花總まり×笹本玲奈インタビュー ミュージカル『マリー・アントワネット』世界で愛される公演、マリー・アントワネットへの思いとは

インタビュー
舞台
2018.8.2
(左から)花總まり、笹本玲奈

(左から)花總まり、笹本玲奈

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遠藤周作の小説『王妃マリー・アントワネット』を原作に、『エリザベート』『モーツァルト!』で名高いM.クンツェ&S.リーヴァイのコンビが生み出したミュージカル『マリー・アントワネット』。2006年に世界に先駆けて日本初演され、その後、ドイツ、韓国、ハンガリーで上演されてきたこの作品が、この秋、装いも新たに再登場する。タイトルロールを演じる花總まり笹本玲奈の二人に、作品への抱負を聞いた。

ーー作品、役への意気込みをおうかがいします。

花總:私は宝塚在団中を含めるとマリー・アントワネットを演じるのが三度目になるので、三度目の正直と言いますか(笑)。作品によって同じ人物でも表現の仕方が変わってくるので、今回はこの作品におけるマリー・アントワネットを極めていきたいなと、目標を高く掲げています。多くの人が思っていらっしゃるであろうマリー・アントワネット像というものが私の中にもあるのですが、今回はもう少しより奥深くまで彼女の人生や歴史というものを考え、人物像を追求していきたいと思っています。

笹本:私は初演の際にはマリー・アントワネットと対立するマルグリット・アルノー役を演じていましたし、これだけ位の高い役を演じるのが初めてなんです。ですので、ドレスやかつらといったところできちんと着こなせるのかという心配があり、そういうところは花總さんからしっかり学びたいなと思っています。花總さんがおっしゃったように、日本では『ベルサイユのばら』などにおけるマリー・アントワネットのイメージが強いと思いますが、遠藤周作さんが書かれた彼女はより人間味があるというか、女性としても、一人の人間としても、弱い部分、揺れる部分が描かれていると思いますので、そういったところをきちんと表現できるようにがんばりたいと思っています。マルグリットを演じていたときは、明らかに嫉妬しているナンバーが多かったというか、マリー・アントワネットに対しては恨みつらみしかなかったのですが(笑)、マリー・アントワネットの側から見るこの作品はまたまったく違うものだと思いますし、新たな楽曲も増えますので、前回のことは特に思い出さずに挑みたいなと。世界各地で練られた形で上演されて、登場人物一人一人が何を考えているかがよりわかりやすくなっていたりするので、そこもまた新たな魅力だと思いますね。

ーーフランス革命期を取り上げた作品は多く上演されていますが、その魅力とはどこにあると思われますか。

花總:私の方が聞きたいです(笑)。2016年~2017年に「マリー・アントワネット展」が開催されたとき(注・このとき、音声ガイドでマリー・アントワネットの声を務めていた)、本当に多くの方が訪れたと聞きますし、日本では非常に人気が高いんですよね。でも一方で、フランスではいまだにあまり好かれていないという話も聞きますし。以前演じたとき、とても難しく感じました。あまりにも人物像が大きかったので、それをどうやったら自分が演じることができるんだろうとすごく悩んで、なかなか掴みきれなかったということがあって。必死になっていろいろな資料を見たりということに時間を費やしていましたね。特に宝塚時代は、宝塚の『ベルサイユのばら』という長い歴史の中の伝統、様式美にアップアップしていたところがあって。でも、さっき笹本さんがおっしゃったように、私も遠藤周作さんの小説を初めて読んだときに、どこか納得が行ったというか、腑に落ちたというか、それまでとはイメージが変わった部分があって。憧れる部分や理解できる部分などがあって、今回改めてこういう機会をいただけて、よかったなと。より人物として演じられるといいなと思っています。

花總まり

花總まり

笹本:日本人がフランス革命期を好きな一番の理由はやはり漫画の『ベルサイユのばら』だと思うんですね。それで知名度が上がって、宝塚での上演があって。宝塚の舞台はドレスもセットも見たことがないほどゴージャスで、ただ見ているだけで華やかで、幸せな気持ちになるというか。そして、マリー・アントワネットその人も、すごく性格が悪いという話だとか、世界三大美女の一人だとかいろいろな話があり、人生の中に不倫愛などさまざまな出来事がある中で、彼女の生きた時代は革命があって。世界が回っている、激動の時代の中で生きていた人で、人物としてもすごく波があって、火曜サスペンス劇場のようなところが、日本人に好かれている理由なんじゃないかなと思いますね。

花總:生まれながらにしてオーストリアの女帝マリア・テレジアの娘で、14歳にして政治的理由でフランスに嫁いできた、そんな運命、宿命の持ち主で、その時代、周りの環境の中で、大人になっていったわけですよね。この環境がマリー・アントワネットという人を作っていったと私は思っているので、こうして生まれ落ちた一人の女性の人生に焦点を当てて演じていきたいと思います。

笹本:私は、周りの噂とかでマリー・アントワネット像が作られていった部分もあると思うんですね。今だったら、インターネットで、「マリー・アントワネットがこんな失言をしました」と拡散されてしまう感じというか。高貴な生まれで、退屈な宮殿の中、何をしたら楽しいか、退屈しないか模索して生きていたんだろうなと。例えば、億単位でかけ事をするとか。そんな中で、よくない噂がどんどん広まっていったというか。マリー・アントワネットを演じると決まってからベルサイユ宮殿に行ったんですね。行くのは二度目だったんですが、改めて宮殿を見たときに、暇だったんだろうなって。パリからも離れていますし、それはちょっと悪さもしたくなるだろうなと(笑)。プチ・トリアノンとか、すごくお金をかけられた場所ですけれども、それが唯一の心安らぐ場所だったんだとしたら、ちょっとかわいそうですよね。

花總:本当に大変だったんだろうなと思うのは、貴族間の陰謀なんかがあるところに14歳で嫁いでいってしまったというところですよね。そしてあるときは万歳! とやってもらえて、次の瞬間にはすごくけなされて、みたいな。すごく人間不信にもなっただろうし、本当に大変な地位で、大変な時代に生きていたんだろうなと思いますね。

ーービジュアル撮影で豪華なドレスを身につけられて、いかがでしたか。

花總:重い、と(笑)。

笹本:花總さんでもやっぱりそうなんですね!

花總:本当に重くて(笑)、本当に昔こうだったのかなって思うくらい。もちろん、綺麗なドレスを着させていただくのでうれしい思いもありますけれども、重いし、動きづらいし、一人で座るのも大変だし(笑)、不自由さを感じましたね。横張りのドレスなので、少し動くにも、カニカニカニカニ…とカニ歩きをしていかなくてはいけないというか。舞台に行ってからもきっといつも横移動だと思います(笑)。

笹本:撮影時間が一時間くらいあったんですが、私は5分でもう腰が痛くなってしまって。当時の方はコルセットで締めていてもっと大変だっただろうなと思うんですけれども、自分も腰のあたりの筋肉を鍛えないと、ドレスの重さに持っていかれてしまうなと思いましたね。それで今、筋トレしています。

ーー花總さんからぜひコツを。

花總:コツ~。まずは踏んで転ばないようにするというか。宝塚時代にたくさん練習したり、上級生の方に教えていただいたりしましたけれども、やっぱり気をつけなくてはいけないポイントがいっぱいあるかもしれないですね。今回は横張りなのでまたちょっと違うんですけれども、歩くときに踏まないようにしようとして持ち上げすぎると足元が見えすぎてしまったりとか、お辞儀をしてしゃがんで立ち上がろうとすると今度は吸盤みたいに床に吸い付いてしまってすごく重くなってしまうから、空気穴をすかさず入れたりとか。

笹本:そんなことがあるんだ~。

花總:人と近づくときも、片方の裾だけ上がってしまわないようにしなくてはいけないから、男性の方と絡むときはなかなか不自由で、気持ち悪い距離感でお芝居をしなくてはいけなかったり。あと、人に踏まれたり、自分でも踏んだりと、気をつけていてもあるので、いつまで経っても大変ですね。自分だけではなく、周りの方も大変そうで。

ーー楽曲の魅力についてはいかがですか。

笹本:韓国版を観たときに、本当に曲がいいなと改めて思いました。それぞれの持ち歌もそうですし、セリフを言っているときに後ろで流れている曲もとてもドラマティックで、よりそのシーンが劇的になっていて。本当によく考えられて作られた曲なんだなと思いましたね。歌っていたときも、特にマルグリットの歌は自分の音域に合っていてものすごく気持ちよかったので、今回、名曲「百万のキャンドル」が歌えないんだなと思うとさみしいですね。

花總:クンツェさんとリーヴァイさんのコンビがいつもすばらしいんですよね。クンツェさんはその人物のことをものすごく調べて準備されますし。

笹本:やみつきになる曲が多いですよね。『マリー・アントワネット』の場合、聴けば聞くほどいい曲だなと沁みてくる曲が多いなと思います。リーヴァイさんがさまざまな作品を生み出してきた中で、行き着くところに行き着いた感があるというか。

笹本玲奈

笹本玲奈

花總:耳に残る曲が多くて、壮大な世界観がありますよね。天才だなと……。とはいえ普段のリーヴァイさんはとてもお茶目でおもしろい方で、そこのギャップがまたすてきだなと思いますね。『エリザベート』は初めて出演したクンツェ&リーヴァイ作品で、何度か出演しましたが、自分が歌わない歌、オープニングナンバーからもう頭の中をぐるぐる回るような、衝撃的な作品との出会いで。『レディ・ベス』となると、ベスの運命もいろいろ波乱万丈で、一曲一曲が彼女の悲痛な叫びであったり、思いの強さが凝縮されてガンガン突き刺さってくるようなところがあって。作品全体で突き刺さってくるものと、一曲一曲が突き刺さってくるものと、突き刺さり方が違っている、その両方を書くことができる方たちなんだなと思います。

ーー実在の人物と架空の人物とを演じる上での違いは?

花總:実在の人物を演じるのは、こわいですね。だって本当にいらっしゃった方だから。いろいろな資料も読むんですけれども、最終的には自分が想像するしかないので。架空の人物の場合は演出家の方と相談したりしながら自由に作っていけますけれども、そこがまったく違いますね。『エリザベート』のときは、毎日肖像画に、「どうか降りてきて私に乗り移ってください!」と祈ってました。それくらい責任重大というか、こわさがあるというか。

笹本:実在の人物は、こわいですね。私も、『ルドルフ〜ザ・ラスト・キス〜』でマリー・ヴェッツェラを演じたときは、お墓に「すみません、ごめんなさい」って手を合わせました。今回パリに行ってよかったなと思ったのは、マリー・アントワネットが処刑される前に閉じ込められていたコンシェルジュリー監獄に行ったんです。彼女がいた部屋は今は綺麗に内装されているんですけれども、地下に入ったとき、気圧が違うみたいで耳がおかしくなったんですね。そして、すごく湿っていて、かびくさくて。実際に住んでいた場所や使っていた場所がまだたくさん残っていて、実際に匂いや湿度を肌で感じられたのはすごく大きかったですね。

ーーお互いのマリー・アントワネットに期待することは?

笹本:私は、花總さんがこれまで演じられたマリー・アントワネットはすべて観ていて。

花總:観てるの?!

笹本:『ベルサイユのばら』も『1789 -バスティーユの恋人たち-』も観ていて、作品によって違うというか、作品に合ったマリー・アントワネットを演じられていて。『ベルサイユのばら』は、さきほどおっしゃっていたように、宝塚ならではの演じ方というか、外れてはいけない型で演じていらして、存在そのものが王妃のようで、感動して。『1789 -バスティーユの恋人たち-』では、ソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』のようにチャーミングでかわいらしいところも表現されていて、引き出しがたくさんある方なんだなと。だからこうしてご一緒させていただくのが本当に恐縮というか……。今回もきっとこの作品に合ったマリー・アントワネットを演じられるんだろうな……って、ファンみたいな意見ですけど(笑)。

花總:チラシの写真を見ても思うんですけど、とても可憐で愛らしい感じで、しかも最近お子さんもお生まれになったじゃないですか。だからそこに母性が加わるんじゃないかなと。彼女が演じると、可憐でかわいらしくて、母性があってというマリー・アントワネット像になるんじゃないかなと思いますね。それに歌声も美しかったりパワフルだったりするし、すべてこのマリー・アントワネットにマッチしてくるんだろうなと。きっと自分とは全然違ったマリー・アントワネットになるんだろうなって、想像をふくらませています。

花總まり

花總まり

笹本:ありがとうございます。

ーーマリー・アントワネットに対峙するマルグリット・アルノー役も、ソニンさんと昆夏美さんのダブルキャストです。

花總:二人ともまた全然タイプが違うので、違ったマルグリットになるだろうなと思うと、ドキドキしますしすごく楽しみですね。

笹本:二人とは同じ役を演じたことしかなかったので、向かい合ってお芝居するのがすごく楽しみですね。ソニンは『1789 -バスティーユの恋人たち-』でもマルグリットに似たキャラクターを演じていて、パンを求めて行進するシーンがどちらでもあるんですよね。きっと芯の強さといった彼女の持ち味が出るんじゃないかなと思います。こないだ『シークレット・ガーデン』を観て、初めて昆ちゃんが大人の女性を演じている姿を観て、こんな演技もできるんだと驚いたところだったので、またこの役で殻を破ったところを見せてくれるんじゃないかなと思っています。

(左から)花總まり、笹本玲奈

(左から)花總まり、笹本玲奈

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=岩間辰徳

公演情報

新演出版 ミュージカル『マリー・アントワネット』
 
<福岡公演>
■日程:2018年9月14日(金)~30日(日)
■会場:博多座
 
<東京公演>
■日程:2018年10月8日(月)~11月25日(日)
■会場:帝国劇場
※イープラス貸切公演も発売中
2018/10/21(日)13:00、2018/10/27(土)12:00、2018/11/18(日)13:00
 
<愛知公演>
■日程:2018年12月10日(月)~12月21日(金)
■会場:御園座
 
<大阪公演>
■日程:2019年1月1日(火祝)~1月15日(火)
■会場:梅田芸術劇場 メインホール
 
■脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
■音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
■演出:ロバート・ヨハンソン(遠藤周作原作「王妃マリー・アントワネット」より)
■キャスト
マリー・アントワネット:花總まり、笹本玲奈
マルグリット・アルノー:ソニン、昆夏美
フェルセン伯爵:田代万里生(福岡、東京のみ出演)、古川雄大
ルイ16世:佐藤隆紀、原田優一
レオナール:駒田一
ローズ・ベルタン:彩吹真央
ジャック・エベール:坂元健児
ランバル公爵夫人:彩乃かなみ
オルレアン公:吉原光夫

ロアン大司教:中山昇
ギヨタン博士:松澤重雄
ロベスピエール:青山航士
ラ・モット夫人:真記子
荒田至法、石川剛、榎本成志、小原和彦、川口大地、杉山有大、谷口浩久、中西勝之、山本大貴、横沢健司、天野朋子、石原絵理、今込楓、岩﨑亜希子、首藤萌美、堤梨菜、遠山さやか、原宏実、舩山智香子、山中美奈、吉田萌美

■公式サイト:http://www.tohostage.com/ma/
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