シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム第二十七沼(だいにじゅうななしょう) 『今日は書き殴る!沼!』

2018.4.28
コラム
音楽
アート

「welcome to THE沼!」

沼。

皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?

私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。

一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れること

という言葉で比喩される。

底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。

これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。

毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。

 

第二十七沼(だいにじゅうななしょう) 『今日は書き殴る!沼!』

私は主に自宅で仕事をする事が多い。

大容量のデータ送信やクラウディングサービスを利用すれば、音楽の仕事なんてどこに居ても出来る世の中になったわけだ。

全てはパーソナルコンピューターの中で完結できる。

 

主体性は自分にある

何億円もしていた超高級スタジオイクイップメントがソフトウェアー化され、プロフェッショナルとアマチュアの境界線が無くなった現在、いわゆる80年代に活躍してきたプロミュージッシャン達は組合などを作るなどして未だに無駄な抵抗をしている。

若い者達の想像のエネルギーを潰そうとしているのだ。

一方で私のようなジジイ寄りの音楽家は上下から挟まれた状況になる事が多い。

しかし、バカと言われる程正義感だけは強い私は、なぜだか自分に年齢の近い爺さん音楽家達の不正行為が許せず、

ついつい立ち向かってしまう。

黙ってりゃいいのに。

私は一昨年前、商業音楽の仕事を完全に捨てた。

よく友達に「君は好きな事を仕事にできていていいね」と言われる。

ふざけるな!好きな事を仕事にしたら地獄だぞ!

仕事とは、すなわち金を稼ぐ事だが、世の中の人々の役に立つためのものでもあるのだ。

需要に応えるってやつだよ。

誰が私に金をくれるのか。

それはクライアントだ。

例えばだ。
広告音楽の仕事を考えてみよう。

企業がTVコマーシャルを制作するために大手広告代理店を通し、音楽制作会社に依頼がくる。

音楽を作るプロフェッショナル集団だ。
しかしだ。

いまや実際にコンポーズからアレンジメントまでをほぼ一人でできてしまう。

つまり私だ。

私の司令塔となるのが広告音楽制作会社の若いディレクターだ。

自分の息子くらいの年齢の。

「久師さんにお任せで〜」

なんていう現場は100件中5〜6件あればラッキーだ。

そんなディレクターなんて商業音楽人生30年以上やっていて2〜3人にしか会った事がない。

つまり、私は奴隷なのだ。

いや奴隷だったのだ。

経済が豊かだった頃、分業がきちんと行われ、その道のプロフェッショナルが沢山存在した時代はとうの昔に崩壊し、

残された道は

「安い」

「早い」

「クライアントの注文通りに制作できる」

という3点をそつなく行える人間にのみ仕事が集中する。

こうなると、音楽家の立場から見てクリエイティヴィティーのカケラも存在しない。

ただの奴隷と化す。

お金に身を売った、ただの職人だ。

そんなのオンガクじゃない。

楽しかった打ち込みも「鬱込み作業」と化す。

 

仲間は戦友になった

そんな時私は2人の勇者と出会った。

ひとりは「ドラびでお/一楽義光」氏だ。

初めて野外フェスで出会った瞬間から何故か意気投合し、お互い「なぜいままで出会っていなかったのか不思議」な程の仲に。

未だに毎晩長電話でしている。

彼の出す音は強烈だった。

尖った針のようなもので全身を刺されまくり八つ裂きにされた。

「これでいいんだ!これがいいんだ!これでよかったんだ!」

といままでお金と引き換えに悪魔に魂を売っていた自分を責めた。

そしてもう一人はDOMMUNE 宇川直宏

実は彼とは30年前に何度かセッションをしていた。

彼はVJとして私は演者として。

私が数十年、魂を売り続けている間も彼はブレずに頑張り続けていた。

そして、浮気者の私を何のお咎めもなく再び自然に受け入れてくれた。

「よし!やっちゃおう!やめちゃおう!」

私は完全に「自分のやりたい事しかやらない」と決めた。

その瞬間から、肩の荷がおり、好き放題音楽を作りまくった。

楽しかった。

音楽を純粋に楽しめた。

新しいアイデアが底を尽きず湧き溢れ出た。

好き放題やる事はもしかしたら究極の自己満足なのではないか?
という疑問はすぐに間違えた考え方だった事が判明した。

好き放題やった結果、世界の名だたる音楽家達から賞賛していただけたのだ。

宇川くんの言葉をかりるとするなら「ヤバいね〜」だ。

周りの仲間もおのずと変わった。

本物しか居なくなった。

身体も心も健康になった。

若者達よ!勇気を持ちたまえ!

誰に何を言われようが恐れるな!

どう見られるかより、どうあるべきかだぜ!

怖がる事は何もない。

自信をもって突き進め!

音楽に間違いや失敗なんてないんだぜ!

はぁはぁ、、、息が切れた。

歳だ。

時間は止められない。

今自分がやるべき事は何か。

それを考える時間は無駄ではない。

迷走の中で、もし答えが少しでも見つかったら行動に移せ!

UNKOがしたければすればいい!

本当に自分が欲しいと思う物を買え!

無かったら作れ!

朝早く起きて散歩しろ!

頭を覚醒させてから物事を始めるんだ。

そして、この沼連載。

これも好き放題やらせていただいている内の一つだ。

こんな好き放題書かせてもらえる媒体なんて無いぜ。

ありがとうSPICE

 

追伸

文字を書く事は最高に楽しい事の一つだ。

及川眠子さんとスタジオの外で一服してる時の彼女の言った言葉が忘れられない。

「ミュージシャンってさあ、沢山の機材買って移動させてたいへんだよね〜w

私なんて紙と鉛筆さえあればどこでだって仕事できるw

何億円も稼げるwww」。。。。

うらやましいw

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