作品集『フェルメール』が出版 7カ国17の世界的美術館に現存するフェルメール全作品を取材

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2018.7.27
フェルメールの筆遣い、 息遣い。 (「真珠の耳飾りの少女」マウリッツハイス美術館、 オランダ)

フェルメールの筆遣い、 息遣い。 (「真珠の耳飾りの少女」マウリッツハイス美術館、 オランダ)

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『かなわない』『降伏の記録』などで知られる写真家・文筆家の植本一子が、現存するフェルメール全点を取材。世界初の画期的なフェルメール全集が、2018年秋に日本で開催される過去最大の『フェルメール展』にあわせて出版される。

光の魔術師とも称される17世紀オランダ絵画の巨匠フェルメール。静謐さをたたえた謎めいた絵画は、現存数35点ともいわれ、その希少性でも世界的な人気を集めている。アムステルダム、ウィーン、ベルリン、パリ、ロンドン、ダブリン、ニューヨーク、ワシントン……。7カ国17の美術館を飛行機と鉄道でめぐる旅は約3週間に及んだ。

フェルメールの筆遣い、 息遣い。 (「手紙を書く婦人と召使い」アイルランド・ナショナル・ギャラリー)

フェルメールの筆遣い、 息遣い。 (「手紙を書く婦人と召使い」アイルランド・ナショナル・ギャラリー)

植本は、初めて出会うフェルメールの絵画1点ずつと向き合い、構図やモチーフ、絵の具や筆使い、画家の思いとその息遣いに想いをはせながら、レンズを通じて、ときにはペンを持ちながら、フィルムとノートにフェルメールを記録し続けた。絵が描かれてから400年近くを経たいま、国境や海を超えてフェルメールを所蔵する美術館とその街、作品を展示する部屋。そして作品の鑑賞者とその眼差しも、植本は記録する。写真家の目とパーソナルな言葉を通じて、世界を旅し、フェルメールの絵を見ているような体験ができる、新しい美術書となっている。

(紀行文より抜粋)

絵を見るまなざし。 (「牛乳を注ぐ女」アムステルダム国立美術館、 オランダ)

絵を見るまなざし。 (「牛乳を注ぐ女」アムステルダム国立美術館、 オランダ)

私は一体、何を見ていたのだろう。初日で緊張していたのかもしれないが、真珠の耳飾りがこんなに大きな涙型をしていて、しかもグレーがかった光を放つ真珠だったとは。思えば、耳たぶに付いた白い丸いものを想像し、勝手にイメージを作り上げていたらしい。まさかこれで気づくとは思ってもみなかった。でも確実に目には入っていて、自分の撮った写真にも写っているはずだ。あの日、あの場所で「真珠の耳飾りの少女」を見た時、少女から目が離せなくなったのを思い出した。あの強い眼差しに、私は今でも圧倒され続けている。
———2018.3.23曇り オーストリア ウィーンからドレスデンへの車中にて

絵を見るまなざし。 (「取り持ち女」(ドレスデン国立美術館、 ドイツ)

絵を見るまなざし。 (「取り持ち女」(ドレスデン国立美術館、 ドイツ)

ちっちゃなデジカメをこれでもかと近づけて撮っている日本人のおばさんが「どこにフェルメールって書いてあるの?」と旦那さんに聞いている。フェルメールはVermeerの英語表記が読めなかったのだろう。ここに書いてあるでしょ、と絵の下のキャプションを指差す。「フルートを持つ女」の下に「A TRIBUTED TO~」とあるのを見て、これは確証がないって意味だよ、と説明している。こんなにちっちゃかったんだねえ、と二人で感想を言い合っているが、確かに私もここまで小さいとは思っていなかった。きっと家族旅行で、フェルメールを楽しみにしていたのだろう。いつまでも部屋にとどまり、時間をかけてじっくりと見ている。「手紙を書く女」の前で旦那さんが立ち止まり、まじまじと眺めながら「普通はこんなに近くで見せてくんないよ、素晴らしい」とつぶやいた。気づけばここには制止線がなかった。
———2018.5.14 アメリカ・ワシントンD.C.  ワシントン・ナショナル・ギャラリー

フェルメールのある場所、 その空気、 名画を巡る旅。 (アムステルダム市街)

フェルメールのある場所、 その空気、 名画を巡る旅。 (アムステルダム市街)

20時を過ぎると、トンネルの中を走っているかのように外は真っ暗になった。それでも暗闇を凝視していると、たまに一点の光が見える。目をこらすと、窓から漏れる家の明かりだった。小さな町の、名もなき人の生活の光。光があるということは、そこには人が生きているということなのだ。
———2018.3.22 曇りのち雪 ドイツ フランクフルトからウイーンに向かう車中にて

フェルメールのある場所、 その空気、 名画を巡る旅。 (ケンウッド・ハウス、 イギリス)

フェルメールのある場所、 その空気、 名画を巡る旅。 (ケンウッド・ハウス、 イギリス)

書籍情報

フェルメール
発行予定:2018年9月25日
価格:2,000円(予価・税別)
判型:B6判変形、仮フランス装、288ページ(予定)
発行:ナナロク社+ブルーシープ
発売:ナナロク社(ISBN)
アートディレクション:TAKAIYAMA inc.
制作:村井光男(ナナロク社)+草刈大介(ブルーシープ)
http://bluesheep.jp

筆者プロフィール

植本一子(うえもと・いちこ)
1984年広島県生まれ。 2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞。広告、雑誌、CDジャケット、PV等で活動を続ける。2013年に立ち上げた写真館「天然スタジオ」で、一般家庭の記念撮影を行う。「現代短歌」表紙写真を2018年から担当。著書に『働けECD~わたしの育児混沌記~』(ミュージック・マガジン)、『かなわない』(タバブックス)、『家族最後の日』(太田出版)、『降伏の記録』(河出書房新社)。『文藝』(河出書房新社)にて「24時間365日」を連載。 
http://ichikouemoto.com/

イベント情報

出版記念『フェルメール 植本一子』展
2018年9月21日(金)~10月7日(日)
Books and Modern + Blue Sheep Gallery
書籍出版を記念して『フェルメール』のために撮影された写真100点あまりと紀行文の一部を発表。 一般書店での発売に先駆けた先行発売も行います。 
http://booksandmodern.com/  107-0052 港区赤坂9−5−26 パレ乃木坂201 TEL.03-6804-1046
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