尾上菊五郎「次の世代に感じ取ってほしい」~「團菊祭五月大歌舞伎」『弁天娘女男白浪』を語る

2018.5.7
インタビュー
舞台

尾上菊五郎


2018年5月2日(水)から東京・歌舞伎座にて、歌舞伎座百三十年『團菊祭五月大歌舞伎』が開幕した。そもそも「團菊祭」とは、“明治の劇聖”とうたわれた九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎の偉業を顕彰するため、1936年に歌舞伎座で始められた。幾度かの中断を経て、1977年に復活、以降五月の恒例行事となっている。今年は七代目尾上菊五郎が夜の部の『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』で弁天小僧菊之助役を演じる。開幕に先立つ4月、新しくなった歌舞伎座の杮葺落公演以来となるこの役と、本作及び團菊祭にまつわる様々な話について、語ってくれた。

【解説】『弁天娘女男白浪』とは―

正式には『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』の一場面である演目。『青砥~』は非常に長い芝居で、通称『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』と呼ばれている。「白浪」とは盗賊のこと。五人の盗賊…日本駄右衛門(にっぽんだえもん)、弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)、忠信利平(ただのぶりへい)、赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう)、南郷力丸(なんごうりきまる)の所業を描いている。なかでも弁天小僧が主役となる場面は特に人気で『弁天娘女男白浪』という独立した演目として上演されることが多い。

とある呉服店に美しい武家の娘が家来を共に、婚礼衣裳をあつらえるためにやってくる。ところがこの娘は弁天小僧が変装した姿。家来に扮した南郷力丸と共に呉服店に難癖をつけて金をゆすろうとするが……
 

平成22年3月歌舞伎座公演の舞台写真

――今年の團菊祭で本作をやろうと思った理由を教えてください。

(市川)左團次さんみたいに昔からずっと参加してくださる方もいれば、(市川)海老蔵くんの日本駄右衛門は初めてなんじゃないかな。(尾上)松緑くん、(尾上)菊之助と揃ったので、このあたりで一度上演してみようと思ったんです。

前の歌舞伎座のとき、『白浪五人男』の「稲瀬川勢揃(いなせがわせいぞろい)」をやったんですが、「10年、15年後にこれをやる時に、この五人から誰か抜けてないだろうか」と言ったら、「そんなことないよー」と真っ先に言った夏雄ちゃん(十二代目 市川團十郎)が逝っちゃって、その後寿(坂東三津五郎)も逝っちゃって……。非常に淋しい想いをしましたね。

――「弁天小僧菊之助」を最初に演じたのはいつですか?

53年前の1965年、四代目菊之助を襲名した翌月に東横ホールで初めてやりました。当時はビデオもない頃でしたから、自分もいつかやりたいと思って父が演じているのをずっと見ていましたね。「弁天小僧」は襲名時をはじめ、節々でやらせていただいた役です。京都南座、大阪松竹座、博多座、御園座……本当にいろいろなところでやらせていただきました

平成25年4月歌舞伎座公演の舞台写真

――弁天小僧はきちんと決まった手順のある役だと思うのですが、こういった役は演じる上で難しいものですか?

今はもう何度も演じていますので大丈夫ですが、最初の頃は手順を覚えるのが大変でしたね。キセルや緋鹿の子の布をどのタイミングで出すのか、金をどこに入れるのか、とかね。あと「捨て台詞」をどこで言うのがいいのかも難しかったです。つい現代語になってペラペラ言ってしまって、後で言う台詞がなくなってしまって困ったこともありました(笑)

――そういった様々な経験を積んだ先に今回の上演があるんですね。

今回もきっと何かを感じるんだと思います。立役の部分が良くなると女方の部分が気になるし、女方を一生懸命やると今度は立役が気になるんです。回数はやっていますがまだ完成ではないので、毎回勉強です。25日間を完璧にやりきるのは至難の業ですよ。これまで何回やったかはもはや覚えていませんが、その都度新鮮な想いでやっています

――菊五郎さんが弁天小僧を演じる上で、特に気を配っている点があれば教えてください。

私は今年76歳になりますが、演じるのは弁天“小僧”です。16、7歳の人間にならないといけないので、その年齢なりの姿勢を続けると、腰がメリメリと痛くなるんです。若いときには気にならなかったことが身体にこたえます。まず胡坐(あぐら)をかくのが大変。今、1か月くらいダイエットをしていて5㎏体重を落としたんだけど、弁天小僧の姿になるためにはあと3㎏くらい落としたいんです。体重があると帯も苦しいんですよ。

尾上菊五郎

――誰よりも数多く「弁天小僧」を演じてきた菊五郎さん。後輩の方々に「受け継ぐ」という視点からどんなことを感じとってほしいと思っていますか?

言葉の間かなあ。あと、歌舞伎としての江戸っ子言葉ね。「ひゃく」(百)を「しゃく」というでしょ。でもやり過ぎるとぞーっとしてきちゃう。昔の江戸っ子はそう言ったかもしれないけれど、歌舞伎でやる場合の発音はちょっと違うと思うんです。お客様に聞かせる場合は「ひゃ」と「しゃ」の間くらいにするとかね。

――今回海老蔵さんが父・團十郎さんの演じた日本駄右衛門役を演じられると、昔の團十郎さんの面影を感じたりするかもしれませんね。

そうでしょうね。海老蔵くんもそうだけど、鳶頭(とびがしら)の役も(六代目 尾上)松助がやった役なので、息子の松也にやらせようと配役を決めたんです。彼らには映像を観るだけでなく、実際の演技を見て「感じ」を掴んでほしいんです。一緒に演じたことを思い出してほしいですね。

『弁天娘女男白浪』の名場面である「稲瀬川勢揃」で、白浪五人男が手に番傘を持ち、ずらりと並ぶ姿は圧巻の美しさ。今年の「團菊祭五月大歌舞伎」は、この歌舞伎ならではの美を菊五郎から次の世代へと受け継がれていく節目の上演となるのかもしれない。

取材・文・撮影=こむらさき

公演情報

歌舞伎座百三十年
團菊祭五月大歌舞伎
十二世市川團十郎五年祭

 
<昼の部>
一、
成田山開基一〇八〇年
二世市川團十郎生誕三百三十年
通し狂言
雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)
市川海老蔵五役相勤め申し候
二、
女伊達(おんなだて)

 
<夜の部>
一、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
二、鬼一法眼三略巻 菊畑(きいちほうげんさんりゃくのまき きくばたけ)

三、喜撰(きせん)
■会場:歌舞伎座
■日程:2018年5月2日(水)~26日(土) 
■開演時間:昼の部 11:00~/夜の部 16:30~
【貸切】5月24日(木)昼の部 ※幕見席は営業
■公式サイト:http://www.kabuki-bito.jp/
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