Sakura×LEVIN×shuji ドラムを愛しドラムに生きる、嵐を呼ぶ男たちのイベント『Busker Noir』とは
L⇒R:shuji、Sakura、LEVIN
ドラマーの、ドラマーによる、ドラマーのみならず幅広い音楽ファンのための特別な一夜――。Sakura(gibkiy gibkiy gibkiy/THE MADCAP LAUGHS/Rayflower/ZIGZO)が主催するドラム音楽イベント『Busker Noir』(バスカーノワール)が、5月の大阪公演に続き、8月に東京公演を行うことが決まった。出演者は大阪に続き、LEVIN(La’cryma Christi)とshuji(Janne Da Arc)という、同じシーンで腕を競い合ってきた仲間同士だ。3人の関係は? 気になるセットリストは? そしてドラマーが主役のイベントに込めた3人の熱い思いとは? ドラムを愛しドラムに生きる、嵐を呼ぶ男たちの生きざまがここにある。
――この3人は、もう長い付き合いですか。
Sakura:もちろん存在は知ってましたけど、shujiくんと初めて会ったのは、Pearl(ドラム)の60周年記念イベント(2006年)です。川崎のクラブチッタで、樋口宗孝さんのドラムを代わりに叩いていた。
shuji:僕は、お客さんで見に行ってたんですよ。出演者ではなく。そしたら樋口さんに手招きされて、「おまえ叩け」「えっ!」みたいな(笑)。それで、けっこう叩いて、ソロもやったりとか。
Sakura:LEVINくんとは、ちょこちょこ会ってはいたんです。S.O.A.P.のライブにLa'cryma christiで出てもらったり、共通の知り合いもいるし。で、『Busker Noir』というのは今回で12回目になるんだけど、何回目かの時に、まずLEVINくんに声をかけたあと、もう一人誰か紹介してほしくて、shujiくんをお願いしたんですよ。そこで初めてshujiくんとはあらためてちゃんとしゃべった感じです。
――それが2016年ですね。
Sakura:僕から見て、このシーンに出てきた時のインパクトがすごかった二人だから、ぜひとも一緒にやりたいと前々から思ってたんですね。shujiくんは、川崎チッタでのいきなりドラムソロをやらされていた姿を鮮明に覚えてるし(笑)。LEVINくんも、最初に見た時から衝撃的だったんですよ。ストイックに叩くことが主流だった当時の風潮に対して、音はストイックできれいだけど派手さがあって、華があった。「うわ、こんな奴が現れた!」って、妙な危機感を感じたことを覚えていて。それもあって、このお二方にお願いしようと思ったんですね。
LEVIN:ドラマーなので一緒にステージに立つ機会は少ないんですけど、仲間意識を感じているお二人ですね。雑誌やテレビで見ている方たちなので、初対面の時もそうは感じなかったというか、すごく自然でした。事前に「あの人はややこしいよ」みたいな情報があったら、構えるんですけど(笑)。
Sakura&shuji:(笑)。
LEVIN:そういうことの一切ない、付き合いやすい人だろうなと。
――逆に言うと、そうじゃない人もいると(笑)。
LEVIN:「あの人はややこしいよ」という事前情報は、だいたい回ってくるものなので(笑)。いろんな人がいますからね。でもドラマーでそういう人は少ないと思いますよ。
Sakura:ドラマーって独特だよね。コミュニティがあるというか。昨今、ベース会とかギター会とか聞きますけど、ドラマーは昔から横のネットワークがあった気がする。アカデミックじゃないからかもしれない。
――というと?
Sakura:「何の機材使ってる?」とか、楽典知識がどうとか、そういうことじゃなくて、みんな感覚的にしゃべったりするから。ドラムセット自慢も、ヤンキーの車自慢に近いものがあるし。バイクやクルマをいじるのと大差ない。
LEVIN:すごいわかります(笑)。(取材場所のスタジオ内のドラムセットが並んだ棚を指して)その黒いやつも、自分でメッキをはがして塗装してますからね。バイクのパーツを塗るのと一緒。
Sakura:LEVINくんのパーツのこだわりはすごくて、俺もちょいちょいパクってます。シンバルスタンドの足に、スネアスタンドの足を使ったりとか。
LEVIN:リハーサルスタジオでバイトしていたことがあって、いろんなパーツが転がってたから、「これとこれはくっつくんだ~」とかやってたんですよ。
Sakura:それこそ樋口さんも、いろいろ工夫してたよね? スプラッシュ(・シンバル)の立て方とか。
shuji:そうですね。
Sakura:アースシェイカーの工藤(義弘)さんはもともと鉄工所かどこかでバイトしてたらしくて、本気でがっつり改造してたな。
――shujiさんは、SakuraさんとLEVINをどう見てたんですか?
shuji:こう見えて、僕が一番年下なんですけど(笑)。
LEVIN:そうでしたっけ(笑)。
shuji:デビューも僕が一番遅いので、二人は先輩というのが第一です。でもLEVINさんは同じ大阪のバンドで、世代もそんなに変わらなくて、樋口さんを通じてつながりもあったので、親近感は昔からありました。SakuraさんはそのPearlの60周年イベントと、スタッフの結婚式でお会いしたぐらいで、顔見知り程度だったんですけど、こういうドラムを叩く人だということはもちろん知ってました。僕からしたら大先輩という印象なので、声をかけてもらえた時はうれしかったですね。誘ってもらうまで『Busker Noir』のことは知らなかったんですけど、僕が出る一つ前の回を見させてもらった時に“こういうイベントも有りなんだ”と思ったのをすごく覚えてます。今までドラムだけで楽曲をやるイベントを見たことがなかったので、すごく新鮮でした。
『Busker Noir』2018.05.06 アメリカ村BEYOND
エンターテインメントとアカデミックの共存。ドラムの面白さを伝えるために歩み寄るのではなく、楽しませるものをやるから意味がある。
――Sakuraさん。そもそも『Busker Noir』は、どういうコンセプトで始めたものだったのか。
Sakura:昔、ポンタさん(村上ポンタ秀一)や真矢くん(LUNA SEA)が参加していた『GROOVE DYNASTY』というイベントがあって、それ自体は見に行ったことはないんだけど、ドラマーにスポットが当たるイベントがもっとあっていいよなと思ったのがまずあって。ドラムだけで成り立つ楽曲もあっていいと思っていたんですよ。というのは、仙波清彦さんがやっていた仙波清彦&カルガモーズという、いろんな国の打楽器で構成されたバンドがあって、すごく面白いなと思っていたのと、仙波師匠が若い時に書かれた「オレカマ」という曲があって、こういうものをやってみたいという思いがずっとあったんですね。打楽器だけで成り立つ楽曲を演奏するなら、ドラマーにスポットを当てたイベントにしないと成り立たないし……という流れです。
――はい。なるほど。
Sakura:あとね、後輩で篤人くんという人がいて、ドラマーのイベントを定期的にやっていたんですよ。前からやりたいなと思っていたところへ、後輩が先に実現したものだから、俺もやらなきゃいけないと思ったのもきっかけの一つです。そこに誘われた時に「おい、“オレカマ”やるぞ!」って、試運転させてもらったんですよ。だから篤人くんのイベントに比べて、僕はもうちょっと音楽的にアカデミックになるようにしたいなというイメージはありました。ただ気を付けなきゃいけないのは、『Busker Noir』はドラムクリニックじゃないから。
――ああ~。そうですよね。
Sakura:あくまでも、お金をいただいて皆様に見せる、という目的があるから、ちゃんとしたショーじゃなきゃいけない。そこにはドラム楽曲もあるし、リズムが象徴的な楽曲ということでボレロのリズムを、ドラムだけで演奏したらどうなるんだろう?とか、そういうものをやりたいなと思ったんですね。それで回を重ねて、めでたく12回目を迎えたということです。で、今までいろんな人に出てもらったんですけど、今回のLEVINくんとshujiくんは、外に対してすごくわかりやすいと思うんですよ。この3人の中には年功序列はあるけれど、もっと若い人たちからみると、たぶん同じくくりなんですよね。
――確かに。
Sakura:そういうふうに言われるし、我々もそう思ってるし。その3人が「こういうイベントをやります」と言えば、ドラムにあまり興味のないただの音楽好きの人たちにも、すごくわかりやすいと思うんですね。LEVINくんとshujiくんは、俺の中ではマストだったんです。Pearlドラマーであるということも含めて。
LEVIN:『Busker Noir』は、エンターテインメント性とアカデミックな部分が共存しているところが面白いなと思います。もしもこれがドラムセミナー的なイベントだったら、お断りするんですよ。見に来るお客さんは、そういう人じゃないだろうなと思うから。でもそういう人たちが楽しんでくれて、ドラムに興味を示すきっかけになるのであれば、やりたいなと思うので。マニアックなことを追求するイベントって、たいてい単発で終わっちゃうんですよね。「行ったけどよくわからなかった。次はいいや」って思われちゃう。こういうイベントは「面白かった。また行きたい」と思ってもらってこそ成功だと思うので、お金をもらったぶん以上の楽しい時間を提供したいし、このイベントはそこがしっかりできていると思います。
Sakura:そのことについては、LEVINくんからぴしゃりと言われました。「ドラマーのためのイベントだったら嫌です」って。ネガティブな言い方になっちゃうかもしれないけど、ドラマーだけを喜ばせても、全国にドラマーって何人いるんだ?という話だから。でも音楽好きはもっといっぱいいるから、ドラムの面白さを伝えるために、歩み寄るんじゃなくて、楽しませるという体でやらなきゃいいけない。LEVINくんの言葉のおかげで、考えがさらに引き締まりました。しかも今回の東京公演って、5月6日の大阪公演が終わってから「もっとやらない?」って相談しようと思っていたんですけど、その前日にLEVINくんのほうから「東京公演やらないんですか?」と言ってくれて。それがすごくうれしかったんですね。
『Busker Noir』2018.05.06 アメリカ村BEYOND
LEVIN:東京公演に関して言うと……昔、ミュージカルのお仕事をさせてもらったことがあるんですけど、ミュージカルの演奏って、毎回まったく同じなんですよ。譜面に書いてある通りにやらなきゃいけない。でもやっぱり毎回何かが違うんですよね。だからミュージカルとか、宝塚とかのファンの方は、同じ公演を何度も見たいと思うんだろうなと思ったんです。その違いがわからなくても、たとえば映画でも、もう一回見たいと思うことってあるじゃないですか? そういうことって絶対あると思ったので、今回の東京公演は、大阪公演と内容は多少変わるかもしれないですけど、まったく同じことをやっても全然いいなと思ってます。まあ、けっこうリハーサルをしたので、一回じゃもったいないと思ったこともあるんですけど(笑)。
shuji:個人的な話をすると、前回のイベントに出てドラム楽曲をやらせてもらうことで、僕自身を成長させてもらえたところがあるんですね。それまでは譜面を見て叩くのはあまり好きじゃなかったんですけど、さすがにドラム楽曲は譜面を見ないとできないので。『Busker Noir』に最初に出させてもらって以降、譜面を見ることへの抵抗がなくなって、そういうところでも成長させてもらいました。それとは別に、見る人もすごく楽しいと思うし、“ドラマーだけでこんなことができるんだ”ということを初めて体感して、お客さんも演者も両方楽しめるイベントだなと思います。あとは一回目より二回目の方が、噛めば噛むほどうまくなるみたいな、やればやるほど面白くなるという感覚はありましたね。
――3人の意識が完璧に揃ってますね。
Sakura:そうですね。お二人にそういうふうに受け取っていただけているのはありがたいです。今まで『Busker Noir』に出演していただいたドラマーと比べてしまう発言になるんだけれども、やりやすいんですよ。フィールドが一緒だから。今までは毎回出演者が変わってきたから、“このパートはこの人に”という振り分け方で、“この人はこう叩くだろう”という予想をしないまま渡しちゃってたんですよ。ただ今回は、大阪公演で新しいドラム楽曲の「#7」という曲を作ったんですけど、二人が叩くことを想定して作れたんですね。それをまた3人でできることが、すごく喜ばしいことだなと思います。
『Busker Noir』2018.05.06 アメリカ村BEYOND
少年隊の「仮面舞踏会」を3人で叩きながら歌う!? 誰もが知ってる有名曲を○○風に叩く!? ここでしか観られないそそるセットリストとは?
――さあ、ではネタバレにならない程度に、東京公演ではどんなものが見られるのか?という話を教えてもらえればと。
Sakura:いや、バラしてもいいよね? 少年隊の「仮面舞踏会」を、3人でパートを振り分けて、叩きながら歌います。
LEVIN:俺、ニッキです。
Sakura:俺は植草。
shuji:東山です(笑)。
――おお! それ、めっちゃ楽しそうなんですけど。
LEVIN:あれは素晴らしかったですね。みんな真剣に譜面を見ながら、一生懸命歌ってる(笑)。
Sakura:大阪公演とほぼ同じだろうから、ネタバレしても全然いいんです。ほかに、今回ゲストでギターを弾いてくれるYOSHIHIRO(ギルド)くんにアレンジをお願いした曲があるんですけど、その曲というのは、みんなが知ってる90年代や2000年代の曲を、3人のテイストに合わせてアレンジしてもらってます。ちなみに僕は中島みゆきさんの「空と君のあいだに」をハイスタっぽく演奏してます。これが、成り立つんですよ。
――すごい……ちょっと、想像超えてます。
Sakura:そういった曲が、それぞれにあるんです。誰もが知ってる有名な曲を、それぞれが○○風に叩くということで。ほかにも“この曲をこの人が叩くとこうなる”ということで、僕は井上陽水さんの「いっそセレナーデ」をジャズっぽく叩いてみたり。そう聞くと“どんなアレンジになってるんだろう?”って、そそりますよね?
――そそりますね。余計に聴きたくなります。
Sakura:あとは、ドラムだけのドラム楽曲が4曲。
――楽しみですね。それにもちろん、それぞれのバンドの持ち曲もあって。
Sakura:それは、タブーにしてます。
――あ、そうなんですね。
Sakura:みんな、そういうのを見たいわけじゃないだろうと思うんですよね。だって、LEVINくんがLa'cryma christiの曲を、ほかのメンバーとやるわけでしょ? そうじゃなくて、ファンの人はLa'cryma christiの曲はLa'cryma christiのメンバーで聴きたいはずだし、shujiくんも、Janne Da Arcの曲はJanne Da Arcのメンバーで聴きたいはずだし、俺もそう。タブーというわけではないけど、「でしょ?」っていう感じ。
――わかりました。では最後に、イベントへのお誘いの言葉をぞれぞれ一言ずつ。
LEVIN:ドラムのことはまったくわからないという人も楽しめるし、ドラムオタクみたいな人が楽しめるポイントもあるし、誰が来ても楽しいイベントになってるので。来ていただければ、満足して帰っていただけると思います。
shuji:僕やSakuraさん、LEVINさんに少しでも興味のある人はぜひ来てほしいイベントです。さっき言ったネタみたいなことも、言葉だけじゃわからないので、その場に来て体験してもらうのが一番だと思います。今回こういうふうに取材してもらうのはいい機会だと思うし、やってることを知らない人もまだまだいると思うんですよ。この記事を目にして、ちょっとでも興味が湧いた方はぜひ来てもらいたいです。
Sakura:要は、ドラムに興味を持ってもらう初心者を増やしたいんですよ。マニアック層を増やしたいわけじゃない。“ドラムってこんなにいろいろできる楽器なんだ”と思ってほしい。それとさっきも言ったように、自分のバンドとは違う曲を叩くことで、それぞれの別の一面が見られるわけじゃないですか。普段お目にかかれないようなアプローチを近くで見てもらって、“ドラマーってこういうお仕事をされてるのね”ということを、あらためて感じてほしいなと思います(笑)。
取材・文=宮本英夫
『Busker Noir』2018.05.06 アメリカ村BEYOND
『Busker Noir』2018.05.06 アメリカ村BEYOND