快活に自由に届けられた弦楽四重奏の調べ「アレグロカルテット」

レポート
クラシック
2018.8.23
(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)、内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)、内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

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「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.6.24ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。6月24日に登場したのは、このサンデー・ブランチ・クラシックの為に結成された弦楽四重奏団「アレグロカルテット」の面々だ。

ソリストとして活躍しているヴァイオリン奏者の鈴木舞と伊藤亜美、ヴィオラ奏者の安達真理、チェロ奏者の内田麒麟が、「カルテットをやりたい!」という鈴木の呼びかけのもと結集。実に「ものの1時間で」話がまとまり「アレグロカルテット」としての初披露を、リビングルームカフェ&ダイニングのステージで果たしてくれるという、魅力的な企画に、カフェの熱気も大いに高まった。

スタンドアップの演奏に独特のスタイルを感じさせるカルテット

そんな空気の中に登場した「アレグロカルテット」は、女性陣が全員鮮やかな真紅のドレス姿。まるでカフェに一気に花が咲いたように艶やかな上に、女性たちが立ったままというのが、カルテットとしては珍しい興趣を生む。チューニングの音から期待感がいっぱいになっての1曲目は、モーツァルトの「ディベルティメント K.136」モーツァルトの弦楽四重奏曲の中で最も有名な楽曲だ。
第1楽章は、モーツァルト独特の弾むような明るさ、楽しさがそれぞれの楽器の掛け合いから立ち上り、まるで浮き立つような心持ちになる。「アレグロカルテット」が登場した時からカフェに放たれた華やかさが、一層高まり輝かしい雰囲気に包まれた。
第2楽章に入ると、落ち着いたメロディーにもカルテットならではの厚みがあり、静けさと同時に豊かな響きが楽しめる。鈴木の第1ヴァイオリンの高音が澄み切って美しく奏でられ、そのメロディーを伊藤の第2ヴァイオリン、安達のヴィオラ、内田のチェロのハーモニーが温かく引き立てて呼応するのが素晴らしい。
第3楽章は軽快で快活な、モーツァルトの音楽に常にあるどこかでは音で遊んでいるような感覚が際立つ。弾むリズムの楽しさ、聴く者の心を浮き立たせるスタッカートがピッタリと合い、豊かに歌うメロディーとの対比がキラキラと感じられる演奏に大きな拍手が湧き起こった。

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)、内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)、内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

 (左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)

(左から)鈴木舞(Vn)、伊藤亜美(Vn)

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)

その拍手の中まず鈴木が挨拶。今日はじめて4人で演奏する「アレグロカルテット」ですが、普通と違うところはヴァイオリンとヴィオラが立って演奏するというスタイルです。ヴァイオリニストは普段から立って演奏しているので、座って弾くよりも自由に演奏することができます。という説明があり、なるほどと納得するものが大きい。
続いて安達が冒頭に演奏したモーツァルトの「ディベルティメント」について、この時代は貴族が音楽家に作曲を依頼して演奏させていた。例えば食事の時に楽団に演奏させたりというところから生まれた曲がほとんどなので、お食事をされながらお客様がクラシックを聴くという、サンデー・ブランチ・クラシックの趣旨にピッタリだと思い選んだものですと解説。「このあとも是非気軽に聴いてください」と呼びかけつつ「真っ赤なドレスで熱い感じですが」と笑わせる一幕も。

(左から)鈴木舞、伊藤亜美

(左から)鈴木舞、伊藤亜美

(左から)鈴木舞、伊藤亜美、内田麒麟、安達真理

(左から)鈴木舞、伊藤亜美、内田麒麟、安達真理

続いて演奏されるドヴォルザークの「アメリカ」について、ドヴォルザークという作曲家は今でいう「鉄道マニア」で、当時ちょうどSLが登場したばかりの時代でそれを見るのがすごく楽しみだったという人なので、リズムの刻みに汽車の音がイメージされている部分がたくさん出てくるのでそれを感じてもらえたら、という話があり、いよいよドヴォルザーク 弦楽四重奏曲「アメリカ」第1楽章の演奏がはじまる。

自由でいながらピタリと呼吸のあった演奏の妙味

ヴィオラの深い音から奏でられた主題が、ヴァイオリンの輝く高音へと受け渡され、心に響くどこか郷愁を感じさせるメロディーは、徐々に厚みを増していく。それは確かに汽車の旅の途中で様々に出会う光景を想起させ、人の声に極めて近い弦楽器が共に歌いあうことで、言葉のない歌を聴いているかのよう。強弱の変化、巧みな表現力が感じられる豊かな演奏になった。

鈴木舞

鈴木舞

伊藤亜美

伊藤亜美

安達真理

安達真理


内田麒麟

内田麒麟

そこから続いて、ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」へ。誰もがどこかでは耳にしたことがあるだろうお馴染みのメロディーは、テンポの揺れ動きと変化に独特のものがあるが、4人全員がアイコンタクトでピッタリと息を合わせるのがライブ感にあふれ、聴いていても気持ちが高揚してくる。冒頭のメロディーが再びあらわれる後半には演奏の自由度は更に増して、それぞれの掛け合いがまるでセッションのよう。クライマックスへと駆け上り、最大の盛り上がりを見せたフィニッシュに、大歓声と「アンコール!」の声が響いた。

(左から)安達真理(Vla)、鈴木舞(Vn)、内田麒麟(Vc)、伊藤亜美(Vn)

(左から)安達真理(Vla)、鈴木舞(Vn)、内田麒麟(Vc)、伊藤亜美(Vn)

喝采に応えて登場した4人は、「リベルタンゴ」を代表曲とするアルゼンチンの作曲家アストル・ピアソラの「ギター二重奏のためのタンゴ組曲」を内田が弦楽四重奏曲にアレンジし、今回が初演となるものをアンコールとしてお届けしますという心躍る発表が。3曲の組曲のうち、2曲目と3曲目が披露される。
1曲目は哀愁のメロディーがたっぷりと奏でられ、ヴァイオリンの高音、ヴィオラの深み、チェロの厚み、いずれもが美しい。全員でのピチカート奏法が入るのが非常に効果的で耳を奪われた。
続いた3曲目はピアソラらしい激しいリズムの刻みが連なり、全員の息があった心地よい緊張感が広がる。それぞれの奏者の技術の高さ、表現力と感性の豊かさがふんだんにあふれ、どこかではミステリアスな香りも放ちながら高みへと盛り上がった鮮やかなフィナーレに「ブラボー!」の声が飛び交った。

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)、伊藤亜美(Vn)、鈴木舞(Vn)

(左から)内田麒麟(Vc)、安達真理(Vla)、伊藤亜美(Vn)、鈴木舞(Vn)

自由度の高い弦楽四重奏という新たな喜びを存分に届けてくれた40分間だった。

音楽をやっていて良かったと思えた、4人の生んだ化学反応

演奏を終えた4人にお話しを伺った。

ーー素晴らしい演奏をありがとうございました。今日のリビングルームカフェ&ダイニングの印象はいかがでしたか?

安達:私はお客さんの立場で来たことがあったので、ここの雰囲気は知っていたのですが、弾く側になってみるとライトも結構本格的ですし、ライブ感もあって面白かったです。

内田:お客様が入ってもう少し響き的に弾きにくくなるのかな? と思いきや全くそんなこともなく、とても弾きやすかったですね。わりと僕はこんな風にお客様が近いところで弾くことが多いので、やっぱりお客様が近くてお顔が見えるのは良いなぁと思いました。

内田麒麟

内田麒麟

鈴木:ここでは何回か演奏させていただいたのですが、これまではピアノとの共演だったのでピアノが後ろに下がっている状態で弾くのは初めてで。いつもピアノとのバランスを気にしながら弾いていましたが、今回弦楽器ばかりなのでいつも以上に伸び伸びと演奏できたような気がします。お客様もアンコールが終わった時には満面の笑みで拍手してくださったのが印象的でした。

伊藤:最初突然モーツァルトを弾いたので、お客様が「あ、クラシックが始まった!」と少し身構えてしまわれた部分もあったのかな? と思ったのですが、その雰囲気を1曲1曲崩していけた気がします。ステージも結構広いので、今日は立って演奏したのですが、かなり自由に動きながら演奏できたのが私たちも楽しかったです。演奏以上に演じている感じで楽しかったです。

鈴木:飛び跳ねたよね(笑)

内田:シンコペーションの途中でね(笑)

伊藤:私も色々な編成で演奏させていただくのですが、セカンドヴァイオリンという立場で弾くことが1番少ないので。

安達:ヴィオラも弾くものね。

伊藤:そうヴィオラで入ることも多くて、セカンドヴァイオリンって1番「時々美味しい」というパートなので(笑)、自分の役目が出てきた時にちょっと気合が入り過ぎちゃって飛び跳ねちゃった。

安達:そういう事情が(笑)。

伊藤:そう(笑)。でもそんな雰囲気も許してくれるような自由度で幸せでした。

ーー今お話しにもありましたように、皆さん立って演奏されたのがとても印象的でしたが。

安達:ヴァイオリンの2人は普段ソリストでやっているので、やはり立って演奏する時の体重の乗せ方や、音の出し方、またオーケストラとの共演での指揮者に対する指示の出し方、今回のような室内楽でしたら私たち共演者へのアプローチの仕方が立っていた方がずっと自然なんですね。それが伝わってきて立っている方がずっと躍動感が出るので、チェロの人さえ気まずくなければ(笑)、この形が良いんですよね。

安達真理

安達真理

内田:いや僕も本当は立って弾きたいんだけど(笑)。

伊藤:リハーサルでは1回立ったよね?

安達:そう立って弾いてたね。チェロも台に乗っちゃって皆で立つというカルテットもあるんだけど、今日はそこまではね。

伊藤:1番最初は皆で椅子を並べて座って弾いてみたんだけど。

安達:2曲目から皆だんだん立ちはじめて、(鈴木)舞ちゃんも「立っても良い?」って言ってね。

ーーそれに対して内田さんは「どうぞ、どうぞ」と?

内田:もちろん皆さんの自由にしていただきたかったので。

安達:その辺が非常にフレキシブルなチェリストなので。

ーーものの1時間で結成されたカルテットです、ということでしたが皆さんがアイディアを出しながら?

安達:本当にアイディアを出していったら1時間で決まったという(笑)。元々舞ちゃんが連絡をくれて。

鈴木:カルテットをやりたいと考えた時に、真っ先に浮かんだのが(伊藤)亜美ちゃんと(安達)真理ちゃんで、じゃあチェロはどうしよう、紹介して! と頼んだんです。

伊藤:それで「どんな曲がやりたいの?」と訊いたら、タンゴもあったら良いねという話が出てきたので、そういう熱い曲もやりたいということだったらと、学生時代から色々とやってきたウッチー(内田)がいいんじゃないかな? と。舞ちゃんが品格系のタイプだから、ウッチーのアグレッシブな感じが面白いと思って。

安達:美女と野獣的な?(笑)。

内田:いや、でも安達さんもわりと暴れん坊系じゃない?(笑)

伊藤:舞ちゃん以外は暴れん坊だよ(笑)。でも意外と(内田)麒麟が1番優しいんじゃない?

鈴木:そう、麒麟は1番優しい!

鈴木舞

鈴木舞

内田:いや「おいおいおい、皆落ち着け!」と言ってただけ(笑)。

安達:すごく良い化学反応が起きたよね。たまたま今回ウッチーの自宅に連絡した時に「タンゴもやりたいみたいで」と言ったら、アンコールにやったピアソラを編曲したところの、できたてほやほやで。

内田:そうそう。

安達:もうこれはやるしかないよ! となって、トントン拍子とはこのことでした。

ーーそんな風に良い流れに乗ってできた「アレグロカルテット」として今日演奏してみた手応えはいかがでしたか?

安達:皆誰がどう出ようと大丈夫という信頼感と自由度の高いメンバーで、それぞれが好きなことをやってもパッと反応できるので、率直に楽しかったですね。このメンバーで弾くのは初めてだったのですが、最初から不安は全くなかったですし、思ったように本番ができました。

鈴木:真理ちゃんが言った通り信頼できるメンバーなので、音楽をする楽しみと言いますか……。

安達:言葉の端々にロイヤル感が!

内田:良いじゃない、ロイヤル!(笑)

鈴木:室内楽をやる時ってファーストヴァイオリンがリードして皆がそれに合わせるというパターンになることが多いのですが、このメンバーだとどんどん皆からインスピレーションを与えてもらえて、それが積み重なって音楽が豊かになるという感覚がリハーサル、本番を通してずっとありました。

ーー聴かせていただいていても、セッションのようだなという感覚は大きかったです。

安達:途中からロックな感じだったよね(笑)。「ハンガリー舞曲」なんかは完全にロック!

伊藤:私も皆も、それぞれに弦楽四重奏に対する強い想いがあって、ものすごく確立されたバランスの良い編成なんです。でもそれだけにすごく難しくて、作曲家も創る時には悩みます。ヴァイオリン×ヴァイオリン×ヴィオラ×チェロというのは音楽の黄金期みたいな感じなので。それに取り組むのは本当は時間のかかることなのですが、このメンバーは各々が経験を積んできていて、私もそれぞれとデュオをやったことがありましたし、そういうメンバーがパッと集まった時に、弦楽四重奏でこんなにも自由にできるんだ!というのが想像以上だったんです。自分でもびっくりしたような感覚だったので、これは続けていきたいなと思っています。だいたい連絡したら「曲を書きあげたところ」って「話が出来過ぎだろう?」くらいだったので。

伊藤亜美

伊藤亜美

内田:本当に楽しいの一言でしたよね。あー音楽やっていて良かったなとか、チェロやっていて良かったなとか。

鈴木:すごい! 原点!

内田:生きてて良かったなくらい楽しかったし、舞ちゃんが言ったようにどんどん音楽が重なって、これでお客様が楽しくない訳がないと思えましたし、演奏していてただただ楽しかったですね。

安達:幸せなものが共有できましたね。

ーーでは「アレグロカルテット」としての活動も続けていただけると期待して良いのでしょうか?

伊藤:続けたいよね。

鈴木:是非やりたいです。

安達:ちなみに「アレグロカルテット」は1時間で話が決まったカルテットなので、速度標語の「快活に速く」という意味で「アレグロ」と名付けたので。

伊藤:「プレスト」(極めて速く)だよね(笑)。

安達:「プレスト」が最上級の速さなのですが、語感的に「アレグロ」とね(笑)。でもこのメンバーで、このリビングルームカフェで最初にやれたのは本当に良かったです。

ーーでは個々の活動もたくさんおありでしょうが、是非また「アレグロカルテット」としてもサンデー・ブランチ・クラシックにいらしてください!

安達:是非お願いします!

鈴木:ありがとうございました!

(左から)内田麒麟、伊藤亜美、鈴木舞、安達真理

(左から)内田麒麟、伊藤亜美、鈴木舞、安達真理

取材・文=橘涼香 撮影=岩間辰徳

ライブ情報

サンデー・ブランチ・クラシック
 
8月26日(日)
長 哲也/ファゴット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
9月2日(日)
土岐祐奈/ヴァイオリン
&平山麻美/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
9月9日(日)
石田成香/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html
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