作は「記憶とシンギュラリティと天草四郎の物語」ということですが……
鴻上:内容をどこまで言っていいか決めていないんだよね(笑)。でも、“AIの天草四郎”を作ろうとするところまでいいのかなぁ。ある会社が人工知能の天草四郎を作ろうとするところからスタートする話です。シンギュラリティというのは、2045年にコンピューターが爆発的に進化して人間を超えるというふうに予測されているその時点のことを言うんですけど、人工知能の天草四郎をつくろうとする努力の段階によってうまれる、「人工知能と人間は何が違うんだ!」みたいなところがテーマですね。
――その中で秋元さんの役柄というのは?
鴻上:人工知能の天草四郎を開発しようとする……
――天草四郎ではないんですね!
鴻上:そこはなんていうか……(笑)。
秋元:難しいところですね(笑)。エンジニアみたいな感じです。
――実際にお稽古されていて、役についてはどうですか?
秋元:すごく難しいです。記憶もシンギュラリティも天草四郎も全部関わってくる役なので、役作りをするにあたって、どれから手をつけていいか分からないんです。天草四郎に関しては本当に謎めいている人物で、史実も違ったりするから自分で選んでいかないといけない。そこが難しいですね。
鴻上尚史
――脚本のテーマとしてはいつ頃から構想があるんですか? なぜ今、天草四郎なのでしょう?
鴻上:龍太朗が出てくれると分かって、彼が似合うのはなんだろうと思って。ただ歴史劇でそのまま天草四郎をするというのも何の捻りもないのでね。どううまく捻られるかなということと、もともと僕がコンピューター系に常に関心があるから、コンピューターの真逆というと歴史的なものになって。歴史で龍太朗に似合いそうなキャラクターは何かあるかなと思ったら、天草四郎が似合うんじゃないの、と。
――どのあたりが似合うな、と?
鴻上:雰囲気ですね。あと、佇まい。
秋元:初めて知りました(笑)。台本が出来て初めてもらった時に、「面白い!」と思いました。言葉がすごくグッとくるんです。これを僕らが言葉にも負けないようにしたいと思ったし、ちゃんと届けないといけないとも思ったし。
――天草四郎に関してのイメージはございますか?
秋元:鴻上さんからもたくさん本を借りて読んだんですけど……どうなんだろう。
鴻上:まぁ、自分なりに居たと思って使命感に燃えてやるしかないっていうことだよな。
秋元:どれだけこんなにミステリアスな人物を僕に手繰り寄せるかということは格闘していますね。
鴻上:そうか、天草四郎になろうと思っている人物でもいいんだな。
秋元:そうです、そうです。
鴻上:そうだよな。ミステリアスな人になろうとする。手繰りよせようとする過程を見せているのはあるよな。
「龍太朗は目指すところが高い」
――鴻上さんの演出を実際に受けられてどうですか?
秋元:僕、ここ何年か「自分に足りていないな、ここを伸ばしたいな」と思った時に、そういう演出家の方に出会うことがすごくよくあるんですよ。タイミングがいつもあって、どうやったら自分の思っていることが表現として昇華できるんだろうとずっと考えていたんです。その時に鴻上さんに声をかけてもらって、すごく今自分のウィークポイント、弱い部分をズサズサ言われている。だから、この作品を乗り越えられたら僕としても成長できるし、変化できるだろうなというのはいつもすごく思っています。
“心さえあれば演技ができる”とずっと思っていたけど、そうじゃないぞと思って。鴻上さんがよく仰る「意識的な捻った表現」ということをどうやったらいいかずっと分からなかったし、意識してそこを考えてこなかった。だからそこは苦戦しています。
――鴻上さんからご覧になっていかがですか?
鴻上:とても真面目だからいいと思いますよ。ちゃんと僕の言葉をがっつり引き受けようとしてくれる。そうしているときっといい経験になると思うんですよ。たまにスルーする人がいるんです。「苦手!」とか「無理無理!」とか言って。自分がどこに辿り着きたいかというのが龍太朗は多分高いんだと思うんだよね。若いイケメンくんの俳優たちの中では。
キャーキャー言われてそこで満足する人もいれば、自分の売れていく姿を見て満足する人もいる。龍太朗はもう少し高いところを目指そうとしている感じがするのでいいんじゃないかなと思います。
――10周年ですが、感じる変化はありますか?
鴻上:どうだろうねぇ。それは僕よりも、それこそ劇団員たちが客演にたくさん呼ばれるようになるとか、あそこには面白い役者がいるよという風に言われるようにならないとダメだよね。それが変化だよね。自分でいくら言ってもしょうがない。
――「虚構の劇団」はメンバーが若いですよね。演出される時にやはり違うものですか?
鴻上:KOKAMI@network(コウカミ ネットワーク)の方はベテランたちが揃うので、ツーといえばカーなんだけど、こっちはツーといえばツーという。ツーといえば、ツーツーツーみたいな(笑)。だから未来への投資だね。それはやっぱり龍太朗も、劇団員だけじゃなくて、今回の洋平も花梨ちゃんもそうだけど、何年後かに演劇界を背負って立ってくれる人になってくれていたらいいなぁとすごく思うから。そうしたら時間を投入する意味もある。
「若くて演劇を舐めていないやつ」と演劇を創るということ
秋元龍太朗
――秋元さんは鴻上さんの作品はご覧になったことは?
秋元:やると決まってからDVDで、『エゴ・サーチ』や『天使は瞳を閉じて』などを見ました。まず道成君がすごい好きでしたし、「ずっと誰かが覚えていれば、その魂は永遠に生きているんだ」というセリフがあって。それでなんかグッと引き込まれました。それですごく稽古が楽しみになったのは覚えています。
――稽古場で感じるギャップは何かありますか?
秋元:見た時点で「あぁ僕が苦手なものが詰まっている」と思っていました。これをどうにか自分のものにしたいなと思ったし、できなかったら作品は面白くならないとも思いました。
――見せ方や結末で、今までとはちょっと違う部分はありますか?
鴻上:小沢が(「虚構の劇団」の作品の中で)今までで一番面白いと呟いているけど、分からない。あいつはとにかく感激屋だから。
秋元:そんなことないでしょう(笑)。
鴻上:どんな芝居を見ても「面白かったー!」って。感激しぃですから(笑)。今回は本当にいいメンバーが集まってくれたと思うので、いい作品になると思いますけどね。手応えは十分あります。でもね、小沢のTwitterじゃないけれど、あんまりハードル上げちゃいけないの。「今回ひどいらしいよ〜」と行って来て、「すごいじゃん!」ってなるのがいいの。「すごいらしいよ〜小沢が一番いいと言っているよ」と言っていたらね、だめ。前評は「まぁ普通かな」みたいなのがいい(笑)。
――秋元さんが一番最年少でしょうか?
鴻上:劇団の研修生で高校生がおりまして、もっと若いです。でも龍太朗も十分若いです。
――鴻上さんにとって若い人と演劇を作るというのはどういう意味を持つのでしょう?
鴻上:若いだけじゃ意味ないんだよね。本当に虚しい気持ちになる。若くて勇気があるとか、若くて向こう見ずであるとか、ポジティブじゃないと。若いからみんながみんな勇気があるとは限らないし、若い方が保守的だったり、若い方が臆病だったりするのでね。それに付き合っている時間はなかなかないんだよ。若くて演劇を舐めていないやつじゃないと。僕もここしばらく、いわゆる若いイケメンくんとやっているけど、龍太朗はすごく真面目だし変わろうとしてくれているので、それはすごく大事なことだと思います。
――鴻上さんの作品は、コンピューター系の題材が多いと思うのですが今後もそういったテーマを?
鴻上:そうだね、それはコンピューターだから好きっていうわけじゃなくて、いわゆるSNSとかスマホとかインターネットが僕らの生活を変えたからなんだよね。たまに言われる。新しいもの好きなんですよねって。でも、新しければなんでもいいというわけじゃなくて、新しくても全然自分の生活を変えないものに関しては何も興味ない。だから別に僕はアプリのsnowも入れていないし(笑)。
それよりは瞬間的にコミュニケーションができることがどういうことなのか。そういう意味で今一番風が吹いているのはコンピューター業界だということだよね。で、その反動でみんな疲れて、『応仁の乱』という本がベストセラーになるみたいにさ、反動で歴史とか伝統とかにも興味が向いている。ちょうど今回はそれが二つ合わさったっていう感じ。
鴻上尚史
――2018年というタイミングなのは?
鴻上:それは加速度的に変わっているから。シンギュラリティは2045年と言われているけど、2020~2030年でもずいぶん変わるんじゃないかとも言われている。まぁどう変わっていくかは楽しみ。そう、僕は楽しみだと思っているんだ。そんなに人類はバカじゃないと思っているから、変わりながらも割とポジティブだよ。でも新しいメディアって結局事態を加速させるから、LINEが出来たことで成立する恋愛もあれば別れる恋愛も増える。電話が出来た時に、電話が出来たことで成立する恋愛もあったけど別れる恋愛もあった。手紙だったらそこまでいかなかったのに、みたいな。だから多分、いい方向にも悪い方向にも加速させていく。それをすごく目撃したいなというのはあるね。
――それを演劇シーンで捉えていくと。
鴻上:うん。なんとなく僕の興味がある中でね。結局それは演劇ってやっぱり人間を描くことなので、その新しいテクノロジーとかいろんな加速が人間をどう変えるかというのをすごく見てみたいということだよな。
――最後に、この作品をどんな方に見ていただきたいか、一言お願いします!
秋元:お客さんとして演劇をよく見に行くんですけど、みんなに見て欲しいですよね。久々にこんな稽古場に行くのが楽しいんです。どの作品にもやりがいは感じるんですけど、「この座組、面白い!」と素直に思っています。まだ稽古は最後まで行っていないけれど、いろんな観点やいろんな視点から見ても刺さるものがあるんじゃないかなと思っているので、本当にいろんな人に見て欲しいなと思います。
鴻上:僕はなるべく間口の広い作品にはしたいなと思っているので、いろんな人に見て欲しい。僕がKOKAMI@networkの方でやる場合は
インタビュー・文・撮影=五月女菜穂
「もうひとつの地球の歩き方~How to walk on another Earth.~」
作・演出:鴻上尚史
出演:秋元龍太朗/小沢道成、小野川晶、三上陽永、森田ひかり、池之上真菜、梅津瑞樹、溝畑藍/橘花梨、一色洋平 ほか
■東京公演(座・高円寺 冬の劇場26・日本劇作家協会プログラム)
*2018都民芸術フェスティバル参加作品
日程:2018年1月19日(金)~1月28日(日)
会場:座・高円寺1
■大阪公演
日程:2018年2月2日(金)~2月4日(日)
会場:ABCホール
■愛媛公演 新居浜市市制施行80周年記念事業・株式会社ハートネットワーク創立30周年記念
日程:2018年2月10日(土)~2月11日(日)
会場:あかがねミュージアム あかがね座(新居浜)
■東京凱旋公演 *2018都民芸術フェスティバル参加作品
日程:2018年2月15日(木)~2月18日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
虚構の劇団公式ページ: http://kyokou.thirdstage.com/