ミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』演出のスコット・シュワルツと振付のアディ・チャン、作品についてスウィート・トーク
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(左から)アディ・チャン(振付)、スコット・シュワルツ(演出)
2010年のベルギー・フランス合作映画『匿名レンアイ相談所』(日本劇場未公開)を原作としたミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』がロンドンで初演されたのは2017年のこと。そして2026年、日本版の舞台が登場する。チョコレート工場を経営する内向的な青年と自信のない天才チョコレート職人、スウィートな香りに包まれて恋を繰り広げる男女を演じるのは岩﨑大昇と吉柳咲良。日本でも『ノートルダムの鐘』や『ゴースト&レディ』を手がけてきたスコット・シュワルツが演出を担当、彼とのコラボレーション経験もあるアディ・チャンが振付を手がける。シュワルツとチャンが作品への意気込みを語ってくれた。
ーーお二人の出会いからお聞かせいただけますか。
シュワルツ:2017年に初めて一緒に仕事したのかな。僕はカリフォルニアの劇場で『プリンス・オブ・エジプト』という作品を演出していました。最終的にロンドン・ウエストエンドまで行った作品なんだけれども、アディはその作品でアソシエイト・コレオグラファーを務めていて。その後、ニューヨーク州サグ・ハーバーのベイ・ストリート劇場で、DNAの二重らせん構造解明につながるX線回折写真を世界で初めて撮影した科学者ロザリンド・フランクリンをテーマにした『Double Helix』という作品を演出したんだけれども、その作品にアディは美しい振付をつけてくれて。今回が3回目のコラボレーションになります。
チャン:長年一緒に仕事をしてきているから、演出家と振付家として、スコットとは非常に協力的な関係を築けていると思う。アーティストとしてのセンスもお互い補完的だと感じるし。お互い違うところでまずは考えをふくらませ、それを持ち寄って、これは行ける、行けないと一緒に作っていく。彼の言葉をきっかけにさらにふくらんでいくものもあって、一緒に仕事することで何か特別なものが生まれてくると感じています。
シュワルツ:僕も同じ考えだな。深い尊敬と賞賛の念で結ばれている関係だと思う。僕がミュージカル作品の演出において心がけていることは、振付及びステージングが演技そのものと絡み合っているかどうかなんだ。アディも同意してくれるんじゃないかと思うんだけど。
チャン:その通りね。
シュワルツ:だから、ここからここまでが僕のやった仕事で、ここからはアディのやった仕事という風には全然思っていなくて、演出と振付が統一されている感覚がありますね。そういう結果になるよう、これまで一緒に仕事してくる中で、お互い満足できるやり方を学んできた感じかな。そして、今回の作品にはワンダフルでおかしくて美しくてロマンティックな踊りがいっぱいある。アディの才能を大いに発揮してもらえる作品の演出を手がけることができて、わくわくしているよ。
チャン:ありがとう!
(左から)アディ・チャン(振付)、スコット・シュワルツ(演出)
ーー作品の魅力をどんなところに感じていますか。
シュワルツ:この作品は非常にロマンティックでスウィートで、真心に満ちていると思いますね。そして、登場人物たちの描き方に非常に心配りがされていて、観ていて共感を抱きやすいとも思っています。彼らは、我々みんなが抱えているような問題、例えば、人とどうつながるか、人とどう恋に落ちるか、どうやって自信をもつか、そういった問題を抱えている。それでいて、非常におもしろいコメディでもあるから、みんな、大いに笑って、楽しいという感情で心満たされて帰ってくれたらいいですね。
チャン:その通りね。さまざまな要素すべてが少しずつ入っている作品だと思います。生きていく上で直面する深刻な問題も扱われているし、それでいておもしろいコメディでもあるし、そのバランスがうまくとれていて。スコットが言ったように、真心にあふれていてスウィートな作品。登場人物たちの悪戦苦闘を見守っていただければと思うし、最終的には希望と喜びがあるのがいいと思っていて。それって、生きる上で必要なものだと思うから。
シュワルツ:社会的不安や自分に対する自信のなさ、そして人とつながることへの不安が描かれていますよね。そういった不安を克服する、少なくとも何とか不安と折り合いをつけながら幸せに生きていく方法を模索していく、非常に普遍的な作品だと思うんだ。非常に成功した人、有名な人、何かを成し遂げた人は、幸せな人生を送っているように見える。でも、そういった人でさえも、人はすべて、どこかの段階で自分に対する疑いにさいなまれるものだと思っていて。どこかにシャイな自分がいたり、今の自分で十分なんだろうかと思ったりすることがあるよね。それと、この作品は、楽曲も非常に魅力的だと思う。メロディアスで真実に満ちていて、いつまでも頭の中で鳴り続けるような。
チャン:わかる~。音楽、ずっと鳴っているよね(笑)。そして、今回のキャスト9名がすばらしい! その多くが複数の役どころを演じるから、帽子を変えただけで違う人物になっているということもあったりして。でも、みんな本当にいろいろ試行錯誤しているから、ジョークが次に来るとわかっている私たちでさえ、毎回思わず笑ってしまう。
シュワルツ:すばらしいキャスト揃いで、一緒に仕事していて本当に楽しいよね。主役の恋人たちを演じる(岩﨑)大昇さんと(吉柳)咲良さんは、舞台上で非常に存在感があり、すばらしい歌手で役者で、そして本当におもしろい。9人全員にそれぞれ輝く瞬間があるのもこの作品の魅力かもしれない。もう少し大きめの作品だと、主要な役柄がいて、アンサンブルがいてという感じで、アンサンブルの役者についてはなかなか多くを知るというわけにはいかない。でも、それぞれにフォーカスが当たる瞬間があるこの作品だと、役者一人ひとりについていろいろと知ることができるよね。
チャン:そうなの! 複数の人物を演じるというのは挑戦だけれど、その分、一人ひとりの技術と個性の幅を見せることができる。だから、稽古場で観ていても楽しいし、客席の皆さんも舞台を観ていて楽しいと思う。
(左から)アディ・チャン(振付)、スコット・シュワルツ(演出)
ーー今回の作品へのアプローチ法についてお聞かせください。
シュワルツ:演出家としてまずなすべきことは、物語の中に存在する人間の真実を見つけ出すこと、そして役者たちがその真実をできるだけ楽しく扱えるようにすることだと思っています。人間の真実、経験と、いくぶんかの愚かしさも同時に扱うというところかな。そうすることで、観客にとっても楽しめる作品になると思っていて。それに、チョコレート工場が舞台でチョコレートを作っている人々の物語だということも忘れちゃいけない。咲良さんが演じる天才ショコラティエが苦境にあるチョコレート・ビジネスをどう救うかというのが物語の大きなテーマで、さらには、チョコレートが人生のメタファー、人生において経験していくことのメタファーにもなっています。チョコレートをおいしくする上で、甘さだけでなく多少の苦みが必要なことも描かれている。今回の舞台装置は全体がチョコレートに浸かっている感じというか、チョコレート・ボックスの中に足を踏み入れたみたいな感じになっているんです。
チャン:キャストが複数の役柄を演じる作品だから、振付的にも瞬時に変身できるよう、一人ひとりの人物、またはグループに対して、それぞれユニークな身体言語をつけるよう工夫しています。例えばショコラティエたちなら、グループとして、そして互いの関係性を固有の振付で示す。それと今回、異なる環境へと瞬時に転換していくことが多いので、それぞれのナンバーにも何か特徴をもたせるようにして、これは違う人物なんだ、これは違う空間なんだということを視覚的にもわかりやすくなるようにしていますね。スコットの演出、そして舞台装置のチームと小道具のチームの協力があって、私のビジョンをスムーズに実現することができたし、振付的にも非常にバリエーションが生まれて、創っていて本当に楽しかった。それと、早い段階でスコットから、作品におけるシュルレアリスム的な要素の話を聞いていたので、その要素をすべてに覆いかぶせるようにしたから、ユーモアと楽しさがちりばめられた振付に仕上がったと思います。
シュワルツ:僕はフランス・シュルレアリスム、というかベルギー出身でフランス・シュルレアリスムと同じ時期に活動していたルネ・マグリットに影響を受けているんです。
ーー私も画家ではルネ・マグリットが大好きです。チョコレートも大好きだし。
チャン:この作品、絶対好きになると思う!
シュワルツ:本当だよね! コスチュームの一つはマグリットの絵をモチーフにしているんだけれども、どの絵かはここでは言わないから、劇場に来て確かめて下さい(笑)。僕はこの作品に、マジック・リアリズム的な要素というか、抽象的、観念的とは言わないまでも、ちょっと現実を超えていくようなところを感じていて。マジカルでロマンティックで、ちょっと不可思議なところがあって、そこにチョコレートの粉をふりかけたような作品を目指したんです。
(左から)アディ・チャン(振付)、スコット・シュワルツ(演出)
ーーお二人はチョコレートはお好きですか。
シュワルツ:好き過ぎかも(笑)。
チャン: 毎日食べちゃってる(笑)。稽古場にもたくさんチョコレートがおいてあって。
シュワルツ:東京周辺で買えるチョコレートをいろいろ試して、楽しかったよね。
チャン:みんなで研修を兼ねてダンデライオン・チョコレートのファクトリー&カフェに行ったよね。チョコレートがどう作られているかを知って、テンパリングや型への流し込みも体験して。このチョコレート世界に足を踏み入れる上でとてもよい経験ができたね。
シュワルツ:体験ツアー、意義深かったね。
チャン:あそこで経験したことが振付する上でも役に立った。それにチョコレート、おいしかった!
シュワルツ:みんなにもぜひ味わってほしいよね。
ーーお稽古期間、バレンタイン・デーの時期とも重なっていましたよね。
シュワルツ:それにもうすぐホワイト・デーなんでしょ?
チャン:ホワイト・デーって何?
ーー海外だと、バレンタイン・デーには男女関係なくカードやチョコレートを贈り合うと思うのですが、日本の場合、バレンタイン・デーは女子から男子へチョコレートをあげる日、その一カ月後のホワイト・デーが男子から女子へのお返しの日なんです。
チャン:それも何だかキュートね。
シュワルツ:思うんだけど、この『ロマンティックス・アノニマス』に連れていくことが、相手やパートナーへの最高のホワイト・デーの贈り物になるんじゃないかな?(笑)
チャン:いいかも!
シュワルツ:みんなチョコレートのことを考えたり食べたりしている、ロマンティックな季節の上演ってことだよね(笑)。
ミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』
ーー主演のお二人についてもう少しおうかがいできますか。
シュワルツ:若いのに技術があって、大胆さも兼ね備えていて、一緒に仕事するのがとても楽しいスウィートな二人です。新しいこともいろいろ試してくれるし、全身全霊で役に取り組んでくれて。歌声も非常に印象的だし、舞台上での存在感も抜群。とてもユーモアのセンスがあって、それをこの作品で発揮してくれているのがすごくうれしい。
チャン:その通り。コメディだし、今回の役どころはけっこう難しいところがあると思うのだけど、若いのに、自信をもって取り組んで、直感を信じていろいろ新しいことを試す、そこがすごいと感じてます。二人とも素敵なダンサーでもあるし、熱意をもって作品に取り組んでくれる。同じ言語は話さないけれども、エネルギーのレベルでちゃんと通じ合うものがある。スウィートで素晴らしい人たちだから、リハーサルが終わって帰国したら、恋しくてとても寂しくなるだろうな……。
シュワルツ:二人が演じるキャラクターの関係性が大きなテーマだし、一緒に舞台上にいる時間も長いし、コミカルなデュオという感じもあるから、二人を分けて語るのは難しい。けれど二人ともそれぞれに才能にあふれていて、個人的な経験も注ぎ込みながら、登場人物と、その社会的不安を演じることができる。咲良さんが演じるアンジェリークは人の目が見られない。そして大昇さんが演じるジャン=ルネは他人にふれることができない。抱える不安は異なっているけれども、それぞれがその表現方法をどう見出したか、観客にも楽しんでもらえると思う。
チャン:二人は稽古場でもよく一緒にリハーサルしていて、助け合っていると感じた。アーティストとしてのパートナーシップがすばらしいなと思って見ていましたね。
ーー日本でのお仕事はいかがですか?
チャン:子供のとき家族と旅行で来たことはあったんだけど、日本で仕事するのは初めて。楽しくて帰りたくない(笑)。スコットからもいろいろ聞いていたけれど、こんなにすばらしいとは。高い水準で仕事をやり遂げるクリエイティブ部門の人々に敬意と感謝でいっぱいです。もちろんキャストたちにも。稽古場でもみんな、本当に力を尽くしています。その上で、翌日、稽古場に戻ってくると、前日コメントしたことがクリアになっている。稽古場以外の場所で彼らがどれだけ努力していることか。世界のあちこちで仕事をしてきたけど、日本の皆さんが作品に取り組む姿勢に本当に敬意を感じています。日本の文化も好きだし、人々の優しさと静けさも大好きだし、ここで働くのは本当に楽しいですね。
シュワルツ:同意だね。日本で仕事してもう10年くらいになります。劇団四季の『ノートルダムの鐘』が最初の仕事で、その後『ゴースト&レディ』も手がけました。『ゴースト&レディ』が大阪で上演中で、『ロマンティックス・アノニマス』も大阪に行くので、自分の携わった2本が同時上演、というのはクールだなと思って。東京も好きだし、時間があったら日本のあちこちを旅するのも好きで、この間は長野に行ってスノーモンキーとすばらしいお寺を見たよ。日本の演劇界の人々が、献身的に、情熱をもって仕事に取り組む姿が大好きだし、創造過程において非常にやりがいを感じていて。クリエイティブな人々が大勢いて、その創造性を捧げ、発揮している。いつの世かで、日本人だったんじゃないかなと思う、それくらい、日本にいるのが心地いいですね。来て最初の日からそうでした。旅していて、そういうことってあるじゃない? 飛行機を降りた瞬間からありのままの自分でいられる、自分はホームにいると感じる。日本に来ると僕はいつもそう感じています。
(左から)アディ・チャン(振付)、スコット・シュワルツ(演出)
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=奥野 倫
※取材は2月下旬に実施いたしました。
公演情報
日程・会場
2026年3月1日(日)~3月24日(火)東京・池袋 東京建物Brillia HALL
2026年4月1日(水)~4月5日(日)大阪・東京建物Brillia HALL 箕面
キャスト
ジャン=ルネ:岩﨑大昇
ルド/ロワゾー/レミ:勝矢
スザンヌ/ミミ:花乃まりあ
セールスマン/フレッド:上野哲也
ヤング・ウーマン/CDの声:ダンドイ舞莉花
メルシエ/もごもごエモティフ/マリーニ:こがけん
ファーザー/ピエール/受付係:大谷亮介
脚本:エマ・ライス(英国グローブ座元芸術監督)
歌詞:クリストファー・ダイモンド
音楽:マイケル・クーマン
オーケストレーション:サイモン・ヘイル
原作映画:「Les Émotifs Anonymes」(ジャン=ピエール・アメリスおよびフィリップ・ブラスバンド脚本)
演出:スコット・シュワルツ
振付:アディ・チャン
製作:東宝/STARTO ENTERTAINMENT