僕は何本かのアニメで人生を変えたんだ vol.1 「灰羽連盟」
灰羽連盟公式サイトからキャプチャー (C)安倍吉俊・光輪密造工房
静かな世界にだってドラマは息づいている
三ヶ月ごとに続編を含めば40本近い新しい作品が生まれては消えていく昨今のアニメ業界。
年間に換算すれば120本近い作品が世に出ている。
(その大半が深夜アニメというのも時代を反映している気もするが)
僕自身が最初に触れたアニメが本当に生まれてすぐ、記憶の遥か彼方に断片みたいに残ってる
「超電磁ロボコンバトラーV」だ、年齢がバレるようなチョイスだが
その後たくさんの作品に出会って、ハマって好きになって今の立派なオタクな自分が出来上がったのだが
数多の作品の中で自分を形成している名作を語るのも悪く無いか、と思って書き出す。
一回目はこの作品「灰羽連盟」だ
2002年、まだノイタミナなんて企画自体も走ってなかった深夜のフジテレビに舞い降りたこの作品は
元々は人気イラストレーター安倍吉俊の同人作品「オールドホームの灰羽達」を元に構成された。
オープニングは高い空から落ちていく少女で始まる。
彼女は繭の中で目を覚まし、そこには背中に飛べない灰色の羽を持つ、「灰羽」と呼ばれる人物がいた。
繭の中でどんな夢を見た?聞かれた少女は空を落ちる夢だったと注げる、
その夢の内容から、少女は「ラッカ」と名づけられる。
そんなイントロダクションで始まる今作。
壁に囲まれたグリの村、灰羽の暮らすオールドホーム、穏やかな時間が流れるこの作品に何故か僕は魅了された。
当時の深夜アニメの放送環境は本当にひどくて、最後の方はほぼ2話連続で放送されたため
この作品がやってた事自体を知らない人も多い。
作中で提示された数々の伏線も殆どが回収されず、そんな中淡々と話が進んでいった。
まず灰羽とはなんなのか?というのも全く明らかにされていない。
そんな作品にもかかわらず、僕は本当にこの作品の虜になった。
なぜかと言われると困るのだが、ただやわらかなこの世界観と、そこに確かに生きている灰羽達
当時25歳で、これからの人生をどうしようとうっすらと思いながらも何も出来ずにいた僕はどこかで灰羽達の生活に
憧れていたのかもしれない。
どちらかと言うと「ARIA THE ANIMATION」などに近い空気感と雰囲気を味わうタイプの作品なのだが、
それらよりももっと人の心の機微をテーマにした地味な作風、でも最終2話で起こる「事件」を超えたラストにある
「生きる」ことと「後悔」と「希望」、その先に小さく光る「未来」を灰羽連盟には感じるのだ。
今見返してもただその世界に浸るだけで心地よい、それは美しい世界の書き方、音楽などアニメーションが作り得る
ここではない世界を構築する力の結実なのだと思う。
凄いことや派手なことが起こらなくても、人生は静かにドラマチックに動き続けている。
そんな当たり前で忘れがちな事を思い出させてくれた灰羽連盟は、僕のベストライブラリーの中の一本なのだ。
余談だが、本作で重要なキャラクターである「レキ」を演じた声優の野田順子さんとお仕事をご一緒したことがある。
その時に仕事を忘れて熱く灰羽連盟について語ってしまったのだが、野田さんに
「あれから随分たってるけど灰羽を好きな人がいてくれて嬉しい、自分にとっても大切な作品なんです」
と言われて、思わず涙が頬を伝ったのはここだけの内緒話にしておいて欲しい。