『ジャージー・ボーイズ』主演、中川晃教が大阪で会見&インタビュー

2018.6.1
インタビュー
舞台

『ジャージー・ボーイズ』でフランキー・ヴァリを演じる中川晃教。 [撮影]吉永美和子

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「僕の30代の代表的な役は、このフランキー・ヴァリかなと思っています」

アメリカのポップグループ「フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ」の軌跡を、彼らのヒット曲に乗せて見せていくミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。2016年に日本で初演を迎えるや否や、またたく間に大評判となり、その年の数々の演劇賞を受賞するに至った。この成功の大きな要因となったのが、「天使の声」と称されたフランキー・ヴァリの歌声を見事に体現した、中川晃教の存在だろう。彼自身「この作品に出会えたのは奇跡」という舞台が、2年ぶりに東京で再演されるのを皮切りに、全国5ヶ所で初上演されることに。その中川が大阪で行われた会見で、本作への意気込みや、ミュージカルに対する思いについて熱く語った。その模様を、一部単独取材でうかがった発言も交えて紹介する。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』宣伝ビジュアル。

■「あの年まで歌い続けられるか?」という気持ちを重ねることができる役。

──まず初演当時のことについて、聞かせていただけますか?

フランキー・ヴァリ役を手中に収めるまでのプロセス自体、初めて経験することが多かったですね。この役だけは(アメリカ)本国のプロデューサーで、フォー・シーズンズのメンバーでもあるボブ・ゴーディオさんのOKをいただかないといけないんです。それでまず、3曲のデモ・テープと歌唱してる姿を送って、合格したら次はそれが6曲に増える。というのもフォー・シーズンズの楽曲は、初期・中期・後期で音楽性が進化していくし、それにともなってヴァリの声の出し方もだいぶ変わるんです。その発声のコントロールも含めて、キッチリ審査を受けました。

──かなり念入りですね。

最初(主催の)東宝さんから「この役は中川さんしかいない」と言われて「わかりました、やります!」と答えた後で、そういうオーディションがあると聞いて「え、これ決まってる話じゃないの?」って(笑)。そのためにトワング(※ヴァリの声を出すのに必要な発声法)を収得するのに苦労して「これできないかも」って思ったけど、東宝さんは「できる」と……でもそう言われると、やっぱり意地もあるし、その気持ちにも応えたいじゃないですか?「絶対できる」と思って勉強して、半年以上かけて発声できるようになって、オーディションでOKをいただいて、ようやく日本で上演することが許されたと。だから初演を迎えた時の重みが、他の作品とは全然違いました。

──トワングって、具体的にはどのようなトレーニングをするのでしょうか?

歌唱法というよりも、音声学、医学のレベルの話です。身体のどこの筋肉を使えば、この高い声を出すことができるかという。まず自分のニュートラルな声をちゃんと整えた上で、喉や身体全体の仕組みを考えつつ、自分の個性も合わせていって、ヴァリの声を出すための筋肉を鍛えていく。それはだから、アスリートの訓練と同じですよ。初演が終わってからも2年間レッスンを続けましたし、昨日も行ってきた所です。

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

──単に高い声を出そうとするのとは、かなり違うものなのですね。

たとえば……これ、ちゃんと文字にしてくださいますか?(笑)普通の裏声だと「シェーェリー♪」(※劇中にも登場するヒット曲『シェリー』の一節)って感じですけど、トワングだと『シェェェェェリィィィィー♪』……これぐらい違うんです。

──この表現で伝わるかどうか不明ですが、今部屋の空気のふるえ方が全然違いました!

でもこの訓練は、単に自分を鍛えるものではなく、フランキー・ヴァリになるためにあるわけですからね。その目標がはっきり見えているという意味では、やり甲斐があります。とはいえ初演の時は、全41ステージを毎回ちゃんとクリアできるかどうかが、すっごいプレッシャーだったんです。いつもの自分の声だったらできる自信はあるんですけど、フランキー・ヴァリの声は、初めて自分が出会う声だったんで。実際全ステージが終わった後は、「もっとできたんじゃないか?」ってくやしさがありました。だから再演ができることがすごく幸せだなあと、今実感しています。

──中川さんはミュージシャンでもあるので、音楽業界の光と影を描いたこの作品とヴァリのキャラクターには「これ、同じミュージシャンとしてすごくわかる!」と感じた所も多かったのではないでしょうか?

すごくありますね。僕は18歳でデビューしたんですけど、その前と後では「こんなにも世界が変わるんだ」というのを実感しましたし。そして追い風に乗っているように順調な時もあれば、行き詰まって自分で風を作らなきゃいけない時期もある。そのせいで、グループ内の関係性が変化するというのも……僕はソロですけど、すごく理解できる話なんです。でもそんな浮き沈みの激しい世界の中で、紆余曲折を経ながらも今なお現役で歌い、スターであり続けているフランキー・ヴァリに対する尊敬の気持ちが、僕にとっての入口だったと思うんです。「自分もあの年まで歌い続けることができるんだろうか?」って。しかもヴァリって、今現在の方がいい声をしてるんですよ。歌手としてその気持ちを重ねることができるというのが、僕にとって一番つながっている部分です。

──これからの自分の人生を、ちょっと先取りできたというか。

……まさにその言葉を導き出したかったかのようでしたね、僕の今の話。言ったからには、そうならなきゃいけないなあ(笑)。この役を演じるに当たって、特にヴァリ本人から何かをいただいたということはないんですけど、ヴァリについてこういう風に感じている僕自身の中から、きっと僕なりのフランキー・ヴァリが作れているんじゃないかと。こんなに「ぴったりハマってる役ですね」と言っていただけるのもすごいことだし、この役と出会えたのは運命ですね。僕の10~20代の代表的な役が(『モーツァルト!』の)モーツァルトだとしたら、30代はフランキー・ヴァリかなと実感しています。

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

■ハーモニーが芝居を作るので、再演ではヴァリの声をもっと追求したい。

──初演の時に苦労した点は。

カンパニーが一つになることですね。この物語は本当によくできていて、(ザ・フォー・シーズンズの)4人の物語が春・夏・秋・冬の4つに分かれていて、季節ごとにストーリーテラーがバトンタッチしていく。つまり4人とも主役なんです。まずトミー・デヴィートがヴァリをエンターテインメントシーンに導いて、グループとして出発するのが春。夏は作曲家のボブ・ゴーディオがヴァリの歌声を聴いてグループに加わり、大きな転機を迎える。そしてグループの要となっていた、ニック・マッシが脱退するのが秋。そしてヴァリは娘を亡くし、グループも危機を迎えるけれど、そんな冬のような季節でも生きていく、歌い続けるという。「フォー・シーズンズ(四季)」というグループ名に掛けた構成は、この作品の見どころの一つだと思います。

──その構成はクリント・イーストウッド監督の映画版でも、キチンと踏襲されてましたね。

時系列も曲目も、ほぼほぼ一緒のはずです。日本版の藤田俊太郎さんの演出では、アンサンブルのメンバーも全員が、常に舞台上にいることを要求されまして、それによって「みんなでこの舞台を作る」という認識が植え付けられていきました。ただ「最後に愛は勝つ」じゃないですけど(笑)、何が最後の勝利になるかは、作品によって毎回違うんですよね。それでいうとこの作品は、それぞれのパートを担っているメンバー4人の……特に歌によって生まれる圧倒的な存在感によって、決定的に決まってくるものが大きいと思ったんです。だから稽古場の段階からお互いがちゃんとコミュニケーションを取って、舞台で何かアクシデントが起こった時も、この4人なら大丈夫というぐらい完ぺきな状態を作っていくという。その状態を作るための緊張感や集中力の持続が、一番苦労した所でした。

──中川さん以外のキャストは「WHITE」と「RED」(再演では「BLUE」)に分かれてましたが、それぞれのチームの違いを教えていただけますか?

「RED」は各々がチーム内での自分の役割をしっかり見つけて、それを全うしながらも余裕を感じさせるようなメンバーでしたね。だから偶発的に生まれたことも、とても効果的に芝居の中に入れてきたりしてました。「WHITE」は全員がすごくフレッシュな気持ちを持っていて……たとえば映画で興味を持って、初めてミュージカルの舞台を観に来たお客さんでもすぐにオープンになれるような、そんなピュアさを感じました。今回はREDに変わって「BLUE」が加わるわけですけど、やっぱりBLUEはBLUEの特色やこだわりが出てくるんじゃないかなあと。まだ稽古が始まってないからわからないですけど、ちょっと熱い、波乱万丈なチームになる予感がしています(笑)。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』REDチームの時の中川晃教(2016年7月東京初演より)。 [写真提供]東宝演劇部

──中川さんのヴァリも、やはりチームによって違いはあったんでしょうか?

演出はどちらも変わらないんですよ。「WHITEはこう」「REDはこう」というのはまったくなくて、どっちも同じものを作ろうとしているけど、人間が変われば印象が変わるし、僕が演じるフランキー・ヴァリも変わっていく。ここがこの舞台のミソなんです。変えようと思ってなくても、変わるという。そのためにもぜひ両方観ていただいて(笑)「同じことをやってるはずなのに、なぜここまで違うんだろう?」という所を楽しんでもらいたいです。

──再演では、どういう所を追求していきたいですか?

まず僕の中では、フランキー・ヴァリのあの声を磨き続けること。ミュージカルって、やっぱり声で役を表現するものだし、芝居という観点から役の声が生まれてくるという意味では、ヴァリの声は僕自身の声じゃない。この声こそが、フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズのハーモニーの、大きな特徴なんです。でもみんながヴァリの声に合わせようとした時に、その声がちょっとでもズレると、全部がズレてしまう。そういう意味での協調性というか、ハーモニーが芝居を作っている。もっと言ったらヴァリの声が、このカンパニーを作ること、空気感を作ること、全部につながってくるので、本当に奥が深い。なのでやっぱり、声を追求していきたいです。

──そして東京以外の場所で、初めてこの作品を披露することになりますが。

本当に「お待たせしました!」という気持ちです(笑)。特に大阪公演の劇場って、新歌舞伎座じゃないですか? この作品って世界中のカンパニーで上演されてるんですけど、「これが日本のカンパニーだ」って言えるような場所でやれるのは、ちょっと誇らしいですね。

僕はこれまで何度か新歌舞伎座の舞台には立ってるんですけど、やっぱり普段からミュージカルを上演している劇場とは全然客層が違うし、ミュージカルの面白さとこの空間ならではの面白さがマッチした時の感動とか、スケールみたいなものをまだ探している所なのかな? と思いました。初演と演出を変えるとは言われてないんですけど、この劇場の特性や魅力に僕らがアジャストしていこうとする過程で、大阪ならではの『ジャージー・ボーイズ』が生まれるんじゃないかと思っています。

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』WHITEチーム(2016年7月東京初演より)。 [写真提供]東宝演劇部

ミュージカルが別の時代を迎える中で、「自分にできることは何だろう?」と。

──この作品に触れたことで、改めてミュージカルについて考えたことや、感じたことなどは、何かありますか?

何か一言では言い表せないような、僕とミュージカルの関係というのは確かにあります。19歳で『モーツァルト!』に出演した時は、ここまでミュージカルに出るとは思ってなかったんですけど、自分の「やりたい」という思いだけでは見られないような景色を、たくさん見せてもらっている気がするんです。シンガーソングライターという所から、ミュージカルに挑戦したことによって……しかも初めて出会った役が、音楽家の役ですからね。自分の一番の武器であり、一番自分が自分であると思える「歌」の部分、特に詩に対する表現がすごく変わってきたので、そこはミュージカルをやっていて良かったと思います。

と同時に、今『グレイテスト・ショーマン』や『ラ・ラ・ランド』など、巷でミュージカルが盛り上がっている中で、自分ができる役割は何だろう? と考える視点が生まれてきました。たとえば『グレイテスト・ショーマン』はポップスが、『ラ・ラ・ランド』ではジャズがミュージカルになるという。これまでの時代のミュージカル……たとえば『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』とは、また別の時代に来てるんじゃないかと思うんです。

──ヒップホップ音楽でヒットした『ハミルトン』もその象徴ですよね。

しかもあれ、リン=マヌエル・ミランダが作詞・作曲・主演を全部一人でやってますからね。何であんなことができるんだろう?(笑)そうやって“別の時代”に来ていることを自覚し、体験もさせていただきながら、自分なりの視点で今のミュージカルの大きな流れ、そして自分にできることを考えていきたいです。

この『ジャージー・ボーイズ』を含めた新しい時代のミュージカルに、日本のお客さんが熱狂するということは、やっぱり日本のミュージカルシーンでも何か新しい部分や、これをきっかけに生まれてくる可能性があるんじゃないかと。それが今後、日本のオリジナルミュージカルを作ることにもつながっていくと思います。それは舞台でもいいし、映画でもいい。『グレイテスト・ショーマン』だって、映画が先なわけですから。

──そんな中で、日本のミュージカル界がまだ気づいてなくて、ぜひ引き出してほしいと思っている、中川晃教の魅力みたいなものってありますか?

自分でそれを言うのが面白いですよね(笑)。うーん……この前コンサートで『オペラ座の怪人』を歌ったんですよ。あのファントムの声って、自分の中にはない声だと思ってたんです。でも僕も35歳になって、だんだん太い男っぽい声が出るようになってきたので、ファントムみたいな役もできるんじゃないかなと思い始めました。だから今まで「身長がないからできない」と思われていた役でも、意外とやれる役がいっぱいあるんじゃないかなあ……身長の話かい!(笑)

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

──それでは改めて、再演に向けての抱負をお聞かせください。

中川晃教がこれから何をやっていくのか?」という所に、一つ自信を持たせてくれたと同時に、まだ足りないものがあることにも気付かせてくれたのが、このフランキー・ヴァリだったんです。そして完成することはない。いつまでも完ぺきを求めたいけど、いつも何かを一つクリアすると、まだその先に次の課題が待っているという。でも30代になった自分が今まで経験してきたことを経て、力を試されて、力を発揮できるような作品に出会えているなあと思うんです。

まずは、お客様の最後の拍手を通じて「観に来て良かった。明日から頑張ろう」って思っていただけたんだなあ……って感じられるように、しっかりと準備していきたいと思います。でも一方で「この作品でミュージカルを初めて観ます」というお客様が多いという、間口の広さもこの作品の特徴なので、それで余計に再演を気負ってしまっていた気がするんです。

──そのお客様が、今後もミュージカルを見続けてくれるかどうかの試金石になるという。

でも、この2年間で目標を明確にして課題をクリアしてきたことで、実はちょっとした自信が自分の中で生まれているということにも、今日こうしてお話することで気づきました(笑)。やっぱり初めての方にも、ミュージカル界全体にいい印象を感じてもらえるような作品だと思うし、そして今回の地方公演での反応が、再再演に向かっていくキーになるんじゃないかと。『モーツァルト!』が長らく愛されているように、『ジャージー・ボーイズ』っていうミュージカルも愛されるように取り組んでいきたいです。

──一生この役を大切に、自分以外に演じて欲しくないぐらいにしていこうと?

いやいや、「次のフランキー・ヴァリが、そろそろ現れてくれー!」って思ってます(笑)。もちろんこの役はずっとやり続けたいですけど、日本で『ジャージー・ボーイズ』がもっともっと広がっていくためには、別の側面で僕ができることもあるんじゃないかなあと。だからそのためにも、ますます頑張ろうと思います。

中川晃教。 [撮影]吉永美和子

公演情報

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
 
■日時・会場:
【東京公演】2018年9月7日(金)~10月3日(水) シアタークリエ
【秋田公演】2018年10月8日(月・祝) 大館市民文化会館
【岩手公演】2018年10月11日(木)・12日(金) 岩手県民会館
【愛知公演】2018年10月17日(水)・18日(木) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【大阪公演】2018年10月24日(水)~28日(日) 新歌舞伎座
【福岡公演】2018年11月3日(土)・4日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
 
大阪公演
6/1(金)12:00~18/6/4(月)18:00 プレオーダー受付中
 
■脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
■音楽:ボブ・ゴーディオ
■詞:ボブ・クルー
■演出:藤田俊太郎
■出演:
フランキー・ヴァリ:中川晃教
トミー・デヴィート:中河内雅貴、伊礼彼方(Wキャスト)
ボブ・ゴーディオ:海宝直人、矢崎広(Wキャスト)
ニック・マッシ:福井晶一、spi(Wキャスト) 
ほか