『みうらじゅんフェス』に潜入! 1,000点以上の国宝ならぬ「ボク宝」が会場を埋め尽くす【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.19 田中未来(ライター)
展示風景
美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、ライターの田中未来さんが、川崎市市民ミュージアムで現在開催中の『MJ’s FES! みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958』の見どころをたっぷりと紹介します。
川崎市市民ミュージアムにて、『MJ’s FES! みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958』(2018年1月27日〜3月25日)が開催中だ。本展は、「ゆるキャラ」や「マイブーム」の命名者であり、阿修羅像をはじめとする「仏像ブーム」の先駆者となったみうらじゅんの全貌に迫るもの。
会場エントランス
長髪に黒のサングラスがトレードマークのみうらじゅん。特徴的な外見とは裏腹に、「一体何をしている人なのか」が掴みにくい人物だが、その活動領域はイラストレーター、エッセイスト、ミュージシャン、映画原作者など多岐にわたる。
下絵・原稿一式(一部)
展示風景
展示前半では、幼少期から青年期までに手掛けた膨大な量の自作詩集やエッセイ、スクラップ、漫画、作詞作曲アルバムを公開。後半には、過剰な収集癖から生じた「◯◯ブーム」のコーナーが続き、「ゴムヘビブーム」「甘えた坊主ブーム」「カスハガブーム」など、みうら本人がこれまで集めてきた風変わりなコレクションが陳列されている。また、イラストレーターや漫画家として手がけた原画も複数展示される。みうら本人曰く、「見どころは特にありません。それぞれが面白いと感じたものが見どころです。友人との話のネタにしてもらうなど、笑って楽しんでもらえれば良い」とのこと。1,000点を越える作品の中から、ほんの一部を紹介しよう。
ツッコミ如来立像 1994年
展示風景
“とっておきのもの”ではなく、“とっておくのもの”
2018年2月1日に還暦を迎えたばかりのみうらじゅん。第一会場となる企画展示室1では、みうらじゅんの人間史ともいえる生誕から思春期を経て、現在に至るまでの創作活動をたどる展示になっている。
クジラ絵画 1963年
肩たたき券 1960年代
ケロリ新聞 第5号 1966年
5歳の頃に描いた《クジラ絵画》や、母親に贈呈した《肩たたき券》、小学生の頃に自主制作した《ケロリ新聞》など、注目すべきはそれらが捨てられずに状態良く保存されていることだろう。みうらは思春期の創作物も、「恥ずかしいけど我慢してとってある」という。川崎市市民ミュージアムの広報担当・坂下冬子氏によると、「“とっておきのもの“ではなく、すべては“とっておくのもの”」という名言が、みうら本人の口から語られたようだ。
幼少期から発揮された編集力
小中学生の頃に手がけた《怪獣スクラップ》や、《仏像スクラップ》からは、好きなものを雑誌から抜き出し、切り貼りして再構成するみうらじゅんの編集力が発揮されている。
怪獣・怪人・怪物しゃしん テレビ映画④ 1967年
仏像たちの神秘(4)寺院随筆展編 1969-71年
仏像スクラップ(一部)
常に、第三者に見られることを意識していたという行動の根底には、一人っ子だったが故に、遊びにきた友人を引き留めたかったという理由が存在している。みうら本人曰く、これらの作品は「接待するための材料」だったのだ。
捨てない戦いの歴史
中高生の思春期には、思い出したくもないような恥ずかしい創作をした経験が誰しも一度はあるだろう。それさえも闇に葬ることなく、すべて手元に残したみうらじゅんの勇気は、「捨てない戦いの歴史」だったという。
ヘラクレス純ちゃん 改題 みうらじゅんの肖像 1973年
自作の詩やエッセイをはじめ、高校時代には「女の子にモテるためには歌を作らなければ」といった使命感から、476曲のフォークソングを残している。みずから手がけたライナーノーツは、ぜひじっくり目を通してほしい。
Guitar Song BookⅡ 1970年代
自作ライナーノーツ(部分) 1974年
また、展示室の一角には、自身の「DT(=童貞)」を捨てるきっかけとなった女性の肖像画が、当時作った詩と共に展示されている。広報の坂下氏は、担当学芸員に向けてみうら本人から「大事に大事にとってあった一枚なので、大事そうに飾ってください」とお願いされたと話す。
左:肖像画 1977年 右手前:DIARY 1972-2001年 右奥:INNER PORTRAIT Blues 1977年
繁華街から仏の教えを見つけ出す《アウトドア般若心経》
幼い頃から仏像に魅力を感じていたみうらじゅん。仏教系の中学・高校を卒業し、成人してもその熱意は損なわれなかった。第一会場の終盤には、街中から「般若心経」の278文字を探し出し、写真に撮ってコラージュした作品《アウトドア般若心経》が展示される。完成するまでに4年半の歳月をかけたという努力の賜物だ。
アウトドア般若心経 2018年
自分で価値を見つけ出す面白さ
第二会場のアートギャラリーでは、みうらじゅんがデザインしたゆるキャラの着ぐるみをはじめ、「マイブーム」という造語を生み出したみうらによる多数の「◯◯ブーム」コーナーが出現する。
みうらじゅんデザインのゆるキャラ
「価値のあるものは一つも並んでいない。そこに価値があるように見せているだけで、ツッコミを入れて楽しんでくれれば良い」と語るみうらの言葉に従い、ここでは鑑賞者みずからが、膨大な量の展示作品の中から価値を見つけ出す面白さに浸りたい。それぞれのブームに添えられた、クスッと笑える解説パネルも見逃せない。
ヤシやんブーム
「もらってもあまり嬉しくないみやげ物」、イコール「いやげ物」とみうらが名付けた項目では、木魚に抱きつくような姿で眠る坊主の置物を「甘えた坊主」と命名。ほかにも、謎の英字が印字された紙バッグを「バッグ・オブ・英字ズ」、みやげ屋で度々見かける金色のプラスチック模型「金プラ」、名所とは呼べないような場所が印刷された絵はがき「カスハガ」など、みうらじゅん独特のセンスが光るネーミングも併せて楽しめる。
甘えた坊主ブーム
バッグ・オブ・英字ズブーム
金プラブーム
カスハガブーム
「冷マ」に「はかせたろう」、目からウロコのマイブーム
みうらじゅんが近年ハマっている「冷マ」とは、冷蔵庫に貼るマグネットのこと。水道工事の宣伝用としてポストに投函されることの多い「冷マ」は、家庭で見たことがある人も少なくないだろう。本展では冷蔵庫4台に「冷マ」が敷き詰められるようにして貼られ、存在感を増している。このパートは意識的にインスタレーションに寄せてあるそうで、“アート感”がより強く出た仕上がりとなっている。
冷マ 2018年
西洋の有名なヌード絵画に黒マジックで加筆を施し、名画のヌード女性に下着を履かせていく《はかせたろう》。見慣れた名画が一変して、艶っぽい印象を与えている。
はかせたろう 2018年
会場限定のユニークなみやげ物も
1階のミュージアムショップでは、会場限定の「冷マ」をはじめ、みうらじゅん考案のキャラクターグッズやTシャツが販売中だ。すぐに完売してしまう商品もあるようなので、欲しい方は早めにチェックしておこう。
会場限定の冷マ
『MJ’s FES! みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958』は、2018年3月25日まで。広報の坂下氏は、「これまでみうらさんのコレクションを披露する展示はあったが、本人そのものを知る機会はあまりなかった。なかでも展示前半の内容は、みうらさんの本質に触れられるもの。幼少期から“みうらじゅん”だったということがわかり、努力してきた跡がみえる」と話す。みうらワールドに、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
会期:2018年1月27日(土)〜3月25日(日) 休館日:毎週月曜日、3月22日(木)
会場:川崎市市民ミュージアム
開館時間:9:30〜17:00(最終入館は16:30)
観覧料:一般800円(640円)、大学生・高校生・65歳以上600円(480円)、中学生以下無料
※()内は20名以上の団体料金
https://www.kawasaki-museum.jp/exhibition/9910/