尾上右近がルフィ役に! スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』で市川猿之助とダブル主演
尾上右近(撮影/石橋法子)
2018年4月、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』が、大阪松竹座で再演される。累計発行部数3億5000万部を超える尾田栄一郎の人気漫画「ONE PIECE」を原作に、ゆずの北川悠仁が楽曲を書き下ろし、演出を市川猿之助が勤める。2015年の東京公演を皮切りにリニューアルを繰り返し大阪、博多と上演を重ね、約30万人を動員した日本初のオリジナル・エンターテインメントだ。
2017年10月の東京公演では怪我を負った市川猿之助に代わり、若手公演(麦わらの挑戦)で同役を勤める若干25歳の尾上右近が見事主役を勤めあげたことでも話題に。右近といえば、名優六代目尾上菊五郎を曾祖父、往年の映画スター鶴田浩二を母方の祖父に持ち、父親は清元節の宗家・清元延寿太夫という表現者一家の血を受け継ぐサラブレッド。今回の大阪公演では、復帰した猿之助とのダブルキャストで主演のルフィを勤めるほか、ハンコック、マルコ、サディちゃんの都合4役を日替わりで演じる。
知識欲が旺盛でクリエイティブなオーラをまとい、「話をするのも聞くのも大好き!」と笑う期待の新星に、大阪公演への意気込みを訊いた。
尾上右近
「猿之助兄さんの代役を勤めるのは、限界を超えていく日々の連続でした」
ーー昨秋東京で開幕した『ワンピース』が今春、大阪に登場します。
大阪公演から若手公演を意味する「麦わらの挑戦」というサブタイトルがなくなり、猿之助のお兄さんとのダブルキャストでルフィを勤めさせていただきます。これは僕のなかでは大きいこと。逃げ道がないというか、闘いがいのある機会を与えていただきました。10月、11月の東京公演を乗り越えた情熱はそのままに、また新たな気持ちで挑みたいです。
尾上右近
ーー昨秋、猿之助さんの代役を勤められましたが、その時のご心境は?
代役が決まってから当日を迎えるまでの一日の間で、色々なことを考えました。結論としては、お客様に楽しんでいただくことが第一の絶対条件。猿之助のお兄さんもそういうお芝居をお作りになっていると思うので、そこで何かを意識すると余計な力が入ってしまう。自分がやるということ以上でも以下でもなく、ただひたすらに「無心である」ことがテーマでした。本当に体力的にも大変で、その日1日の限界を超えていく日々の連続でした。やってみて、それでもできないこともある。そういう日々を経験し、できない今の自分を誠心誠意受け止めることで、自然と落ち着きや物怖じしない雰囲気が出てきたのかなと思います。度胸がついたということかもしれません。
尾上右近
ーー観客からの反応を感じる瞬間はありましたか。
代役の一面も手伝って、この若さでこれほど大きなものを背負い、なおかつ前しか見ずに進んでいく。その姿が「ルフィ役と重なって観えた」と言ってもらえたことは、嬉しい評価の言葉でした。縁がないとできない役があると思うので、そういう意味で僕はルフィと縁があったのかなと。正式名称はモンキー・D・ルフィですが、僕も申年ですし、なおかつ猿之助兄さんの“猿”の代役でもあり、「モンキー」がテーマだなと思いながらやっていました。
尾上右近
ーー猿之助さんから役についてのアドバイスはありましたか。
猿之助のお兄さんも他の先輩方同様、本当に細かく手取り足取り教えてくださる方なので。早変わりや宙乗りといったスーパー歌舞伎ならではの要素を演じる上でのコツや注意点、役の性格についても、古典のお役を教えてくださるような感じで教えていただきました。
「タブーは歌舞伎の原点であり、いつか“R指定歌舞伎”を実現させたい!」
ーー原作漫画「ONE PIECE」を読まれた感想は。
基本的に悪とされる海賊が真理をつく言葉を発していて、ルフィという男も物語の中心にいながらもトップというわけではなく、円の真ん中にいるようなイメージ。その辺りが、独特だなと感じました。歌舞伎と結びつけて考えるなら『白浪五人男』などいわゆる主人公が盗賊なのにカッコよく、いつのまにか応援したくなる部分とかがすごく似ている。映画「次郎長三国志」からヒントを得たとも聞きましたが、良い悪いを超越したところで人の心を動かす作品の魅力を感じました。個人的には、原作を読みながら(ルフィの兄)エースがすごく良いなと思いました。僕の中では猿之助のお兄さんが僕にとってのエースみたいなところがあるので。(エースの決め台詞)「愛してくれてありがとう」ってお兄さんの口から言われてみたいなと(笑)。その一言のために「頑張りたい!」と思いますから。
ーー劇中で、とくにお好きな場面は?
終盤の星が浜の場面ですね。今回の戦いで失ったものは多いだろうけど、立ち上がらなくちゃいけない。失ったものばかりを数えるな、というあのくだりはすごく好き。ルフィは常に前を向いているんですが、あそこは唯一ルフィも心に傷を負った少年として、寂しそうにする場面なので。僕も傷ついた時に励ましてくれる大人が周りにいてくれたことで立ち上がれた経験があるので。気持ちが分かるというか、自分と重なる部分もあり、毎日感じ入っていましたね。ここまでくると「今日も無事に芝居の幕が下りそうだ」という思いもあり、どこか浄化されるような感覚を味わっていました。
尾上右近
ーーまた、観客が手拍子で参加できるような演出もありますね。
あそこは「もっともっと盛り上がってほしい!」と思いますね。この作品は、お客様も僕らと一緒に全力疾走で駆け抜けるのが面白いお芝居ですから。一緒に歌うなり、参加してほしい。皆さんが思っている以上に、舞台から客席を見渡せるので。油断して盛り下がっていると「見えてますよ~」ということは、言っておきたい(笑)。
ーー(笑)。改めて歌舞伎の可能性を感じさせるような作品でもあります。
どこで古典の応用を活かし、今までにない新しい表現を生み出すのか。お稽古の作り上げていく段階ですごくそのことを感じました。よく海外に出たことで日本の良さを知るということがあると思います。その感覚とすごく似ていて、常日頃から新鮮な気持ちで歌舞伎を勉強する必要があるし、古典という軸がしっかりしていれば、どんなことをしてもブレないんだろうなと思いました。改めて、古典を大事にしたいと思いましたし、その上で色んな応用に取り組んでいきたいなと思います。
尾上右近
ーー今後挑戦してみたい作品はありますか?
僕は漫画とはまた違っていて、「歌舞伎だから許される」というような新たな一面をクローズアップさせたい。じつは、“R指定歌舞伎”というものをやってみたいという野望がありまして……。いや本当に、真剣ですよ(笑)!
ーー大変興味深いです。
客席数の少ない狭い小屋で、深夜23時開演とかでやりたいんですよね。タブーを描くことは、歌舞伎のルーツの一つでもあると思います。歌舞伎に対して「難しくて上品なもの」というイメージをお持ちの方もいると思うんですよね。そこを良い意味で打ち砕きたい。10年後ぐらいには実現したいなと考えています。
尾上右近
「お客様に『ついて行きたい!』と思わせる、魅力的な役者でありたい」
ーー2018年2月、七代目清元栄寿太夫を襲名されました。今後は歌舞伎役者であり清元の太夫でもある、前例のない“二刀流”として未開の地を歩まれます。
現実的には、まだまだ役者の活動が圧倒的に多いので、その合間に清元としての経験を積んでいくということだと思います。清元として歌舞伎の興行に出ることは、まだまだ先の話だとは思いますが、演奏会など一日限りのお仕事などを通して、なるべく人前で清元としての経験を積んでいきたいと思います。
ーーいずれは、ひとつの公演で役者と清元、ふたつのお顔を拝見する日が来るかもしれないのですね。
もちろん、それがプロとして認められる最終目的だと思っています。とにかく、両立することを許された現実がここにあるわけですから。今後、それが実現するかは僕の努力と精進次第。前例がないことですから、ぜひ挑戦してみたい。険しい道は魅力的ですから。
尾上右近
ーーたまの休みには何を?
1日あれば本を読むのも好きですし、最近は人と対話するのが非常に大好物です(笑)。オンオフの感覚はあまりなくて。常にオン、切り替わることはないですね。休むのがもったいないというか、行動するかしないかは別として、考える・感じることは休みたくない。いつか自分の心身が「苦しい」と思う瞬間が来ると思うので、その時に休めばいいのかなと思っています。今でも疲労困憊する日はありますが、いざお客様の前に立って声援を受けると、「全力で応えさせていただきますよ!」という気持ちになる。お客様に「ついて行きたい!」と思わせるような、魅力的な役者でありたいですね。
尾上右近
ーー改めて、大阪公演への意気込みをお願いします。
マルコとサディちゃんは、ワンピース歌舞伎に携わらせていただくきっかけとなったお役なので、久しぶりに会えるねという感じです。昨秋の東京公演ではルフィ、ハンコックの代役を勤めさせていただきながら、(坂東)新悟さん、(中村)隼人くんが話す台詞を、舞台袖で一緒にしゃべっていましたから。それくらい台詞も忘れたくなかったですし、自分にとって大事なお役ですね。今回は猿之助のお兄さんとのダブルキャストでのルフィ、そして、ハンコック、マルコ、サディちゃんと都合4役を勤めさせていただきます。気合い十分、力一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。
尾上右近
取材・文・撮影=石橋法子
公演情報
2018年4月1日(日)~25日(水)
■会場:大阪松竹座
■上演時間:昼の部午前11時~、夜の部午後4時30分~
■料金:一等席18,000円、二等席10,000円、三等席6,500円
■原作:尾田栄一郎
■脚本・演出:横内謙介
■演出:市川猿之助
■スーパーバイザー:市川猿翁
■出演:市川猿之助、市川右團次、坂東巳之助、中村隼人、尾上右近、坂東新悟、市川寿猿、市川弘太郎、坂東竹三郎、市川笑三郎、市川猿弥、市川笑也、市川男女蔵、市川門之助 / 平岳大、下村青、嘉島典俊、浅野和之