“恋する山口祐一郎”のバラードに酔いしれる~ミュージカル『マディソン郡の橋』レポート~

2018.2.28
レポート
舞台

ミュージカル『マディソン郡の橋』

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世界的ベストセラー小説であり、クリント・イーストウッド監督・主演による映画化(1995)の大ヒットでも知られる『マディソン郡の橋』。それが現代ブロードウェイを代表する作曲家ジェイソン・ロバート・ブラウン(以下JRB)の音楽、『シークレット・ガーデン』『カラーパープル』のマーシャ・ノーマンの脚本によりミュージカル化され、ブロードウェイに登場したのは2014年のことだった。それから4年、演出に荻田浩一、主演には山口祐一郎涼風真世を迎えた、待望の日本語版がいよいよお目見え。3月のシアタークリエ公演に先駆け、プレビュー公演会場となるシアター1010で行われたゲネプロの模様をレポートする。

ミュージカル『マディソン郡の橋』

天才音楽家が作り出した豊穣なワールドで

イタリアからアメリカに嫁ぎ、アイオワ州で農業を営む夫バド(石川禅)、息子マイケル(石川新太)、娘キャロライン(島田彩)と共に暮らしている主婦のフランチェスカ(涼風)。夫と子どもたちが牛の品評会のため留守にした4日間の初日、橋の撮影のためにこの地を訪れていたカメラマンのロバート(山口)が、道に迷ったと家を訪ねてくる。案内役を買って出たフランチェスカとロバートは互いに惹かれていき、やがて一夜を共にする――。と、物語は言ってしまえば“不倫もの”であり、糾弾するのが流行と化している今の日本にあっては、下手したら眉をひそめられかねない。だがこのミュージカルの読後感は、そうした下品さとは全く無縁のもの。浮かび上がってくるのは、道ならぬ恋のスリルでも、愛のままならなさや切なさですらなく、人生というものの神秘性と美しさなのだ。

ミュージカル『マディソン郡の橋』

ミュージカル『マディソン郡の橋』

一歩間違えたらメロドラマになりかねない題材を深遠なドラマに仕立てた、その最大の功労者はやはり、作詞・作曲・編曲を一人で手がけたJRBその人だろう。通常、歌というとまずは歌詞を発する存在であるところの人間の“声”ありきで、楽器の“音”は、主役であるその“声”を支え盛り上げるバイプレイヤーだ。だがJRBが紡ぎ出す歌には、声と歌とが同等に扱われているような印象があり、その拮抗が独特の緊張感を生む。そしてそれが、歌詞だけでは伝えきれない、人間の感情の奥深くを表現することに繋がっているのだ。声と音とがメロディーラインを交互に担ったり、声がまるで音の一部になるかのように「お~」と歌詞のない旋律を奏でたり、また楽器ソロのようにアカペラとして用いられたり……。多彩に、繊細に、そして自在に音楽を操る、JRBの底知れぬ才能が満喫できるミュージカルだ。

ミュージカル『マディソン郡の橋』

荻田浩一は、ダンス(振付は出演者でもある加賀谷一肇が担当)を多用するなど、ブロードウェイ版とは全く異なる冒険的な見せ方を取り入れつつも、JRBの作り出した豊穣な『マディソン』ワールドを損なうことなく演出。またキャスト陣も、優れているだけに難しくもある楽曲の数々を見事に歌いこなし、やはりワールドを生きている。石川禅の美声や、隣家の夫婦を演じた戸井勝海と伊東弘美の抜群の安定感、そして複数の役の全てで確かな実力と存在感を発揮した彩乃かなみもさることながら、とりわけ印象に残るのはやはり主役の二人。跳躍の激しい旋律も語るように歌うことができる、日本人離れした歌唱力を持った山口と涼風の、久々となる“恋する姿”も新鮮だ。わけても、終盤で山口が一途な愛を歌い上げるバラードは、荻田の的確な訳詞も手伝いまさに必聴もの。自分もフランチェスカのように、こんな素敵な人に「あなた」と呼ばれて想われてみたいと、誰もが思うことだろう。

ミュージカル『マディソン郡の橋』

取材・文=町田麻子

公演情報

ミュージカル『マディソン郡の橋』
 
■脚本=マーシャ・ノーマン 
■音楽・詞=ジェイソン・ロバート・ブラウン 
■原作=ロバート・ジェームス・ウォラー 
■翻訳・訳詞・演出:荻田浩一
■出演:山口祐一郎、涼風真世、彩乃かなみ、石川新太、島田彩、加賀谷一肇、戸井勝海、伊東弘美、石川禅 

 
<プレビュー公演>(終了)
■日時:2018年2月24日(土)~26日(月)
■会場:北千住シアター1010

 
<東京公演>
■日時:2018年3月2日(金)~21日(水)
■会場:シアタークリエ

 
<大阪公演>
■日時:2018年3月28日(水)~4月1日(日)
■会場:シアター・ドラマシティ

 
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