舞台『バクステ』公開寸前! 演出家・川本成インタビュー&稽古場レポート
川本成
川本成が初の演出を務める舞台『バクステ』が、 2018年6月13日~6月17日に赤坂レッドシアターにて上演される。今回は、演出家デビューを果たす川本成の独占インタビューと公演を目前に控えた稽古の模様をお届けする。
"舞台裏にも「スタッフ」という、演劇人がいる"をコンセプトに、初日を2日後に控えたスタッフルームの模様が描かれている本作。脚本はプラチナ・ペーパーズの堤泰之。そして演出は今回が初演出となる川本成。この日は稽古前に演出家としての手ごたえや舞台の見どころについて話を聞いた。
ーーそもそも演出家に興味を持ったのはいつごろですか?
30歳ぐらいの時に自分自身が出る場所を作りたくて主宰する「時速246億」を立ち上げて、色々な方々に出ていただいて色々作って。とにかく一緒にやりたい人とやりたいことをガムシャラにやってきました。で、次は自分を客観視できる場というのが欲しくなったんですかね。「なぜ自分はこういう行動を取るのか」「こういう笑いに興味があるのか」考えるようになったんです。
そういえば、師匠の萩本さんが「やみくもに演じてもだめだからね。構造とか理屈を理解しないと」っておっしゃっていた事も頭に残っていて。萩本さんの演出は、右足から歩くか、左足から歩くかとかも全部計算されていて、そういう所にもこだわりがあるんです。そういう姿も見て来たので、30代の後半頃から演出に興味が出てきたのかもしれません。
川本成
ーーそれで今回が初の演出とのことですが、挑戦することへの恐怖とかはありましたか?
ここ5年くらい一番のテーマはやっぱり"勇気"だなぁと思っているんです。ソロ公演なんかも、40歳になる頃に「今一番やりたくないことは何かなぁ」と考えて、ひとり、が浮かんだんです。これ、浮かぶということは、興味があるのに避けてたこと、なんですよね。どっかでやらないといけないなって。で、実際にやってみて思ったのは、やる前の方が怖かったです。実際本番に入ってみるとやるしかないですからね。実戦になると夢中ですから怖さはどっかいっちゃう。
演出に関しても、そういう風に思っているタイミングでお話をいただいたので、今回はチャレンジだとは思っていません。猪木じゃないですけど「負けるとわかってやる馬鹿がどこにいる」っていう感じで、やってやるぞっていう感じですね。
ーー心強いですね……。演出家として、何か気を付けたこととかはありますか?
一般的に舞台の稽古はなぜか13時から始まるところが多いんですけれども、今回は稽古が始まってから2週間、午前中から稽古して15時ごろには終わるというスタイルで臨んでいます。自分に子どもが産まれたというのもあるかもしれませんが、最近は、今まで無駄に過ごしていた“午前中”というものにすごく興味があるのと、人の集中力って2~3時間しか持たないっていうのがあって。最速で14時30分に終わって、稽古後の呑み含めて夕方には解散しましたね。こっちの勝手な都合に合わせてもらってる感もありますが(笑)それでも、本番1週間前にしてガンガン通し稽古できる状態ですし、完成形はすでに見えています。
ーーそれは新しいスタイルですね。他に気付いたことはありますか?
今回「こういうところにこだわろう」と深く考えずに臨んだのですが、「意外と俺こだわりあるんだな」っていうことに気付きましたね。普段は結構優柔不断で、こだわりとか好みもないって自分のことを思っていたのですが、意外とあるんだなっていうのは最近の嬉しい驚きです。だからセットとか、演出とか、本当に細かいところにもこだわっています。
ーー具体的なこだわりポイントというのは?
もういっぱいありますね!(笑)一番はやはり“笑い”というところになるんですけど、普通だったらこういう風に笑いに向かうだろうっていう場面であえて直接的にいかず、言ってしまえばタネは奥底に隠して、見せないようにということをやっています。なぜ自分がそっちの方にいくのかなと思ったら、それはやはり萩本欽一哲学なのだろうって思いますね。だから観る人には「あれ? なんで笑ったのかしら」と思ってもらいたいです。そういう意味では、特にセリフを言っていない人の挙動にこだわったりしてます。
川本成
ーーそうなんですね! セリフが多く、会話劇だということをお伺いしているのですが……。
そうですね。ただ、結局これも萩本イズムなんですけど、セリフ以外のところが重要だなと。セリフはセリフそのものが小道具であり、武器だから、それはストレートに表現すれば良いんですよね。注目すべきはその芝居を聞く側や、受ける側。ですから、会話劇ではあるんですけれども、セリフ劇にはしていないです。
昔、勝新太郎さんが「ドラマの告白シーンでは、「好きだ」って言ってるやつを映すのではなくて、「好きだ」って言われているやつを撮らなきゃ」っておっしゃっていたっていうのを聞いたことがあるんですが、それを思い出しました。観る人によって視線が決められるのが舞台なので、セリフを言っていない人をおもしろがりたいですね。
――頼もしい……。先ほど稽古は"短期集中型"だったとのことでしたが、指導する点で気を付けたことはありますか?
皆に言われて知ったのは、僕はドSらしいんです(笑)。昔、萩本さんが「結局、演技は教えられないんですよ」と言っていたのを思い出しました。だって「このシーンでオーバーヘッドキックしてください」っていうオーダーはできても、やるかやらないかは演者次第であって、それ以上は教える教えないではないですよね(笑)。萩本さんからそういう風に指導されてきたからかもしれませんが、自分もそういう風にやっているんだなって思いました。だからドSなオーダーをしてるかもしれない(笑)
ーーずばり手ごたえはいかがですか?
手ごたえはねぇ、正直ありますね(笑) 3日目くらいからありました。演出家っぽいことをいうと、おもしろい方々が集まってくれたので意図を伝えるとそれをくみ取ってくれるので早いんですよ。ここから伸びしろを広げていくという意味では「こうだからこうするべき」っていうことにどんどん気付いて、どこまでこだわりぬけるかだと思っています。
ーー今回、描かれているのが舞台の裏方の皆さんということですが、そういう意味ではこれまでの経験も生きていらっしゃいますか。
そうですね。経験もそうですし、実際に音響さん、照明さんとプロの方、本物の方が現場にいらっしゃるので、お話を聞きながら進めるという意味でもおもしろいです。だから、嘘は一切描かずに伝えられれば、ということを心がけています。セットとかも、わかる人から見れば「舞台の現場あるある」みたいになっているんです。
川本成
ーーそこは見逃せませんね。では、どんな人が楽しめると思いますか?
演劇に携わったことがある方や、プロの方にも観てほしいです。たぶん僕の演出方法は、結果少し世の中と逆行できてるかもしれなくて、おもしろいことをおもしろくやらずに、あえて当てに行く笑いは無しで、まじめに物語は進んでいきます。でも隠してはあります。プロの方だと、そういうところにも気付いてもらえると思うので「こんな演出の仕方どうですか?」という意味でも観に来てほしいんです。
ーーまじめだけど「クスっ」と笑わせると!
そうであってほしいですね。人って安心するから、心を許すから笑えるんです。そういう意味では、きっとキャラクターたちへの愛着というものが生まれないと笑えないんですよね。だから懐を許す、気付いたら笑っていたという空間を繰り広げたいです。
ーー最後にメッセージをお願いします。
『バクステ』は、こういう風に舞台が作られているんだよっていう意味で、いろんな人が楽しめると思います。あと、普段出る側の人間が裏方をやるおもしろさ、なくてもいい細かい情報を盛り込んでいるので、そういうところを探して楽しんでほしいですね。
初演出とは言え、不安や怖さを感じさせることは一切なかった川本のインタビュー。自信をのぞかせる細かいポイントの多さや、笑いへの執着といったこだわりがちりばめられているとのことで、実際に幕が開くのが楽しみだと感じた。
稽古は、非常に和やかな空気の中行なわれた。舞台終盤のシーンとのこともあり、非常に胸が熱くなるようなセリフも多々見受けられた。そんなシーンでも、川本が指導するポイントは非常に細かい。一人の演者のセリフを受けて、他のキャストが振り返るタイミング。走ってきた後、どこの位置で立ち止まるか。気になるところがあれば、「そこはこういう方がいいんじゃないか?」とその都度止めて、演じてみて、確認して、演技ではなく舞台裏で繰り広げられている日常に近づけていた。
『バクステ』稽古場模様
『バクステ』稽古場模様
『バクステ』稽古場模様
『バクステ』稽古場模様
「ここって普段ならどうするの?」「いつもならどっち先に持って行く?」「ここ少し気になったんだけど、どうかな?」と一人で決めるのではなく、演者やプロの裏方たちと会話をして作り上げていく演出家・川本の姿も印象的であった。みんなで作り上げるコメディだからこそ、現場の雰囲気はあたたかくアットホームであった。1つの舞台が作り上げられていく過程を舞台で見られるおもしろさをどう描くのか。知らず知らずのうちにその世界へと引き込まれてしまう観客を、どう笑わせるのか本番が待ち遠しい。
取材・文=於 ありさ 撮影=福岡諒祠
公演情報
出演者:
山野本(DVD撮影)白又敦
嶋(制作助手)小西成弥
小倉(舞台監督)小林健一
遠藤(舞台監督助手)河合透真
東(照明)瀬尾タクヤ
桜木(照明助手)福永マリカ
亀田(音響)上杉輝
岩清水(音響助手)望月瑠菜
味方(ヘアメイク)ふじわらみほ
笹本(メイク助手)難波なう
アキ(振付助手)前島亜美
ナオト(役者)齋藤健心
利根川渡(役者)柏進
協力:萩本企画
企画・製作:エヌオーフォー