『平成生まれの女性クリエイター9人展〜平成最後の年に浅草に集う〜』レポート 劇場で楽しむ、一風変わったアート空間
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浅草九劇にて、『平成生まれの女性クリエイター9人展〜平成最後の年に浅草に集う〜』展(2018年8月28日〜9月2日)が開催中だ。国内外で活躍する人気イラストレーター・秋赤音や、「よいこのための悪口メーカー」を名乗り、多数のアーティストとのコラボレーションで注目されるイラストレーターの原田ちあき、SNSで切ない男女の日常を描き、同世代の共感を得ている漫画家・ごめんなど、個性豊かな9人の女性作家による新作が公開されている。
普段は演劇や音楽ライブ、落語を中心に発信している劇場で、こうしたアートの展覧会を開催するのは初の試みとのこと。
展示風景
劇場を運営する株式会社レプロエンタテインメントの小林加奈氏は、展覧会を開催する経緯について以下のように語った。
「もともと演劇に限らず、いろいろなエンターテイメントを発信していきたいと思っていた。そうした中で、展示会もやってみようかという話が上がり、実現に至りました。今回は、平成生まれであることを前提に、SNSで作家自身の発信力が強い方達を中心に声をかけています。作品の照明には演劇用の本格的なものを使っていて、面白い空間に仕上がっています」
漫画家・ごめんの作品は楽屋を使った展示
期間中は、劇場内のステージから客席、楽屋、ホワイエに作品が設置され、美術館やギャラリーで鑑賞するのとは一味違う雰囲気を楽しめる。
ステージや客席を使ったユニークな展示方法
劇場内のステージ上には、イラストレーター・秋赤音の描き下ろしイラストが並ぶ。これらは、日本の浮世絵に描かれた妖術使いや奇術使いを現代バーションにアレンジし、その能力を受け継いで、現代に蘇った少年少女たちをテーマに描いているという。たとえば、本展のメインビジュアルにもなっている少女は、浮世絵に描かれた滝夜叉姫という、あらゆる妖怪を召喚できる架空の人物を参考にしたとのこと。
少年少女の頭上に何かを盛ったり生やしたりするのが好きだと話す秋赤音は、「今回も、(少年少女たちが)頭で召喚したいものをイメージして、妖怪を召喚させているという様子を描いている。なので、それぞれ召喚できる妖怪に関連するモチーフが、頭上やイラストの隅々に散りばめられています」と話す。
イラストに描かれた人物は13〜15歳までの少年少女たち。「平成生まれのど真ん中に生きているくらいの年齢をイメージして描いた」とのことだ。
今回の展示タイトルにも含まれる「平成」というキーワードについて、秋赤音は以下のように振り返った。
「なんでもありの時代になったなと思います。大学生になる頃にはスマートフォンが普及して、大人になると、YouTubeやTikTokなどを使って、自分たちが発信する側になっていった。自分の仕事もSNSを通して決まり、SNSの進化と共に生きてきました」
劇場内の上手側には、イラストレーター・影山紗和子の作品が展示されている。
今回の新作《フラッシュ・メモリー》の制作にあたり、影山は以下のように語った。
「はじまったものはいつか絶対に終わる。当たり前のことですが、不思議だなと思った。当時最先端だったものも、時間が流れるにつれて廃れていく。平成が自分にとってずっと最新だったから、それが古くなっていくんだなと思いながら描きました」
静止画を連続させたようなイラストで、どこかアニメーションのような動きを感じさせる影山の作品からは、絶え間なく進む時間の流れが感じられるようだ。
影山紗和子
作品内には、折りたたみ携帯やゲームボーイなど、なつかしいモチーフも随所に描かれている。ぜひ、隅から隅までじっくり眺めてみたい。
平成生まれのクリエイターが、平成を振り返る
「平成」をテーマに、9枚のイラスト・漫画を描き下ろした、イラストレーター・ごめんの新作は、楽屋内での展示。今回の作品は帰省中の宮崎で制作したもので、地元で見てきた風景が取り入れられているという。
改めて平成を振り返り、「自分を作ったのが平成なので、寂しいような感じがある。なつかしいって振り返ることになるんだなって思うと、今ちょっとかなしいです」と話す。
「これまでは、自分たちが『あ、平成生まれなんだね』と言われてきたんですけど、平成が終わるってことは、自分たちがそっち側になるということ。次の年代の子たちに、『その年代の生まれなんだ』ってびっくりする側になるんですよね」
普段から切ないテイストの物語を描く作家だが、今回は、過ぎ行く「平成」という時代に向けての切なさも伝わってくるようだ。
ポップでキャッチーなキャラクターを描くイラストレーター・ともわかの新作《GO TO NEXT GENERATION》は、フロントと劇場を結ぶ側廊に展示されている。新作に描いたモチーフについて、以下のように解説した。
「平成元年と平成30年を比べて、何が一番変わったのかと考えた時に、テクノロジーが進化した時代だなと感じました。テクノロジーの代表はスマートフォンで、それまではゲームやテレビ、電話など、それ専用の機械がないと使えなかったのに、スマートフォンが出てきてから、すべてが一つのものでできてしまう時代になった。なので、今回はそれをテーマに描きました」
ともわか
スマートフォンを中心に据え、周囲には一昔前のデジタル製品などが散りばめられている。タイトルには、「スマートフォンが平成を代表するテクノロジーであるなら、次の時代は何が来るんだろうという期待を込めています」とのこと。
セルフィーに双子コーデ、インスタ映えするフォトスポットも!
側廊に展示されたアーティスト・ナガタニサキによる3点の作品のうち、2点が今回の展覧会のために描いた新作だ。
「平成の女の子ってなんだろうって考えた時に、セルフィーと双子コーデが流行ったなと思ったんです。あまり説明的にならないように、グラフィカルに描いています」と語るナガタニ。簡略化された女の子を描き続けることへのこだわりについては、以下のように語った。
「幼い頃は、漫画みたいな女の子ばかり描いていた。けれど、その延長で女の子を描き続けるうちに、どんどん余計なものを省いていった。きらびやかな目は必要ないなと思って、次第に記号っぽい感じになりました。省略したからこそ、今度は曲線やバランスが大事になってきて、それを表現するのが面白くなってきた」
ナガタニサキ
平成という時代については、「自己肯定的な方が多いと思う。セルフィーも自分に肯定感がないと多分やらない。平成の女の子には色んなコンプレックがありながらも肯定感があるような感じがして、そこがポジティブで良いなと思います」と振り返った。
極彩色に染まった画面と、女の子のドロドロした気持ちを描く原田ちあきは、今回の展示のために、旧作をコラージュした作品を発表。作家自らが用意した小道具とともに、作品の前で写真が撮れるフォトスポットを設けている。
ジャンルもスタイルも異なる作家たちが浅草に集う
美少女画作家の細川成美の作品は、劇場内の下手側で紹介されている。
ポスター風の新作について、細川は以下のように解説した。
「絵で説明可能な範囲と、言葉で説明可能な範囲は少なからず被っていないので、言葉を入れた方が伝わることがあると思っている。絵を補完する文字は、詩に近いイメージ。絵を絵だけで終わらせるだけでなく、複合したものが作りたいと思った」
展示テーマである「平成」との関連性については、「平成という年号が変わることと、少女が成長すること。そうした変化を共通点として作った」と話す。また、少女が着ているセーラー服についても、「時を経ていくにつれて減っていくモチーフでもあるし、いずれなくなってしまうかもしれない儚いものではないか」と語った。
細川成美
平成という時代は「革命期」だったと話す細川。
「これまでは個人サイトを見てきたのに、pixivのようなクリエイティブなプラットフォームが多数できはじめて、そのいくつかは姿を消していった。自分の周りのあらゆるものが変わっていった」
写真家の松永つぐみは、32点の新作を劇場内後方にて展示している。作品について、「ふわっとしたガーリー系が好きなので、無理に平成というイメージに寄せないで、今自分が好きなものを、平成30年8月某日の1日で撮り下ろした、とするのがシンプルで良いかな思いました」と話す。被写体のモデルや、ヘアメイクに衣装・スタイリングは、すべて松永の友人と共に作ったという。「仕事や商業用で作品を撮るのとは異なり、身内で作れたことが良かった」と振り返った。
他にも、イラストレーター・るん太による異国情緒漂う水彩画が劇場内に展示されている。今回、出品作家たちの作品はすべて購入可能となっている。さらに、劇場ロビーでは、ポストカードやアクリルキーホルダーなどのオリジナルグッズも販売中だ。
会場入り口
浅草九劇
平成最後の夏の思い出に、ぜひ浅草でアートな空間を楽しんでみてはいかがだろうか。