SHE’Sがストリングスとホーンを交え鮮やかに描き出した、バンドの歩みと今

レポート
音楽
2018.6.6
SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

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Sinfonia“Chronicle” #1  2018.5.27   中野サンプラザ

SHE’Sが、東京・中野サンプラザと大阪・NHK大阪ホールにて、ワンマンライブ『Sinfonia“Chronicle” #1』を開催した。交響曲の語源となった言葉「Sinfonia」と年代記・編年史を意味する「Chronicle」を組み合わせたタイトルのこのライブシリーズでは、ストリングス&ホーンを従えた特別編成で演奏を実施。昨年開催した『SHE’S Hall Tour 2017 with Strings ~after awakening~』はストリングスのみを加えた編成であり、それがグレードアップしたようなイメージだ。“ベストセレクションライブ”と銘打っている今回は、ミニアルバム『awakening』のレコ発を兼ねていた「~after awakening~」とは異なり、新旧入り混じったような選曲。また、最初のMCでメンバーも言っていたように、「今できるベストのライブを」という決意も込められていた。以下のテキストでは、中野サンプラザ公演をレポートする。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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出演者は、SHE’Sのメンバー4名=井上竜馬(Vo)・服部栞汰(Gt)・広瀬臣吾(Ba)・木村雅人(Dr)と、ストリングス4名=銘苅麻野(Violin)・谷崎舞(Violin)・角谷奈緒子(Viola)・吉良都(Cello)、そしてホーン隊3名=永田こーせー(Sax/Flute)・真砂陽地(Trumpet/Flugelhorn)・馬場桜佑(Trombone/Flute)の総勢11名。11名全員が常にステージに上がっているわけではなく、①バンド+ストリングス、②バンド+ホーン隊、③バンド+ストリングス+ホーン隊、④バンドのみ、という4パターンの編成を曲に応じて切り替えていた。開演時にはバンドとストリングスがオンステージ。「Morning Glow」を豊潤なサウンドで届けると、「シンクロへようこそ!」と井上が挨拶してから、「Un-science」へと繋げた。因みに “シンクロ”とは『Sinfonia“Chronicle”』の略称。この呼び方には“バンドと弦・管楽器のハーモニーと共に、貴方の心とつながりたい”というメンバーの想いが込められていて、会場にいるみんなでライブを作っていくSHE’Sのスタイルを反映したネーミングでもある。4人のみで演奏した「Freedom」を終えたあと、「3曲しかやってないけど楽しいですね!」と服部が喜びを語る。重ねて井上が「最高に美しい一日にしましょう」と告げ、ブラスの音色も鮮やかに咲く「Beautiful Day」へと繋げた。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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ギターソロから始まった「Isolation」のあとは、バンドで鳴らす音を半音ずつ下げていき、井上がタイトルコールして「Just Find What You’d Carry Out」へ。11名のフル編成で鳴らされたこの曲は、メタルっぽいノリのバンドサウンドを、ストリングス×ホーンのキメが後押しするような緊迫感溢れるサウンドだ。その変貌っぷりに驚かされたのも束の間、頭上に星のような照明が浮かんだ「White」、鍵盤によるインターリュード的なフレーズを経て始まった「Long Goodbye」はしっとりとした仕上がりに。冒頭でホーン隊がフルート&フリューゲルに、そして全編にわたって井上がアコースティックギターに持ち替えた「Evergreen」は、原曲の持つ牧歌的な空気をさらに膨らませるような演奏になっていた。この曲ではオーディエンスとのコール&レスポンスをする場面で、井上が唐突に「キム!」と振るも、木村、バッチリと対応してみせる(大阪公演では上手く応えられずだったらしい)。客席からの歌声がホールいっぱいに響くなか、まるで庭を駆け回る子犬のように、井上が楽しそうにステージ上をくるくる走っているのも微笑ましい。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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先に触れたように、サポートメンバーを迎えてのライブは「~after awakening~」以来だったわけだが、その時よりもアレンジ面が練られており、曲の持つ魅力を増幅させるような演奏になっていた印象。例えば「Over You」が原曲とは異なりホーン隊有りの編成だったように、CD音源のイメージに囚われている様子もなく、“今鳴らしたい音”に忠実になった結果、このようなライブが完成したのだと思われる。また、曲間を各楽器の旋律で丁寧に繋げたり、音と音とで会話するように間奏やアウトロで遊びまくるやり方は、4月まで続いていたツアー(『SHE'S Tour 2018 “Wandering”』)でも見られた、直近の彼らのモードを反映したもの。そう考えるとこれまでのライブは地続きになっていて、培った経験は確実にバンドの血肉になっているようだ。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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ここで井上とストリングス隊のみがステージに残り、他のメンバーが退場。「最近やってなかった曲がありまして……。当時と同じ気持ちで唄えんくてやらんかった。でもね、違う捉え方をしたらずっとずっと唄い続けられる曲やなって気づいたのが最近で」(井上)と切り出してから届けたのは「幸せ」(1stミニアルバム『WHO IS SHE?』収録)だった。6年ほど前に交際していた女性から言われた「私の幸せをあんたが決めるな」という言葉と、失恋後カンボジアに行った際に現地の人たちが言っていた「自分の人生を不幸だと思ったことはない」という話を元にして生まれたというこの曲。歌と鍵盤のみの演奏にストリングスが、そしてステージに戻ってきた服部・広瀬・木村の音色が加わっていくアレンジは、一つずつ光が灯っていくようで美しい。そこから「Ghost」「Night Owl」と続いたこのセクションでは、特に井上の歌が素晴らしかった。内省的な曲を唄っている時の井上は自分の奥の方に腕を突っ込みながら引っ張り出しているようで、ただ綺麗に唄っているのではなく、歌声に独特のえぐみが乗っているのが良い。聴いているとこちら側も何だか胸を抉られたような気持ちになってしまい、ついステージに見入ってしまうのだ。そして楽器隊の演奏も白熱し、「Night Owl」のアウトロでは音の渦がどんどん拡大。ラスト、まるで指揮者みたいに井上がグッと右手を閉じ、音がサッと鳴り止むと、今度は客席から拍手の音が溢れだしたのだった。手応えを感じていたのはメンバー側も同様。直後のMC、井上が「でも悔しいね、2本しかないっていうのが」とポロッとこぼしたのが印象的だった。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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木村による「男子! 女子!」のコール&レスポンス(大阪公演では上手くいかず、観に来ていた母に「あんたアホやなあ」と言われたらしい)からいよいよ終盤へ。しかしバンドの勢いは弱まるどころか、さらに気迫を感じさせるようなものになっていった。そして、上京から1年が経過したメンバーの台所事情を明かすMCのあと、本編を締め括ったのは「Home」。大きなシンガロングが起こったこの曲を始める前、井上は、実家に帰った時に家族の温かさを再確認したことを語りながら、しかし誰にとっても家庭がそういう場所だとは限らないのだと前置きし、客席にいる一人ひとりに対して「音楽の鳴る場所がみんなにとってのホッと一息をつける、安心する場所であったらいいなと思って。もっともっと頼りがいのある、大きな家になれたらと思ってます」と伝えていた。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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アンコールでは8月8日リリースのシングルに収録される「歓びの陽」を披露。トラップの要素を取り入れた、明らかに新しい表情をした新曲を演奏し終え、メンバーが改めてオーディエンスへ感謝を伝えると、客席からは温かな拍手が返ってきた。その拍手があまりにも長かったから、驚いたように「何ー?」と言いながら笑う井上。そのあと彼が飾らない想いを語り始めたのは、既に心が通じているのだということを改めて実感できたからだろうか。

「俺はホンマに自分を好きになれんくて。でもそういう自信を全部全部、応援してくれる人、メンバー、周りのスタッフ、家族、友達にもらってきました。そうして何とかやってます。好きで音楽をやってきたはずなのに何とかやってきたんやな。でも今、音楽やってきてよかったって思ってます」
「“ずっと一緒やぞ”、“終わりはないぞ”って言ってそれで安心させてあげられるならいいけど、俺はそう言いたくても言えない。今を燃やせるアーティストはカッコいいけど、過去を振り返るやつが強くなれる瞬間があると信じてやってきました」

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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そうして演奏された「Curtain Call」では、<あなたが光だ>のフレーズの直後に場内がパッと明転になり、ステージからのバンドサウンドと客席からの歌声がゆるやかに混ざり合う。この曲はSHE’Sのライブでは終盤に演奏されることが多く、言ってしまえばこのラストシーンだって見慣れていた光景ではあったはず。しかしこの日の「Curtain Call」にどうしようもなく胸を打たれたのは、それまでの演奏を通して、過去を糧にし歩みを重ねていくバンドの生き方、なかなか前を向けない“あなた”に手を差し伸べるバンドの性格に直接触れることができたからなのだと思う。

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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「#1」とナンバリングされているように、また、「これから回数もどんどん増えていって……」「後ろの(サポートメンバーの)人数も増えていったりね」とメンバー自身も話していたように、シンクロシリーズはここから始まっていく。記念すべき第1回目がこれだけ素晴らしいステージだったのだから、この先の展開に対して期待が高まる一方であるのが正直なところ。気が早いとは思うが、「#2」の開催を心待ちにしていたい。


取材・文=蜂須賀ちなみ  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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セットリスト

Sinfonia "Chronicle" #1  2018.5.27  中野サンプラザ
1. Morning Glow
2. Un-science
3. Freedom
4. Beautiful Day
5. Isolation
6. Just Find What You'd Carry Out
7. Flare
8. White
9. Long Goodbye
10. Evergreen
11. パレードが終わる頃
12. 幸せ
13. Ghost
14. Night Owl
15. Voice
16. 遠くまで
17. The World Lost You
18. Over You
19. Home
[ENCORE]
20. 歓びの陽
21. Curtain Call

リリース情報

3rd Single「タイトル未定」
2018.8.8 Release
【初回限定盤】CD+DVD TYCT-39078 1,700円(税抜) 1,836円(税込)
【通常盤】 CD TYCT-30077 1,000円(税抜) 1,080円(税込)
【完全数量限定盤】CD+サコッシュ 2,407円(税抜) 2,600円(税込)
 
ここでしか手に入らないオリジナルサコッシュ付き!
※UNIVERSAL MUSIC STORE限定販売:2018年5月28日(月)正午より予約スタート。
ご予約はこちらから⇒https://store.universal-music.co.jp/product/d2ce2464/
 
■CD収録曲
「歓びの陽」:「モンストグランプリ2018 チャンピオンシップ」公式イメージソング
「Upside Down」:TVアニメ「アンゴルモア元寇合戦記」エンディングテーマ
ほか全3曲収録予定
 
■DVD収録内容:ライブ映像5~6曲収録予定
※上記3形態全てCD収録曲は同内容です。
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