松川小祐司☆松川翔也(劇団美松)に聞く~「オレ座長だけど何か質問ある?平成世代の旅役者すっぴんインタビュー」第2回
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~正反対の個性が光る兄弟座長 いつまでも一緒に~
全国に約120あるといわれる大衆演劇の劇団には、同じ数だけ座長がいる。その中には平成生まれの座長さんもたくさんいる。若いみそらでいろんなものを背負いつつ、連日昼夜舞台に立つ姿は、華やかで孤高でかっこいい。同世代の若者がしたくてもできない経験、いっぱいしてますよね? 悩みは何ですか? 夢は何ですか? お待たせしました、「オレ座長だけど何か質問ある?平成世代の旅役者すっぴんインタビュー」第2回は、現在、東京の篠原演芸場で熱い公演を繰り広げる劇団美松の松川小祐司座長(26歳)と松川翔也座長(25歳)に話を聞いた。
■子役時代はパセリとじゃがいも
――お2人の初舞台はいつですか?
小祐司 父が劇団松の座長で、母(現・劇団美松太夫元・松川さなえ)も劇団にいたので2人とも抱き子の頃から舞台に出ていました。本格的に子役を始めたのは3歳の頃。当時の芸名は、僕が「パセリ」で翔也が「じゃがいも」でした(笑)。裏方のおばあちゃんが言い始めたらしいです。
翔也 兄がパセリだったせいか、僕はよくセロリやレタスに間違われてました。古いお客さんには今も「ピーマンちゃんやろ?」などと言われます(笑)。
インタビュー中の小祐司座長(右)と翔也座長(左)
――小学生の頃から日舞を習っていたそうですね。
小祐司 祖父と父と同じお師匠様に、3代にわたって教えていただいていました。
翔也 でも、ある事情で一時は続けていけなくなって…。
小祐司 母親が体を壊したのと両親の離婚をきっかけに、劇団が解散したんです。僕が16歳で翔也が14歳のときでした。
日舞の名取でもある小祐司座長。所作のひとつひとつが美しい。眼福
オラオラ系の魅力爆発! 翔也座長。その舞踊は躍動感にあふれ、超セクシー!
■血尿まで出た修業時代 ありがたい経験
――そこから1年間、ご兄弟だけで関東のさまざまな劇団さんを1か月ごとにローテーションで回られたんですよね。何が一番大変でしたか?
小祐司 大衆演劇の演目は日替わりで、健康センターでの公演は昼夜で変わるところもあります。翌日やる芝居を2本分、前日の夜から朝方にかけて頭に入れなければならない。稽古にかける時間も方法も、自分たちの劇団とはまったく違うので戸惑いました。眠気覚ましのドリンクを化粧前に何本も置いていました。
翔也 僕は当時のことを苦労とは思ってないんです。今思えばありがたい経験をさせていただいたな、と思っています。逆に僕は舞台のことよりも、家族が離れ離れになったことのほうがつらかったですね。両親が離婚して、母親とも離れて、お兄ちゃんと2人きりという状況が……。実は当時の記憶があんまりないんです(笑)。
小祐司 いっぱいいっぱいだったんでしょうね。兄弟の絆が深まるどころか、ケンカばかりしてました(笑)。
翔也 心がささくれだって、追い詰められていたからね(笑)。
小祐司 1か月して、やっとその劇団さんのやり方に慣れた頃に、次の劇団さんに移る。それがめちゃめちゃしんどかった。同じ芝居でも劇団さんによって、流れもセリフも立ち回りも全然違う。お世話になっている先の座長様に迷惑をかけてはいけない、というプレッシャーから血尿が出たこともありました。立ち回りに出る前に過呼吸を起こしかけたことも……。
翔也 僕は舞台に関することで、そこまでの困難を感じたことはないんです。僕たちはそれぞれ、メンタルの弱い部分が違うみたいです。
■ストイックな兄。友だちがたくさんいる弟
――お話を聞いていても、お2人は全くタイプが違いますね。
翔也 そうですね。野球でいうなら、お兄ちゃんが監督で僕が4番バッターかな。
小祐司 インドアVSアウトドア、みたいな(笑)。翔也はいつも出かけてるよね。
翔也 僕はお酒を飲むのが好きなので、その席でご縁をいただくことが多くて。関東だけでなく全国に役者の友だちがいます。なんなら関西のほうが人気あるかも(笑)。仲良しの後輩たちをゲストに呼ぶ「翔也とゆかいな仲間たち」という特別公演も好評です。
小祐司 僕は友だちがいないんです(笑)。仲良しの役者さんもいない。お酒も飲みません。自分で言うのも何ですが、徹底的にストイックな性格なんです。舞台関係のことを、台本、演出、衣装、小道具、音響、すべて自分でトータルコーディネートするのが好き。効率的じゃないことが嫌いなんです。他の劇団さんはもちろん、歌舞伎、ミュージカル、商業演劇、参考になりそうなものは何でも見ます。
翔也 僕は見ないですね、大事なものは今、自分がやっている舞台だと思っているから。僕らは歌舞伎役者でも踊り手でもない。あくまでも大衆演劇の役者。3時間、3時間半という限られた時間の中で、いかにお客さんを魅了できるかが勝負。自分の感性を大事にしたいんです。
翔也の女形はコケティッシュでゴージャス! 凝った衣装でも楽しませる
小祐司の女形ははんなりと、ときに凛として。芸に裏打ちされた硬質の輝き
■2人セットが最大の効力
――お母様でもある太夫元・松川さなえさんの悲願は、ご兄弟がずっと一緒に2人座長でいることだそうですが。
小祐司 離れることはないですね。僕たちは2人セットで最大の効力を発するから。
翔也 どこにも負けない最強の兄弟だと思います。それと、うちの劇団はお兄ちゃんがいるから俺が好き放題できる(笑)。
小祐司 自分で言うのなんですが、僕はかなり高スペックですから(笑)。どんな役でもやりますが、何をやるにしても一番重要なのが相手役。そこがバランスとれてないと芝居が成立しない。うちはその点はうまくいってると思います。
翔也 男はカッコよく、女は綺麗であるべし、が僕の持論。お兄ちゃんの綺麗な女形に僕の相手役は最高です。その逆の芝居は年に1回くらしかない。レアですね。
太夫元の松川さなえは、パワフルなキャラで息子たちに負けないほどの人気! 親子の絆は深い
■座長は大変な稼業 必要なものは総合力
――劇団美松さんは、お客さんの年齢層が若くて驚きました。
翔也 僕がいるから。僕がもてるからです(笑)
小祐司 よしなさい!(笑)。うちの劇団のファンさんは、若い人が多いのも特色ですが、温かい人が多いですね。
――これからの課題はありますか?
翔也 昔の大衆演劇の役者は芝居の腕で見せてきたと思うんです。今の時代はそれに加えてアイドル性やスター性も求められてる。今のお客さんの中で、舞踊ショーじゃなくて、芝居をメインに見てくれる人はどれくらいいるのかな。
小祐司 逆にいえば、昔は芝居が好きな年配のお客さんが多かったから、僕たちも芝居に集中できた。今は客席にいろんな世代が混在している。どの世代にも受けるように、すべての要素を取り入れてやっていかないといけない。難しい時代になりました。
翔也 それでも生き抜いていくしかない。座長って、自分がプレイヤーであると同時に、監督でもあり、マネージメントも営業もしないといけない。総合力が必要な大変な稼業だと思います。
■仕事は人間としての尊厳を保つためのもの
小祐司 そんなに大変な仕事でも、この世界の座長たちが座長を続けていく理由。それは舞台が好きだから。2番目は生活のためだと思います。役者で生まれたら役者以外はできない。現実的な問題として無理ですね。これが自分の生きる道と定めてやっていくほかない。仕事はストレスもたまるけれど、人間としての尊厳、自尊心を保つためのものだと、僕は思っています。
翔也 お兄ちゃんは芸、技を磨いてる。俺はいろんな人と触れ合って、いろんなところに行って、いろんなものを見て、いろんなことを感じて、ただひたすらに心を磨いています。俺いま、ちょっとカッコいいこと言ったんじゃない?(笑)。芝居はやっぱり気持ちだと思うんで。僕は基本、芝居で悩むことはないし、稽古もほぼしない。
小祐司 台本を渡してもどうせ覚えないから、前日にならないと渡さなくなっちゃったよね。それで何度地獄を見たことか。
翔也 それが最近、完璧に覚えてしまえる自分がいる。俺らしくないから改めないと(笑)。
小祐司 いやいや、仕事はしっかりしてもらわないと困りますよ(笑)。
<インタビューを終えて>
ストイックで硬質な魅力の兄と、やんちゃで華やかな弟。2人でいたから、つらい時代も支え合って乗り越えてこられた。ふたつの個性の違いは舞台の上でも見事なコントラストを放つ。新しいチャレンジをし続ける2人、次は何を見せてくれるのか、期待は高まるばかり。
●両座長がオススメする芝居&舞踊
*芝居
「鶴八鶴次郎」
新派の芝居を小祐司の鶴八と翔也の鶴次郎で。毎回エンディングを変えるなど、見るたびに楽しめるよう、工夫を凝らしています。
「滝の白糸」
演出、効果、音響、すべてに超絶の自信あり。どこにも負けません。
「明け鴉お吉」
お吉が16歳のときからの生涯を小祐司が演じる。芸者時代をあえて描かず、お客さんに想像してもらうことによって、お吉のはかなさを表現。父親の代から続いているお外題。
*舞踊
「飢餓海峡」
小祐司が踊る「飢餓海峡」は3パターンあり。一番長いバージョンは17分の大作です。
<プロフィール>
松川翔也(まつかわしょうや) 平成5年11月6日生まれ。O型。平成29年6月に座長に就任。好きな芝居は「遠山の金さん 江戸の一番星」「三人出世」「曽根崎心中」
劇団美松 前身は関東で人気を誇っていた「演美座」。その後「劇団松」の立ち上げを経て、松川小祐司が座長となり、劇団名も「新喜楽座」に改める。平成29年6月には「劇団美松」に改名。翔也も座長になり、2人座長体制に。古典舞踊からダンスまで、多彩で革新的な要素を盛り込んだバラエティあふれる舞台は多くの観客を魅了している。
<取材協力>
旅芝居専門誌「KANGEKI(カンゲキ)」2018年 12月号の表紙は劇団美松の両座長。「夏祭浪花鑑~団七&徳兵衛ご両人、夏の東京スカイツリーを仰ぐ」と題し、言問橋で撮影されました。特集記事には「劇団美松 松川さなえ太夫元誕生日公演」もあり。2018年6月号には2人の母である松川さなえのインタビューが載っています。
取材・文=暮れ六つエモーション
公演情報
11月1日(木)~29日(木)昼の部まで
平日は夜の部のみ 土・日・祝祭日は昼夜2回公演
■会場:篠原演芸場
東京都北区中十条2-17-6
JR埼京線「十条駅」または京浜東北線「東十条駅」より徒歩5分
公式サイト
■時間:昼 12:30~16:00 夜 18:00~21:30
■料金:大人1600円 小人900円
■座席予約料:一般席300円 桟敷席400円
■問い合わせ先:03-3908-1874