松本幸四郎「日本舞踊が見せるかっこよさを感じていただきたい」『第二回 日本舞踊 未来座 裁-SAI- 「カルメン2018」』
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松本幸四郎
日本舞踊協会主催の創作舞踊『第二回 日本舞踊 未来座 裁-SAI- 「カルメン2018」』が、2018年6月22日(金)から東京・国立劇場 小劇場にて上演される。本作は、日本舞踊にある固定概念を覆すべく誕生した「未来座」シリーズの第2回公演。世界的オペラ『カルメン』を題材に、運命に翻弄されながらも美しく、激しく生き抜いた男女の姿を描く。
本作の第1回公演『賽-SAI-』では「擽-くすぐり-」の演目で演出・振付・出演を担ったのは松本錦升こと、十代目 松本幸四郎。今回は制作という立場から公演を見守ることになる幸四郎の胸の内を聞いてきた。
ーーまずは今回、『カルメン』を題材に、創作舞踊をやろうと考えた背景を教えてください。『カルメン』といえば、2003年に『薔沙薇(ばさら)の女』という題名で創作舞踊が上演された歴史も絡んでくると思うのですが。
これまで様々な創作舞踊作品が生まれ、我々の中にも積み重ねてきたものが増えてきました。それならば、これまでに作った作品の中でも良いものを、今の時代に合わせて再度練り直して上演してはどうだろう、という話から『カルメン』の上演が決まったんです。
ーー『カルメン』という作品は日本舞踊と相性が良いんでしょうか? 踊る側としてはどのように感じていらっしゃいますか?
男にしろ、女にしろ、愛や恋に対する情熱を激しく表現する作品というのは、舞踊劇と相性がいいと思っています。以前、今は無き銀座セゾン劇場にて『薔沙薇(ばさら)の女-カルメン2003-』が上演されていたのを観ていたんです。思えばその時からご縁があったのかもしれませんね。僕自身、日本舞踊の創作舞踊でこれだけのスケールのものを観たことがなく、その驚きがとても記憶に残っているんです。日本舞踊協会の理事の方から出てきた『カルメン』の企画ですが、僕自身もこれは非常に観てみたいと思いました。
松本幸四郎
ーー第1回の『賽-SAI-』の話も伺いたいと思います。創作舞踊をやってみて感じたことや手応えなど、いかがでしたか?
実は日本舞踊の方々となかなかお会いする機会ってないんです。前回の『賽-SAI-』については、僕が振付したものを皆さんにお渡ししていったんですが、そこからどんどん独り歩きしていきました。日本舞踊の方々は繊細なので、細かく細かく、緻密に肉付けして作られていき、また疑問があればすぐその場で共有して解消していく……手を挙げる角度やどちらの足から進むのかなど、僕も動きを考えながら振付を作りましたが、彼らはそこからさらに緻密に作りこんでいったんです。一つの作品に出来上がっていく様は本当に楽しかったですね。
ーー日本舞踊って踊る方がどちらかというと感情を露わにしないイメージがあったのですが、『賽-SAI-』では皆さん弾けんばかりにイキイキと踊っていたのが印象的でした。
僕が作った作品『擽-くすぐり-』では、8名のメンバーで舞ったんですが、皆ずっと笑っていましたよ。「僕の稽古場はうるさい」って言われたくらい(笑)。彼らは皆、日本舞踊の舞手としてあらゆる才能を持っている方々。そんな彼らの得意技をどれだけ存分に発揮できる踊りを作ることができるか、が僕のテーマだったんです。作る過程のディスカッションを含め、僕が一番楽しんでいましたね(笑)。その時のメンバーとは今も時々連絡を取り合ったりしています。稽古や本番含め、正味2週間ほどという短い期間でしたが、それでも今も繋がりがある良いメンバーに出会えました。
ーー出演されていた方々にとっても実り多い機会となったんですね。さて、今回の『裁-SAI-』ですが、「ソル」「ルナ」の2チーム制にして、ソル組はカルメン役を市川ぼたんさん、ホセ役を中村橋之助さんに、ルナ組のカルメンは水木佑歌さん、ホセを花柳寿楽さんが演じられます。この4人はどのような方々なのかご紹介いただけますか?
(市川)ぼたんちゃんはやはり成田屋さんの環境で育ってきた人であるからこそ、大きな場所で多くの方から舞を見られる度胸や存在感をいつも感じます。踊りについても積極的に活動していますので、将来が楽しみな人ですね。
市川ぼたん
(中村)橋之助くんは今年、襲名もあって大きな大きなスタートラインに立っています。これから彼が知らない世界にどんどん飛び込んで、知らない事、今は出来ない事をどんどん出来るようになっていただきたいです。また彼自身からもそうなりたいという意欲を感じることができますので頼もしいですね。
中村橋之助
水木佑歌さんの存在感はご存知の通り、といったところです。創作舞踊、新作舞踊ではただならぬ挑戦をし続けてこられた方なので、今度は新しい世代を育ててその熱を受け継いでいっていただきたいです。あと、個人的には僕自身が女性と同じ舞台に立つ機会がなかなかないので、いつか共演してみたい方です。
水木佑歌
花柳寿楽さんは真っ直ぐな踊りを踊られる方。情熱的な役も自分を解放してどんどん自身の殻をやぶろうという姿勢を持ちつつ、その一方で古典も大事にしたいと思っている方。日本舞踊の世界ではキーマンとなる方じゃないでしょうか。寿楽さんは(花柳)基さんと共に初演にも出演されていますので、今回は初演で踊りを作ったときのエネルギーを『裁-SAI-』のカンパニーにも浸透させていただきたい、役を演じるだけでなく作る想いや熱を皆に伝える役目も担っていただきたいと思っています。
花柳寿楽
ーー2チーム制で上演される『裁-SAI-』ですが、どのような点が見どころとなりそうですか?
同じ振付、演出でここまで違いが出るのか、という驚きを感じていただきたいです。踊る人によって生まれるものは全然異なるんです。舞手に振付を渡すと自分の中で消化して新たな表現を生み出してくる……作る者としてそこがいちばんおもしろいところです。僕が振付を渡すとき、極力自分で振付を見せないで「言葉」で渡すんです。「僕はできないけどこういう振りがあったらいいなあ」という言い方で。すると思いもよらぬいい進化を見せることがあっておもしろいんですよ。
ーー伝統芸能を観たいと思う若い世代がなかなか増えない昨今ですが、幸四郎さんからそんな世代に『裁-SAI-』をどのように楽しんでいただきたいですか?
着物を着てかっこよく動くことが出来る人って良くないですか? 着物を着て色っぽく、かっこよく踊る、その姿を観に来ていただきたいですね。日本舞踊という一人ひとりが魅せるかっこよさを感じていただきたいです。
松本幸四郎
取材・文=こむらさき 撮影=荒川潤
公演情報
■会場:国立劇場 小劇場
■出演
【ソル組】市川ぼたん、中村橋之助 ほか
【ルナ組】水木佑歌、花柳寿楽 ほか
スーパーバイザー/花柳壽應
演出/花柳輔太朗
振付/猿若清三郎、西川大樹、花柳輔瑞佳
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