ストレイテナー新木場&名古屋公演レポ “一歩ずつ前に進んで大切なものを手に入れた”バンドは20周年目前に何をみせたのか
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ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
STRAIGHTENER “BROKEN SCENE TOUR 2017 AW” 2017.12.12 新木場STUDIO COAST/2017.12.23 Zepp Nagoya
2017年12月23日、Zepp Nagoya。ツアーファイナルとして行った盟友・ACIDMANとのツーマンライブの終盤、ホリエアツシ(Vo/Gt/Pf)が口を開いた。
「20年前に上京して、(当時は)音楽で大成功してやろうと思ってました。でも、現実はそんなに甘くなかった。それでも一歩ずつ前に進んで、大切なものを手に入れて。そして20年経って、今、ここにいます! 横を見たらACIDMANのようにかっこいい仲間がいて、目の前にこんなにアツいファンのみんながいて。何かでっかいものを手に入れたわけじゃないけど、気づいたらこんなに大切なものが増えました。これからももっとかっこいいバンドでいられるように頑張るので、よろしくお願いします」
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
珍しいなと思った。テナーのライブで聞くMCといえばちょっとシャレた感じか、とことんユルいのが常で、こんなに正面切った言葉を投げかけてくることはあまり記憶にない。と同時に、とても感動してしまった。発言の内容もさることながら、そのときのホリエの表情がすごく晴れやかで充足感に満ちていたことに。そして、バンドが20年目を目前にしてなおトップフォームを更新してみせるような素晴らしいライブを展開したそのステージ上で、こんなにストレートに想いを伝えてくれたことに。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
2017年、ストレイテナーは『BROKEN SCENE TOUR 2017』と銘打った対バンツアーを6月にまわったあと、夏フェスなどに出演、トリビュートアルバム『PAUSE ~STRAIGHTENER Tribute Album~』のリリースを経て、11月から再び『BROKEN SCENE TOUR 2017 AW』で全国ツアーをまわってきた。筆者はその中の複数本を観ているが、今のテナーはまずパフォーマンスの質と更新ぶりがすさまじいし、同時になんとなく風通しの良いような、いまバンドが良い状態にあるんだろうな、という空気が随所に感じられる。本稿では、その中から12月12日に行った新木場STUDIO COASTでのワンマンと、前述したファイナル公演で観たストレイテナーの姿について書きたい。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
まず新木場でのワンマンは『PAUSE』収録曲を軸に、というか全てやったため、必然的に認知度の高い曲が目白押し状態となり、そこにフックとして機能する楽曲を差し込んでいく内容となった。ホリエがまばらに爪弾くアルペジオから耳慣れたイントロが流れ出して、冒頭から会場を歓喜で包んだのは「ROCKSTEADY」。キレのある演奏とはこういうもんだ、と言わんばかりな歯切れのいいサウンドが場内を満たし、掲げられた無数の拳を煌々と輝く照明が照らす。この曲をはじめ、トリビュートアルバムのおかげで久々にライブで聴ける曲があったり、各アーティストによる愛あるアレンジをCDで堪能したあとに“本家”のライブに足を運んだら今度はオリジナルを聴けるという、二重の楽しみが用意されていることが嬉しい。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
「TRAVELING GARGOYLE」や「From Noon Till Dawn」といったアッパーな楽曲が中心の前半戦に「Ark」のような意外性を忍ばせたかと思えば、「踊ろうぜ、新木場!」と「DISCOGRAPHY」「KILLER TUNE」とダンスミュージックの色を感じさせる楽曲を連続投下、ナカヤマシンペイ(Dr)が全身をしならせながら引っ叩く雷鳴のごとき打音がフロアを揺らし、跳ばす。この辺りの組み立てが本当に巧みなバンドだ。「SIX DAY WONDER」と「シンクロ」、それに「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」の前半部分は、ホリエがピアノを弾きながらじっくり届け、音色やフレーズ、エフェクトを駆使しながら楽曲を彩る大山純のギターと、平素の凶悪な歪ませっぷりと比べてグッとあたたかみのある音色を奏で出す日向秀和のベース、そしてホリエの柔らかな歌声が楽曲に寄り添い、美しいメロディラインをさらに際立たせていく。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
「TENDER」で、師走の喧噪や忙しなさとは違うどこかキラキラとした12月の情景を呼び起こしたあとの後半戦では、ラストスパートをかけるごとく「DAY TO DAY」「シンデレラソング」、さらには新シングルに収録された秦基博のカバー「鱗(うろこ)」などを続ける。終盤へ来てこのキーの高い楽曲群が並ぶ構成は側から見てもなかなかハードだが、ホリエはなんなく乗りこなしてみせ、むしろ曲を追うごとに歌声がどんどん伸びやかになっていく印象すらある。オーディエンスはといえば、「Melodic Storm」で大シンガロングを巻き起こしたり、メンバーすら感覚でしか理解していない(この日のMCで判明)「SENSELESS STORY TELLER SONY」の変則的な拍子にも、拳をガンガンあげて応えていた。本編を「Farewell Dear Deadman」で締めくくった後、アンコールは「シーグラス」と「REMINDER」。派手なセットも演出も一切なし、あるのは音楽愛と確かなテクニックが生み出す優れたロックソングと、創意工夫、ちょっとの遊び心のみ。それさえあればこんなにも強固かつ胸踊らせるロックは鳴らせるんだと、涼しい顔して体現できる今の彼らの姿は、ここに至るまでの20年間の歴史の上にある――そう語らずとも音と佇まいから伝わってくる、すがすがしい夜となった。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
彼らの20年を語る上で、もう一つ欠かすことのできない要素といえば、ともに時代を重ねてきた仲間の存在。20周年イヤーの本格的幕開けを目前に控えた今回のツアーで、セミファイナルをはASIAN KUNG-FU GENERATIONと、ファイナルをACIDMANとのツーマンで行ったのもきっとその表れだ。決して慣れあいでつるんだりムラ化したシーンを形成してきたわけではなく、むしろその逆のような人たちだけれど、キャリアを重ねたいま音楽性や信念の部分で共鳴し、互いに刺激しあっている事実が素晴らしい。それはファンも同様で、ストレイテナーがトリ前を務めたACIDMANの主催フェス『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』の現場においても、キャリア20年前後のバンドたちとそのファンは凄まじいエネルギーを生んでいた。そのちょうど1ヶ月後の12月23日に行われたのが、ACIDMANを招いたツアーファイナルだ。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
ACIDMANは約50分のステージで全8曲を披露。対するストレイテナーは、ツーマン形式にしてはかなりロングセットと言える15曲+アンコールの2曲。トータル3時間近い大ボリュームだったのだが、約1年前に行われたACIDMANの20周年を記念したツーマンツアーの緒戦、ゲストとしてストレイテナーが出演したときもそうだった。そんな符合が同時代を生きるバンド同士による祝福の交換にも映ったし、この日も大木伸夫(Vo/Gt)が自身とテナーを“ニコイチ”と表現し、ストレイテナーのメンバー然として『PAUSE』の告知までしてみせたように、両者の関係と信頼はとても深い。MCでは、浦山一悟(Dr)が同じドラマーをライバル視していると明かした上で、ナカヤマがライブ前にシャドーボクシングをしていたので、自身はシャドー湯切りをして対抗した(大のラーメン好きであり“SAI”ではラーメン店をプロデュース)、と笑いを誘い、それを受けたナカヤマがお返しに「さっき対抗心とか言ってたけど、1曲めの1音めでいきなり(自身の)スティックが折れたのはそういうことか、と」と嫌疑をかける一幕も。……最高だ。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
「造花が笑う」「swayed」とデビュー当時の曲を冒頭から並べ、ニューアルバム『Λ』にも収録された最新シングル「ミレニアム」へとつなぎ、大木の歌い続けてきた思想を象徴する「FREE STAR」「最後の星」へと至るACIDMANセットのリストも、バンドの歴史そのものだった。そして、「やらないわけにはいかない」と、普段から好きな曲であることを公言しストレイテナートリビュート『PAUSE』でも名カバーをみせていた「SIX DAY WONDER」のACIDMAN Ver.を生披露。待ってました! 抑えの効いた前半から徐々にエモーションを増していき最後にはパンキッシュに疾走する、ACIDMANのあらゆる面を凝縮した名カバーから、もはや説明不要の「ある証明」、テナーとファンへの親愛もにじんだ「愛を両手に」を披露して、主役にバトンを渡した。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
「ROCKSTEADY」から「TRAVELING GARGOYLE」というはじまりは新木場同様だったが、演奏の仕上がり具合はこの短期間でもさらに増した印象で、タイトな音像の中にこちらの身体を問答無用で突き動かすパンチが効いている。この日も『PAUSE』収録曲は全て披露され、もちろん“本家”による「SIX DAY WONDER」も。「『PAUSE』を聴きすぎて、(ACIDMANが同曲を披露した際に)うわ、本物だ!と思った」というホリエの発言を受け、すかさず日向がACIDMAN Ver.のイントロフレーズを演奏するとホリエがちょっと大木っぽく歌い、ナカヤマが「俺が歌おうと思ったのに!」と悔しがる――という楽しいやりとりもあった。「冬の太陽」や「シーグラス」あたりでは、早速『PAUSE』からの“逆輸入”か?という新たなアレンジもチラッと顔をのぞかせたりと、楽曲単位でも常に更新を続けるのがテナーの流儀。そのあたりをじっくり聴いてみるのも楽しい。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
新木場ではやらなかった「GHOST OF CHRISTMAS PAST」。クリスマスイヴの前日だったこの夜に聴く軽やかなサウンドは幸福感と安らぎを生み、同曲が収録されているアルバム『LINEAR』が2007年リリースであることを踏まえると、冒頭の<閉じた空に向かって打っ放せよ 10年前にしまいこんだガラクタを>という歌詞にちょっと特別な感慨も湧く。後半には「Melodic Storm」「シーグラス」とライブアンセムを連投。オフマイクで客席とシンガロングするシーンや、随所で見られたホリエの柔らかで満足げな笑顔からは、ライブの手応えやツアーを完走したことへの充足感のほかに、今のバンドの充実ぶりも伺えた。最後はアンコールの「鱗(うろこ)」と「REMINDER」を完璧にキメてフロアを加熱させきった後、ACIDMANメンバーを呼び込んでなんとも締まらない感じのゆるいトークで締め。初夏から初冬へと季節をまたいだロングツアーを終えたのだった。
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
これはあくまで個人的な意見だが、ストレイテナーほどディスコグラフィを眺めていて「これが代表作」「彼らの名盤といえばこれ」という評価が定まらないバンドもなかなかいないと思う。それは、日々更新されるその時々のバンドのモードを音に反映させつつ、ときには冒険も織り交ぜながら、毎作ちゃんとテナーらしい納得感のある盤に仕上げているからであり、言い方を変えれば、その時点での最新作が一番の名盤であると胸を張れる作品を世に出してきたということだろう。しかも過去作の楽曲もライブの現場でアップデートを施しながら色褪せないようにしているから、後々になって「こんなにいい曲だっけ?」と化けるパターンもある。まだアナウンスこそないが、20周年イヤー・2018年に“もっとかっこいいバンド”になった彼らはどんな作品を世に出してくれるのか。年末に目撃した2本のライブでの心技体が充実した様子を思えば、そこにはもはや期待しかない。
取材・文=風間大洋 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER) ※ライブ写真は12/12公演のものとなります
ストレイテナー 撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
1. ROCKSTEADY
2. TRAVELING GARGOYLE
3. Ark
4. DISCOGRAPHY
5. KILLER TUNE
6. From Noon Till Dawn
7. SIX DAY WONDER
8. シンクロ
9. SAD AND BEAUTIFUL WORLD
10. 冬の太陽
11. Alternative Dancer
12. 月に読む手紙
13. Curtain Falls
14. TENDER
15. DAY TO DAY
16. シンデレラソング
17. Melodic Storm
18. 鱗(うろこ)
19. SENSELESS STORY TELLER SONY
20. Farewell Dear Deadman
[ENCORE]
21. シーグラス
22. REMINDER
STRAIGHTENER “BROKEN SCENE TOUR 2017 AW” 2017.12.23 Zepp Nagoya
ACIDMAN
1. 造花が笑う
2. swayed
3. ミレニアム
4. FREE STAR
5. 最後の星
6. SIX DAY WONDER
7. ある証明
8. 愛を両手に
1. ROCKSTEADY
2. TRAVELING GARGOYLE
3. KILLER TUNE
4. From Noon till Dawn
5. SIX DAY WONDER
6. シンクロ
7. SAD AND BEAUTIFUL WORLD
8. 冬の太陽
9. GHOST OF CHRISTMAS PAST
10. TENDER
11. DAY TO DAY
12. Melodic Storm
13. シーグラス
14. SENSELESS STORY TELLER SONY
15. Farewell Dear Deadman
[ENCORE]
16. 鱗(うろこ)
17. REMINDER