吹越満が、吉沢悠演じる主人公を翻弄するキーマンに扮する『華氏451度』

インタビュー
舞台
2018.7.12
吹越満

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世界的に知られる小説家にして詩人のレイ・ブラッドベリが、1953年に書いたSF小説『華氏451度』。その後、1966年にはフランソワ・トリュフォー監督によって映画化もされたこの作品が、白井晃の演出により舞台化される。今回、新たに小説から脚色を加えて上演台本にするのは長塚圭史だ。

タイトルの“華氏451度”というのは、本の素材である“紙”が燃え始める温度のこと。舞台となるのは、本の所持や読書が禁じられている架空の近未来。本の所持が発見された場合は“ファイアマン”と呼ばれる機関が出動して焼却、所有者は逮捕される。主人公・モンターグはその“ファイアマン”のひとりなのだが、ある女性と出会ったことから、そんな社会に疑問を持つようになる……。

出演者は実力派揃いで、モンターグに3年ぶりの舞台出演となる吉沢悠が扮するほか、美波、吹越満、堀部圭亮、粟野史浩、土井ケイト、草村礼子が出演。吉沢以外の6名はそれぞれ二役~四役を演じ分けることになっており、見応えのある舞台が期待できる。

中でも、モンターグの上司で物語のキーマンとも言える存在のベイティー隊長を演じる吹越は、白井演出作品にはこれが初参加。稽古にはまだ間があるが、作品への想いや意気込みを聞いてみた。

ーーこの作品への出演を決めた、一番の理由は何でしたか。

白井さんとも長塚さんとも、全く面識がなかったわけではないですけれど、まだ一度も一緒に仕事をしたことがなかったんです。だから、まずはそのことが一番の理由だったかもしれないですね。今の時点ではまだ台本はなく準備稿の段階で、このあと脚本がもう少し進むとさらにト書きなりセリフなりが書き加えられて、舞台の上に載せるためのものになってくるのかなと思ってはいますけど、それを読むのが今からものすごく楽しみ。原作を読んだ時に一番興味深く思ったのが「これをどうやって舞台にするんだろう?」ということだったので。まだ全然わからないですが、その、わからないというところにも、とても魅かれていますね。

吹越満

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ーーちょっとどうなるか、今日の時点では具体的にはまったく。

そう、想像がつかないんです、どうなっていくのか。ま、そこを自分自身も見たかった、ということかな。それを一番近くで見られるということですからね、出演するということは(笑)。お客さんよりも先に、稽古段階から見られるわけですし。もしかしたら無責任な言い方かもしれないけど、今はそんな感覚です。

ーー原作はもともと、読んでいたんですか。

いや、読んでいなかったので、今回この話があって初めて読みました。SFの翻訳ものって、なかなか言葉が入ってきにくいのでふだんはあまり好んで手に取らないほうなんですよ。でも読んでみたら、ジャンルとしては確かにSFになるんだけど、あまりSFっぽくないなという印象でした。

ーーリアリティ、日常に近い感覚が強くあるような?

うん。物語は既に本が禁止されているという状況から始まるから、その理由とかは特に話の中には出てこなくて。そして“昇火士”、つまり“ファイアマン”も、仕事の仕方としては要するに消防士みたいなもので、でも消防士は火を消すのに対してこっちは火をつけて回るほうだから、その意味合いは全然違うんですけどね。世の中にそういう仕事がある、というのが当たり前になっている世界のお話なんです。だけど、こういう世界になったのはなぜなんだろうとか、本の重要性とか、作家の一番言いたいことに関しては、人によっていろいろ感じるものは違うんだろうなと思います。たとえば“自由”とか“記憶”とか、それらに疑問を持って戦うことになるわけでしょう。そして物語の裏にあるテーマというのももちろん、人それぞれ違ってくるだろうし。

ーー本を何に置き換えるか、とか。

でも、これを舞台にするということは、ひょっとしたらそういうテーマをわかりやすくするというよりも、実際にそうやって本を燃やさなければいけない仕事があるというところから始まる世界を、嘘くさくなく舞台の上にのせるということなんじゃないかと。たぶんそれが、僕らが一番やらなきゃいけない仕事になるんだと思うんですよ。

ーーお客さんを、迷わせることなくこの世界に没入させられるか。

そういう意味では原作を読む時に特に気をつけていたのが、出てくる物の質感。“昇火士”の被っているヘルメットの色とか、その世界で人々が着ている服の色とか。そう思って読んでみると、色の描写が意外にあるんですよ。あと“機械猟犬”。これはきっと僕らがふだん思い描く犬とは、形も全然違うだろうし。こういうものに関しては文章だけで想像しているものなのに、それを今回は具体的に。

ーー形を作らないといけないから。

そうですね。でもそのイメージって、たぶんこの舞台に関わる全員がそれぞれちょっとずつ違う形を想像している気がするので、まずはそれをひとつにしていく必要があるということが、自分にとってはひとつの楽しみでもあるんです。

吹越満

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ーーもしくは想像とは、まるで違う形になるかもしれないですしね。

そうそう。また、お客さんの想像力をいい意味で利用していくとなると、あまり具体的過ぎてしまうと逆にその想像力が働かなくなるものだから。そのへんの兼ね合いが難しいし、でもその兼ね合いを考えていくのが楽しくなりそうな作品ではあるよなと思っています。そして、中でも一番気になるのが「火をどうしますか?」ということで。要は、やはり舞台の上に何かをリアルに出現させなきゃいけないんだということでいうと、やっぱりそこが大きな問題になりそうなんですよね。

ーーでも、本火は使いづらそうですよね。

いや、むしろ一番ラクなのが本物で。実際に火をつけちゃえばいいんだから簡単ですよ。でも、それをどう見せていくか、どう表現していくかということが今回は一番の肝だと思うんです。

ーーところで吹越さんがこの世界でもし、本を燃やしたくなくて一冊持って逃げるとしたら何を持っていきますか?

何を持って逃げるかなあ。この世界では文字とか文章の表現が問題にされているみたいだから、おそらく写真集は大丈夫なんだよね。一瞬思い浮かんだのは、元妻の写真集かなと(笑)。本の形をしているからたぶん本棚には並んでいるし、それを発見されて一緒くたに燃やされるのだけは勘弁! と思ったので。うーん、でも自分の人生を変えてくれた人の本、きっかけになった本という意味では、具体的に一冊あるにはあるんですが。

ーーそれがどういう本なのかは。

恥ずかしいから言わない(笑)。実はその本を出した方と最近一緒に仕事をしたので、いい機会だからサインをもらっておこうと家じゅう探したんだけど、見つからなくて。絶対にあるはずなんですよ、青森から出てきた時にちゃんと持ってきたはずだから。でも、なぜかないんですよね……。あと、たとえば自分が書いた芝居の台本であっても、この物語の設定だと燃やされる対象にきっと入っちゃうんですよね。それはやっぱり、いやだなあ。僕、パソコンとか使わないから今も手書きで自分の芝居の台本を書いているんですよ。ここ最近はリライトしてもらって製本したものをスタッフと共有して持ってはいるけど、最初の段階は全部手書きなんです。

ーー第1回から全部保存してあるんですか? それは素晴らしい。

34年分、全部とってありますよ。途中で変更したり、カットしたり、書き込んだものも含めて全部。

ーーそれは絶対に捨てられない本ですね。でも一冊持って逃げるというスケールの話ではなくなってしまいそう(笑)。

いや、ものすごい重さになるだろうから持って逃げるのは大変だろうね(笑)。

吹越満

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ーー役柄についても聞いておきたいのですが。ベイティー隊長は現時点ではどういう役だと思われていますか?

モンターグを追い詰めていく人というか、つまりルールを守っている側の人ですね。そこから外れていく人を管理する機関の上司なわけだから。でも難しそうではあるよね、妙に本に興味を持っている様子だし、本に対する知識もものすごくあるし。そういう意味では、なんだか矛盾したヤツだよなあと思っています。

ーー本当のところは何を考えているのか、よくわからない人ですよね。

だから、一歩間違えればモンターグと同じ考えの人になれたのかもしれない。そうなれば、仲間になって楽しく暮らせるのに(笑)。

ーーでも、これは敵役でもある?

うん、敵役なんでしょうね。物語上で、モンターグという人を描くには絶対必要な登場人物でもあると思います。あと、これはみんな外国人の役ですよね。

ーーそうでしょうね、ベイティー隊長ですから。

土井さんと美波さんは見た目的にも外国人役が似合うからいいだろうけど、俺なんか思いっきり日本人だからなあ。付け鼻とかするのかな。

ーーそれはなさそうですけど(笑)。

まあ、近未来の話だとすれば人種もいろいろ混ざっていてアジア系もいる、という設定でもいいのか。いや、そもそもそういうことはあまり考えなくてもいいのかな。なんだかね、いろいろなことを考えてしまうんですよ。こういう世界観の物語なのに、劇場ではパンフレットを売ったりするわけじゃないですか。そのことをどう考えればいいのかな、とか。そういうことまで考えていくと、すごく面白いですよね。つまり『華氏451度』という世界の中では本が禁止されているのに、その芝居の台本自体も本になるわけじゃない?

ーーそうなるでしょうね。

それを焼かれたら役者の俺らはどうするんだよ、みたいな(笑)。だから、『華氏451度』自体は小説、本であるということにも俺はものすごい面白さを感じているんです。そういうことも、この作品の中に隠れているテーマなのかなと思うので。

ーーでは最後にお客様に向けて、吹越さんからお誘いの言葉をいただけますか。

原作をご存知の方は一体どういう風に舞台にするんだろうと思うでしょうし、映画にもなっているから映画のイメージとどのくらい離れられるのかも気になるところでしょうし。でも映像でしかできないことがあるとすれば、舞台でしかできないこともあると思うので、なるべく僕としてはそっちの世界に行ってくれればいいなあと思っているんですが。

ーー舞台でしかできないことで、この物語を表現したい。

そうです。でもまだ今の時点では、さてどんな風に舞台にするんだろう?と、俺もお客さんと同じ気持ちですごく楽しみにしている段階なので。それを、みなさんの想像通り、あるいはそれを超えるものにしたいなと思ってはいますから、そこはぜひ期待をしていただきたい。なんとかそう実現できるように、精一杯がんばりますよ。

吹越満

吹越満

取材・文=田中里津子 撮影=山本れお

公演情報

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『華氏 451 度』
 
原作:レイ・ブラッドベリ
演出:白井晃
上演台本:長塚圭史
出演:吉沢悠 美波  堀部圭亮 粟野史浩 土井ケイト 草村礼子 吹越満

公演日程:
KAAT神奈川芸術劇場公演:2018年09月28日(金)~2018年10月14日(日)
穂の国とよはし芸術劇場公演:2018年10月27日(土)~2018年10月28日(日)
兵庫県立芸術文化センター公演:11月3日(土・祝)
公式サイト:http://www.kaat.jp/

お問い合わせ:チケットかながわ TEL.0570-015-415(10:00~18:00)
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