若村麻由美が手強い父・橋爪功に挑む 「怖さ」と「切なさ」のある舞台『Le Père ‐父‐』
若村麻由美
「フランスで最もホットな文学者の一人」と英国・インディペンデント紙で称されたフロリアン・ゼレール。今、世界中から彼の戯曲に熱い視線が向けられている。そんな彼が書いた戯曲『Le Père ‐父‐』が、2019年2月~3月に日本で舞台化されることが決定した。
アルツハイマーの症状がある老人とその介護に疲れた娘の物語という、現在の日本ですでに身近な問題となっている重いテーマが描かれる。老人・アンドレには日本を代表する役者であり、圧倒的な存在感を誇る橋爪功、娘・アンヌには幅広い役柄で映像作品や舞台で大活躍の若村麻由美がキャスティングされた。演出に2012年パリ初演を手掛けたラディスラス・ショラーを迎える。
今回アンヌを演じる若村麻由美に、作品の印象や出演を決めた理由、そしてどのようなアンヌ像を描いていきたいのか、話を聞いた。
ーー来年2月~3月に上演される『Le Père ‐父‐』にアンヌ役として出演が決まりました。アルツハイマーの父と向き合う重いテーマです。この戯曲に対する印象をお聞かせください。
本を読んで思ったことは、「怖さ」と「切なさ」が共存する作品だということです。今回私は娘の役で子の立場ですが、いつか自分も介護される時を迎えるかもしれない、そんな見知らぬ世界を垣間見るという意味で、怖さを感じました。
でも物語の構成としては、「本当のことはどこにあるのだろう」、「この先どうなるのか」と、ドキドキ感と共に、どこかサスペンスのように観ることができるのではないかと思います。
若村麻由美
ーー切なさやテーマの重さが印象的になると思いましたが、ハラハラドキドキするのが期待できる作品なんですね。
切なさは最後にどっとくる感じで、それまでは、「これは介護している子どもたちが大変だという話なのか」もしくは「策略で陥れられているのか」と、シーンによって違う思いで観ることができると思います。
この話は、父アンドレの主観で物語が展開していきます。アンドレの身に起こることは、「あれ? 自分が思っていたことと違う」とか、「えっ、そうだっけ?」など、疑問に思うことがどんどん積み重なっていきます。
観客側にも「何が本当なの?」と、アンドレと同じように翻弄されていく感覚があると思います。私はそういうところが現代の劇作として優れていて、まるでコンテンポラリーアートのような戯曲だと感じました。
ーーそうしたところに魅力を感じて、出演オファーを受けたのですか?
この作品は親と子、そして娘とそのパートナーとの人間ドラマで、演劇が果たす社会的な役割としても優れていると思います。
「介護」という、おそらく国を超えて共通する問題があるところも、出演を決めた大きな理由です。
私より若い世代の方には「いつか自分もそうなるかもしれない」という可能性を抱えているので、「知らない扉を開く感覚」のように感じられ、また既にこのような現実を抱えている方にも、より深く感じて頂けるのではないかと思います。
ーー若村さんはどのようなアンヌ像を描いていきたいとお考えですか?
まだ演出家とお会いしていないので、分からないところがたくさんありますが、可能性がものすごくある作品だと感じています。演出家がどこに絞り込んでいきたいのかということもあるので、稽古で話し合いながら創りあげて行きたいですね。
若村麻由美
ーー今の時点では、何通りものアンヌ像が期待できるのでしょうか?
そうですね。お客様に、何通りにも見えたらいいなと思います。でもアンヌ本人からしてみれば、アンヌ像は、「父を愛している娘」だけだと思います。
ーー父役の橋爪功さんとは、どのような親子を演じていきたいと思いますか? 若村さんから見て、橋爪さんはどういう方でしょうか?
実は前回橋爪さんとお仕事をさせていただいたときは、夫婦役だったんです。今回は親子なので、また新たな関係を築きたいと思っています。
今日撮影してみて、橋爪さんはそこにいらっしゃるだけで、「ああ、アンドレってこういう人なんだ」と伝わってきました。私自身も「この人の娘なんだ」と思うと、アンヌ像が生まれてくる感覚がありました。橋爪さんあっての娘になるように役作りができたらと思います。
ーーアンヌにとって、父のアンドレはどのような存在なのでしょうか?
アンヌにとっては、手強い父なんですね。子どもの頃は威厳のある父であった人が、いろいろな記憶を失っていくのを目の前で見続け、対応していかなければならないというのは、とても耐えがたいことだと思います。
子どもにとって、親は最初に会う「大人」で、信頼できる大きな存在です。
それが自分が大人になるにつれて、年老いていく親を受け入れて行かなければならない。結果ではなく、そこに至る過程、親子がどうコミュニケーションをとっていき、どう現実と向かい合って行くのか、その絆が問われる作品です。
若村麻由美
ーー今回、演出にフランスオリジナル版を手掛けたラディスラス・ショラーを迎えるとのことですが、演出家とはどのように向き合っていきたいとお考えですか?
まずは演出家が、作品をどのように料理したいと思っているのかを伺いたいです。
また翻訳劇をやるとよく思うことですが、「あ、それを言葉にするんだ」ということがよくあります。そこまで言葉に表さない「気質」というのが日本人にはあるので、翻訳劇をやるときに多少戸惑うことがあります。
たとえば「かわいいパパ」というセリフ。子ども返りをしている父に対して、「かわいいパパ」とは日本人は言い辛いと思うのですが、もしかしたらフランス人は言うのか、逆に言わないからこそ敢えて言うセリフなのか……。このように、演出家にお尋ねしたいことがたくさんあります。
ーー国によって、解釈の違いが出てくるんですね。
国を超えて共通のテーマではありますが、生活習慣から生じる違和感をどう乗り越えるかは、稽古にかかっていますね。
ーー最後に読者の皆さんに向けて、観劇お誘いのメッセージをお願いします。
今観るべき演劇らしい骨太な作品だと思います。多くの人が切実なる問題として考えさせられる内容で、ドキドキハラハラしながらご覧頂き、観た後に親と子の在り方について語り合える作品だと思いますので、ぜひご覧ください。
若村麻由美
取材・文=吉永麻桔 撮影=鈴木久美子
公演情報
翻訳:齋藤 敦子
演出:ラディスラス・ショラー
出演:橋爪功 若村麻由美 壮一帆 太田緑ロランス 吉見一豊 今井朋彦
【東京公演】東京芸術劇場 シアターイースト:2019年2月2日(土)~2019年2月24日(日)
お問い合せ:東京芸術劇場ボックスオフィス TEL.0570-010-296
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