学園から飛び出す新たな試み、日本芸術学園PTMC Presents ミュージカルライブ『星の王子さま』

インタビュー
舞台
2018.9.25
森 莉那、ひのあらた (撮影:山本れお)

森 莉那、ひのあらた (撮影:山本れお)

画像を全て表示(8件)


2018年10月11日(木)イープラスが渋谷で運営する「eplus LIVING ROOM CAFE & DINING」にて、「イープラス×日本芸術学園PTMC Presentsミュージカルライブ『星の王子さま』」が上演される。本公演のプロデューサーでもある武田光弘・日本芸術学園理事長がPTMCの趣旨を、そして演出のひのあらたと主演の森莉那が作品への思いを語った。

■武田光弘・日本芸術学園理事長に聞く

――まずはじめに「日本芸術学園PTMC」についてご説明いただけますか。

武田 3年前に発足したPTMC(Precious Treasure Musical Company)は、一人ひとりの学生に、かけがえのない宝物をもたせて卒業させたいという我々の教育理念にちなんで名づけました。在学生と卒業生、宝物をもったメンバーから成るカンパニーで、公演ごとにオーディションを行なっています。活動の大きな柱として、毎年、NYの版権元から許諾を得た上でブロードウェイ・ミュージカルやオフブロードウェイ作品の上演を行なっており、これまでに『hairspray JR.』『FAME JR.』『Disney High School Musical』を上演してきました。クオリティの高い本格的なミュージカル公演をコンセプトに、演出・山田和也さん、音楽監督・玉麻尚一さん、翻訳訳詞・高橋亜子さんなど日本のミュージカル界を代表するクリエーターの方たちとともに創り上げていく公演です。3年目の現在、おかげさまでミュージカル業界からも高い評価を頂いております。

これまでは学園内部の公演でしたが、今回は初めての外部公演となります。学外のアウェイの環境で、『星の王子さま』をオリジナル舞台化して上演することは、我々にとって大きなチャレンジであり、大きなチャンスだととらえています。今後につながる新しい展開を示す良い機会になるのではないかと思っています。『星の王子さま』は誰もが知っていて、わかりやすい、それでいて深くて哲学的な作品。人生についてもいろいろと考えてもらえる作品になれば良いと思っています。

今回、食事のサービスもある「eplus LIVING ROOM CAFE & DINING」での上演ということで、こちらのカフェにおなじみのミュージカル・ファンの方々にも広く観ていただきたいですね。観客の幅を広げるという意味でも非常に楽しみです。ニューヨークにも、「エレンズスターダストダイナー」のように、ブロードウェイ・スターの卵たちが歌って踊るレストランがありますが、日本にはまだ少ないということで、このような身近にミュージカルに触れる環境が、今後ますます重要になっていくのではないかと考えています。

PTMCはミュージカルにまつわるプロジェクトですが、今後、音楽であったり、ストレートプレイであったり、朗読劇であったり、ミュージカルに限らず、さまざまなジャンルの公演を、こういった形で上演できていけたらいいなと。日本芸術専門学校には、舞台俳優、映像俳優、ミュージカル、声優、ミュージシャン、ダンサーのコースがあり、本校はコースの垣根を越えて学ぶことができます。各ジャンルを幅広く学んでいるので学生たちが、力を出せる現場や露出を今後も大事にしていきたいと考えています。学生たちには、そういった価値ある経験をどんどんさせていきたいです。今度の展開を考える上でも、今回の公演は非常に楽しみですね。


■ひのあらた(演出)×森莉那(主演)に聞く

――このプロジェクトに関わることになった経緯とは?

ひの 僕は去年くらいからこちらで教えていて、文化祭や卒業公演などの演出や構成も担当してきました。今回、PTMCの新たな試みということでお話をいただき、もともと好きだった『星の王子さま』とショーの二本立ての公演を提案したんです。『星の王子さま』はリーディングライブで一度後半の物語だけ取り上げたことがあるのですが、軸もしっかりした作品ですし、今回のように食事スペースを伴ったステージで上演する場合でも扱いやすいと思って選びました。作品自体、サン=テグジュペリが、子供にではなく、大人になった友人に対し、「子供のころの君へ」ということで書いた作品なんですよね。哲学的な部分もあり、子供のころの気持ちを忘れないということを描いた作品ですが、それが非常にきれいな言葉で書かれているところが好きなんです。

こちらの学校で教えているのはミュージカル演技、プロのミュージカル役者を目指している方たちの楽器作り、身体の活性化をするお手伝いをさせていただいているという感じです。僕は劇団四季在団中、母音法を学んだこともありますが、俳優の身体という楽器作りにおいて、母音法の有用性は非常にあると思っているんです。その楽器作りを大切なベースにした上で、コミュニケーションをどう取っていくか。おもしろい芝居になる上では、俳優同士がきちんとコネクトできているかどうかが大事だと思うんです。どうしても、自意識で演じてみせようとか、イメージを演じてみせようとか、プランを演じて見せようとかしてしまうことってあると思うんですけれども、目の前の相手にどうコネクトして演技をしていくか、そういったシンプルなところを生徒たちに伝えながら、自分自身も学んでいっているという感じですね。僕はもともと九州の小劇団で15年くらい芝居をしていて、そのときの先生の教えがそうだったんですけれども、劇団四季に入って、浅利慶太先生の求めているものも同じだったというところがあって。ただ技術だけでは伝えられない、ただし、技術を伝えるための訓練は確実に必要だということを学んできた気がします。

縁あってミュージカル業界に進み、大きめの劇場の舞台に立つことが多いですが、自分自身がプロデュースしたりして作品を作るとなると、50人、100人といった規模の劇場で、音楽劇や海外の会話劇などを上演することが多いですね。劇場が大きくなったからといって演技や声を大きくすればいいわけではなく、飛ばす意識の距離感を変えるといったことを考えてやっています。基本的にはしっかり相手に集中する。そうするとお客様は、お芝居を見せられているというより、事件、出来事を目撃しているという感じで共有できるようになるんじゃないかなと思うんですね。

――森さんは学園の卒業生です。

森 中学校に入ったころからミュージカル女優に進路を決めていて、日本芸術高等学園に入学、その後日本芸術専門学校に進み、PTMCでは『hairspray JR.』に主演、『FAME JR.』『Disney High School Musical』にも出演しました。専門学校時代から、山田和也先生やひの先生といった、今現在ミュージカル界の第一線で活躍されている一流の先生方のもとで学べたことが経験として本当に大きかったと思っています。作品への向き合い方や、役作りの仕方など、いろいろな先生方に学ぶことができ、様々な角度から研究することができました。

小さいころから歌うこと、踊ることが大好きで、3歳からクラシック・バレエを始めました。ミュージカルが好きな友人と一緒に、劇団四季のミュージカルをよく観ていました。長崎出身なのですが、小学校高学年から中学までは静岡にいて、地元の小さなミュージカル劇団にも所属していました。そのとき舞台に立つ楽しさを改めて知り、そこからずっとミュージカル俳優を志してます。舞台上で輝いている人たちを見るだけで楽しいですし、その作品の中に本当に入ったように感じられるところに舞台の魅力があると思います。生でお客様と空気感を共有できるのも楽しいです。舞台で歌って踊って芝居する、そのすべてが盛り込まれているところがミュージカルの魅力だと思います。

今年の四月には2.5次元ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三篇のヒロインでプロデビューしました。今まで学内での公演が主だったのですが、四月の公演は明治座に新神戸オリエンタル劇場と、キャパシティやお客様の層も違い、作品に対して皆さんが求めているものをすごく感じるようになりましたね。今までは演じる側としてのことばかり考えていたのですが、プロとして舞台に立ってみて、お客様の作品への思い、求めているものをひしひしと感じながら演じていました。

――先生、教え子としては、お互いどんな印象が?

森 昨年ひの先生に何度か教えていただく機会がありました。先生の授業で一番感じたのは、きちんとコミュニケーションをとるということの大切さですね。もともと演技に対して苦手意識があったのですが、役として、自分自身としてきちんと真実を述べるということ、相手ときちんとコミュニケーションをとるということをとても丁寧に教えてくださいました。それが大事なんだなと、すごく勉強になりました。

ひの 彼女はまず持っている楽器(=声)がいいんですよね。芯の通った声をしているし、相手に届けるということをていねいにきちんとやってくれようとするので、クセをとる必要がなかったですね。人はみんな何かしら、自分を防御するためにクセってあるんですよ。オフィシャルな自分と、パーソナルな自分とを使い分けているわけですから。そういう意味では彼女はクセがなくて、最初から素直に、シンプルにできる人だったので、そこから次のことを伝えていける人だなという印象でしたね。

――今回もオーディションで“星の王子さま”役を射止められました。

ひの 本当に素直なまま、そのままに役に取り組んでくれましたね。。やはりこの作品が真実について書いているということが強くあるし、「本当に大切なものは目に見えない」というキーワードもある。今回、それをとりわけ非常に大切にしなくてはいけない現場なんですよね。みんながそれぞれの真実を持ち寄れる現場にしたいなと思っています。

――『星の王子さま』という作品とキャラクターについてはいかがですか。

森 もともと大好きな作品なんです。最初に読んだのは小学校のときでしたが、それ以来、読むたびに違う受け取り方ができて、とても考えさせられる作品で。「本当に大切なものは目に見えない」に始まり、すてきな言葉がいっぱい並んでいますが、それ以外でも非常に考えさせられる言葉がたくさんつまった作品だなと。舞台も子供から大人まで、幅広い年代の方に楽しんでいただける作品に仕上がるだろうなと思っています。物語は飛行士が語っているという設定になっていますが、作品の中で、王子さまも飛行士も共に成長していくところがあるのかなと。キツネとの出会いやバラとの話などを通じて、王子さまが成長していく過程を表現していきたいと思っています。「eplus LIVING ROOM CAFE & DINING」での上演ということで、お客様にも同じように感じていただけるよう、変に作りこまず、その場で起きることに素直に反応して作っていけたらと思っています。

ひの 衣装も「これが王子さまです」「キツネです」とあまり説明する感じではない、シンプルなものにしています。「これをキツネということにするんだ」と、お客様にも想像力を使って楽しんでいただける感じにしたいと思っているんです。

――オリジナルの楽曲はどんな仕上がりですか。

ひの 作曲と音楽監督の栗山梢さんが作曲も担当しているのですが、とてもシンプルにあたたかく作ってくださっていて。キツネの曲なんかは、歌詞からは想像できないような、いい意味で裏切られる曲になっていて、それが逆にぴったりはまっているという感じなんです。しっとりした感じかと思えば逆にアグレッシブに作ってくださっていて、それが物語に合っているなと。

森 キツネの曲は私も意外に感じました。でも、だからこそのよさが出ているなという曲がいっぱいなんです。

――そして今回、ショーがつく二部構成です。

ひの PTMCで以前上演された『hairspray JR.』の曲や、日本でしばしば上演されている作品の曲、新しめの曲などを盛り込んで、一部ではしっかり物語を楽しんでいただき、二部のショーでは食事やお酒と共に楽しんでいただけるという構成にしたいなと思っています。ちょっとくだけた雰囲気もあったり、手拍子できたりなんていうナンバーもあります。

森 本編とはまた違い、皆さん聞き馴染みのあるナンバーが多いと思うので、客席を巻き込みながら、楽しいショーにしていきたいです。

ひの 共同演出の渋谷真紀子さんともいろいろ話し合って、座っているすぐ近くで演者同士が言い合っている歌を歌ったりとか、巻き込み型にしようと思っています。演者がお客様の中に入っていって、そこにお客様が一緒にのっていっていただければと思うんです。

森 お芝居では相手役としっかりコミュニケーションということが大事になってくると思うのですが、ショーの方ではお客様とのコミュニケーションを大切にしていきたいですね。こんなにも客席と近いところでパフォーマンスをしたことがないので、楽しみでわくわくしています。振付も含め、一曲一曲ごとの世界観をしっかり楽しんでいただけるようになっていると思います。

ひの いつもの学校公演と違い、学校から出て、外部の劇場で、お金をもらってプロとして舞台に立つわけなので、稽古場からきっちりしていきたいですし、そういった現場での雰囲気も含めて出演者たちに楽しんでもらえたらと思いますね。

森 この空間でしかできないことがたくさんあると思うので、お客様を間近に感じて、この作品を一緒に旅する感覚で楽しんでいただけたら。ミュージカルは劇場に観に行くものという堅苦しいイメージもあるかもしれないですが、もっと身近に楽しんでいただけるものになればと思っています。

ひの この空間でしか味わえない感動、喜びを目指して作っていけたらと思っています。観ている方々も一緒に心を動かせるような作品にしたいですね。

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本れお

公演情報

イープラス×日本芸術学園PTMC Presents
ミュージカルライブ「星の王子さま」

 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING(東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F)
■日時:2018年10月11日(木)
<昼公演>open13:30 start14:30 終了予定16:00
<夜公演>open18:30 start19:30 終了予定21:00

 
■出演:
主演 王子さま:森 莉那
飛行士:岩崎ルリ子
バラ:栗山絵美(特別出演)
キツネ:鯨井未呼斗
ヘビ:佐藤友泰
スネークス王様:佐藤みなみ
スネークス:泰道明日香
スネークス:古澤ユリエ
地理学者:吉田菜々
飛行士(少年)・実業家:荒川玲和
点灯夫:桐宮玲香
うぬぼれ:九城さくら
酔っ払い:鮫島由李亜

 
■スタッフ:
演出:ひのあらた 渋谷真紀子
作曲・音楽監督・演奏<夜公演>:栗山梢
演奏<昼公演>:くぼなつみ
歌唱指導:辛島小恵
振付:弓野梨佳(パシフィック・カンパニー)

 
■企画・制作:イープラス×日本芸術学園PTMC
■共催:イープラス・ライブ・ワークス
■協力:山王プロダクション
■公式サイト:http://eplus.jp/musicallive/
シェア / 保存先を選択