中村橋之助×市川ぼたんが創作舞踊でカルメンに挑む『第二回 日本舞踊 未来座 裁-SAI- 「カルメン2018」』開幕へ
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第二回日本舞踊協会 未来座 裁「カルメン2018」
6月22日(金)に、国立劇場小劇場で『第二回 日本舞踊 未来座 裁-SAI- 「カルメン2018」』が初日をむかえた。主催の公益社団法人日本舞踊協会は、この公演を日本舞踊の継承と新たな表現の可能性に挑戦するものと位置づけており、SAI(2017年は「賽」、2018年は「裁」)という言葉に「Succession(継承) and Innovation(革新)」の意味を込めている。
今年の題材は、オペラ『カルメン』。市川ぼたんと水木佑歌がカルメンを、中村橋之助と花柳寿楽がホセを、その他主要な役どころも、ソル組とルナ組の2グループにわかれWキャストで上演する。最終稽古の舞台写真とともに、出演者のコメントをレポートする。
向きあうほどに悩む、奥の深い作品
左から、中村橋之助、市川ぼたん、水木佑歌、花柳寿楽
開幕前日の21日(木)に会見が開かれた。市川ぼたん、中村橋之助、水木佑歌、花柳寿楽の4名は舞台の衣裳で登場。
ソル組カルメン役は、市川ぼたん。意気込みを問われると「まだまだですね」と苦笑いで切り出した。
「作品と向きあうほどに、先が見えなくなる稽古でした。でも明日の本番までまだ半日あります。あきらめず、橋之助さんとも相談させていただきながら、最後のお稽古をさせていただきます」とコメント。カルメンという役については「ジプシーの女性で、気が強く、魂で生きているような精神的な力強さもあります。男性を翻弄していく中で、その強さを体の動きだけでどう表現したらいいのか。ただ優しいだけではいけない。もう一歩踏み込んだカルメン像ができたら」と語る。
ソル組で、カルメンに運命を翻弄される男・ホセを演じるのは、中村橋之助。歌舞伎以外の舞台に立つのはこれがはじめてとなり、女性との共演もこれが初。創作舞踊も初めてとあり「初めてづくしで新鮮なことがたくさんありました。ぼたんお姉ちゃまもおっしゃいましたとおり、『カルメン』という作品は奥が深く、お稽古をするほどに悩むこともあります。それでも僕らが1カ月かけて作ったSAIの、未来座の『カルメン』を思い切って楽しんでお届けしたい」と力強く語る。
稽古場には、橋之助の父・芝翫も一度見にきたという。「国生(橋之助)が作ってきたものだから」と演技についてコメントはせず、「日本舞踊協会の中、皆さまと仲良くコミュニケーションをとらせていただき舞台を作る経験は、お前にとっていい引き出しになる」と背中を押されたことを明かす。
報道陣から「カルメンのような女性はどうか?(タイプか?)」と問われ、「今までに出会ったことのないタイプの女性です。一目見た瞬間からドキドキするという経験はなく……今後出会えますかね?」と記者に聞き返し、笑いを誘う一幕も。
ルナ組カルメン役をつとめるのは、水木佑歌。2003年の第20回創作舞踊劇場公演『薔沙薇(ばさら)の女-カルメン2003-』では、ミカエラ役を演じた。その時、踊り手により色が変わるカルメンという役をみて、憧れとともに「自分ならどうやるだろう」とイメージを膨らませていたのだそう。
「前回の公演から夢に見ていた役ですので、とてもうれしく思います。この思いを実現させるために稽古をしてまいりました。舞台装置や照明が入り、できあがっていくのを今、楽しんでいます。本番に向け、さらにパワーアップしていきたいです」
ルナ組の花柳寿楽は、2003年の公演につづきホセ役をつとめる。
「新たな気持ちで取り組む部分に、前回の経験を上積み、橋之助さんたちとも交流しながら、どうすることでお客様に伝わるかを工夫して作ってまいりました。ぜひ皆様に楽しんでいただきたいです」
その後行われたフォトコールでは、若手のぼたん&橋之助が出演するソル組の第一幕が公開された。
ぼたんだけのカルメン、橋之助だけのホセ
幕開きは、鐘の音が奏でるオペラ『カルメン』の「ハバネラ」のリフ(お寺の「ゴーン」ではなく、西洋風の「カラーン、カラーン」の方!)。舞台にはタロットカードをモチーフにしたセットが並び、6人の女の幻想的な踊りで物語は始まった。昨年の第1回公演は「水」という共通のテーマのもとに作られた4演目が、それぞれに披露され、松本幸四郎の出演も話題となった。今年は『カルメン』を通しで楽しむ構成だ。
劇中には、にぎやかな風流踊りもあれば、コンテンポラリーダンスのようなシーンもある。昨年の『賽-SAI-』で免疫ができたつもりでいたが、またしても日本舞踊協会のチャレンジ精神と懐の深さ、表現の幅に驚かされた。
登場するキャラクターは、個性がはっきりしており分りやすく、飽きることもない。『カルメン』のストーリーは知っていても、日本舞踊バージョンを見るのが初めてなせいか、やきもきしたりドキドキしたり、新鮮な気持ちで鑑賞できた。
ぼたんが演じるカルメンは、群衆の中でも圧倒的な存在感。和装であっても、佇まいはまさしくカルメンだった。会見でぼたんは「(兄・海老蔵の)子どもたち(麗禾ちゃんと勸玄くん)にもこの公演をみてほしいか?」と尋ねられ、「刺激が強いからあまり観てほしくない」と笑って答えていたが、その言葉に頷かざるをえない妖艶さ。同時に力強く舞うことで、自身のイメージするカルメンを追い求めていた。
橋之助が演じるホセは、武士の設定だ。許嫁がいながらカルメンに一目ぼれをし、運命を狂わされていく役どころ。会見の時とは一転して、劇中では悩ましげな表情が印象的だった。
第1幕でとりわけ美しかったのは、牢屋のシーン。牢屋の中のカルメンに懇願され、ホセは鍵をあけてしまう。すがりつくように抱き合う二人だが、そのすぐ後にカルメンは別の男の腕に抱かれることになる。
第一幕を観終えて、あらためて台詞がなかったことを思い出して驚かされる。カルメンの強く甘い声、ホセの叫び声が耳に残っているような気がするからだ。台詞による説明がない。それ余白の分だけ、キャラクターの個性は、踊り手の動きと人となりによって造形されていく。水木佑歌が「踊り手によって色が変わる」といっていたのは、このことかもしれない。
ぼたんだからこそのカルメン、橋之助だからこそのホセが、第二幕でどのような表情をみせるのか。そしてルナ組のベテランペア、水木佑歌のカルメン、花柳寿楽のホセがどのような『カルメン』の世界を彩るのか。日本舞踊協会の挑戦を見逃さないでほしい。
取材・文・撮影=塚田 史香
公演情報
■公演日程:2018年6月22日(金)~6月24日(日)
■会場:国立劇場 小劇場
【ソル組】市川ぼたん、中村橋之助 ほか
【ルナ組】水木佑歌、花柳寿楽 ほか
■スタッフ:
スーパーバイザー/花柳壽應
演出/花柳輔太朗
振付/猿若清三郎、西川大樹、花柳輔瑞佳
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電話:03-3533-6455(平日10:00~17:00)メールアドレス:info@nihonbuyou.or.jp
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