英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18『白鳥の湖』、カンパニーの総力結集の新制作
ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18のラストを飾るのは、古典バレエの王道中の王道、『白鳥の湖』だ。
今作は英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)が31年振りに取り組んだ新制作版で、追加振り付け・演出はリアム・スカーレット、美術・衣装制作にはスカーレットと長くコンビを組んできたジョン・マクファーレンを迎えている。
オデット/オディールはマリアネラ・ヌニェス、ジークフリード王子はワディム・ムンタギロフ。さらにベンノ役にはアレクサンダー・キャンベル、王子の2人の妹に高田茜とフランチェスカ・ヘイワードなど、プリンシパルダンサーも多数出演。前作のアンソニー・ダウエル版、そしてこの名作を生み出したプティパやイワノフ、チャイコフスキーらに敬意を表しながら新たに創り上げられた『白鳥の湖』はストーリーも一新され、とくにクライマックスの4幕はドラマティック。ROHが誇るダンサー達が濃厚な演技力で観る者を引き付ける。
■白鳥はチュチュが復活。豪華なセットと衣装を大スクリーンで
古典バレエの名作『白鳥の湖』はバレエの代名詞ともいえる作品で、バレエ団にとっても非常に重要な位置付けとなるものだ。ROHでは1934年からレパートリーに加えられ、1987年からダウエル版が上演されている。今回の改定はこれに継ぐもので、3年をかけて制作された。
ダウエル版の伝統の踏襲か、幕が開き登場する男性の衣装は19世紀から20世紀初頭の大英帝国時代を思わせる軍服。女王(エリザベス・マクゴリアン)の黒いドレスはヴィクトリア女王を彷彿とさせ、英国の香りが立ち込める。ロットバルトは女王の側近として登場。道化のポジションに王子の友人ベンノが配され、王子の2人の妹とパ・ド・トロワを踊るなど、30年慣れ親しんだ版を引き継ぎながらもストーリーや登場人物に新たな解釈が加えられている。
ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper
2幕と4幕に登場する白鳥の衣装は白いチュチュに。これは幕間のインタビューで登場したオヘア芸術監督が「最もこだわった点」と語ったところ。白鳥の衣装はこれまでの膝丈のものも味わいがあり、ROHらしさを醸していたが、チュチュ姿の白鳥のコールドバレエはやはり古典の伝統が感じられ、幻想的で美しい。
3幕はとにかく華麗で豪華。まさに王子の花嫁選びの晴れの舞台といった雰囲気。きらびやかさとともに、どっしりと重たい時の厚みを感じさせるのがこれまた英国らしい。次々と登場するスペイン、ハンガリー、イタリア、ポーランドの姫君とダンサー達の衣装も必見だ。クラシックなスタイルのなかにも現代的なテイストを盛り込んだデザインは、その匙加減が絶妙。衣装は370着を制作したというが、どれも細やかで品があり、目を奪われる。大スクリーンならではだ。
ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper
■個性豊かなROHスターダンサー達にも注目
ダンサー達にももちろん注目したい。ジークフリート王子を踊るムンタギロフは出てきた瞬間から王子のオーラともども目を奪われ、動きも優雅。さすが世界屈指のダンスールノーブルだと、しみじみため息が出る。友人ベンノのキャンベルは1幕、3幕と、所狭しと弾けるように踊り、王子と対をなす存在感を示す。
ヌニェスのたおやかで可憐なオデットと、妖艶かつどこか抗い切れない愛嬌すら滲むオディールも見応え満点だ。
ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper
そしてロットバルトを演じるガートサイドの不気味な存在感が終始舞台に漂う。女王の側近としては威圧的かつ不遜な態度で場を仕切り、ロットバルトとしては絶対的な力を持つ悪魔として君臨する様が見事。ロットバルトのその特殊メイクにも注目してほしい。
ROHの誇りをかけた総力結集の話題の新作。その誇り溢れる舞台をぜひ、この機会に目にしていただきたい。
ⒸROH, 2018. Photogrpahed by Bill Cooper
文=西原朋未