MOROHA この日の相手は宿敵のバンド・SUPER BEAVER ー真っ向からぶん殴ってくれる2組のアーティストがいた
MOROHA
MOROHA自主企画 『怒濤』 第十三回 SUPER BEAVER
2018.02.14(WED)新宿LOFT
たった一度の人生。限られた命のことを僕らは時々、忘れてしまうことがある。知らないうちに惰性で過ごしている生活を真っ向からぶん殴ってくれる2組のアーティストがいたーー。
2018年2月14日、新宿LOFTにてMOROHAの自主企画『怒濤』がおこなわれた。このイベントは2014年にZAZEN BOYSとの対バンから始まり、今回で十三回目を迎える。これまでクラムボン、竹原ピストル、BRAHMANなどMOROHAよりも年上のアーティストを招いてきたが、この日の相手は同年代にして宿敵のバンド・SUPER BEAVERだ。
アジア最大の歓楽街と言われている歌舞伎町に会場はあって、中へ入ると本番1時間前からフロアは満員。
SUPER BEAVER
開演時間になり、最初に登場したのはSUPER BEAVER。ステージに登場するや否や、渋谷龍太がMOROHAの『俺のがヤバイ』の歌詞になぞらえて「<MCアフロとそれ以外>の、“それ以外”筆頭でやらさせていただきます! お元気ですか?それじゃあ、先制攻撃させていただきます!」。と話し、間髪入れずに「証明」からスタート。サビで渋谷(Vo)が「両手を上に挙げて」と言うと、スポットライトに照らされた4人へ向けて、無数の腕が高く挙がる。みんなが一斉に挙げるもんだから、よくステージが観えない。渋谷は叫ぶ<僕もあなたも一人なんだよ 生まれて死ぬまで一人なんだよ>だけど、彼らの音楽があればバラバラの僕らは、こうやって一瞬でも1つになれるのだ。
SUPER BEAVER
のっけからトップギアで踏み込み、2曲目に披露した『青い春』の時点で僕の体はリズムを刻んで止まらない。知らないうちに、声も上げていた。気持ち良いな、ライヴって…。気づけば完全に気持ちを持っていかれてた。
SUPER BEAVER
MCに入り、渋谷は一生懸命に音楽をやっていると、周囲から「熱くなるなよ」やら「夢ばっかり見てるなよ」と言われてしまう風潮を嘆く。「でも、つまるところ色んな人と出会って、真面目に音楽をやってたら、それしかないと思ってるの俺たちは。俺たちとMOROHAの思想は100%同じじゃないでしょう。しかしながら、音楽の芯の部分を大事にしているという点で、俺はヤツらにすごく感銘を受けてて、今日のステージに立たせてもらうことを決めました」。心から認めている相手だからこそ本気でぶつかりたい、そんな風に聞こえた。「……で、誰のがヤバイって? ねぇMOROHAさん、先手必勝って言葉を見せてやりますよ」そう告げて「正攻法」、「irony」、「赤を塗って」と容赦ない攻撃を炸裂。オーディエンス全員を躍らせ、熱唱させて、盛大な拍手を生み出す、圧倒的なステージメイクを魅せつけた。
SUPER BEAVER
中盤に入り、再び渋谷が語り始める。「MOROHAと俺らは出会って2年ぐらいなんだけど、初めのうちはMOROHAの存在がすごく癪(しゃく)だったの。どの先輩も口を揃えて、「SUPER BEAVERってMOROHAとやったことある? アイツらめちゃくちゃ良いから一緒にやった方が良いよ」ってどこでも言われて。強い志でやっている音楽だと分かるからこそ、言われると悔しくて。でも話してみて、対バンの回数を重ねて<中略>今では俺ももっと頑張らなきゃな、って思わせてくれる友達だと思ってます」MOROHAに対する切実な思いを告白した後に披露したのは「人として」。<人は騙す 人は隠す 人はそれでも それでも笑える>当時21、2歳でメジャーデビューを果たした彼らは、大人の世界へ入ってしまったために裏切りや挫折を味わって、音楽の楽しさを見失ってしまう。そして、わずか2年でメジャーシーンから離れることを決意する。それは自分たちの音楽を取り戻すためだった。「せっかくメジャーにいたのに勿体ない」と言われながらも、自主レーベルを立ち上げた4人が見つけた答えはこの曲の中にある。<信じ続けるしかないじゃないか 愛し続けるしかないじゃないか>。「愚直と言われようが、後ろ指をさされようが、あなたと真っすぐ向き合うためには“それ”しかないと思ってます。『人として』という曲でした……」。正直に言うと時々、SUPER BEAVERを直視できない時がある。それほどまでに彼らの音楽は無垢で、誠実で、力強い。大人になった僕はそこまで素直になれない……と後ろめたい気持ちになってしまうからだ。<人として かっこよく生きていたいじゃないか>すごくシンプル、だからこそ難しい。だけど誠実に音楽と向き合う4人を見て、自分もそう生きてみてもいいんじゃないか、と背中を押される。
SUPER BEAVER
最後に演奏したのは「ありがとう」。「言わなくても伝わることは、そりゃあるかもしれないけど。言った方が伝わることの方が多いんじゃないかな、って思ってます。だからこそ……単調と言われようが、誰だって分かると言われようが、声を大にして伝えていけたら」。第一声、優しい声で歌う<ありがとう 見つけてくれて ありがとう><ありがとう 受け止めてくれて ありがとう>。あまりにクサい、その言葉。だけど飾ることが出来ない4人だからこそ、真っすぐ伸びるストレートの球種は心のキャチャーミットに突き刺さる。
最大級のバラードをエンドロールに、SUPER BEAVERは計10曲を歌い終えてステージをあとにした。誰もいないはずのステージには、まだ4人の余韻を感じる。先制攻撃にして決定打を放った彼らに大きな歓声が上がった。
続いて登場したのはMOROHA。演奏を始める前、ステージの上で笑顔を見せる2人。SUPER BEAVERに比べると、和やかな空気が漂っていた。「MOROHAと申します。よろしくどうぞ!」開幕宣言の後に披露したのは「革命」。先ほど手を挙げて踊っていたオーディエンスが、ピタっと体を止めて呆然とステージを見つめる。そして「奮い立つCDショップにて」、「恩学」と初期の楽曲を立て続けに歌った。
MOROHA
アフロが話す。「(渋谷と)同じように俺も大好きな先輩から「MOROHAは絶対にBEAVERと演った方がいいよ、めっちゃカッコイイから」って言われて。でも、俺の大好きな先輩が他のバンドを褒めるなんて、あってはならないから。「あぁ~別に(対バンしなくて)いいっすね」って言って」会場は笑いに包まれる。そして、今日はチョコレートの数を競っていること、UKがサウナでゲイのおじさんに襲われそうになったことなど、緊張感のない話が続く。
おいおい、なんだよ。SUPER BEAVERがあれだけ正面から勝負したんだから、もっと牙を剥けてくれよ……。正直、この日のMOROHAから、いつもの気迫は感じられない。
MOROHA
しかし、5曲目の「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」で空気は一変する。白いスポットライトに照らされながら、先ほどの穏やかな表情とは違う、鬼気迫る視線を向けるアフロ。昨年、12月に武道館公演を発表したSUPER BEAVERに対して2人の思いを乗せる。<続々と売れていく同世代 先に行かれた武道館ワンマン おめでとうはやっぱり言えない>“簡単に祝えるような、余裕は持ち合わせてねぇから”そんな意思表示を感じた。<勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ>いつだって、誰にだってファイティングポーズをとる。だからこそMOROHAはカッコイイのだ。
MOROHA
闘志という名の熱気は高まり、アフロは尋ねる。「これからどうする? いやぁ、そういんじゃなくて……もうキレイごとは止めろよ」。そう言って歌ったのは『tomorrow』。将来の夢はなんだっけ? もう諦めたの? 無理ってなんで? 他の人が叶えてくれれば良い? そうじゃなくて、お前がやるんだろ。彼らの辛辣な思いが容赦なく心のかさぶたを剥がしてくる。やりたいことを諦めた方が人生はラクだ。でも、MOROHAの音楽はそれを許さない。
MOROHA
後半戦に突入し、「お前が決めたんだろう。あの街(東京)でやってやるって」と放ち、歌ったのは「上京タワー」。自分を変えるために、自分の夢を叶えるために飛び込んだ東京。それから約10年、30歳になった彼らは遠い故郷へ思いを馳せた「遠郷タワー」を作った。<「良かった 本当に良かった 故郷を捨てて あの街を捨てて しがみ付く手を振り切って良かった」と言えるように>。オレンジ色の照明に包まれながら、温かいギターの音色と優しい声が響く。ステージに立つ2人だけでなく、この街(東京)で暮らす多くの人が田舎を捨てて、なりたかった自分になろうと励んでいる。気づけば隣にいる30代ほどの男性が泣いていた。「あなたもそうなんだね」と、つい胸が熱くなった。
MOROHA
最後に歌ったのは「四文銭」。<お願いします どうか聴いてください お願いします>一生懸命、オーディエンスに向かって訴えるアフロ。ステージの上で、そんな言葉を口にするのは野暮かもしれない。カッコ悪いかもしれない。だけど、その姿こそが潔くて眩しい。<命を懸けて 命を描け>死に物狂いで自分の人生を全うする2組だからこそ、今日という日が訪れたのだと思った。曲が終わろうとする中、アフロが言った。「バレンタイン対決、結果はSUPER BEAVERの圧勝でした。<中略>だけど、この対決で最も輝いたのは誰だろう? “アフロさんへ”って書いてあるチョコレートを見たときに、ものすごく胸が温かくなって。多分、今日一番輝いたのはその思いを届けようとしてくれた、あなたです」。「勝ち負けではないけれど、人に何かを伝えたいと思うその時、人にこの気持ちを手渡したいと思うその時、俺たちはビビったり、怯えたり、震えたりする。だけれども打ち勝っていこうぜ。手渡すその手がぐっと掴みとるんだって、そう信じて……」。鳴り止まない拍手が2人に向けられる。こうして、2時間に及ぶライヴは幕を閉じた。
……その日の夜、僕はライヴレポートを書いていた。気づけば朝の5時。もうそろそろ空が明るくなる頃だ。イヤホンの向こうでMOROHAとSUPER BEAVERが尋ねる。「言いたいことは、ちゃんと伝えられている?」、わからないよ。だけど、君たちから教えてもらったことを少しでも届けばいいな。あなたはどうだろうか。本当に言いたいことを伝えられてるだろうか。
レポート・文=真貝聡 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-
SUPER BEAVER
1.証明
2.青い春
3.正攻法
4.irony
5.赤を塗って
6.人として
7.美しい日
8.東京流星群
9.秘密
10.ありがとう
MOROHA