小早川俊輔×佐伯亮×ほさかよう鼎談 文豪・坂口安吾の代表作『白痴』を“今”舞台作品として上演する意味
-
ポスト -
シェア - 送る
(左から)ほさかよう、小早川俊輔、佐伯亮
昭和の戦前・戦後にかけて活躍した文豪、坂口安吾の名作『白痴』がこのたび舞台化を迎える。演出は、ダークファンタジーな作風で定評のある空想組曲のほさかようが担当。主人公の伊沢役にはミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 宍戸亮役などで活躍する小早川俊輔を迎え、3月28日よりCBGKシブゲキ!!にてその幕を開ける。共演には佐伯亮、中村龍介、碕理人、谷戸亮太、二瓶拓也、熊手萌、加藤啓、木ノ本嶺浩という個性的なメンバーが名を連ねた。
2月下旬に都内某所にて行われた顔合わせの後、舞台初主演の小早川俊輔と佐伯亮、そして脚本・演出のほさかように話を聞いた。
(左から)佐伯亮、小早川俊輔、ほさかよう
――小早川さんと佐伯さんは、今回がほさかさんとの初タッグになりますが、印象はいかがですか?
小早川:とてもユーモアのある、オシャレな方だなと思いました。今日が初顔合わせだったんですけど、作品についてのディスカッションを通じて役者と一緒に創っていくことを大切にしてくれる方だと分かったので、信頼と期待が高まっています。
佐伯:台本を受け取ってから稽古に入るまでの期間って、僕はいつもすごく迷う時間なんですけど、今日ほさかさんと初めてお会いして、役者の目線で話をして下さったり、演者のためにいろいろ考えて下さることがすごく嬉しかったです。3月からの稽古スタートが楽しみです。
――本作は小早川さんの初主演舞台となりますが、意気込みは?
小早川:まだ稽古前なのでそんなに実感はないです。稽古期間もそんなに日数がなく、本番の公演数も多くはないので、共演の皆さんやスタッフと一緒にいる時間を大切に、全8公演を乗り切りたいと思います。そのための準備を今からしたいですね。
佐伯:心の準備?
小早川:そう、心の準備とか……(笑)
――座長として、みんなのテンションを上げるためにコレを差し入れしようとか?
小早川:あはは! そういう可愛さも徐々に身に付けたいと思います。まぁ真面目な話をすると、自分の(芝居の)引き出しを再確認しておく作業とかかな。あとは常にフラットな状態でいられるようにって感じですね。
――本番中は、ほぼ舞台上に出っぱなしの状態になるんですよね?
小早川:出っぱなしですし、セリフも多いです。
ほさか:歌ったり踊ったりみたいなエンターテインメントの要素はないけれど、会話劇として経験することは、ひと通り1本の芝居の中にギュッと詰め込まれている作品なので「余裕を演じている余裕は本当にないよ」って脅しはかけておきます(笑)。
小早川:……っていうことを心に留めて頑張ります!
――打たれ強いタイプですか?
小早川:どうだろう? でもちゃんと打たれた意味を見つけるのは出来るタイプだと思っているので、そこは一緒に“戦って”いきたいと思います。
ほさか:それは頼もしい!
――ところで今回のキャストは、白痴の女性=“サヨ”を演じる熊手萌(くまで めぐみ)さん以外は全員が男性。“家鴨(あひる)”、“煙草屋”という女性の役も男性キャストが演じるんですね。これにはどのような意図があるのでしょうか?
ほさか:小早川くんが演じる主人公“伊沢”以外の役は、原作の中でもこと細かに書かれているキャラクターではないということと、『白痴』という作品自体が群像劇のような風合いがあること、そして戦時中の極限状態に生きる人たちを描くのに性別や年齢はあまり重要ではないということですね。まぁ僕の方から「ヒロイン以外は全員男にしましょう」と提案したわけではないけれど、役者それぞれが「生きるってこういうことなんだ」としっかり提示すれば自ずと舞台として成立しますから何も心配はしていません。
――とはいえ、変にデフォルメしてしまうと滑稽に映ってしまうし、それは『白痴』の世界観とは違うのかなと思います。さじ加減は難しそうですね。
小早川:男性が女性を演じるというフィルターがかかっている上にさらにデフォルメをしてしまったら、観ている人は何を信じればいいのか分からなくなっちゃいますよね。
ほさか:そこは“そういうキャスト“を使う課題であり挑戦でもありますね。「男性が女性の役を演じるのが面白いでしょ」が目的ではなく、ちゃんと「この人が演じるから、この役なんだ」と説得力を持たせることが大切だし、そこに行きつくまでは意外と大変かと思いきや、先ほどの本読みの段階で既にその糸口は見えている気もしました。
小早川:谷戸亮太さんが演じる“お母ちゃん(サヨの夫の母親)”面白かったなぁ(笑)。
佐伯:今日が顔合わせなのに既に面白いって、本番どうなっちゃうんでしょうね(笑)。
――佐伯さんは役作りについて現段階で考えていることはありますか?
佐伯:いろいろ思う部分はあるんですけど……台本をいただく前から役のイメージについて考えようと原作の小説を2~3ページ読んだんですけど早々に断念して。
小早川:2~3ページで? 早っ!!
佐伯:でも、いただいた台本を読んだら“人間らしい人間”ばかりだったし、僕が演じる“仕立て屋”の生き方に共感してもらいたいと思えたし、今日の本読みで演じるうえでのヒントをいただいた気がしたんですよね。それが“何”かはまだハッキリ言えないけれど、観てくれる人に「仕立て屋の生き方」を説得力を持って伝えられるようにキャラクターを作り上げていきたいです。
佐伯亮
――仕立て屋は原作の小説より若い年齢設定ですが、大家として店子やご近所の人たちとのいざこざを収めたり、常識人的な立ち位置の人物として描かれていますね。
佐伯:そうですね。若い大家さんなりに頑張っている感じが出れば(苦笑)。原作通りの30代半ばくらいの設定だったら僕じゃなくてもいいだろうし、でも22歳の僕が演じる仕立て屋だからこそというのも考えながら、ほさかさんにも相談しながら仕立て屋を作っていけたらいいなと思っています。
――小早川さんが演じる伊沢の役作りについてはどうですか?
小早川:僕は、伊沢が抱えている感情自体はそんなに特別なものではない気がしていて……。自分の今の経済状態、将来の事、これまでの人生とかを含めた様々な要因に左右されながらも、自分がやりたい事は誰もがあると思うんです。それ自体は普通の事だと思っているし、もちろん僕にもそういう悶々とした時代があったし。けど今日本読みして思ったのは、あの時の自分が思っていた“若かりし頃の葛藤”の感情を引っ張り出して伊沢に投影させればいいのかというとそれは違うんじゃないかと。それよりは、これからのための目の前の課題や簡単には前に進めないもどかしさや葛藤とか、そういう“今”を感じて生きないと伊沢を演じる意味がないんだろうなって思いました。伊沢の考えは誰もが通る道ではあるけれど、それだけに人それぞれ違っていたりもするので難しいなって思います。
――3月から本格的に稽古が始まりますが、楽しみにしていることがあれば教えてください。
小早川:俳優仲間から「ほさかさん=指揮棒」という噂を聞いて「指揮棒?」って、ずっと謎だったんですよ。稽古では指揮棒を持っていらっしゃるんですか?
ほさか:持ってますよ。なんなら今日も持ってきていますよ。
小早川:それは分かりやすく言うと“蜷川さんの灰皿(※演出家の故・蜷川幸雄さんは演出に熱が入ると灰皿を投げることで知られていた)”みたいなことですか?
ほさか:違う、違う! 指揮棒でキャストをパシンパシン叩くわけじゃないから!
(一同爆笑)
ほさか:傍目から見て、演出家が指揮棒を振り回している姿ってなかなかの中二病的な絵面だなと分かってはいるんですけどね。1回ペンとかで代用してみたけど、結局指揮棒が一番分かりやすいという結論に落ち着きました。例えば「芝居に熱量が足りない」と伝えようとしても、経験の浅い若い人たちは「熱量ありますよ」っていうふうになってしまうけど、そこで「今、このぐらいでやったけど、相手はこのくらい出している。もっと上げていこう」という具体的な指示を出すのに指揮棒は的確なんです。
佐伯:「フォルテシモ!」ってことですか? まさにマエストロ(指揮者)ですね。
ほさか:あとは、まだ音楽が入っていない段階でのイメージ作りという理由もあります。僕は芝居に熱がこもってきた=曲が入ったみたいな言い方をするんですけど、そこで芝居が止まりそうになった時に「止めたくないんだ、ここは!」って伝えるために指揮棒を使います。
小早川:謎が解けました(笑)。稽古場で指揮棒を実際に目にするのが楽しみです。
ほさかよう
――佐伯さんが稽古で楽しみにしてることは何ですか?
佐伯:先輩方が多いカンパニーなのでいろいろ吸収させていただきたいのはもちろん、やっぱり一番は仲良くなりたいなっていうのがあるので、稽古後にみんなでご飯を食べに行ったりしたいです。僕、お酒も好きなので、呑みながらお芝居の話とか伺いたいです。このカンパニーでしか出来ないものを創るためにもコミュニケーションを大切に何でも話せる関係になりたいですね。
ほさか:意見交換という点では、今日の顔合わせでみんな積極的に意見を言ってくれたので安心しました。「初めまして」の時って、ベテランだろうが若手だろうが「ここまで言っていいのかな?」みたいな空気になりがちですけど、今回のキャストは自分の意見をバンバン言ってくれる人たちだったので責任感があるなって思いました。「自分の意見はこうです」って発言するのは勇気がいることですからね。稽古場でクロストークが出来るようになって来ると芝居が豊かになりますし、それがある意味演劇の正しい形だと思っているので、早くもそれが出来そうな予感にワクワクしています。気が早いかな(笑)。
(左から)佐伯亮、小早川俊輔、ほさかよう
――では最後に、公演を楽しみにされている皆様にメッセージをお願いします。
佐伯:さっきも言いましたが、登場人物の“誰”に共感するかで受け取り方が様々に変わる作品だと思います。今の僕たちだからこそ創れる『白痴』を誠心誠意お届けするので、ラフな状態で観ていただければと思います。よろしくお願いします!
小早川:今このタイミングで『白痴』という舞台に出会えたことは「運命」とまでは言わないまでも、そこに何かの「意味」を見つけられると思うんです。原作を読んだ時に「いろんな受け取り方ができる作品だな」と思いましたが、それを舞台で届ける以上、僕ら演者は「余白」は残しつつも、しっかりした「軸」を持って届けられたらなと思います。きっと観に来て下さるお客様にも何かしら届けられるものがあると思いますし、そうじゃなくちゃいけない。受け取るものは様々ですが、ぜひ皆さんにも本作のテーマである「生きる事」の意味を見つけていただければ……。今回は僕の初主演舞台でもあるので、ぜひ大勢の方に観ていただけたら嬉しいです! 頑張ります!
ほさか:古典文学と聞くと、難しかったり高尚なイメージがあるかと思いますが、そんなことは抜きにして「昔から愛されて来たすんげぇ面白い作品」を、この若いカンパニーでやる意味をしっかりと提示していくだけです。そして舞台初主演となる小早川俊輔くんの背中をグイグイ押して未知の領域までいこうと思っているので、ご来場いただく方々は新しい小早川俊輔を楽しみにしていただければと思います。
取材・文・撮影=近藤明子
(左から)ほさかよう、小早川俊輔、佐伯亮
時代は過去。舞台はこの国。戦争が起きている。安アパートが林立し、半分以上は軍需工場の寮となっていて、そのほとんどの部屋には妾と淫売が暮らしていて、近所の商店街は荒れ、商品も無い百貨店、毎晩開かれる賭場、安酒が消費される国民酒場、それらが雑多にひしめき合う小さな町。
若手の映画演出家である伊沢はこの町の“仕立て屋”が持つ寮の一室に住んでいる。隣家には、町でも有名な資産家ながらも「気違い」の一家が住んでいた。ある日、気違いの妻である白痴の女が、伊沢の部屋の押し入れに逃げ込んできたかのように隠れていた。その日から二人の秘密の同居生活が始まる。
『駄目だ。君を抱いたら、私はこの町の人間たちと同じ豚になってしまう。……触れたい。……抱きたい。俺は、君が欲しい』
やがて起きる空襲警報。その時、伊沢は……。
―悔い改めろ。お前の物語を生きぬこと。
公演情報
日程:2018年3月28日(水)~4月1日(日)
劇場:CBGKシブゲキ!!
脚本・演出:ほさかよう
【出演】
小早川俊輔、佐伯亮、中村龍介、碕理人、二瓶拓也、谷戸亮太、熊手萌、加藤啓/木ノ本嶺浩