桜庭和志インタビュー 打撃禁止の組み技限定イベント「QUINTET」を始動した目的 そしてUFC殿堂入りと木村政彦を語る
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桜庭和志
4月11日、両国国技館大会より始動する、桜庭和志プロデュースの新格闘技イベント『QUINTET』(クインテット)。打撃を禁止した組み技限定のグラップリングルールで争われ、4月の大会では4チーム参加の1DAYトーナメントが開催される。大会方式は5vs5の勝ち抜き戦で、1チームの総体重は420kg以内。桜庭率いる「HALEO Dream Team」には元UFC王者のジョシュ・バーネットや所英男らが所属し、他チームからは柔道金メダリストの石井慧や宇野薫、ユン・ドンシクも参戦する。同イベントの始動を目前に控え、今回はプロデューサー兼選手を務める桜庭和志にインタビューを敢行した。……が、貴重な機会だ。イベントについてだけでなく、昨年のUFC殿堂入り、UWF、昨年のフランク・シャムロック戦、はたまた最近の趣味についてなど聞きたいことを根こそぎ掘り起こしてみた。脱線しまくり、1万字超えのロングインタビューである。
桜庭和志
――「QUINTET(クインテット)」というグラップリングのみのイベントを立ち上げたきっかけを教えてください。
2014年にアメリカの「Metamoris(メタモリス)」という柔術の大会でヘンゾ(・グレイシー)と闘ったんですけど、盛り上がりが凄かったんです。ちょっと前は寝技になると伝わらなかったのが、今はみんな少しずつ分かり始めているというか。ちょっと横のポジション取ると「オーッ!」って盛り上がったりしたんで「これは、そろそろグラップリングだけの大会できるかな?」と思って。
――UFCがお客さんを育てた部分もあるんでしょうか?
そうですね。でも、金網とか“壁” (金網やロープなど)があるとテイクダウンするのって難しいんですよ。レスリングとか柔道は“壁”がないじゃないですか。“壁”があると足2本だけじゃなく背中でもバランスが取れるから、壁際でタックルが入ってもなかなか倒れないんです。でも、Metamorisは柔道とかレスリングみたいに壁無しでやってて。
――QUINTETは、どういうシチュエーションで闘うことになるんでしょうか?
QUINTETも壁無しです。「”壁”が存在するとテイクダウンが違う技術になっちゃう」と思ってて、実際に”壁”が無いMetamorisを経験したら「やっぱりそうだよな」と思ったので。
――今、思い出しました。壁のある試合といえば、「桜庭和志vsレネ・ローゼ」というのが過去にありましたね(笑)。
あぁ~、もう! あれはひどかったっすね。倒しても倒しても、相手は2メートルもあるから寝たら手がロープに届いて。「これ、どうしたらいいんだろう!」と思って(苦笑)。
桜庭和志
――そういった歴史もありつつ、そろそろ日本の格闘技も変革期に来ている感があります。あと、QUINTETは日本だけじゃなく世界も視野に入れていると伺いました。
そうですね。元々、最初はアメリカでやろうと思ってたんですけど。
――旗揚げ戦からですか?
そうですね。アメリカのUFCも協力してくれる感じで。
――協力というのは選手の派遣とか?
はい。あと、会場の抑えとかも。そういうのがあって、まずはアメリカの寝技を分かっている人たちの前でやろうということも考えていました。あと、イギリスにはポラリスという柔術の大会があって柔術の競技者人口が多いので、向こうでもやろうと考えています。
――ちなみに、「QUINTET」ってどういう意味なんですか?
5人組とか、そういう意味です。
――1チーム5人の対抗戦ということでゲーム性があってすごくワクワクするんですけども、このシステムは桜庭さんが考案されたんですか?
いっ、一応……(笑)。
桜庭和志
――そんな、恐縮しないでも(笑)。
ワンマッチって、普通にどこでもあるじゃないですか。僕はレスリングで団体戦もやってたんですけど、団体戦と個人競技には違う意味があって。団体で勝った方が嬉しさも全然違いますし、負けた悔しさも全然違うんで。
――団体戦の方が喜びも悔しさも大きいですか?
はい、全然違いますね。高校時代、秋田商業でインターハイの団体戦決勝に行って、僕が負けてウチのチームの敗退が決定しました。その時はボロ泣きですよ(笑)。
――そんなことがありましたか。
僕一人の負けじゃなくて、チームの負けなんですよ。あの時は7階級制で、4人負けちゃったらダメで。僕が出るまで、ウチが2人勝って3人負けてたんです。僕が勝てば3対3になって面白くなるはずだったんですけど、負けちゃって。
――おいしいところで、みたいな(苦笑)。そこで負けてしまい、悔いは残りましたか?
まあね(笑)。
桜庭和志
――ちなみに、団体戦とワンマッチでは闘い方が変わってきますか?
QUINTETのシステムだとちょっとだけ変わってきますね。今回は先鋒とか次鋒とかを決めて、勝ったらそのまま試合し続ける“勝ち抜き戦”になるので。
――QUINTETのルールは1チームの合計が420kg以内と定められています。ということは極端な話、70kgの選手と110kgの選手が戦う可能性も出てくるという。
体重制限を設けない無差別にしちゃうと大きい選手ばかりになっちゃうんで、そうなると所(英男)くんみたいな面白い試合する子でも軽いとチームから外されちゃうじゃないですか。だから、総体重決めちゃった方がいいかなと思って。
――そうすると、組み合わせの妙も出てきますよね。
例えば100kgの奴が2人いてもいいけど、残りは60~70kgの選手になるから「お前ら、アホか」って感じで(笑)。
――100kg頼みのチーム、あり得ますね(笑)。昨年のUFC殿堂入りスピーチで「プロレスで育った僕にとって体重差は当たり前で、大きい選手と小さい選手が闘うのはお客さんを楽しませるギミックとしか考えていませんでした」と桜庭さんは仰っていましたが、その考えもQUINTETのルールに影響していますか?
それもありますね。レスリング時代は階級制をやってたんですけど、その後にプロレスラーになって。プロレスは、ヘビーとジュニアしかないじゃないですか。僕は全然重い方じゃないですけど「重い奴とやるのなんか当たり前だ」という気持ちでやってたんで、そういう考えも入れ込みました。
――プロレスラーならではの感覚ですよね。Uインター時代は、練習でも体重差を気にせずスパーリングされていたんですか?
Uインターは体重差関係ないです。あと、軽い階級とやったら動きが速いんで技がかからなかったり。片足タックル取って軸足を足払いするんですけど、2個下くらいの階級だと“ピョン!”ってかわすんですよ。「ムカつくなあ~」って(笑)。
――あのタックルをかわすなんて想像できないです! そう考えると、体重の軽い所選手も持ち味を発揮できる目がありますね。
もしも、所くんが100kgの相手とやったらキツいだろうけども。彼には「2回勝てばいいよ、2回!」って言ってあります。
――所選手が舞の海みたいに思えてきましたよ(笑)。
格闘技は「小さい奴が大きい奴を倒す」というのが面白いと思うし、関節技って元々は小っちゃい日本人が大っきい外国人を倒すためにできたものだと思うんですよ。柔道とかもそうですし。そういう意味で、わざと体重差を作っちゃった方が。
――なるほど、わざとミスマッチを作るためのシステムなんですね。
そうですね。僕が85kgくらいあるんで、それを基本にして5人分で総体重420kgにしたんですよ。
――標準的な体重が桜庭さんのサイズで。
そう、僕が勝手に(笑)。「俺がやるから俺を平均に」って。
――「小さい者が大きい者を倒すのが格闘技の醍醐味だ」と桜庭さんは一貫して仰られていますけど、かつて、桜庭さんに「ヒョードルとやってくれ」というオファーが来たと伺いました(笑)。
あぁ~、あります!
――ムチャクチャな話ですよね(笑)。
さすがに、打撃ありだとキツいっすね~。打撃ありだとセーム・シュルトに勝てねえよって思うし(笑)。あんな懐深い奴に、どうやって入っていくんだよ!? って話ですよね。打撃をポンポンポンって出して前蹴りをチョンチョンチョンって出して、離れてれば。身長も2m10cmくらいあるんですよね? そんな手の長い奴に入り込めるわけないじゃないですか。でも、グラップリングだったらまだ可能性はあるから。
桜庭和志
――打撃ありのMMAで技術を見せられなかった選手がQUINTETだと本領を発揮できる……という場面も期待しています。
はい。柔道とかレスリングでオリンピックに出てる選手の中でも、総合に来るのはごく一部じゃないですか。選手人口はもっといますんで、そういう人たちがこっちの試合に出たら底辺の層が濃くなってレベルも上がると思いますし。
――アマチュアがQUINTETを目指すという流れもできますよね。
あと、みんな、打撃があるという点で一歩引くところがあるんですよね。
――レスリングの選手でも打撃に免疫がない分、びびってしまうこともあるでしょうし。ところで、桜庭さんが「この人はQUINTETのルールに打ってつけじゃないか?」と考える選手っていらっしゃいますか?
……(熟考)、あんまり分かんないなあ。選手の名前も分からないし……。
――勝手な僕の思いなんですけど、引退していなかったら安生洋二選手なんか面白かったのになあと思いました。
ああ、はい! 僕、1年くらい前に安生さんに「ゴールデン・カップス、復活しましょうよ」って言って「もう、やらねえよ」って言われました(笑)。
――もう、引退されてますしね(笑)。安生選手って変な箇所を極めにいくし、そういう技術をQUINTETだったら見せられたのになぁと、妄想してしまいました。ちなみに、桜庭選手が所属する「HALEO Dream Team」には所選手、ジョシュ・バーネット選手、中村大介選手、マルコス・ソウザ選手がいますが、この4人は桜庭さんが声を掛けたんですか?
そうです、一応(笑)。
――この人選は、適正を見て?
あのねえ、なんとなく色的にUWFを出したんですよ。
桜庭和志
――確かに!
HALEOがスポンサーのチームだから、マルコスだけはHALEOで柔術を教えている流れから入ったんですけど、それ以外の4人は意識してます。
――マルコス以外の4選手にはUの匂いがしますね! 桜庭さんのチームは、毎回このメンバーになるんですか?
いや、その都度で違うメンバーになるかもしれないし、チームのスポンサーによって変わってくるかもしれません。要は、F-1みたいな感じ。
――スポンサーからの要望を聞きつつ。
で、プロストとセナが揉めるっていうね。あんな感じで、僕とジョシュが揉めて(笑)。
――「プロストとセナ」が、イコール「桜庭とジョシュ」(笑)。
はい(笑)。揉めて、どちらかが他のチームに行って嫌がらせする!
――ライバルになっちゃって(笑)。ジョシュ・バーネットって、桜庭さんより結構年下ですよね?
そうですね。8個かな? 所くんと同い年だって言ってました。(桜庭が1969年生まれでジョシュと所は1977年生まれ)
――桜庭さんとジョシュの2人がリーダー格のツートップという感じでしょうか。
あと、マルコスは使いっ走りなんで。こいつ、一番若いから(笑)。(マルコスは1984年生まれ) 「マルコス、ちょっと喉乾いたからスポーツドリンク買ってきて~」「肩こったから揉んで~」って(笑)。