永遠なる夫婦のミュージカル『I DO! I DO!』~霧矢大夢「必死に引き出しを開けて頑張ります」
霧矢大夢(右)と鈴木壮麻 撮影:田窪桜子
登場人物は男女2人だけ。永遠の愛を誓ったアグネスとマイケルの甘い新婚生活、長男が生まれた感動と喜び、長女が誕生したことから子供中心の生活へと変わり、少しずつすれ違っていく夫婦の思い。さまざまな出来事が起こる中、アグネスは自分自身を見つめ直していく。そして子供の結婚と自立を機に……。50年間の夫婦の人生を、多彩なミュージカルナンバーでつづるミュージカル『I DO! I DO!』。オフ・ブロードウェイで42年間のロングラン記録を持つ『ファンタスティックス』を手がけたトム・ジョーンズ(脚本・作詞)とハーヴィー・シュミット(作曲)コンビの名作だ。1966年にニューヨークで初演され、日本でも多彩なキャストで上演されてきた。2014年には大河内直子が演出し、アグネス役の霧矢大夢が第22回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。前回公演から4年、マイケル役に新たに鈴木壮麻を迎えてパワーアップ! 果たしてどんな夫婦が誕生することだろう。
2014年『I DO ! I DO ! 』より
——こと『I DO! I DO!』に関して言うと、霧矢さんがちょっぴり先輩というふうに申し上げても大丈夫ですか ?
鈴木 もうすっごい先輩です。
霧矢 やめてください ! 2度目と言っても4年も前ですから、忘れていることもいっぱいあります。イチからお稽古に取り組みたいと思います !
——前回はマイケル役が福井貴一さんと柳瀬大輔さんのダブルキャストでしたから、鈴木さんは3人目の旦那さんということになります。
霧矢 ありがたいですね、私生活は一度も旦那さんを迎えたことはないのに。これは女優の醍醐味です(笑)。でも初演のころはまったく余裕がなかったんです。とにかく必死だったから。
鈴木 火事場の馬鹿力がいい意味で、観客の心をぐっとつかんだんだね。
霧矢 今思えばもったいないことをしたなと。もっと柔軟に旦那さんによって芝居や解釈を変えて対応できていたらなあと。今回は旦那さまはお一人ですし、しっかり向き合ってアグネスとしてのいろんな起伏を丁寧につくっていきたいですね。
2014年『I DO ! I DO ! 』より
——鈴木さんは2014年の舞台はごらんになっているそうですね ?
鈴木 拝見しました。劇団の後輩だった柳瀬君がマイケル役だったんですけど、「素敵な人が奥さんじゃね ?」と。動いている霧矢さんを初めて拝見したのはこのとき。素敵でした !
霧矢 ありがとうございます。あのときはご挨拶させていただいた程度でしたので、まさかこんな展開が待っているとは思いませんでした。
鈴木 同じ回に村井國夫さん(春風ひとみと『I DO! I DO!』に主演)が見にいらしていて、休憩時間に「なかなかがんばっていますね」と話しかけたら、シブく葉巻をくわえながら「ああ、そうだな」って。
霧矢 村井さんはきっと、またご自分でおやりになりたいんじゃないですか ?
鈴木 いや、「俺にはもう大変なんだよ、今度はお前だ」と言ってくれて。今回ご縁をいただいたときに春風さんと柳瀬君には電話を入れました。春風さんと話したときに「よかったわねえ」と言ってくださいました。でも「村井さんの連絡先を知らないので伝えておいてください」「わかった」ってやりとりも。柳瀬君も「おめでとうございます」と言ってくれましたし、がんばろって思っている今日このごろです。
——じゃあみなさんが見にいらっしゃるかもしれませんね。
鈴木 そう ! 春風さんが言ってた、村井さんと演出の山田和也さんと3人で並んで見るからねって。それ、いじめでしょって言っておきました(笑)。
霧矢 それはすごいプレッシャーになっちゃう。
撮影:平岩享
——夫婦の関係を描いた作品はいろいろありますが、二人芝居という窮極のスタイルですよね。人生経験も重要な気がします。
鈴木 確かに自分のこれまでを追体験しているような感じもありますね。もちろん自分がやることになったからそういう台本の読み方になっているんですけど、生々しくもインテリジェンスあふれる言葉でつむがれている。マイケルとしてというよりも、鈴木壮麻の人生も加味させながら演じていくことができるかもしれない。こんなこと言っちゃっていいのかというせりふもポンポン出てくるので、俺も言ってないかなあと反省しながら(笑)。逆に「I LOVE MY WIFE」というナンバーを練習しながらカミサン聞いているかなぁと横目で見たり。ただいろいろ思い描いていても、せりふや動きを覚えてようやく構築できるわけじゃないですか。それまでは相当面倒を見てもらわないといけないな、先輩よろしくお願いします。
霧矢 いえいえ、私も状況は一緒です。壮麻さんは追体験をしているようだとおっしゃいましたが、私は逆なんです。それこそ結婚式のシーンから始まるけれど、私は宝塚時代はずっと新郎側を演じてきたから。新婦の立場が初めてで、お芝居といえどもウェディングドレスを着て新婦になるのはめちゃくちゃ幸せなんですよ。なんや知らんけど。
一同笑い
霧矢 ウェディングドレスの力は偉大なんです(笑)。宝塚だと奥さんや恋人になる相手役の方に指輪をあげるんですよ。もちろんそんなに高価ものじゃないですよ。
鈴木 それ、俺にねだってる ?(笑)
霧矢 違います ! 今からオチ言いますから(笑)。相手役の子に指輪をあげると、本番にそれを使ってくれるんですよ。ところがいざ『I DO! I DO!』の稽古が始まったときに普通に衣装さんが「霧矢さん、指輪のサイズっていくつです?」って聞きにきてくださったんです。「そうだよねえ、そりゃただの小道具だよね」と内心ちょっぴり残念に思いながら追体験とは真逆の立場を楽しんでいました。
鈴木 でも共演者から指輪をもらったら相当重たいよ。
霧矢 本当の男女の間柄はダメですよね。宝塚は雰囲気が大事な世界ですから。でも想像でしかなかった花嫁、人妻を体験したお芝居だったので……(笑)。
鈴木 幸せだったんだ。
霧矢 幸せでしたよ ! だから今回は実生活の経験も豊富で、それをちゃんと芝居に乗せられる壮麻さんとご一緒するのだから、私もあまりない引き出しの中身を引っ張り出して追いつかないと、と必死です。
撮影:平岩享
鈴木 でもさ、このミュージカルは客席数の問題ではなく芝居の質としては小劇場の部類に入るでしょ。そういう意味では自分がいかに裸になっていけるかを目指していきたい。楽曲の持つ音楽的な効果に深い敬意を払いながらも、そこに乗りすぎないように、芝居とのバランスをどう見つけるかが皆さんとの作業だと思う。僕はピアノが大好きで、ピアノが一台あればオーケストラにも勝ると思っているんですよ。ピアノは楽器の王様で、その音色は別の楽器の音のように聞かせることもできて想像力を膨らませてくれる。それが今回はダブルピアノでしょ。実際に初演見てかっこいいなと思ったし、すごくワクワクしている。芝居をすごく助けてくれているので、それをどう自分の糧として演じていくかだと思いますね。
霧矢 役者としては二人ミュージカルですけど、常にピアノの存在を感じながら演じるという意味では4人芝居と一緒。芝居に合わせてくれるし、すごくやりやすい環境をつくってくださる。稽古の前半はお一人だけですけど、二人になるとゾクゾクってしますよ。
鈴木 この作品に出会えたというのは、ご褒美なんじゃないかと思いますね。
霧矢 その気持ちわかります。
鈴木 家庭生活の中で、野菜嫌いの息子がカミさんが作った野菜の煮物を「旨い!」と言って食べているのを見て、カミさんがものすごく喜んで、やがてうれし泣きとなり、それを見ていて俺がもらい泣きしたりしてね。そういうのって遊園地や旅行に行って楽しかったというのとは違う、すごく抱きしめたくなる幸せの瞬間だったりする。息子娘は舞台には登場しないけど、言葉の端々にいろいろ登場してくる。その人物造形が、僕たち夫婦の言葉からお客様に届いて、4人で暮らしている色が見えたらいいなあ。親が子供たちから解放されて、子供が子供を産んで、またその子供も……というのは今の風潮では尊ばれないのかもしれないけど、でも、そういった「寄り添うこと」の大切さを客席と共有して、さらに見ている方の心がほわっとなってくれれば良いですね。
《霧矢大夢》大阪府出身。1994年、宝塚歌劇団入団。入団当初から注目され多くの舞台に出演。2009年、文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。2010年、月組トップスターに就任。2012年4月、宝塚歌劇団を退団。2013年、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』に主演。11月、1stアルバム「The Gentlewoman」を発売した。そのほか、ミュージカル『オーシャンズ11』『ヴェローナの二紳士』『ビッグ・フィッシュ』、音楽劇『レミング』、ひとり芝居『THE LAST FLAPPER』など幅広く活躍。2014年に主演した『I DO!I DO!』で第22回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。
《鈴木壮麻》東京都出身。劇団四季の30周年記念オーディションに合格し、翌年の『ジーザス・クライスト・スーパースター』にて初舞台。『ウエスト・サイド物語』『オペラ座の怪人』『美女と野獣』など数々の作品に主演。1998年、劇団四季退団。その後も『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフ、『レ・ミゼラブル』のジャベールなどミュージカルを中心に活躍。2010年、劇団四季『サウンド・オブ・ミュージック』ではトラップ大佐を演じた。2015年の『サンセット大通り』『End of the RAINBOW』で第23回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞。
取材・文:いまいこういち
公演情報
■作曲:ハーヴィー・シュミット
■翻訳:広田敦郎
■演出:大河内直子
■出演:霧矢大夢 鈴木壮麻
■ピアニスト:江草啓太 松田眞樹
■日程:2018年5月11日(金)~5月20日(日)
■会場:博品館劇場
■料金:8,800円(全席指定・税込)
■問合せ:アン・ラト info@ae-on.co.jp
■公式サイト:http://event.1242.com/special/idoido/
■日程:2018年5月26日(土)15:00
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■料金:A席7,000円、B席4,500(税込)
■問合せ:芸術文化センターオフィス 079-868-0255
■公式サイト:https://www1.gcenter-hyogo.jp/