ヨーロッパ企画クロストーク! 20周年記念公演『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』の交互上演を裏話たっぷりで
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(右上から)上田誠、石田剛太、酒井善史、諏訪雅、(右下から)藤谷理子、中川晴樹
京都を代表する人気劇団ヨーロッパ企画が2018年、結成20周年を迎えた。アニバーサリーイヤーとなる今年の本公演では、彼らの代表作ともいえる『サマータイムマシン・ブルース(以下、ブルース)』と、その続編にあたる新作『サマータイムマシン・ワンスモア(以下、ワンスモア)』を交互上演することになった。過去何度となく再演してきた『ブルース』、今回初めて生み出す『ワンスモア』それぞれに様々な想いが込められているはず。そこでヨーロッパ企画の主宰にして、脚本、演出を手掛ける上田誠と、出演する石田剛太、酒井善史、諏訪雅、中川晴樹、そして藤谷理子に話を聞いた。
『サマータイムマシン・ブルース』
夏、とある大学の、SF研究会の部室。
SF研究を一切しない部員たちと、その奥の暗室に居をかまえる、カメラクラブのメンバーたち。
そんな日常に、ふと見ると、部屋の片隅に見慣れぬ物体。
「これってタイムマシンじゃん!」どうやらそれは本物。興奮する一同。
先発隊に選ばれた3人は早速タイムマシンに乗り込み、昨日へと向かうが……。
『サマータイムマシン・ワンスモア』
タイムマシンが現れた「あの夏の日」から、15年後。
SF研究会の元メンバーたちと、隣のカメラクラブの部員たちは、再びこの部室にやってきた……。
上田誠
ーー過去3回目上演されてきた『ブルース』ですが、この作品を結成20周年記念としてまた上演しようと思った動機を聞かせてください。
上田:正直照れますよ、この作品をこの年齢でもう一回やるのは。でもおもしろそうなのであえてやってみようと思ったんです。15年後の彼らを描く続編と共に。2005年に上演した際のメンバーが10人中9人まだ在籍しているので、役も当時のままでやろうと思います。
酒井善史
ーー10年以上経っていてこの残存率の高さは奇跡ですね。その奇跡のメンバーですが、演じる側として今回の上演をどう思っていますか?
酒井:この作品が2005年に映画化された時、誰がどの役を演じてくれるんだろうってワクワクしていたんですよ。ところが映画版では僕が舞台で演じていた木暮役がなくなっていて……「なくなってしまった役」という負い目を背負って今日までやってきました(笑)。そういう意味でも久しぶりにこの役ができるのが嬉しいです。
上田:そうだよね。あの時は映画上映のタイミングにあわせて舞台版を上演していたから……。
酒井:映画を観てから舞台を観に来た方は「あれ……映画にいない人がいる!?」となっていて。木暮の存在感がふわふわしていました(笑)。
石田:僕が演じた小泉って、実はあまり物語に関わっていないんですよ(笑)。皆の役ってタイムトラベルのきっかけになったり、諏訪さんが演じた新美は「俺のヴィダルサスーン盗んでたのかよ!?」という、タイムマシンギャグを言う役割があったんです。でも小泉ってまったくそういうのがなくて……ただ騒いでいる役でした。まるでたいしたことをしてなくて、舞台上にずっと出ているのに印象に残らないというか(笑)。
上田:あれ? 「リモコンを取りに行こう」の台詞は小泉じゃなくて?
石田:それは確か土佐(和成)さんがやった石松の台詞ですよ(笑)。
上田:その台詞、もらっちゃえば(笑)?
石田:(笑)。とにかく小泉って本当に場をかき乱すだけの役だったんで、今回も“ブルースでないところ”を担います。
中川:僕の役・甲本は物語の中心人物なんです。前回の上演から10数年経ち、僕はヨーロッパ企画の作品の中で中心人物ではない役を演じるようになっています。『ブルース』も最初はエチュードで作り始めていて、その時は僕が場の中心だったんですが、今は全然そうじゃない。新作の『ワンスモア』をやるときにもいつも通りエチュードから入ると思いますが、僕自身の立ち位置が以前と違うので、その辺はどうなってしまうのかなって思っています。
上田:甲本は中心人物……というより、ただ最初に部室にいた人であり、部室に長くいただけの人。中心人物かというとちょっと違うというか。
中川:あれ!? じゃあそもそも昔から僕は中心人物ではなかった……と(笑)。
上田:一応主役ではあるんですけど、中心人物ではないです(笑)。映画版で瑛太くんが甲本役をやったことでリーダー感が出てしまった、その影響じゃないかな?
中川:そうかも。映画版のせいで、思い出補正がかかっているからね(笑)。
上田:甲本はSF研では4番目くらいにおもしろい奴ですから(笑)。
中川:順位低いなあ。俺の後ろに木暮しかいない気がする(笑)。
上田:やっぱりこの作品って映画版の印象に引っ張られるんですよ。だからある程度の思い出補正がかかってしまいますね(笑)。
諏訪雅
諏訪:僕はまあ「ヴィダルサスーン」の役ですよね(※正しくは新美役)。当時の「ヴィダルサスーン」と今の「ヴィダルサスーン」のイメージの違いが気になっているんですが。今回の再演で、今の時代に合わせる場合、大学生が「パンテーン」を使っている感じなのか?それとも「いち髪」にしたほうがいいのか……?でも、どれも何かちょっと違う……やっぱり「ヴィダルサスーン」は「ヴィダルサスーン」なんだよなあ。
ーー10数年前の大学生から見た「ヴィダルサスーン」のイメージって、ちょっとおしゃれを気取って輸入モノをわざわざ使っているイメージだったように記憶しています。「私、他の人とはちょっと違うの」的なイメージ(笑)。
上田:当時は「ヴィダルサスーン」のおかげで“髪をスタジオでセットする”ことや“スタジオ”って言葉自体も知りましたから。「散髪屋さん」じゃないのか、と。
全員:あー! 確かに!
石田:でもこれ、実話なんですよね。
上田:そうそう。当時うちの劇団にいた子が合宿に「ヴィダルサスーン」を持ってきていたんですよ。それが衝撃的で。風呂場に置いてあるシャンプーを使えばいいのに、わざわざ持参してきたという……まあ僕らも若干斜に構えた見方をしていましたが(笑)。
ーー(笑)。そんな『ブルース』の15年後を描いたのが新作の『ワンスモア』です。今回2本立てで上演しようと考えたのはどうしてですか?
上田:再演1本だけだとなんとなく僕らが楽しめないので。これまでも再演ものと他の作品を2本、3本と合わせ技でやったりしてきたんです。
ーー気になる新作の『ワンスモア』はどのような話になるんでしょうか? 『ブルース』の15年後という時代設定以外の部分を聞かせてください。
上田:まず前提となる『ブルース』ですが、僕らの中でもうこの作品は若い時の輝きを封じ込めておこう、これ以上再演はしないでおこうと思った作品でしたが、その後いろいろな作品をやっていくうちに、『ブルース』の続編をやったら実はおもしろいんじゃないかな、と思えるようになってきたんです。
『ブルース』の映画版を手掛けた本広(克行)監督が、以前から「この作品の続編をやろうよ」って仰ってくれていたんです。その頃の僕は、『ブルース』はこれはこれでおさまりのいい作品と捉えていて、この続編となると「蛇足」になるんじゃないかなと思っていたんです。だから本広さんの言葉に「やりましょうか~」と返してはいたものの、実現するイメージはありませんでした。でも、誰かにそう言われると、頭のどこかにその事が残ってしまうじゃないですか。そのうち「蛇足」で話を作るのもおもしろいかな、『ブルース』が優等生的な作品だとすれば、その続編は「え、それやるの?」と思われるくらい、ふてぶてしい内容でもいいじゃないか、って。
ーー演じる側としては「続編をやろう」という話が出たとき、正直どのようなお気持ちでしたか?
酒井:木暮は作品の中でSF側の役割を担っていたので、続編でそっちの決着を付けたいかなって。タイムマシンの出どころとかが描かれたら楽しみだなあと思いましたね。
中川晴樹
中川:僕、この前映画版に出ていたムロツヨシに会ってね。今度『ブルース』とその続編『ワンスモア』をやるよって話をしたらすごく楽しみにしてくれて! 『ブルース』に出てきたあいつらがその後どうなっているのか、とても気になる! って言っていたんですよ。
全員:へえー!
中川:僕らはそれほどの思いはなかったんだけど、興味を持っていた人は少なからずいるんだねって思いましたね。
上田:映画って一人の人物を深く演じ込んでいく作り方をしていますが、舞台ってどこか「引き」で作っていくところがあるので……。思い入れの度合いが違うんでしょうね。
藤谷理子
ーーそんな続編『ワンスモア』ですが、ここでようやく藤谷さんの出番です。出演のお声がかかったとき、どのような気持ちでしたか?
藤谷:めちゃくちゃ嬉しかったです。以前『来てけつかるべき新世界』に出演しましたが、また皆さんと共演できることになったのが嬉しくて!
ーー前回共演したときの藤谷さんの印象はいかがでしたか?
上田:女優さんとしての演技力もすごかった……それよりもまず記憶力がすごかった!
全員:頼もしかったね!
酒井:理子ちゃんがストーリーを語ってくれる役どころだったので、理子ちゃんが台詞を覚えていればそれでもう大丈夫だった。僕らはうだうだ喋っていればよくてね(笑)。
(「すごい頼りになったよね」「本当に」「対応力が高くてね」「助かりました」などワイワイ)
ーーそんな感想を聞いていかがですか?
藤谷:『来てけつかる~』のときは(酒井たちが)おっさんという設定だったし、実際「うちら、おっさんやから」とも仰ってくださったので、稽古や本番の間は「おじさんたち」という接し方をしていました。でもその後、『出てこようとしてるトロンプルイユ』などを観に行ったとき「全然おっさんじゃない!」って驚きましたね(笑)。
上田:そんな理子ちゃんは、理子ちゃん世代の人が知っているカルチャーに詳しくないんですよ。だからなんとなく助かっていました(笑)。我々にはない文化に対して構える事もしなくてよかったし。
ーー実は知っているんだけど、おじさんたちに気を使ってあえて隠していたとか(笑)?
藤谷:そうだったらよかったんですが……本当に疎くて(笑)。母には「おばちゃんくさい」と時々言われます。
上田:よかった。ここで「隠してた」って言われたら微妙な空気になっていたかもしれない(笑)。
ーーそんな藤谷さんたちリアル大学生たちと、SF研究会OBという関係性が『ワンスモア』で描かれるんですね。
上田:はい、相当厚かましい内容になると思いますよ。そもそもOBが部室にいる理由がないですからねえ。
ーー『ワンスモア』の今の進行はどのあたりですか?
上田:ホンはまだ僕の頭の中ですが、ワークショップはやっています。といっても2005年の『ブルース』の映像を皆で観ただけなんですけどね。「この人って15年後、どうなっているんだろう」とか想像している段階です。
でもこの物語に登場する人物って、元々はさほど魅力的な要素がない人たちなんですよ(笑)。例えば文房具を見にきた宇宙人とかってポップじゃないですか。それと比べたらSF研究会で特にSFも研究していなかった大学生たちの15年後なんて別に魅力的なことはなさそうでしょ。
諏訪:まあ就職していて草野球はしているんだろうか、とかね。
全員:あまり変わってないだろうねえ(笑)。
中川:別に将来ああなりたい、こうなりたいって語っていた訳ではないですしね。特に夢もなくダラダラ生きている奴らの15年後ですから、たぶんどうにもなっていない(笑)。
上田:これが学生時代にバンドをやっていた仲間とかなら、15年後にまだバンドやってるのか? な展開も期待できますが。
中川:バンド設定だったら「再結成しようよ!」って話になるかもしれない。でもこいつらは、本当に何もない(笑)!
上田:もちろん15年経った人物の造形は作りますがね。ここが普段の公演と大きく違うところなんです。いつもの新作であれば、ストーリーがおもしろくなるように登場人物の設定を考えていくんです。画家の卵が3人いて、娼婦がいて、大家がいて……そんな人たちが集まったらおもしろいだろうなあって。でも『ワンスモア』の登場人物は以前からいた人たち。だからゼロから考えるのではなく、すでに存在する人々の「その先」を考えていかなければならないんです。
石田:石松さんって『ブルース』では、いろいろなモノを盗ってくるという人だったでしょ。それが15年後に「仕事を取ってくるのが上手くなっている」のかもしれないし……。
酒井:ものすごい犯罪者になっているかもしれない(笑)。
上田:だからといって、舞台を観る方々に『ワンスモア』の登場人物を冒頭一人ずつ説明されても「知らんがな!」って言うと思うよ(笑)。
全員:わははは。
上田:そんな自己紹介をやるほど、あいつらに『アベンジャーズ』感はないんです(笑)。作品自体もね。
ーー15歳違うだけで特に変わっていない同じ役を『ブルース』と『ワンスモア』で演じていくとなると、稽古中に混乱したりしそうですね。今どっちの設定で演じていた?って。
石田剛太
石田:すごい落ち着いた喋り方をしているとか、メガネかけて「そうだねえ……」とか大人っぽく言っていれば大人感は出そうですが……実際そうじゃないでしょうし。
上田:演じ分け問題ね。でも『ワンスモア』はリアル学生たちが出てくるので相対的にこの人たちが大人に見えるんじゃないかな。一見大きさが分からないものを煙草の大きさと比較して掴むように(笑)、理子ちゃんがいることで、大人であることが分かると思うんです。
ーー藤谷さんは『ワンスモア』のみの出演となりますが、稽古や本番に向けて楽しみにしていることは?
藤谷:タダで『ブルース』を観ることができていいですね。昼公演が『ブルース』ならそれを楽しんでから自分が出る『ワンスモア』をやることもできますし。
上田:片方しか出演していないので、体力も1本分しか使ってないから元気だろうし(笑)。2作交互上演って事自体初めてですから、どうなるのか想像がつかないですね。
石田:俺たち毎日グニャグニャになってるかもしれない(笑)。
ーー2作品で15年の時間経過を体感することになります。これを自分自身に置き換えたとき、この15年間で感じる「変化」はありますか?
酒井:そうですね……家族ができたなあ、とか。以前はツッコミだったんですけど、最近はツッコミじゃないよな、とか。以前は群像の中にいた自分が、今は群像から離れたところにいるようになりましたね。
石田:僕は本当に変わってないですね。成長していないのかと思うくらい。アルバイトをしなくてよくなったくらいかなあ(笑)。
上田:僕もそんなに変わってないですね。そりゃ結婚もしましたが、それでも普通の同級生と比べると全然変わってないと思います。何しろやっている事が学生の時とまったく同じなので。
中川:俺も変わってないほうだ。結婚とかしていないと劇的に変わらないものですね。考え方もやっていることも変わらない。
諏訪:もう……一緒ですね。
全員:短かっ(笑)。
上田:これが芸人さんのコンビなら、コンビ結成時は活動ぶりが自分らの思い通りじゃなかったりもすると思うので、その後変化が出てくると思うんですが、劇団って何年かしたらもう自分たちでやりたい公演が大体思い通りにできるようになってくるんです。劇場を自分たちで借りるスタイルなので。だから「やり始めた頃はこんな苦労が……」とかあまりなかったし。
酒井:苦労したこともあったかもしれないけど。……忘れているし!
上田:この「劇団」「役者」という仕事の特徴かもしれないですね。「変わらない」ということが。今って上の世代が昔よりあまり抜けていかなくなってきているじゃないですか。だから後からこの世界に入っても上の人たちがほとんど変わらず同じ世界に存在していて。何年経っても全体的に上に広がっている感じ。演劇を初めて20年経ちましたが、その20年の中でも先輩方が昔と変わらずにいらっしゃいます。
酒井:きっと僕らがいる世界が他の世界と違っているんでしょうね。
上田:以前『月とスイートスポット』という劇を作った時、「集団ってものはいつか人が減っていくんだよ」って事を自分たちへの戒めのつもりで書いたんです。ところが戒めたつもりが今……ほとんど減っていない(笑)。めでたいことなんでしょうけどね。
(右奥から)酒井善史、石田剛太、藤谷理子、上田誠、中川晴樹、諏訪雅
取材・文・撮影=こむらさき
公演情報
第37回公演『サマータイムマシン・ブルース』
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力/早織
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力/藤谷理子、城築創、岡嶋秀昭、早織
栗東プレビュー公演 2018年7月28日(土) 栗東芸術文化会館さきら中ホール ●
京都公演 2018年8月9日(木)~12日(日) 京都府立文化芸術会館
東京公演 2018年8月17日(金)~9月9日(日) 本多劇場
大阪公演 2018年9月12日(水)~28日(金) ABCホール
愛媛公演 2018年9月30日(日) 西条市丹原文化会館大ホール ●
高知公演 2018年10月2日(火) 高知県立県民文化ホールグリーンホール ●
名古屋公演 2018年10月4日(木) ウインクあいち 2階大ホール ●
広島公演 2018年10月25日(木) アステールプラザ中ホール ●
福岡公演 2018年10月27日(土)・28日(日) 西鉄ホール
札幌公演 2018年11月3日(土) 道新ホール
横浜公演 2018年11月10日(土) 関内ホール
●印は『サマータイムマシン・ワンスモア』のみの上演
■公式サイト:http://www.europe-kikaku.com/projects/e37-38/