『MOROHA BEST~十年再録~』単独ツアー初日公演 “波紋を呼んだ横浜のライブ あの日僕らは何を見たのか"
『MOROHA BEST~十年再録~』単独ツアー 2018.7.15(sun)F.A.D YOKOHAMA
今、ライブを終えたばかりのMOROHAの楽屋にいる。アフロは1人ぼーっと天井を見つめ、UKはどことなくピリっとした空気をまとっていた。そんな2人にカメラを向けて、黙々と撮影をする映像作家のエリザベス宮地。僕はろくに話しかけることが出来ず、ただただ楽屋の隅で立ち尽くしていた……。何て言えば良いんだろう、投げかける言葉が見つからず、じっとしてるしかなかった。
帰り際、アフロが僕に「思ったことを書いてくれればいいから。俺らにトゲを刺すような文章になっても全然いいからさ」そう言って、車に乗り込んでいった……。これは2018年7月15日、横浜で起きた夜の出来事。あの日、一体なにがあったのだろう。
MOROHAがメジャーデビューをして一発目であり、結成10年目という節目を迎えた記念の単独ツアー『MOROHA BEST~十年再録~』の初日公演がF.A.D YOKOHAMAで開催された。この日は横浜で花火大会があったため、会場の近くには浴衣のカップルが多く、街全体が賑わっていた。そして、F.A.Dに到着すると、すでに満員の観客が詰めかけている。
開演時間になり、大きな歓声と拍手に迎えられてアフロとUKが登場。僕の前にいた男性2人は「うわぁ、本物だ」と声を漏らしていた。MOROHAは今年6月のメジャーデビュー以降、TVやラジオの出演が増えて、ドラマ『宮本から君へ』のエンディングに「革命」が起用されたことで、新しいファンを獲得している。そんな客層の変化を、この日の状況を見て改めて思い知った。
1曲目にUKが「革命」のイントロを弾き始めた途端、再びワッと歓声が起こった。そんなウェルカムムードをよそに、アフロは闘争心に燃える歌を届けた。〈逆境は最高のご馳走だ〉という歌詞と会場の雰囲気にギャップを感じてしまった。アフロが〈幕開けの夜〉と歌うたびに観客から「フォー!」とか「ヒュー!」と煽るような声が上がっていた。
その後、2曲目の「一文銭」では〈趣味も性格も違う それでいい ぶちかますって思ってるかどうか〉〈おんなじ目をした一本のギター 天下をとるならお前とだ〉と彼らがMOROHAを結成して、どのような思いで音楽を続けてきたのかを伝え、3曲目の「二文銭」では〈何かを成す為にやって来たんだ 誰でもない自分の話を口走れ〉と、ライブに賭ける思いを届けた。冒頭から『MOROHA BEST~十年再録~』に収録されている楽曲の順に披露。まさに、ここからMOROHAのツアーが始まるのだ、というセットリストだった。
MCに入りアフロが話す。「日本一、拍手のタイミングが難しいと言われております。……でも、拍手の有り無しは心からどっちでも良いんです。それぐらい皆さんを信用してます。向き合っていれば向き合っているほど、身動きせずに聴きたい人もいるだろうし。だから、それぞれが力一杯向き合える姿勢で最後まで付き合ってください」そう言って、「ハダ色の日々」へ。
緊迫感のある雰囲気から一変、会場を温かい空気へと変えた。そして、再びMCに入るとUKが酔っ払っている観客に向かって「めっちゃ呑んでるよね」と注意を促した。この日は、三連休の中日だからか、酒に酔って異様にテンションの高い者、曲中に私語を大きな声で話す者、MOROHAの2人が喋るたびに奇声をあげる者が終始目についた……。
そんな不穏なムードの中、徐々にアフロとUKから殺気のようなピリピリとした雰囲気が漂う。そして「勝ち負けじゃないと思えるところまで俺は勝ちにこだわるよ」の1番を歌い終えると、アフロが睨みつけながら言った。「「メジャーデビューおめでとうございます」、「良かったですね、遂にMOROHA売れましたね」……なんて言ってきたインタビュアー。お前さぁ、Mr.Childrenって知ってるか。AKB48って知ってんのか」すると会場から笑いが起きた。アフロは至って真面目に憤りを話しているのに、辛辣な言葉はなぜか観客の心を通り過ぎていく。そんな反応に苛立ち、さらに表情を強張らせて話す。「今、笑った奴……お前に捧げるよ……」。
〈勝ち負けじゃないと思えるところまで俺は勝ちにこだわるよ 勝てなきゃ皆やめてくじゃないか〉この歌詞こそが彼らの戦う意味であり、だからこそ音楽シーンで売れなければいけない宿命を物語っている。
必死で稼いだバイト代を握りしめてMOROHAのCDを手にする人、Twitterで「こういう音楽が売れなきゃ、日本の音楽は終わってる」と評論家のように音楽を語る人、2人の歌を生きがいにしている人、MOROHAのライブをお酒片手に陽気な気分で観ている人、いろんな人に対して届けなければいけないのがメジャーの世界。彼らは、今、その岐路に立っているのだ。
だからこそ、その後に歌った「tomorrow」は彼らではなく、聴いている僕ら自身の人生を問われているようだった。曲の合間でアフロは歌詞にない言葉を挟んだ。「W杯観ました? どんな顔で観てました? 観たあとテレビ消しました? 真っ暗になった画面にどんな顔が映ってました? ……ねぇ?」そして歌を続けた。〈俺と同じ年のメジャーリーガー 海の向こうで初勝利あげた まるで自分のことのように街もビルも大騒ぎしている〉この日、会場から聴こえた「フュー!」とか「イエー!」という歓声に何の意味があったのだろう、曲が終わるたびに叩く拍手には何の意味があるのだろう。目の前で命を賭けてステージに立つ2人に、その歓声、その拍手は本当に届いているのだろうか、そんなことを考えた。〈どのツラ下げて どこへ向かうの 結果的には嘘つきじゃねえの〉お前は今日、何を観に来たんだ。人のライブを観て喜んでるけど、じゃあお前の生き様はどこにあるんだ。さっきからヘラヘラしてるけど、いつまで傍観者でいるつもりだよ。そんなことを問いただされている気がした。
後半になりアフロが「ストロンガー」の歌詞になぞらえて静かに話す。「……バカにされるのは、惨めな思いをするのはいつだって自分が弱いから悪いんだ。そう思って奮い立って、たった10年。されど10年やってまいりました。その考え方は間違ってなかったな、とそんな風に思っております」そして、「……必要とされたい。もっと、お前らがいてほしいって、そう思われたい。足りない、まだ足りない、まだ足りない、足りない、観せたい、観せたい……誰に? 俺に観せたい。俺自身に観せてやりたい。だとすれば、言いたいことはただ1つ……俺のがヤバイ」。2人は全身全霊、フロアに牙を向けた。まるで、テレビやラジオで俺らをわかった気でいるんじゃねえよ、と言ってるような凄まじい気迫だった。
続いて歌ったのは「四文銭」。UKがギターを弾き始めた途端、再び煽るような歓声があがり、その歓声の中から「アフロ、もっと来いよ!」と叫ぶ声があった。それは「こんなヘラヘラした奴ら、簡単に黙らせるくらいのライブを見せてくれよ」という意味なのか、「大したことねえな」という意味なのか真意はわからない。ただ、アフロは曲の最後、UKがギターをかき鳴らす中で答えた。「おい、もっと来いよって言った奴。俺はどこまでも行くけど、俺が向かった先にお前はいるのかよ。お前はいるのか? 俺が向かった先に、その先にお前はいるのか? ……いてくれよ。いてくれよ! いてくれよ! 生きててくれ! いてくれ! 生きててくれ! ……どうか、命をかけて命を描け」その願いともとれる叫びに、誰もが固唾を飲んだ。
正直、この日のライブはMOROHAにとってやりやすい環境ではなかったと思う。一部の観客とのテンションに差があった。それでも、何度だって心を振り向かせようとファイティングポーズを見せ続けた。その佇まいを僕はカッコイイと思った。生きている音楽だって。
……じゃあ自分はどうなんだ。それでも届けたい、守りたいと思えるものはあるのだろうか。あなただってそうだ。2人のように自分の命を張れるステージはあるのだろうか。1時間30分、計15曲を歌い終えて、MOROHAのツアー初日公演は幕を閉じた。
ライブの後、楽屋を訪ねると重たい空気が漂っていた。2人とも、どこかやりきれない表情を浮かべている。ステージングは本当にカッコ良かったし、セットリストも心震わせる好戦的な曲から、バラードまで余すことなく披露した。それなのに、どうして観客を飲み込むことができなかったのか。そんな苛立ちが部屋の中を包んでいる。そうして、横浜の夜は過ぎていった。
イチMOROHA好きの人間から言わせてもらうと、どうせMOROHAのライブを観るんだったら、感動するべきだと思う。今まで傷つけてきた人の痛みを思い知って、何も成し遂げられてない人生を悔やんで、そんな自分と向き合った先に希望を見つけるべきだ。そこにMOROHAの歌がある。まだまだアフロとUKの旅は続く。あなたの旅路は、僕の旅路はどこなんだろう。
取材・文=真貝聡 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-