ノット&東響「ダ・ポンテ三部作」が《フィガロの結婚》でフィナーレ~コンサート形式のオペラに新たな可能性を開拓(寄稿:音楽評論家 加藤浩子)

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クラシック
2018.6.8

 

「ロッシーニは抽象的。ヴェルディはリアリスティック。モーツァルトにはその両方がある」--“ロッシーニの神様”と呼ばれた指揮者の故アルベルト・ゼッダは、モーツァルトのオペラの魅力をそう定義した。

ロレンツォ・ダ・ポンテが台本を書いた3作のモーツァルト・オペラ《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《コジ・ファン・トゥッテ》は、《魔笛》とならんでモーツァルト・オペラの最高峰に位置している。音楽としても楽しめると同時に、きわめて演劇性が高い音楽。ダ・ポンテ三部作は、それを体現している奇跡的なオペラだ。

そんなダ・ポンテ三部作は、コンサート形式で上演するにもうってつけのオペラである。装置や演出がなくとも、セリフと音楽がすべてを語っているからだ。人物の細やかな感情の移ろい、ちょっとしたことで変わるその場の空気……モーツァルトはそれを、心憎いまでにさりげなくやってのける。アーティストには、それを汲み取り表現できる能力が必要だ。コンサート形式は、アーティストの技量が試されるという点では、実はとてもハードルが高い。

ジョナサン・ノット東京交響楽団が3年がかりで取り組んでいるダ・ポンテ三部作は、コンサート形式による数あるオペラ公演のなかでも特に評判の高いシリーズである。なんといっても、音楽的な水準が高い。2016年の12月に上演された第1作目の《コジ・ファン・トウッテ》を観て「コンサート形式でここまでオペラティックな舞台が創れるのか!」と、目から鱗が落ちた人も少なくないのではないか。ソリストはみな超一流で、ひとりでオペラを作ってしまえるくらい作品や役柄を自分のものにしている。誰もが自発的に歌い、演じながら、のびのびと舞台を駆け回っていた。

《コジ・ファン・トゥッテ》 (C)青柳聡/ミューザ川崎シンフォニーホール

《コジ・ファン・トゥッテ》 (C)青柳聡/ミューザ川崎シンフォニーホール

極めつけは、通奏低音も担当しながら指揮を執ったノット。若い頃からオペラの現場で鍛えられたノットは弾き振りも得意で、「モーツァルト後期のオペラに向いている音色」だというハンマーフリューゲルを自在に操り、歌手を尊重しつつも彼らと一体となって、音楽の素晴らしさを描き出していた。1年後に上演された《ドン・ジョヴァンニ》も《コジ・ファン・トウッテ》同様自発性を尊重し、オーディエンスを楽しませた。

《ドン・ジョヴァンニ》 (C)青柳聡/ミューザ川崎シンフォニーホール

《ドン・ジョヴァンニ》 (C)青柳聡/ミューザ川崎シンフォニーホール

この12月、ノット&東響はいよいよ《フィガロの結婚》を上演する。真打ち登場といったところだが、キャスティングもそれにふさわしく豪華。《コジ・ファン・トウッテ》で超名演を披露したマルクス・ヴェルバをはじめ、ミア・パーションら第一線で活躍する名歌手、そしてリディア・トイシャー、アシュリー・リッチズ、エイブリー・アムローら注目の若手が主役を歌い、大ベテランのアラステア・ミルズやジェニファー・ラーモアが脇を固める。ミルズに至っては演出監修もする。贅沢無比なる陣容だ。

「これだけの顔ぶれが揃うのだから、この音楽の素晴らしいところをすべて聴いていただきたい」。《コジ・ファン・トウッテ》の公演前のインタビューで、ノットはそう語った。《フィガロの結婚》を前にして、同じ思いでいるはずだ。オペラ好き、モーツアルト好き、そして音楽好きにとって、このうえない朗報といえる。

コンサート形式によるオペラ公演に新たな次元を拓いた、ノット&東響のダ・ポンテ三部作。オペラ史上指折りの人気作《フィガロの結婚》で迎えるシリーズのフィナーレはぜひお見逃しなきよう。

音楽評論家 加藤浩子

公演情報

モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』
(演奏会形式/全4幕/日本語字幕付き)

 
<川崎公演>
■会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
■日時:2018年12月07日(金)18:30 開演 ※18:00開場/22:00終演予定
■料金:S¥13,000 A¥10,000 B¥7,000 C¥5,000

 
<東京公演>
■会場:サントリーホール
■日時:2018年12月09日(日)13:00 開演 ※12:30開場/16:30終演予定
■料金:SS¥15,000 S¥12,000 A¥9,000 B¥6,000 C¥4,000

 
■出演:
指揮/ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット 
演出監修/バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ 
フィガロ:マルクス・ウェルバ 
スザンナ:リディア・トイシャー 
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ 
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション 
ケルビーノ:エイブリー・アムロウ 
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア 
バルバリーナ:ローラ・インコ 
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック 
合唱:新国立劇場合唱団  
管弦楽:東京交響楽団

 
■主催:川崎市(12/7公演)、ミューザ川崎シンフォニーホール(12/7公演)、公益財団法人東京交響楽団(12/9公演)
■助成: 文化庁 文化芸術振興費補助金 劇場音楽堂等機能強化推進事業 独立行政法人日本芸術文化振興会(12/7公演)
文化庁芸術文化振興基金助成事業(12/9公演)公益財団法人アフィニス文化財団(12/9公演)
■e+受付
座席選択先行 2018/6/12(火)10:00~2018/6/17(日)18:00
一般発売 2018/6/19(火)10:00~
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