喜怒哀楽あらゆる感情を多彩な楽曲に載せた、PELICAN FANCLUB初のホールワンマン
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
PELICAN FANCLUB ONEMAN LIVE "SPACE OPERA" -FUTURE-
2018.2.4 Mt RANIER HALL PLEASURE PLEASURE
『“SPACE OPERA” -FUTURE-』と題された、PELICAN FANCLUBにとって初のホールワンマンが渋谷・Mt RANIER HALL PLEASURE PLEASUREで行われた。先に言ってしまうと、“OPERA”と銘打ってはいるものの、別に歌劇仕立てのライブだったわけでも、なにか明確なコンセプトが見えるかたちで存在したわけでもなかった。たしかに開演前のBGMやところどころに挿入される映像には“SPACE”を想起させるシーンはあったし、そのテイストからレトロフューチャー的な“FUTURE”も感じ取れたが、それらはあくまでも演出の一端であり、このライブの本質、語るべき部分はそこではなかったと思う。ではなぜ、この日は『“SPACE OPERA” -FUTURE-』として開催されたのか。そのあたりに想像をめぐらせながら振り返っていきたい。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
バンドの円形ロゴが地球となり、惑星や衛星が次々に映し出される――というオープニング映像とSEが、シミズヒロフミ(Dr)の4カウントを契機に鮮やかなバンドサウンドへと塗り変えられ、「朝の次へ」からライブが始まった。反復するギターと気の利いたシンセの音、スケールの大きなコーラスが印象的な同曲を終えると、エンドウアンリ(Gt/Vo)が笑顔で挨拶。ライブハウスとは違う環境ゆえに緊張もあると後のMCで明かしていたが、1曲終えた段階で早くも勝手をつかんだのか、グッと客席との距離を詰め、クラップに導かれて「SF Fiction」へ。見た目上一番SFでスペーシー(髪色とか)なカミヤマリョウタツ(Ba)が前後左右へと積極的に動き回りながらのプレイで、視覚聴覚双方からライブにダイナミクスをつけていく。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
正確無比なシミズのドラムソロからなだれ込んだのは「Dali」。ユラユラとしたジェスチャーも交えながらエンドウが中毒性の高いメロディを歌い上げたかと思えば、続く「プラモデル」は深く歪ませたギターによるシューゲイザー的アプローチ。轟音と、差し込まれる小気味よいカッティングは、クルマダヤスフミ(Gt)の本領発揮といったところ。この時点の4曲すべて収録作品が異なる事実が示すように、ミニアルバム3作の再現ライブシリーズを終えたばかりの4人は、過去作からもバランス良く楽曲を取り入れてセットリストを組んできたし、その演奏の精度も高い。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
鋭いビートが牽引するポストパンクな「Black Beauty」では、上着を脱ぎ捨てたエンドウがフラストレーションを炸裂させるかのようにシャウトを繰り返して場内のボルテージを上げ、「許されない冗談」への繋ぎでは「喜怒哀楽、全部ここへ置いていこう。音楽は傷つかない、死にやしない。目の前にいるのがPELICAN FANCLUBだ、よろしく」と勇ましく宣言。この喜怒哀楽を置いていくという趣旨の言葉はこの日何度も発せられたが、「音楽に感情を」を標榜する彼らと、彼らが生み出す多彩な楽曲群は、単に彼らのエモーションを投げかけるのみならず、聴き手一人ひとりのあらゆる感情を揺り動かし、それを委ねるに足るもの。そしてその感情の裏側には背景や要因、物語があるわけで、つまりこの日は、彼らの音楽に聴き手が各自の物語を重ねられるという意味で、歌劇的な側面があったわけだ。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
直近のリリースタイトル「Shadow Play」と未発表の新曲を並べた後は、彼らにとって初めての、ゲストを交えてのセッションコーナーとなった。最初に登場したテスラは泣かない。の飯野桃子(Pf/Vo)とは「深呼吸」と、さらにサックス・βkを迎えて「M.U.T.E」をプレイ。特に後者が秀逸で、アーバン・ソウルな音像と女声のコーラスが楽曲の魅力を増幅、エンドウも「自分たちの曲がこんなに良かったんだ!って。……自惚れですけどね(笑)」と自画自賛。「Luna Lunatic」では佐久間公平が登場し、クルマダ、エンドウとともにトリプルギターの編成で魅せたが、分厚いウォール・オブ・サウンドを形成するタイプの楽曲ではなく、なんならギターが鳴っていない瞬間もある曲でそれをやるところがニクい。「説明」の曲中でKMCが登場し、エンドウのスポークンワードと掛け合うようにラップを繰り出して言葉の洪水を生み出したあと、ゲストコーナーのラストを飾ったのはSHE’Sの井上竜馬だ。過去何度も対バンしている盟友ピアノロックバンドのフロントマンは、「(自分の担当楽器が)なんでアコギやねん(笑)」とツッコミを入れつつ「花束」でエンドウと見事なハーモニーを響かせてくれた。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
ふたたび4人に戻り、「渋谷、いけるか!」と突入した後半戦、極めつけは「ダダガー・ダンダント」「Night Diver」「記憶について」のノンストップ3連投。いずれもイントロや歌い出しでそこかしこから歓喜の声が聞こえ、多くの手が挙がったし、随所でシンガロングするシーンも見られた。これまで観てきたPELICAN FANCLUBのライブでは、アッパーな曲調でも案外オーディエンスの目に見えるリアクションが少なめというか、どちらかといえば4人の一挙手一投足に五感を集中させているような印象であったが、この日は曲を追うごと、ステージの上と下とで感情の交換がなされていくごとに、目に見える興奮が自然と生まれていた。『Home Electronics』以降、楽曲におけるポップスとしての強度と「一緒に楽しもう」というパフォーマーとしての意識を強めてきたことが結実しつつあるのだろう。
ラストは「Esper」。タイトルになぞらえてホール全体を一つの宇宙船とするならば、喜怒哀楽あらゆる感情が去来し渦巻く中を旅するような、およそ90分の濃密な本編だったが、エンドウが何度も何度も「最高」「楽しい」と素直な感情を言葉にしていた通り、最後はやはり皆で<あはは>と笑い飛ばして締めくくるのが相応しい。
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
アンコールでは一つの発表が。それは4月の自主企画『DREAM DAZE 3』を以ってクルマダが脱退、以降バンドはスリーピースの形態で活動していくということ。個人的には、フォーメーション上「前に立つストライカー3人に気の利いたパスを出す職人肌ボランチ」みたいな彼のスタンスとプレイがとても好きだったし、残念な報せではある。彼ら自身にとっても苦渋の決断であったことは想像に難くない。だが、敢えてクルマダがライブの場で自らの口からはっきりと伝えた姿から、彼とバンドそれぞれの音楽人生における前向きな意志、決意が感じとれたのもまた事実だ。
サブタイトルは“FUTURE”――。彼らがこの日提示したかったのはきっと、“これから”のことだ。進むべき道は分かれるが、PELICAN FANCLUBはギタリスト・クルマダヤスフミと過ごした歴史や生み出した楽曲、たくさんの瞬間、感情をまとめて搭載し、ファンのかける想いや喜怒哀楽も全て受け止めて、ここからまた未来へと向かう。
取材・文=風間大洋 撮影=伊藤惇
PELICAN FANCLUB 撮影=伊藤惇
2018.2.4 Mt RANIER HALL PLEASURE PLEASURE
1. 朝の次へ
2. SF Fiction
3. Dali
4. プラモデル
5. Black Beauty
6. 許されない冗談
7. Trash Trace
8. 夜の高速
9. Shadow Play
10. 新曲
11. 深呼吸
12. M.U.T.E
13. Luna Lunatic
14. 説明
15. 花束
16. ダダガー・ダンダント
17. Night Diver
18. 記憶について
19. Esper
[ENCORE]
20. 新曲
21. Karasuzoku
4月6日(金)東京・forestlimit
OPEN 19:00 START 19:30
TICKET \2,500+1Drink
4月7日(土) 東京・forestlimit
OPEN 11:30 START 12:00
TICKET \2,500+1Drink
4月7日(土) 東京・forestlimit
OPEN 17:30 START 18:00
TICKET \2,500+1Drink