シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム第二十八沼(だいにじゅうはっしょう) 『キャンプという泥沼!』
「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第二十八沼(だいにじゅうはっしょう) 『キャンプという泥沼!』
毎年5月になると、なにかと不安定な自由業のデメリットと引き換えに、最大のメリットを感じることになる。
そう、ゴールデンウィークの行楽などで大渋滞にハマる皆様を見ている時だ。
数十キロにも及ぶ高速道路での渋滞。
考えるだけで息苦しくなる。
きっと、何百、いや何千人の人々が渋滞のイライラで車中で、喧嘩をしたり、UNKOやOSHICKOを漏らしている、と思うと非常に気の毒だ。
だから私は旅行に行くにも釣りにいくにも、行楽に行く際は絶対に平日と決めているのだ。
しかしサラリーマンの皆様もあきらめる事は無い。
有給を使ったり、親が死んだと嘘をつかなくてもw、
究極のストレスフリーな行楽を楽しめる事を発見したのだ!
時間もお金もかからない手軽なキャンプ
キャンプを始めて15年ほどになるが、いつも疑問に思うことがある。
それは、お金を出して場所(キャンプ場)を借り、時間がくるとキッチリとチェックアウトしなければいけない。
普段仕事と時間に追われているからこそ「自然」というフィールドに自由を求めて集まるわけだが、それでも時間に拘束されているもどかしさが常に付きまとい、落ち着いて自然を楽しむこともできない。
「終わりよければ全て良し」という言葉を信じている私にとって、キャンプ場に着いた瞬間から、片付けがチェックアウトの時間までにぴったり終わるか、そればかり気にして、完全に楽しむどころか、胃を痛める事が多い。
物凄いストレスを感じながら毎回キャンプをしていたわけだ。
そこで、私は思いついてしまった。
「そうだ・・・・自宅でキャンプをやろう!」
と。
自宅の庭にテントを張り、トライポッドに吊るしたダッヂオーブンに炭をくべる。
そして手作りのガーランドと鯉のぼりを風に泳がせ、「屋外で生活する」という非日常の空間の中で家族の団欒を楽しむ。
庭を持っていなければ、部屋の中でやればいいのだ。
どうやら、最近では身近にキャンプ気分を味わう
「グランピング」
というものが流行っているらしいが、まさに私が今回思いついたコンセプト通りの行楽がノンストレスで行えるのだ!!!
底なしの物欲をそそるアウトドアグッズ
「すぐやる課」の課長を49年務める私は、早速15年選手のボロいテントを組み立て始めた。
すると、テントの骨組みとなるポールが
「ボキっ!」
という音とともに折れた。
横目で隣に居た妻の顔を見ると「おニューのテントを買って良し!許す」という表情だ。
無言のまま、かねてから欲しかったメーカーのテントとタープを新調。
(後日の妻談「そんな事言った覚えもないし、顔に書いた覚えもない」)
しかし、やはり高級ブランドは違う。
楽器でも服でもそうだが、やはり値段相応の機能を搭載している。
真面目に丁寧に作られたそれらの道具は一生ものだ。
つまり、安い買い物をしたわけだ。
(・・・と家族には説明した)
特に驚いたのは、ソリッドステイクという鉄製のペグと、それを打ち込む専用のペグハンマーだ。(*テントやタープを地面に接地する際、風で飛ばされないようにテントと地面をロープで繋ぐ。その際に打つ鋲をペグという)
硬い地面にも驚くほどスムーズに打ち込む事ができ、強靭なホールド力を見せてくれる。
テントも結露し難く、風通しが良く快適だ。
最近のキャンパーのトレンドは、目線を低くするローテーブルやローチェアーなどロースタイルで楽しむそうだ。
これは妻に内緒で買った。
ヘリノックスの黄色と黒。黄色が妻のだ。到着したらバレる。
やはりすぐにバレた。
私の買ったメーカーのテントは高価だがとても人気が高く、キャンプ場に行くと、自分のテントに戻れないほど同型のものが多い、とベテランキャンパーに聞いたので個性をつける事にした。
分譲住宅より、自分でデザインした家に住みたいのはだれでも同じ願いである。
そこで最も簡単に我が家を見分けられるように、あらゆるヴィンテージワッペンを貼り付けた。
そして、シンボルワッペンの通り、我がテントの名前を「the knight house」と命名。
次に手をつけたのが、ガーランドフラッグだ。
よくテントに吊るされている沢山の三角の旗をご覧になった方も多いだろう。
ここで、私は思い切った。
テントより高いヴィンテージの洋服の生地をバラしてガーランドを作る事にしたのだ。
妻に私の意気込みを見せるために!(何の?)
これが完成したガーランドだ!
「死んだら、一緒に棺に入れてくれ」と家族に頼んでおいたWorlds endのスクイグルシャツ。
テントが「騎士」なのに
ガーランドが「海賊」
っていうのもなんだか矛盾しているようだが、これでいいのだ。
まだまだ泥沼は続く。
あまりにもキャンプグッズばかり調べているので、私のブラウザーにはアウトドアグッズの広告しか出なくなった。
そして、また買う。
買う。
買う。
COW....
待ちに待ったGWのグランピング
いよいよゴールデンウィーク初日。
自宅の庭にテントが張られた。
誰に気負う事もなく自由に、またゆっくりと流れる時間に酔いしれ、水遊びで疲れた子供達はテントに映るチェアーや木の影の下でうたた寝をする。
いったいどんな夢をみているのだろうか。
苦労して手作りしたガーランド。
一家族しか居ないキャンプ場で機能しない「THE KNIGHT HOUSE」のワッペンは心の栄養。
また器用貧乏は豊かな心を育てる。
最高に贅沢な情操教育だ。
家の中の快適空間で食事をし寝ればいいものを、なぜ蚊に刺されながら屋外で過ごしたくなるのか。
「不便を味わう」
一言で言うとこれだ。
この言葉には多くの意味が隠されている。
非日常を自分たちで作り出し、演出し、楽しむ。
心が疲れているのだ。
地面に大の字で寝る。
直接地面の存在と、重力を感じる事ができる。
物質は地球のど真ん中の何かに引っ張られているのだ。
つまり、自身の存在を地球という惑星をかりて確かめているのだ。
こうして齋藤家のお庭キャンプはゴールデンウィークをぶっ通して行われた。
渋滞に巻き込まれる事も無く、無料貸切のキャンプ場で。
ただし、徹底的に守ったルールが2つだけある。
一、携帯電話の電源を切る。
二、トイレは外でする。
これだけだ。
あなたも、まだまだ遅くはない。
一緒にキャンプ沼の住人になろう。